オセアニア特集自由で開かれたインド太平洋/FOIP

島の 安全保障

自由で開かれた地域に不可欠なブルーパシフィック諸国

FORUMスタッフ

パプアニューギニア(PNG)は、2025年9月16日にオーストラリアからの独立50周年を迎える。建物は赤、黒、金の国家の色に彩られ、国旗掲揚式、パレード、スポーツイベント、音楽、ダンス、衣装を伴う文化フェスティバルが予定されている。

報道によると、2023年に人事管理局が政府機関に48回目の記念日を利用して「今後2年間のペースを整える」よう要請したことを受け、リハーサルが開始された。50周年記念式典には、パプアニューギニアのジェームズ・マラペ(James Marape)首相が、式典の司宰者として招待した同国の立憲君主制の元首である英国のチャールズ3世が出席する可能性がある。英国は1884年にパプアを植民地化し、20世紀初頭にオーストラリアに行政を委ねた。オーストラリアは第二次世界大戦後、パプアと隣接するニューギニアを一つの行政に統合した。 

プアニューギニアは、インド太平洋の中心に戦略的に位置する、最大のブルーパシフィック諸国の一つであり、資源に恵まれた群島である。同国は米国の重要なパートナーであるが、他の太平洋諸島諸国と同様に、中国からのリスクの高い融資の提案など、厳しい経済状況に直面している。 

世界銀行の報告によると、12の島嶼国の経済成長は2024年と2025年には減速する見通しだ。これは、観光業、家計消費、海外就労者による仕送りなど、新型コロナウイルス感染症のパンデミックからの回復効果が薄れたことによるものだという。米国に拠点を置くシンクタンク、太平洋フォーラムは、これらの国々は「世界でも最も援助に依存」しており、教育、保健、インフラ支出において多大なニーズを抱えていると述べた。中国共産党がこの地域での影響力を拡大しようとしているため、途上国が中国の強制や債務外交を受け入れやすくなるという課題がある。 

2024年4月、アンソニー・アルバニージー豪首相の歓迎の儀式を行うパプアのコミュニティのメンバー。オーストラリア首相府(AP通信経由)

「太平洋全体が、地域の支配的な大国になろうとしている中国の多面的な活動と、中国に対抗する国家連合からの反発に取り組んでいる」と、ジョージタウン大学のアジア研究学部およびオーストラリア国立大学太平洋問題学部のアナリストであるパトリシア・オブライエン(Patricia O’Brien)教授と、PNGを拠点とする地政学コンサルティング会社のCEO兼創設者であるドゥベリ・ヘナオ(Douveri Henao)氏は、2024年6月にザ・ディプロマット誌に寄稿したエッセイで述べている。 

「我々が直面する最も包括的な課題は、インド太平洋地域と国際システムの現状を中国の利益に沿うように変えようとする、同国による強圧的かつますます攻撃的な取り組みである」と、当時の米国国防副次官補(東アジア担当)シッダールト・モハンダス(Siddharth Mohandas)氏は2023年7月に米国議会で証言した。また、同氏は、中国は「インド太平洋地域における米国の同盟関係やパートナーシップに挑戦し、経済的な影響力を含む自国の増大する能力を利用して、近隣諸国を威圧し、その利益を脅かそうとしている」とも言う。 

ブルーパシフィック諸国の面積は、21平方キロメートルのナウルから、46万2000平方キロメートルのパプアニューギニアまで様々である。これらの国々は、オーストラリアやニュージーランドも加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)と呼ばれる18か国からなる地域協力機関の一部だ。その他の加盟国は、クック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、フランス領ポリネシア、キリバス、マーシャル諸島、ニューカレドニア、ニウエ、パラオ、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツである。 

