FORUMスタッフ
米国とその同盟国および提携国は、インド太平洋全域の平和と安定を強化するための努力を倍増している。自由で開かれたインド太平洋を確保するための集団的措置には、共有価値を高める安全で強靭な技術生態系への投資が含まれる。米国はまた、地域の抑止力と威圧行動への抵抗力を強化するため、同盟国や提携国の防衛・安全保障能力を支援し続けている。
価値観に基づく技術エコシステム
「米印重要新興技術イニシアチブ(iCET)」は、地政学的課題と科学的進歩の交差を認識し、両国の能力を構築する取り組みだ。
米印ビジネス協議会(U.S.-India Business Council)のアトゥル・ケシャップ(Atul Keshap)会長は、インドのムンバイに拠点を置くシンクタンク、ゲートウェイ・ハウス(Gateway House)に対し、「テクノロジーの世界、特に急速な変化と進化に伴い、こうしたテクノロジーが我々の自由を奪うことに利用されないよう、インドと米国のような自由で独立した民主主義国家が、こうしたテクノロジーのリーダーであることを保証するべく、緊急に協力する必要がある」と語った。
2022年に発足した米印重要新興技術イニシアチブをもって、両国は民主的価値観と普遍的人権の尊重が技術設計、開発、統治を形作るべきであることを確認した。そのために、インドと米国は学術、産業、政府、防衛におけるイノベーション・パートナーシップの強化を約束した。協力の促進とインドの防衛力強化に向けた米印重要新興技術イニシアチブの最も早い展開のひとつに、米ゼネラル・エレクトリック(General Electric)の航空宇宙部門とインド国営のヒンドゥスタン・エアロノーティクス(Hindustan Aeronautics)がF414ジェットエンジンを共同生産することで合意したことがある。
この契約には、米国が承認した技術移転が含まれており、インドが先進的なエンジンを製造することを可能にし、国内企業の能力向上に貢献する。米国を拠点とするブルッキングス研究所(Brookings Institution)のシニアフェローでインド・プロジェクトのディレクターを務めるタンビ・マダン(Tanvi Madan)氏は、同公共政策機関のポッドキャスト「ダラー・アンド・センス(Dollar and Sense)」で、この動きは「世代を超えた関係への投資」を意味すると述べた。
そして、戦略的な貿易と技術協力は以前からインドと米国の間に存在していたが、米印重要新興技術イニシアチブは、防衛産業分野、研究開発、半導体サプライチェーンの信頼性、宇宙開発など、「全面的なイノベーション」において協力する枠組みを構築するものだ、と語った。
その他のiCET条項は、インド人宇宙飛行士へのNASA訓練の提供、インドの商業宇宙への関与の強化、高性能コンピューティング技術の米国輸出の障壁の低減、半導体生産におけるインドの地位の強化などを求めている。
イニシアチブが具体化してからの数か月間で以下の展開が見られた:
両国は2023年3月、半導体タスクフォースからの提言を精査・検討する覚書に調印した。
輸出管理メカニズムの合理化を目的としたインド・米国戦略貿易対話が、2023年6月に初めて開催された。
「米印国防加速エコシステム(India-U.S. Defense Acceleration Ecosystem)」サミットが2023年6月に、防衛分野における共同生産・共同開発を加速させるためにワシントンD.C.で開催された。
展望の共有
オーストラリア、インド、日本、米国は、2022年に「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」を発足させた。クアッド加盟国は、沿岸海域に関するリアルタイムの情報を供給するための新技術と訓練をこの地域一帯の国々に提供している。
リンゼイ・フォード米国国防次官補代理(南・東南アジア担当)は、2023年ワシントンD.C.で開催された「より強靭なインド太平洋安全保障アーキテクチャーの構築(Building a More Resilient Indo-Pacific Security Architecture)」フォーラムで、「この地域に実用的な公共財をもたらすこと、つまり、海洋空間における共通の運用イメージをいかに構築し始めるかに重点を置いている」と述べた。
衛星技術によって提携国は鳥瞰図を共有することができ、気候変動への対応を強化し、人道的・自然災害時の支援を迅速化し、違法漁業撲滅への取り組みを強化することができる。例えば、商業衛星からのデータにより、電源を切ったり、改ざんしたり、識別・監視システムを搭載していない船舶を追跡することができる。「テクノロジーの進化によって、基本的に暗闇の中でこういったことをすることはできなくなった」とフォード次官補代理は述べ、「つまり、これは……『みんなで同じものを見よう』ということだ。実際に起きていることを事実上否定するような国を作らないためにも、何が起きているのかを皆で理解することが必要だ」と語った。
