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英国と米国は第一次世界大戦中に初めて無人航空機を開発した。ロンドンを拠点とする帝国戦争博物館研究所(Imperial War Museums Institute)によると、英国は1917年3月に小型無線操縦機「エアリアル・ターゲット(Aerial Target)」の試験飛行を行い、米国は1918年10月に空中魚雷「ケタリング・バグ(Kettering Bug)」の処女飛行を行った。両機とも試験飛行では有望な結果を示したが、戦時中はどちらも実戦飛行はされなかった。
1世紀以上を経て、無人航空機(UAV)、またはドローンは抑止力と戦闘で重要な役割を担うようになり、米国とその同盟国、パートナーに情報、偵察、監視、標的設定、ペイロード能力をもたらした。急速に進歩するテクノロジーは、互いに通信して結束したユニットとして動作し、潜在的な戦闘効果と抑止力を提供することができる、俊敏で自律的なドローン群の開発に焦点を当てている。
インド太平洋地域では今後無人航空機が重要になる、と軍事指導者たちは語る。
「インド太平洋担当区域内の島国や国家の防衛範囲を拡大したい場合、大きな水域を持つことは、兵站や維持は非常に困難であるが、防衛境界を拡大する上で非常に有用である」と米国国防総省の安全保障支援ウクライナグループ担当チェ・ゲイルズ(Chae Gayles)米国陸軍大佐は、2024年3月にハワイで開催された太平洋作戦科学・技術 (POST)会議で述べている。
ワシントンを拠点とするシンクタンク「ニュー・アメリカ」の2020年の推計によると、世界で39か国が軍用無人機を保有しているという。この数字は、同盟国とパートナーが防衛能力強化のための技術に投資するにつれ変化している。
• 2024年2月、オーストラリアは、軍用無人機の製造に約390億円(2億6,000万ドル)を投じると発表した。
• インドは米国から31機の武装無人機を約6,000億円(40億ドル)で購入する計画である。
• 2024年1月、ドイツは、中国海警局が
放水砲や軍用レーザーを使用してフィリピンの船舶に嫌がらせをするなど、攻撃的な行動をとったことを受けて、フィリピン沿岸警備隊に無人機を提供すると発表した。
• 台湾は、約70億円(4億6,700万ドル)の契約で、
2026年に2種類の無人機を、2027年までにさらに2種類を米国から購入する予定だ。
• 2022年末に発表された「防衛力整備計画」の一環として、日本は自衛隊の情報収集、監視、偵察、標的設定のための長距離UAVや船舶搭載資産を求めており、遠隔地の基地や部隊への補給に無人機を使用する可能性もあるとした。
• 2024年3月、モルディブは、自国の広大な排他的経済水域をパトロールするため、トルコから約55億円(3,700万ドル)で無人偵察機を購入したと、オンラインメディアのアドハドゥ(Adhadhu)が報じた。
「インド太平洋地域における軍用無人機の拡散の戦略的影響は過小評価できない」と、スリランカ国防省傘下のシンクタンク国家安全保障研究所のアミラ・プラサンガ(Amila Prasanga)海軍中佐は、2023年11月に国際海上安全保障センター(Center for International Maritime Security)が発表した論文の中で述べている。同中佐はまた、「無人機は従来の海軍作戦を変え、高度な監視、偵察、攻撃能力をもたらした。紛争地域で活動し、リアルタイムの情報を収集し、人命へのリスクを最小限に抑えて力を行使する能力は、海上安全保障の力学を根本的に変えた」と述べている。
米国国防総省(DOD)は2023年8月に発表したレプリケーター・プログラムに当初約1,500億円(10億ドル)を投じ、2025年までに複数の領域で数千の自律型システムを迅速に配備する計画だ。
「レプリケーターは、単にコストが安いだけではないことは明らかだ。戦術的なエッジにより近いところで生産でき、可能な限り末端の組織に革新と戦闘での成功をもたらすという任務指揮の原則に沿って使用できる」と、キャスリーン・ヒックス 米国国防副長官は、2023年にワシントンで開催された全米防衛産業協会の会議で述べている。同副長官はまた「レプリケーターは帯域幅の制限、断続的な状態、劣化、拒否された状態であっても、回復力のある分散システムとしても機能する」と語っている。
カリフォルニアのシリコンバレーを訪れた同副長官は、次のメッセージを強調した。「戦争の性質が変わりつつあるのは明らかだ。レプリケーターは、戦略的な競争相手や敵対国ではなく、米国が将来の戦争の性質を見極め、推進し、習得することを確実にするために、米国国防総省を有利にさせる方法のひとつである」
ウクライナの経験から学んだこと
こうした戦争の性質の変化は、2022年2月のロシアの不法侵攻以降のウクライナの立場を見れば明らかだ。イランの支援を受けるフーシ派の反政府勢力が紅海で無人機を使って船舶を攻撃したことで、その勢いは増している。そして2023年10月、ハマスのテロリストたちは、爆発物を積んだ市販の無人機を使って監視所を攻撃し、イスラエルへの攻撃を開始した。