太平洋諸島フォーラムの「ブルーパシフィック計画」によると、太平洋島嶼国の中では、「気候変動は依然として最大の安全保障上の脅威となっている」という。同計画は、国家主権を尊重し、人々、地域社会及び国家がその潜在力を発揮する機会を提供する、平和で安全かつ安心な地域を求める各国の戦略を詳述している。また、安全保障上の課題に対するブルーパシフィックの協調的な対応も求めている。つまり、気候変動と、異常気象、サイクロン、干ばつ、洪水、海面上昇、海洋酸性化などの現在および将来の災害の影響に対処するする戦略が述べられた。また、災害に対する人道的な対応の調整も推進している。 

米国は2022年初頭に初めてインド太平洋戦略を打ち出し、ブルーパシフィック諸国との関係を強化した。同戦略では、外交使節団の拡大、フィジーにおける米国国際開発庁(USAID)使節団の設立、PIF特使の任命、レジリエンスの強化、海洋安全保障の支援、経済機会の拡大などが掲げられた。2023年9月、ワシントンで開催された太平洋島嶼国・米国首脳会議に、ブルーパシフィック諸国の首脳が集まった。 

2024年2月、バヌアツの排他的経済水域における違法・無報告・無規制の漁業に対処するための船への乗船中に、米国沿岸警備隊の巡視艇ハリエット・レーンの乗組員と話をするバヌアツ漁業局の職員(左)。チャーリー・タウトフェスト(CHARLY TAUTFEST)上級上等兵曹/米国沿岸警備隊

米海軍兵学校のラグビーチームをフィジー、サモア、トンガに派遣してエキシビションマッチや青少年プログラムを実施することから、マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオへの20年間にわたる約9,750億円(65億ドル)の経済支援パッケージまで、その取り組みは多岐にわたる。

パプアニューギニアにおける取り組みは以下の通り。 

2024年4月および5月、米インド太平洋軍(USINDOPACOM)のチームがパプアニューギニア国防軍(PNGDF)の能力を向上させ、災害対応を迅速化し、安全保障協力を強化するための共同インフラを開発するために訪問。 

2024年5月、米国はロスネグロス島にあるPNGDFのロンブルン海軍基地の3つのプロジェクト(地域海事訓練センター、小型船舶施設の建設、桟橋の改修)に最大約37億円(2,500万ドル)を支出すると発表した。オーストラリアも基地の再生に協力している。 

最も重要な、2023年5月のパプアニューギニアと米国が防衛協力協定に調印、および、違法、無報告、無規制(IUU)漁業、麻薬密売、移民の密輸、大量破壊兵器の不正輸送などの国境を越えた海洋上の脅威に対抗するための協定にも調印した。二国間の海上法執行協定に基づき、パプアニューギニアと米国沿岸警備隊は、240万平方キロメートルを超えるパプアニューギニアの排他的経済水域(EEZ)を保護するための海上パトロールにおいて協力している。 

2023年7月、マラペ首相は記者団に対し「これは単なる軍同士の関わりについての会話ではない」と語った。パプアニューギニアの観点から、この協定は経済的自立に向けた一歩であり、「違法漁業や違法な森林輸送から自国の領海を守り、国際犯罪から経済を守り、国境を安全に保ち、自国への訪問者全員を把握し、自国の防衛力を強化する」ことにつながる、と同首相は述べている。 

長期にわたる安全保障関係 

ブルーパシフィック諸国は、ソロモン諸島の住民が米軍や連合軍と協力し飛行場を建設した第二次世界大戦に端を発する安全保障上のパートナーシップを結んでいる。パプア人とニューギニア人はココダ・トレイルでオーストラリア兵に物資を供給し、フィジー歩兵連隊はブーゲンビル島でニュージーランド軍と米軍を支援した。冷戦後、この地域への国際的な関心は薄れたかもしれないが、海洋安全保障の強化、資源の保護、IUU漁業の防止を目的として、世界のパートナーが太平洋諸島への関心を再び強めている。 

ホワイトハウスは2023年9月の太平洋・島サミットに先立ち、「IUU漁業および関連する有害な漁業慣行は、海洋の健全性に対する最大の脅威のひとつであり、多くの太平洋島嶼国の経済成長、食糧システム、生態系に不可欠な漁業資源の崩壊や衰退につながっている」とし、「こうした慣行は、漁業資源の持続可能性を損ない、保全・管理措置を回避し、多くの場合、強制労働やその他の違法行為と密接に関連している」と発表した。 