米国国務省によると、オーストラリアと日本は、太平洋諸島フォーラム漁業機関(Forum Fisheries Agency)を通じて太平洋諸島の海洋領域認識(MDA)を強化する取り組みを主導してきた。データ分析会社のホークアイ360(HawkEye 360)は2023年7月、違法漁業の摘発と防止のためのツールと訓練を同庁に提供する契約をオーストラリアと結んだと発表した。
インドはインド洋地域の情報融合センター(Information Fusion Centre)を通じて海洋領域認識能力を構築している。2018年に設立された同センターは、連携を促進する情報拠点を作ることで海上警備を強化することを目指している。
「ディフェンススクープ(DefenseScoop)」のウェブサイトによると、海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップの発足以来、米国は東南アジアの提携国と協力し、海洋状況をより迅速かつ正確に把握するための衛星データにアクセスしている。
国務省の報道官はディフェンススクープに対し、「我が国はアプローチを洗練させ、技術チャレンジの開催を含め、一連の海洋領域認識問題に対する革新的な解決策を開発するために、地域全体の革新者と協力し続ける」と述べた。
安全保障のアップグレードを推進
国防近代化計画を進めるフィリピンは特に、好戦的な中国がフィリピン沿岸警備隊を標的にし、漁民に嫌がらせをし、調査任務を妨害し、フィリピンの排他的経済水域内でのエネルギー探査を妨害している南シナ海で、抑止力を強化し、威圧行動への抵抗力を高めることを目指している。同国は、70年以上にわたる同盟国である米国と協力し、今後5〜10年間の優先防衛プラットフォーム、共有防衛投資、制度的能力構築の特定を行なっている。
ロイター通信が2023年に報じたところによると、ロイド・オースティン(Lloyd Austin)米国国防長官は、フィリピンに対する優先事項として、レーダーシステム、無人機、軍用輸送機、沿岸・防空システムを挙げている。同盟両国は、フィリピン空軍のための多用途戦闘機の購入と、軍用ヘリコプターを提供するための米国の支援を計画している。米国防総省はまた、フィリピンの米軍ローテーションを受け入れる新規および既存の防衛協力強化協定(EDCA)拠点のインフラ整備に、2023年に約151億円(1億ドル)以上を割り当てた。
防衛協力強化協定拠点は、連合軍間の合同訓練、演習、相互運用性だけでなく、フィリピンの民間主導の災害準備・対応能力も支援する。米国はまた、防衛協力強化協定関連やその他のプロジェクトを、人道支援や災害救援の能力強化、安全な水の供給へのアクセス、教育、医療、持続可能な漁業管理、生物多様性の保全、エネルギー安全保障などの活動で補完することを約束している。この約束は、2022年に米国がフィリピンに対し、海上法執行の補完とフィリピン沿岸警備隊の船舶交通管理システムのアップグレードのために11億円(750万ドル)を無償供与したことに続くものだ。
フィリピンのエンリケ・マナロ(Enrique Manalo)外務長官は、ワシントンの戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)で開催された2023年のイベントの中で、フィリピンと米国の同盟は「1945年以降の法治に基づく世界秩序へのコミットメントを共有するものだ」と述べた。
さらに、変化する地政学的現実の中で、「フィリピンとアメリカの人々の利益、我々の共有する価値観、そして変容するシフトの中で各国が平和の中で繁栄し、安定を保たなければならない世界秩序を維持するという共通の目的を推進するために極めて重要」であるパートナーシップの将来について、同盟国は新たな戦略を検討することを求められていると述べた。
自衛のための支援
第二次世界大戦以来最も複雑化していると指導者たちが呼ぶ安全保障環境に日本が直面する中、日本の防衛コミットメントは拡大し続けている。日本の安全保障政策は、弾道ミサイルと核兵器の開発計画を禁止する国連安全保障会議決議に反し、北朝鮮が開発を続けていることを挙げている。近年、過去最高の防衛予算を採択する際、日本はまた、中国の軍事的能力の向上と、透明性の欠如、さらに海や空での継続的な侵略を指摘した。テロやサイバー攻撃の脅威は、日本が自衛能力を拡大する必要性をさらに高めている。
これらの努力の中で最も重要なのは、長距離ミサイルを含むスタンドオフ防衛能力と、包括的な防空・ミサイル防衛資産の開発だ。日米はそのために協力することを約束している。米国政府は、この一歩は同盟の抑止力を強化し、地域的・世界的な安全保障上の課題に対処するための重要な進化だとしている。
米国の指導者たちは、今後数年間で防衛費を倍増させるという日本の計画を称賛した。「強力な日本、米国や他の国々と緊密な同盟関係を持つ軍事力のある日本があれば、戦争の大きな抑止力につながるだろう」と、当時統合参謀本部議長だったマーク・ミリー(Mark Milley)大将は、2023年に日本を訪問した際に語った。
米国空軍はMQ-9リーパー無人偵察機を東シナ海に配備した。また、新たに編成された第319遠征偵察飛行隊が南日本の鹿屋航空基地に1年間駐留し、この海域で活発化する中国の海洋活動を監視した。2023年10月中旬、木原稔防衛相は捜索、偵察任務により多くの時間を割けるようにするため、MQ-9飛行隊と無人航空機は2023年に沖縄の嘉手納基地に移転配備すると発表した。
