香港の学問の自由は治安体制の下で損なわれていると報告書は述べる
ボイス・オブ・アメリカ
2024年9月下旬に発表された報告書によると、2020年7月に施行された香港国家安全維持法により、旧英国植民地における学問の自由が損なわれているという。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチと米国に拠点を置く擁護団体である香港民主化評議会が発表した報告書によると、大学当局は学生の活動に対してより厳格な管理と制限を課しており、学生や教員はトラブルを避けるために自己検閲を強めているという。
「学生、学者、行政関係者、特に現代の社会政治問題を研究している香港出身者は、まるで顕微鏡で覗かれて生活しているような気分だ」と報告書は述べている。
何をもって国家安全保障法違反と見なすのかという曖昧な定義が、香港の大学に萎縮効果を生み出しているとアナリストら指摘している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当副ディレクター、マヤ・ワン(Maya Wang)氏は、「明確なレッドラインが示されていないと、恐怖感が蔓延し、学生や教員はトラブルに巻き込まれないよう自ら調整を図ろうとするだろう」と述べた。
香港の8つの公立大学は、2020年の同法施行後、中国政府寄りの見解を持つ人々によって運営されていることが、同報告書で明らかになった。 それ以来、大学当局は学生自治会への取り締まりを強化し、民主主義の価値観を推進していると見なされるシンボルやイベントを禁止している。
「大学当局は、平和的な抗議活動や集会を行った学生を処罰し、学生の出版物、通信、イベントを広範囲にわたって検閲している」と同報告書は述べている。
2019年、中国共産党は、香港の容疑者を裁判のために中国本土に送還することを可能にする逃亡犯条例改正案を提出した。 この提案に対する怒りが、大規模な抗議活動を引き起こし、より広範な反中国共産党および民主化運動へと発展した。
中国共産党はこれに対して、政令により国家安全保障法を制定し、同市の親中派の指導者らが中国共産党の権威を脅かすとみなされるものに対処できるようにした。
2019年の抗議活動には多くの大学生や学者が参加していたため、同法の施行後の中国の優先事項の一つは、大学に対する「イデオロギー統制の強化」であるとワン氏は指摘し、
また「香港の大学における学問の自由の衰退は、中国政府が香港全体に対してイデオロギー統制を強化しようとの試みの一環である」とも述べた。
同報告書の取材に応じた学生や学者は、特に中国と香港に関連する社会政治的なテーマについては、自己検閲が一般的であると述べている。
「彼らは教室で発表するとき、学術論文を執筆し研究するとき、そして学術会議に講演者を招くときに、このような行為を行う」と同報告は述べている。さらに、香港と中国の時事問題を教える学者たちは「特に弱い立場に置かれている」と感じていると付け加えている。
場合によっては、大学当局が社会科学の学者に対し、中国政府が機密とみなすテーマに関する講座の開講を中止するよう要請したこともある。 また、大学管理者や学術出版社による検閲を受けた人もいる。
中には、自己検閲の蔓延により、中国の動態に対する理解が低下するだろうと指摘する学者もいる。
「香港は常に、国際社会に対して香港や中国全土で何が起きているのかを伝える重要な拠点だったが、今やその拠点は急速に失われつつある」と語るのは、カナダのトロント大学シチズン・ラボの研究員で、香港中文大学の元ジャーナリズム教授であるロクマン・ツイ(Lokman Tsui)氏だ。
同報告書によると、大学経営陣が中国政府持者で固められ、大学当局は中国本土や香港当局と連携して、異なる意見を表明する学者に嫌がらせや 脅迫、解任を行ってきたという。
「政府は、国営メディアでリベラルな意見や民主化支持の意見を持つとみなされた学者を中傷および脅迫し、そのような意見を表明する外国人学者へのビザ発給を拒否または発給しないことによって、これを行っている」と報告書は述べている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチと香港民主評議会は、大学を徹底的に 「浄化 」しようとする中国政府の取り組みによって、香港の学界における意見の均一化「調和」が図られたと指摘した。
香港の大学の中には、海外の大学と共同研究プロジェクトや交換プログラムを実施しているところもあり、海外の大学もこうした弾圧が行われていることを認識すべきだとワン氏は言う。
さらに続けて、「海外の大学側は、抑圧的な行為者を持ち上げることを避け、危険にさらされている香港の学生や 学者に奨学金やフェローシップを提供し、彼らが恐れることなく香港の外で研究を続けられるようにすべきである」とも述べている。