2023年3月、太平洋諸島フォーラム漁業機関の支援によるパトロール中に、漁船に接近する米国沿岸警備隊の巡視船オリバー・ヘンリー(Oliver Henry)。サラ・ミュア(SARA MUIR)准尉/米国沿岸警備隊

太平洋諸島の12か国は、海上安全保障の要である米国と二国間海上法執行協定を締結しており、この協定はシップライダーと呼ばれることもある。協定の多くには、一方の締約国の法執行官を他方の締約国の船舶に乗り込み、漁業監視や特定の法執行業務を行う権限を与える規定がある。2008年、クック諸島と米国はインド太平洋地域で最初のシップライダープログラムを立ち上げた。米国沿岸警備隊がホスト国の法執行を支援するこれらの協定は、現在では地域の安定と安全の強化を目指す米インド太平洋軍の戦域安全保障協力イニシアティブの柱となっている。 

ダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究センターのアル・エーラーズ(Al Oehlers)博士は、FORUMの取材に対して、次のように語っている。二国間の海上法執行協定は「非常に価値があり、これらの国々はすべて、非常に広大な排他的経済水域を有しているため、これらのEEZの主権を維持することは常に非常に大きな課題である。いずれも小国であり、いずれも資源に制約のある国々だ」

二国間協定は、米国の資産、特に沿岸警備隊の船舶と乗組員が、ブルーパシフィック諸国の主権保護を支援することを認めており、それぞれの国が恩恵を受ける。米国は、各国の国防、司法、資源管理の各省庁と連携することで、より深い関係を構築し、さらなる関与への道筋を整えられる。広大な排他的経済水域を管轄し、IUU漁業による密漁に頻繁に見舞われているブルーパシフィック諸国は、海洋資源の追加的な保護の恩恵を受けている。中国の遠洋漁船団は4,600隻で世界最大であり、中国の漁船はしばしば他国のEEZを侵犯していると専門家は指摘する。

太平洋は、経済発展を支える最も重要な資産のひとつであり、米国などの同盟国は、海洋領域の認識を促進し、ブルーパシフィック諸国のパートナー能力を構築することで、開発を促進することができる。 

米国はこの地域へのコミットメントを再活発化しようとしている。 

「米国の太平洋地域への再関与は、新たな取り組みや支援の創出だけでなく、米国の存在感と関与を継続性を示す形で制度化させることを目的としている」と、ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のチャールズ・エデル(Charles Edel)氏とキャサリン・ペイク(Kathryn Paik)氏は2024年3月に記している。再関与のひとつとして、米国は2023年2月にソロモン諸島大使館を再開した。

2023年9月、太平洋諸島国と米国の首脳会議に出席するため、各国首脳がワシントンのホワイトハウスに集結。ロイター

2022年、ソロモン諸島は中国と秘密裏に安全保障協定を締結したが、この協定は中国と太平洋諸国との間では初めてのことであった。この5年間の協定により、ソロモン諸島は中国の警察および軍に社会秩序の維持と人道支援の提供を要請することが可能になった。これは、インド太平洋地域における存在感の拡大を目指す中国の目的を表している。この地域で最も懸念されるのは、この協定により、中国政府がオーストラリアから2,000キロ以内に軍事拠点を設置できるようになることだ。 

 ソロモン諸島は、2019年以降、台湾から中国への外交承認を変更した3つの太平洋諸島国家の1つであり、同年にはキリバス、2024年にはナウルがこれに加わっている。その理由は財務上のものだった。キリバスの外交承認後、中国はキリバスの離島カントン島の滑走路と橋を改修すると発表した。ナウルの外交承認は、2002年以来、台湾と中国の間で外交上の忠誠を翻した3度目の出来事である。 