「安全保障環境が厳しさを増すなか、情報収集能力を含め、日米同盟の抑止力と対応能力をさらに強化していく」と木原防衛相は述べた。
一方、日本と米国は、極超音速兵器をインターセプトする画期的なミサイル能力を共同開発すると発表した。極超音速兵器とは、飛行中に進路を変えることができるミサイルのことで、対抗するのが難しくなる。日本の防衛省は、開発は2030年代半ばまでに完了するはずだとしている。
信頼できる抑止力の構築
米国は40年以上にわたって、台湾の防衛力に対する揺るぎない支持を維持してきた。中国は民主的に統治されている台湾を自国の領土と主張し、武力で台湾を併合すると脅している。台湾海峡の平和と安定に対する変わらぬ関心、世界貿易の鍵となる国際水路、そして現状を一方的に変更することへの反対が、米国の「一つの中国」政策を導いている。この政策では、中国を「唯一の合法的政府」として認めているが、台湾の地位については何の見解も示していない。米国の台湾関係法(Taiwan Relations Act)は、武力であれ威圧行動であれ、台湾の将来を決定しようとする非平和的な動きは、この地域の平和と安全を脅かすものであると認識している。したがって、1979年の同法は、米国が「台湾が十分な自衛能力を維持できるようにするために必要な量の防衛品や防衛サービスを台湾に提供する」ことを義務づけている。
米国から台湾への軍事援助は、台湾の自衛能力形成の支援に重点を置いている、とニューヨーク・タイムズ紙は報じている。ロシアの理不尽で一方的な2022年の侵攻に対するウクライナの対応を参考に、当局者は、世界最大級の軍隊からの攻撃であっても撃退できる戦力を構築することを重視している。この「ヤマアラシ」戦略は、台湾を侵略の標的として手痛い存在にすることが狙いだ。米国製の移動式ロケットプラットフォーム、F-16戦闘機、そして近年台湾が購入したような対艦発射体は、侵略軍を撃退するのに最も適しているとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。
米国は2023年、台湾の防衛調達を加速させる努力を踏まえて、約522億円(3億4,500万ドル)規模の装備を台湾に移転することに同意した。AP通信によると、移転が承認された装備には、諜報・監視能力に加え、より優れた装備の侵略者を撃退することを任務とする軍隊を支援することができる機動兵器である携帯型防空システムも含まれている。2023年の防衛資産移転は、米国が承認した1,513億円(10億ドル)の一部だった。米国は同年、台湾の国防品購入のために約204億円(1億3,500万ドル)の補助金を拠出した。2019年以降、米国は台湾に対して約3兆1,782億円(210億ドル)以上の武器売却を発表している。
ミラ・レスニック(Mira Resnick)米国務副次官補(地域安全保障担当)は2023年9月、米国下院軍事委員会で、「台湾海峡の平和と安定の鍵のひとつは、信頼できる抑止力だ」と述べ、さらに、「長年の方針に基づき、我が国は今後数か月、数年にわたり、台湾の防衛力と抑止力を強化するための協力強化に注力している。米国の方針は変わらないが、台湾の防衛力は変わらなければならない」と述べた。
多様なニーズ、多様なソリューション
インド太平洋地域の同盟国や提携国との協力関係には、他にも以下のようなものがある:
米国は、2023年5月に発表された約1兆896億円(72億ドル)規模の投資計画の一環として、ブルーパシフィック諸国における気候変動の影響を緩和し、経済成長を支援し、違法漁業と闘うプロジェクトに資金を提供することを約束した。
若手リーダーに教育と専門能力開発の機会を提供するフェローシップ・プログラムを含め、東南アジア諸国連合との関与を推進する。
人工知能、自律型海中戦、サイバー防衛、電磁波戦、極超音速兵器、量子コンピューティングなどの先進能力について、オーストラリアやイギリスと協力する。
朝鮮半島の完全な非核化へのコミットメントを強化して地域の安定を支えるパートナーシップであると米国当局が言う、日韓米三国の協力関係を強化するための活動や演習。
イーライ・ラトナー(Ely Ratner)国防次官補(インド太平洋安全保障担当)は、2023年のブルッキングス研究所(Brookings Institution)のイベントで、この地域における多様な協力形態は、同盟国や提携国の同様に多様なニーズに対応するために調整されていると述べた。
「これは米国のインド太平洋に対するビジョンではなく、日本が、太平洋諸島が、オーストラリアが、韓国が表明している、自由で開かれた、威圧行動のない、紛争が平和的に管理される地域という共通のビジョンである」とラトナー国防次官補は述べた。そして「さまざまな同盟国や提携国との間で、我が国が関与する種類や持ち込む手段は異なっているのは事実だ。しかし、非常に緊密な連携が取れていると思うし、我が国は提携国の置かれた状況に対応している」と語った。