世界支配のために環境保全を武器にする中国

アイザック・セルナ(Isaac Serna)大尉/米国陸軍第8戦域維持コマンド、国家安全保障法チーム
グローバル・コモンズにおける資源をめぐる競争が激化する中、自らの権力を示すため、巧妙に仕組まれた手段を講じている国々がある。 特に中国は、地政学的意図を推し進めるために、法的枠組みや国民感情を戦略的に操作するローフェア(法的手段の軍事的利用)を展開している。 中国共産党は特に、漁業権と海洋管理という重要な領域でローフェアを採用している。
中国の戦略は真の環境保護を目指すものではない。 それどころか、それは自然保護という普遍的で魅力的な言葉をまとった、領土拡大や資源収奪のための薄っぺらい口実だ。 これは穏健な外交ではなく、 近隣の主権国家を弱体化させるための国際慣習の歪曲だ。
環境ローフェア
中国はローフェアを攻撃的な武器とみなしており、心理操作やメディア・プロパガンダと並んで体系化した「3つの戦法」のひとつとして使用している。 その目的は明確だ。戦略的な軍事的・政治的支配を達成するために、物語を形成し、世界世論を曲げ、法的枠組みを捻じ曲げることにある。 ローフェアが特に危険なのは、環境の健全性に対する国際社会の純粋な関心を悪用し、攻撃的な意図を責任あるスチュワードシップの美名で覆い隠してしまうからだ。
中国の環境ローフェアを見極めるには、中国は、国際的に承認された排他的経済水域(EEZ)外で、軍事力や国内法の執行と伝統的に関連付けられてきた成果を達成するために環境を口実にしているのか、 中国の過剰な主張は、近隣諸国や敵対国の正当な主張を弱めたり、解体させるように思われるか、といった問いかけが役立つ。 法律の専門家、特に国際法を守ることに尽力する専門家たちは、こうした欺瞞的な手口を暴き、それに抵抗する緊急の責任を担っている。
生態系への懸念の高まりに後押しされた世界的な環境保護運動は、国連海洋法条約(UNCLOS)や持続可能な漁業に関する2022年の国連総会決議77/118などの国際協定に結びついた。 国連海洋法条約と77/118のような決議は、協力を促進し、共有生態系を保護することを目的としている。
中国はこれらの条約や決議を、自国の経済的・戦略的目的のために悪用している。 近年では、中国共産党は地域的、世界的な覇権目標を拡大するために地球環境問題を利用している。
南シナ海における環境威圧行動
中国の環境ローフェアは、南シナ海におけるほど顕著なものはない。中国が執拗に主張する広大な領有権の主張は、国際法上何の根拠もなく、常設仲裁裁判所が2016年の判決で国連海洋法条約に基づき却下している。 このような国際的な法的非難にもかかわらず、中国は定期的に環境問題を口実に非合法な主張を強めている。
中国が1999年以来、毎年5月から8月にかけて一方的に課している禁漁がその例だ。 自然保護措置として示されているこの禁止措置は、国連海洋法条約に違反して南シナ海を横断し、フィリピンやベトナムなどの主権国家の合法的な排他的経済水域にまで及んでいる。 毎年、南シナ海の複数の国々が行き過ぎた禁止措置に抗議しているが、中国は一貫して強硬な姿勢で対応しており、中国が自国の利益に沿わない国際的な法的裁定を侮蔑し、無視していることを示している。
同様に、中国共産党はスプラトリー諸島(南沙諸島)の係争地での人工島建設事業を環境保護活動として擁護している。 中国は、人工島とそれに付随するインフラが、この海域の国際的な船舶交通の円滑化を促進するとまで主張している。 しかし、人工島や滑走路のような軍事構造物の建設は、取り返しのつかない生態系の破壊を引き起こし、重要なサンゴ礁や海洋生態系を破壊したことは否定できない。 これは環境保護ではなく、軍事的前哨基地を作り、中国の過剰な海洋権益主張を強化するための計算された生態系破壊だ。
中国のスチュワードシップは、環境イニシアチブをうまく装っているが、領土支配の主張と執行の試みで構成されている。 外国人漁民を逮捕し、恣意的な漁業禁止令を出し、海洋保護を装って海警局を配備することで、中国共産党は紛争地帯における事実上の支配と法執行機構を組織的に主張している。 こうしたいわゆるソフトパワー戦術によって、中国はあからさまな軍事衝突を起こすことなく、自国の過度な主張を徐々に強固なものにし、生態系に対する責任という国際的な慣習を利用して自国の思惑を推し進めることができる。
フィリピンとベトナムは中国の戦術に異議を唱え、マレーシアとインドネシアは中国の侵攻と環境ローフェアの使用に対抗して海軍のプレゼンスを高めている。 これらの国々は、中国の生態学的正当化は領土征服の隠れ蓑だと認識している。 彼らは国連海洋法の執行強化や、東南アジア諸国連合のような機関を通じた地域協力の強化を求めている。 しかし、この地域における中国の経済力と軍事力は、小国にとってこの問題を困難なものにしている。

画像提供:ジャスティン・アップショー(JUSTIN UPSHAW)二等兵曹/米国沿岸警備隊
環境的偽善
2022年の中国の魚類消費量は60,541トンで、2位の国の消費量の約4倍に達している。 世界最大規模を誇る中国の巨大な遠洋漁業船団は、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の蔓延によって、重大な環境脅威をもたらしている。 中国が補助金を出しているこの船団は、特に自国排他的経済水域や海洋境界線を強化するリソースがない発展途上国の海域で、世界的に魚類資源を著しく枯渇させている。 中国漁船は、あらゆる海洋生物を無差別に捕獲し、脆弱な生態系を破壊する底引き網漁のような破壊的な漁法を採用しているため、環境への影響は計り知れない。 こうした強引な資源の枯渇は、中国が表明している持続可能な開発や国際的な海洋ガバナンスへのコミットメントとはまったく対照的であり、厄介な偽善を露呈している。 中国は違法・無報告・無規制漁業と闘うための違法漁業防止寄港国措置協定(Port State Measures Agreement)などの国際条約に加盟しているが、その悪質な活動の規模や漁獲量の過少申告は、表明している政策と実際の慣行との間に大きな乖離があることを示している。 これは世界的な保全努力を損なうだけでなく、沿岸地域社会から重要な食糧源と経済的生計を奪い、中国の世界的な漁業活動の持続不可能性と不公平性を浮き彫りにしている。
ローフェアへの対抗は不可欠
中国による環境管理の武器化は、慈悲深い地球市民としての行為ではない。 これは、領土を拡大し、世界的な支配力を行使するために計画された、打算的で危険なローフェアである。 環境保護に対する世界共通の懸念を利用することで、中国は国際法を操り、国家主権を弱体化させ、世界の安定を脅かしている。その一方で、世界で最も破壊的な埋め立てや漁業を行なっている。 法律家、政策立案者、国際社会は団結して、欺瞞的な手口や環境ローフェアを暴露し、それに抵抗しなければならない。 これを怠れば、中国は国際法制度を解体し、自分勝手な世界秩序を押し付けることになるだろう。
米国陸軍第8戦域維持コマンドはハワイ州ホノルルに拠点を置いている。