 2023年9月、パプアニューギニアと米国間の安全保障協定からわずか3か月後、中国共産党はパプアニューギニア政府に対し、同国の警察官の訓練、装備、監視技術の支援を申し出た。代わりに、パプアニューギニアは2023年12月にオーストラリアと安全保障協定を締結し、豪政府はパプアニューギニアの警察力を強化するために約300億円(2億ドル)の拠出を約束した。オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は後に、自国はパプアニューギニアにとって「優先すべき安全保障上のパートナー」であると述べている。

不透明な経済 

中国共産党との財政的なつながりには大きなリスクを伴う。アナリストらはこれを「債務の罠外交」と呼んでおり、主権を侵食し、中国が天然資源、新市場、軍事施設への潜在的なアクセスを確保することを目的とした略奪的な融資である。 

2024年3月、ダニエル・クリテンブリンク(Daniel Kritenbrink)米国務次官補は米上院委員会で、太平洋地域における中国共産党の警察協定は「不透明で非常に懸念すべき」ものであり、太平洋諸国は中国との経済協定について「慎重かつ冷静な目」を持つべきだとし、「中国は多くの約束をしているが、それが果たされていないことが多く、負の結果をもたらす可能性がある」と述べた。 

例えば、バヌアツの2024年5月の国営航空会社の倒産は、同国の中国に対する負債と関連していると、オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー紙が報じている。中国が融資したインフラの融資返済に充てるため、政府当局が全面的な人員削減を行ったため、この航空会社は操業停止に追い込まれた。当時、中国はバヌアツにとってオーストラリアに次いで2番目に大きな資金援助国であり、南太平洋最大の埠頭建設のための約135億円(9,000万ドル)を含む約724億円(4億8300万ドル)の援助と融資を提供した。 

オーストラリアや米国などの同盟国やパートナー国は、太平洋島嶼国の企業の成長を支援することを目的とした異なる経済計画を提示している。米国の太平洋パートナーシップ戦略には、中小企業への金融アクセスの拡大に約75億円(5,000万ドル)が充てられており、気候変動への耐性と女性経営企業に重点が置かれている。米国はまた、気候変動やその他の世界的課題に対処する投資を促進するために、世界銀行グループやアジア開発銀行からの融資を奨励したいと考えている。また、キリバスでは、米国が支援する約43.5億円(2,900万ドル)のプログラムにより、安全で利用しやすく包括的な雇用機会の促進、労働者の権利の強化、職業訓練の提供が行われている。

 これとは対照的に、オーストラリアのシンクタンク、ローウィ研究所が2023年1月に発表した報告書によると、ブルー・パシフィックにおける中国のプロジェクトには、フィジーやパプアニューギニアで老朽化が進む未完成の高層ビルや、維持費が高すぎると当局が指摘したバヌアツのコンベンションセンターなどがある。同報告書では、トンガもまた中国が支援する融資の返済に苦慮していると指摘している。「これらの結果は、太平洋地域における中国の新規インフラ融資に対する意欲を低下させた」と同研究所は述べている。 

中国の資金援助計画に抵抗しているブルーパシフィック諸国のひとつに、サモアがある。サモアは、1962年に太平洋諸島国家として初めて政治的に独立し、1997年に正式に「西サモア」から「サモア独立国」に名称を変更した。 

 2021年、新たに選出されたフィアメ・ナオミ・マタアファ(Fiame Naomi Mata’afa)首相は、中国が支援する約180億円(1億2,800万ドル)の港湾開発プロジェクトを中止し、すでに中国に多額の債務を負っている小国にとって、このプロジェクトは過剰であると述べた。 

「政府が優先しなければならない緊急プロジェクトがある中で、この特定のプロジェクトで提案されている規模が必要になるとは、非常に想像しにくい」と同首相はロイターに語った。 

ブルーパシフィック諸国は、米国やその他のパートナーとの二国間の関与を通じて、将来の成長の機会を見出し、各国は利益のバランスをとり、主権を守ることができる。例えば、2024年7月に開催された第10回日本と太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議では、投資や貿易関係の将来的な検討に関する合意や、地域の安全保障における協力強化のための新たな合意が得られた。

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