米国国防総省の安全保障支援ウクライナグループの司令官の科学技術顧問であるカリー・ライト(Curry Wright)氏は、POST会議で、ウクライナは動画を無線で送信するためのカメラ搭載UAVの導入に革新的であったと述べた。無人機は 「我々が知っている戦争を変えるもの 」である。
大量に配備された小型ビデオ無人機についてウクライナの無人機操縦者は、「これらのおもちゃは、基本的には弾薬の不足を補う機動砲であり、我々にとって重要な役割を果たしている」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。「迫撃砲と同じ距離で使えるが、精度ははるかに高い」
ウクライナはUAVを誘導弾として配備し、ロシア軍侵攻軍の塹壕や車両を制圧したり攻撃したりしながら、このような安価な消耗品であるドローンと、より高度なUAVを組み合わせることの有効性を実証している。例えば、ロシアが使用しているイラン設計の無人機に地対空ミサイルシステムで対抗するのは「非常に効果的」だが、1発あたりのコストを考えると高価だとライト氏は言う。
同氏はまた、「我々は(ドローンに)数百万ドルのミサイルを撃ち込んでいる」とも語っている。防衛の観点からは、「敵が我々に対して使用しているものを撃退する」ために、高価で洗練された能力と安価で消耗可能な能力を組み合わせる機会がある。
軍需物資の調達には時間がかかるものだが、ウクライナは3Dプリンタでビデオドローンを製造し、「我々(米国)が彼らに与える爆薬や軍需物資と組み合わせ、大きな効果あげている」と同氏は言う。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)大統領は、2024年に100万機のドローンを生産する計画だと述べ、2024年初頭にはドローン専門の軍隊の創設を発表した。「これは将来の問題ではない。むしろ、ごく近い将来に具体的な結果を出さなければならない問題だ」とゼレンスキー大統領は述べている。
ドローンやその他の技術の開発を促進し、その進歩を戦闘の実用化に転換することは、軍隊にとって不可欠である。
米国国防省イノベーション・ユニットのダグ・ベック(Doug Beck)局長は、「自由で開かれたインド太平洋」を維持するためには、スピードと民間部門の関与が重要だと述べている。POST会議で講演したベック局長は、AUKUSとして知られる豪、英、米の安全保障パートナーシップの下での情報技術協力と、2022年の「CHIPSおよび科学法」の下で米国が半導体の研究・開発・生産に10年間で約42兆円(2,800億ドル)を投資したことを指摘した。しかし、さらに多くのことを、迅速に行わなければならない。
同局長は、「その周りのすべてのクラスターと共に、全く新しい産業をほぼ…ゼロから構築するには時間がかかる」とし、「我々にそんな時間はない。だから、スピードだけでなく能力面でも、商業技術部門に代表される素晴らしい能力を活用しなければならない」と述べている。
ドローンの群れ
無人機は、人工知能(AI)の指示を受けて大群で使用されれば、戦争をさらに変えると、アナリストは指摘する。「戦争の未来は兵器システムによって決まるのではなく、システム型兵器によって決まるだろう。そして、そうしたシステムはより安価になるだろう。それらの多くはすでに存在している」と、イェール大学ジャクソン国際情勢研究所のエリオット・アッカーマン(Elliot Ackerman)上級研究員とNATO軍元司令官のジェームズ・スタブリディス(James Stavridis)退役米国海軍大将は、2024年3月のウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した。両氏はまた「まだ存在していないものは、国家が無人戦争を大規模化することを可能にするAI指示システムである。しかし、それは現実に近づいている」とも述べている。
AIに指示された数十から数百のドローンの群れは、防御を圧倒する可能性がある。両氏はまた、空母やステルス機などの大型で高価な防衛システムに依存している国は「安価で分散しやすい長距離無人兵器を多数配備する敵に対して脆弱であることに気づくかもしれない」とも記している。
ロシアは2022年、爆発物を積んだ数十機の安価なドローンを使ってウクライナを攻撃した。
ドローンの群れに対する民間インフラの脆弱性を世界に知らしめたのは、2018年12月に英国で2番目に利用者の多いロンドン・ガトウィック空港が、100機のドローンの目撃情報を受けて30時間閉鎖されたときのことだ。約1,000便が欠航または迂回し、14万人の乗客に影響を与えた。
当局はこの事件を「意図的で巧妙な攻撃」と呼び、起訴された者はいなかったが、英国の空港周辺の飛行禁止区域は1キロから5キロに拡大された。
米軍は20年以上前に、アフガニスタンでの作戦の初期段階でUAVを採用した。ランド研究所(Rand Corp.)が2024年2月に報じたところによると、米特殊作戦部隊は複数のドローンを使ったスウォーム作戦を採用しており、各ドローンは個別の操縦者によって制御され、標的への連携攻撃が可能だという。
