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軍事計画者や学者たちはしばしば、核保有大国間の紛争が世界的な大惨事に発展するという、想像を絶する事態について熟考する任務を負っている。 また、米国とその同盟国、パートナー国の成功の可能性を最大化する方法を考案することも任務となっている。
ランド研究所(Rand Corp.)が2024年に発表した研究「仮訳 ‐ 中華人民共和国との戦争における米国軍の勝利理論(U.S. Military Theory of Victory for a War with the People’s Republic of China)」によると、米国がこのような紛争のエスカレートを抑え、勝利を確保できる可能性を最大化するには、勝利の否定理論が最適だという。
近年、米国の戦略担当者たちは、特に南シナ海や台湾付近の重要な水路を確保するために、このような否定戦略を実行する重要な手段として海上捕獲法と呼ばれる概念を評価している。
否定は、敵の戦力投射能力を低下させることに重点を置き、敵の指導者に目標を達成する見込みはなく、これ以上戦闘を重ねても最終的な結果は変わらないと納得させることにある、とランド研究所は報告している。
海上捕獲法は国内法および国際法で認められており、軍隊は乗船して捜索活動を行い、交戦国の船舶や積荷を差し押さえることができる。 ジェームズ・クラスカ(James Kraska)氏とその共著者たちは、2023年版の「仮訳 ‐ 海戦法に関するニューポート・マニュアル」(Newport Manual on the Law of Naval Warfare)の中で、通常、捕獲国の管轄下にある公認の捕獲裁判所が「捕獲」を裁定すると説明している。
米国海軍戦争大学(U.S. Naval War College)のストックトン国際法センター(Stockton Center for International Law)の所長であり、国際海事法の教授であるクラスカ氏は、「裁判所が拿捕を合法と判断した場合、国家は拿捕された船舶、航空機、貨物の所有権を取得し、自国の用途に転換することができる」と述べている。
「海上捕獲法は、紛争中に中国系の商船を徴用する手段を与えることができる。 海上捕獲法を利用した作戦は世界のほぼどこでも実施できるため、米国軍のグローバル戦力投射能力は、中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)圏外に作戦を移すことができる」と、海軍作戦部長室配属の電子戦将校兼統合端末攻撃統制官のライアン・ラトクリフ(Ryan Ratcliffe)米国海兵隊少佐は、2024年9月、米国海軍研究所の月刊誌「プレシーディングス(Proceedings)」に寄稿した。
紛争においては、海上捕獲法を利用した作戦は、作戦の有効性とエスカレーションのリスクのバランスを図る上で役立つとみられる。
「中国船籍の船舶を差し押さえることは、長期的には戦闘継続の利益を上回るコストを課すことになる」とラトクリフ少佐は指摘する。 同時に、中国の海洋貿易を弱体化させることは、中国の戦争遂行能力を弱め、戦闘継続の可能性を低くする。
「戦力投射能力を駆使して中国を核能力以下に屈服させることで、米国は自国の力を維持し、法治に基づく国際秩序の下で自由で開かれた貿易を回復することができる。 そうすることで、戦争終結後も長期にわたって、国内外の安全と繁栄を保証することができる」とラトクリフ少佐は書いている。
米国とその同盟国・パートナーがその能力を拡大し、大規模な拿捕作戦を実施するための捕獲裁判所のプロセス、規則、規制を刷新すれば、海上捕獲法は勝利の否定理論の構成要素として効果を発揮することができる、とアナリストらは主張する。
「海上捕獲法によって可能になる作戦の理想的な部隊構成、位置づけ、時間的側面を明確にするためには、多くの作業が必要だ」とラトクリフ少佐は指摘した上で、 「しかし、包括的なプロセスを把握した上で、米国は中国との潜在的な戦争で用いる選択肢として、今から枠組みの構築を始めることができる」と述べた。