北米の北極圏防衛がインド太平洋紛争の行方を左右する可能性
クリストファー・リアーソン(Christopher Rierson)大尉/米特殊作戦軍北方部隊
北米の北極圏が、米国とその同盟国・提携国にとって重要な戦略的拠点として浮上している。 この要所の防衛が、インド太平洋における潜在的な紛争の行方を決定づける可能性がある。
中華人民共和国(PRC)とロシアは、米国の国外での戦力投射を防ぐため、米国の封じ込めと孤立化を狙っている。
北米北極圏は地政学的競争において焦点となっており、中国とロシアがこの地域での権益を主張している。 中国は北極圏の国家ではないにもかかわらず、戦略的目的のために北極圏の開発に向けた取り組みに投資しており、北極圏の統治と経済への参加を目指している。
極地の氷床の溶解が進み、資源が豊富で戦略的に重要な地域への海運がより利用しやすくなったことにより、かつて凍土の下に隠れてほとんど見向きもされなかった北極への注目が高まっている。 北極圏の気温は、世界平均の4倍もの速さで上昇していることが研究で明らかにされている。
中国は「一帯一路」インフラ構想の一環として、拡大する海運業のための海上交通路の確保を狙い、軍民両用の軍艦や調査船を活用しながら、中国共産党の軍事的関与や北極圏領域の把握を強化している。 最近の海上や爆撃機による合同パトロールに見られるように、中国とロシアの協力関係の拡大は北極圏の安定を損ない、誤解や誤算を招く可能性がある。
北米北極圏には、米国とその同盟国・提携国にとって重要な防衛インフラが整備されており、領域認識に不可欠な長距離レーダーや、アラスカに配備されたインド太平洋向けの装備などがある。 この地域での紛争が北極圏にまで拡大した場合、米国はアラスカにおける領域認識が妨害されるだけでなく、インド太平洋や他の地域での高度な能力展開に必要な戦力投射インフラが損なわれる恐れがある。
このようなシナリオを背景に、米国国防総省(DOD)は北米北極圏への注力を再び強めている。 米国国防総省の「2024年北極戦略(2024 Arctic Strategy)」に示されているように、米特殊作戦部隊(USSOF)は、体制を強化し、防衛インフラへの脅威を緩和するために不可欠な存在である。
北米における米国特殊作戦部隊の任務を計画・実行するのは、米特殊作戦軍北方部隊(SOCNORTH)だ。 米特殊作戦軍北方部隊は、米インド太平洋司令官をはじめとする戦闘部隊や特殊作戦軍と協力し、悪意のある活動の特定、世界各地の要衝の制圧、全領域認識の強化、統合的抑止の実現に重点を置いている。
北極圏における懸念の高まりに対処するため、米特殊作戦軍北方部隊は最近、「ポーラー・ダガー作戦(Operation Polar Dagger) 」を2段階にわたって実施した。これは、北米の北極圏全域で、迅速に展開可能な統合的な特殊作戦部隊能力を実証するための一連の作戦である。 これは、米北方軍(USNORTHCOM)の米国本土の重層的防衛を支援するために、敵の活動を抑止、混乱、拒絶するための選択肢の基礎を形成するものである。
2024 年半ばには、200を超える米特殊部隊と通常部隊が北米北極圏全域に展開し、海上、航空、陸上の各領域で活動した。 これらの作戦は、米北方軍の抑止態勢と領域認識を強化するとともに、寒冷地や過酷な環境における米特殊部隊の熟練度を検証するものだ。
2023年から2024年にかけて、米特殊作戦軍北方部隊と米国海軍は共同で、ドック型輸送揚陸艦「ジョン・P・マーサ(USS John P. Murtha)」と、特殊作戦部隊の活動やその他の海上任務を支援する遠征型海域基地艦「ジョン・L・キャンリー(USS John L. Canley)」をベーリング海と北極圏に配備し、ポーラー・ダガー作戦を支援した。 米特殊作戦部隊は北極圏の地形における航法の専門性を高め、長距離移動、海上阻止行動、迅速な潜入・脱出、空対地統合、重要インフラ防衛、領域認識、医療避難の検証などの任務を遂行することで、この地域での対応能力を実証している。
米国国防総省の2024年戦略によれば、北米の北極圏は、航空宇宙や海上管制・警報システムなどの機能や、戦略的に重要な海上交通の要衝を擁することから、国土防衛にとって不可欠な地域だ。 この地域はまた、米国本土からの戦力投射のための北側陣地として、インド太平洋作戦に不可欠な地域でもある。
米特殊作戦軍北方部隊は、ポーラーダガーのような作戦を通じて、国土防衛を支え、前方作戦を可能にする能力を継続的に評価し、統合している。 高度に熟達した多様な領域の戦闘部隊と通常軍が北米の北極圏で作戦を展開することで、米国はインド太平洋における自国の戦略的利益を確保しつつ、北極圏で効果的に活動するための能力を自在に展開することが可能となる。