米国とその同盟国およびパートナーは、スウォーム技術の開発を続けている。同研究所の報告書によると、2022年に米国国防高等研究計画局(DARPA)は、単一の操縦者によって制御される150機以上のドローン群のデモを行い、5年以内にAI対応の群れには最大1,000機のドローンが組み込まれると予測したという。その目的は、対空防御を制圧するのに十分な数のドローンを配備することだ。米国では、レプリケーター・イニシアチブが示すように、米国国防総省は無人システムの焦点を、より複雑な時代遅れの無人機プログラムではなく、群れで飛行する消耗型ドローンに移行しつつある。例えば、米国陸軍は、優先順位の高い脅威を人間の操縦者に警告するために、群れで飛行する中型の無人航空機システムの能力を評価している。
DARPAはまた、航空機から投下されるドローンに中距離空対空ミサイルを統合するシステムも開発している。空中発射型LongShot無人機は、敵の資産に対するミサイル攻撃の範囲を拡大する。ナショナル・ディフェンス誌によると、米国海軍の新型UAVであるMQ-4Cトライトンが2023年9月に打ち上げられ、インド太平洋の第7艦隊に情報、監視、偵察を提供する。
レーザーとマイクロ波
防衛軍もまた、ドローンによる攻撃に対抗する準備をしなければならない。日本政府の「2022年防衛力整備計画」には、自衛隊は「高出力レーザーや高出力マイクロ波等の指向性エネルギー技術の組み合わせにより、小型無人航空機等への非物理的な手段による対処能力を早期に整備する」と記されている。
高エネルギー・レーザーシステムは、細いエネルギービームを照射して接近する脅威を迎撃することで、無人機やミサイルを打破する。高出力のマイクロ波は、円錐状の電磁干渉を起こし、標的の電子機器を無力化する。米国は無人機群に対する多層的な防衛を提供するために、両方に投資すべきであると、米中央軍司令官マイケル・クリラ(Michael Kurilla)陸軍大将は2024年3月、米議会で証言した。
米国議会調査局が2023年8月に発表した報告書によると、どちらのシステムにも強力な特徴があるが、限界もあるという。想定される利点としては、深い弾倉、1発あたりのコストの低さ、迅速な交戦時間、段階的な対応などが挙げられる。
レーザーはまた、急進的に動くミサイルに対抗する能力を提供し、標的の監視や電気光学センサーの妨害など、他の任務もこなすことができる。想定される欠点としては、見通し線の交戦に限定されること、大気条件や乱流との遭遇、遮蔽物や反射率の高い素材に直面することなどが挙げられる。
マイクロ波兵器の想定される利点としては、異なる周波数と出力レベルで波を発生させ、他のシステムに影響を与えることなく標的のシステムを混乱させる能力が挙げられる。広範囲に影響を与え、様々な電子システムを破壊できるが、非致死的な用途を提供し、巻き添え被害を抑えることもできる。
欠点は、マイクロ波はレーザーほど厳密に焦点を合わせることができないため、照射範囲に制約があることだ。また、味方のシステムに損傷を与える可能性があり、電磁波を吸収する可能性のあるシールドなどの対策には効果が低い。
ウクライナでは、兵士たちがニューヨーク・タイムズ紙に語ったところによると、一方が技術的に優位に立ったと思ったら、すぐに相手側が追いついて、その優位性は短命に終わるという、追いつ追われつの接戦だという。
米陸軍士官学校システム工学科のヴィクラム・ミタル(Vikram Mittal)准教授は、無人機戦争のダイナミクスについて次のように語っている。「対無人機技術には固有の課題がある。商用無人機市場は急速に発展しており、多くの場合、対無人機技術はそれに遅れをとっている。無人機が新たな能力を開発すれば、対無人機システムが効果的に反撃できない任務にも使用できるようになる」と、同教授はフォーブス誌の2023年
10月のエッセイで述べている。
インド太平洋地域のパートナーはこの課題に取り組んでいる。例えば米国陸軍は、歩兵輸送車両に50キロワットのレーザー兵器を搭載した指向性エネルギー移動式短距離防空システムの試作機の実験を行なっている。
オーストラリアは、敵の無人機を
撃墜するために設計された可搬型レーザーを購入している。オーストラリア放送協会が報じたところによると、開発を請け負ったAIM ディフェンス社は、この技術は鋼鉄を焼き切り、時速100キロで移動する無人機を追跡して撃墜できると述べたという。
2024年、台北タイムズ紙が報じたところによると、中国による威圧やグレーゾーン戦術の強化に直面している台湾が、50キロワットのレーザー兵器の試作機の実験を行う態勢にあるという。このシステムは装甲車に搭載され、ミサイルやUAVに対して使用される予定だ。
2023年12月、米国国防総省のヒックス副長官は「我々は、中国の首脳部が毎日目を覚ました後で侵略のリスクを検討したときに『今日はやめておこう』と思わせるようにしなければならない。そしてこれは今日だけでなく、毎日そうさせる必要がある」とし、「そのためにはイノベーションが不可欠である」と述べた。