
ピーター・パーソン(Peter Parson)
地政学的な問題が激化する中、オーストラリアは地域の安定を強化するために、太平洋漁業への支援をますます活用している オーストラリア政府は、軍事監視活動、技術支援、開発資金の提供を通じて、生計、主権、持続可能性が海域と深く結びついている太平洋諸島の経済回復力と海洋安全保障に貢献している。
オーストラリアの取り組みの中心となるのは、持続可能な漁業管理、特に太平洋経済にとって不可欠な魚種であるマグロに対する長年にわたる支援だ。 オーストラリアは、地域の海洋資源管理を統括する太平洋諸島フォーラム漁業機関(FFA)に年間約4,576億円(約320万ドル)を拠出している。 こうした資金は、漁業の持続に不可欠な法執行、データ収集、科学的評価を強化するものとなっている。
「漁業や災害対応といった非伝統的な海洋問題に注力することで、オーストラリアはこの地域の戦略的緊張を回避し、近隣諸国との実際的な協力関係を構築しようとしている」と、シドニー在住の政策アナリスト、ユンカン・リュー(Yunkang Liu)氏はFORUMに語った。
オーストラリア国防省(通称:ディフェンス)によると、外交・経済開発努力と並行して、オーストラリア国防軍(ADF)は「ソラニア作戦(Operation Solania)」を通じて太平洋の海上監視を支援している。 この任務は、オーストラリア、フランス、ニュージーランド、米国で構成される四か国防衛調整グループが主導する多国間活動の一環であり、「アイランド・チーフ(Island Chief)」、「クルクル(Kurukuru)」、「トゥイモアナ(Tui Moana)」などの共同作戦も含まれている。
これらの活動は、太平洋諸国が毎年何億ドルもの損失を被ると同時に、食糧安全保障と海洋生物多様性を危険にさらしている違法・無報告・無規制(IUU)漁業を対象としている。 2024年、「クルクル作戦」は2,100万平方キロメートルをカバーし、8隻の要注意船舶を特定し、海上と港湾で89回の立ち入りを行なった、と太平洋諸島フォーラム漁業機関は報告している。
2016年に創設された「ソラニア作戦」は、違法・無報告・無規制漁業に対抗し、海洋環境を保全し、地域の魚類資源の長期的な持続可能性を促進する上で欠かせない存在となっている、とオーストラリア国防省は述べている。
オーストラリア空軍のC-27JスパルタンやKA350キングエアを含むオーストラリア国防軍の資産は、広大な排他的経済水域のパトロールに投入されており、1回の任務で3万平方キロメートルをカバーすることもある。 パトロールでは、地元の海事部隊と連携し、船舶の活動に関する画像や情報を収集し、太平洋諸島フォーラム漁業機関とデータを共有して取り締まりにあたる。
「ソラニア作戦」は単なる軍事演習ではなく、 安全保障と開発目標を一体化させるというオーストラリアの努力を具現化したものだ、と国防省は述べている。 オーストラリアは、キリバス、ソロモン諸島、バヌアツにおける地域ベースの漁業管理を拡大するために、2021年から2025年にかけて約7,367億円(515万ドル)を拠出することを約束した。 これらのイニシアチブは、海洋資源を持続的に管理できるよう地域社会に力を与えることで、地域のガバナンス、食料安全保障、生計を向上させることを目的としている。
「オーストラリアは、2022年から2026年まで実施される東南アジア持続可能漁業プログラムを通じて、違法・無報告・無規制の漁業に対処するため、ASEAN(東南アジア諸国連合)と積極的に協力している」と、リュー氏はFORUMに語り、オーストラリアの漁業戦略の地域横断的な側面を強調した。
オーストラリア政府はまた、漁業の生産性と回復力を向上させるための研究を推進するオーストラリア国際農業研究センター(Australian Centre for International Agricultural Research)などの機関を通じて資金援助を行っている。 非政府組織との協力は、特にパプアニューギニアとソロモン諸島において、積極的な開発成果をもたらす地域ベースの取り組みを支援する上で役立っている。
リュー氏によれば、漁業は地域的な関与にとって摩擦の少ない分野だという。 「海洋保護や持続可能な漁業のような問題は、協力のための政治的な負担が少ないプラットフォームを提供するため、信頼関係を築き、地域の絆を強化するのに理想的だ」と同氏は語る。
国防、開発、外交にわたるオーストラリアの幅広い支援は、漁業協力がインド太平洋戦略の中心になりつつあることを示している、とリュー氏は指摘する。 太平洋における係争が激しさを増すなか、「ソラニア作戦」や持続可能な漁業投資といった取り組みにより、国益と地域の優先事項が一致するようになっている。 こうしたイニシアチブは、海洋資源を保護し、信頼できる太平洋のパートナー国としてのオーストラリアの役割を強化することを目的としている。
ピーター・パーソンは、ニュージーランド・ハミルトン発信のFORUM寄稿者。