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「シームレスを目指す」

オーストラリア国防省最高技術責任者が 安定と平和には科学との協力が不可欠との見解を示す

オーストラリア国防省は、法治に基づく世界秩序と自由で開かれたインド太平洋を維持するための取り組みの中で、技術と技術革新を優先している。ナイジェル・マクギンティ博士(Dr. Nigel McGinty)は、科学戦略、通信、国際的関与を担当する同局の最高技術責任者として最前線に立っている。3月にハワイで開催された2023太平洋作戦科学・技術会議(Pacific Operational Science & Technology – POST)でパネリストを務めたマクギンティ博士は、FORUMの取材に応じ、新技術の開発と配備のために新たなアイデアと多国間協力を奨励する雰囲気を確立する自身の任務について語った。本記事はインタビューをFORUMのために編集もの。

国防科学技術グループの宇宙領域認識望遠鏡(DSTG Space Domain Awareness Telescope)は、人工衛星やスペースデブリの評価と追跡を行うほか、ハードウェアのテスト、アルゴリズム開発、オーストラリアやその他の機関との共同研究にも使用されている。

あなたの職務内容と達成目標は?

私の役割は、防衛と安全保障に適用される科学、イノベーション、テクノロジーといった組織の科学戦略を形成し、それを導くことです。つまり、オーストラリアはどこへ向かい、どんな目標を掲げているのか、ということです。このような世界で働いていない人たちに対しては、オーストラリア防衛の根幹に関わる重要性を説明しなければなりません — 常に、明確かつ説得力のある方法で、我々がどこに向かうべきかを明確にすることを目指しています。

国防科学技術グループ(Defence Science and Technology Group – DSTG)にとって、国際的な役割は非常に重要です。我々は国際的なパートナーシップを通じて成果を達成することを目指しており、そのような関係を築く手助けをすることも私の役割のひとつです。その多くは、人と人との良好な関係に尽きます。米国、カナダ、ニュージーランド、日本、シンガポール、大韓民国、フランス、スウェーデンなど、多くの国々と強力なパートナーシップを結んでいます。価値観を共有する国々との広範なパートナーシップは不可欠です。法治に基づく世界秩序は、我々が協力して達成できるものです。私と共に働くチームが、協力して国防科学技術グループの活動をリードし、促進してくれています。

今後は次世代の能力にもっと力を入れたいと考えています。それが私の課題です。最終的にこの役割を終えた時には、オーストラリアにおいて、それをより大きく、より良く、より強くする手助けをしたと言いたいですね。

各国が単独でイノベーションや開発に取り組むのではなく、多国間で課題に取り組むことに価値はありますか?

多国間で検討する方が価値がある場合もありますが、時間がかかる場合もあります。例えるなら、3、4人の人が部屋で何かをデザインしようとしているとします。全員が自分のコンセプトをプロジェクトに取り込もうとしますよね。別の方法としては、勢いをつけるために、一人がまず動き出して、他の人がそれに加わるという方法もあります。プロジェクトは時間とともに進化していきます。一人の人物、あるいは一つの国からテンプレートのようなものを得て、それに他の国も参加するのです。協力者を受け入れるオープンさが必要です。

共同プロジェクトは、すべてのパートナーのニーズを満たさなければならず、なかでも、戦力構成にどのように統合するかが重要です。プロジェクトは、共同設計の理念とともに発展していかなければなりません。これは何かを開発する現実的な方法だと思いますし、素早く実現できます。そうでなければ、多くのステークホルダーからニーズが寄せられた場合、過剰に複雑なシステムにはまってしまうだけです。我々は物事を単純化しなければなりません。

すべての人が双方向的かつ進化した方法で協力し合うパートナーシップこそがこれからの姿なのです。その一例が、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国が戦略主導の科学技術イニシアティブで協力する「技術協力プログラム(Technical Cooperation Program)」です。これは、重複を避け、相互運用性を向上させながら、各国の研究開発の成果を拡大するためのアイデアや専門知識を交換する場です。

国防科学技術グループが開発した単一光子アバランシェ検出器は、低照度下で物体を検出することができ、敵の潜水艇や地雷を海底からスキャンできる可能性がある。

情報共有は国家の 安全保障を脅かしませんか?

どの国も自国の重要資産を守らなければなりません。しかし、科学的原則の本質は公開とピアレビューであり、オープンサイエンスを可能にするものです。サイクルの後半になると、その技術や科学的ブレークスルーが軍事的に優位に立てるかどうか、応用について考慮し始めるので、我々は保護的になる必要があります。

国防省部局の間で、シームレスで、協力的で、革新的で、創造的な瞬間を迎えるためには、情報をもっと自由に扱う必要があります。 こうしたものは信頼に裏打ちされたものでなければなりません。さまざまな国が集まっていますが、価値観や信念は一致しています。国際的な領域では、はるかに機敏になり、全ての関係者がより多くのことをやろうとする動きが強まっています。それは素晴らしいことだと思います。

イノベーションは創造的な活動であると同時に、素早く起こす必要があるということですが、そこに相反するものはありますか?

そうは思いません。偉大なアーティストの中には、非常に素早く偉大な作品を生み出す人たちがいます。何かを開発し、配備するのに10年もかかる必要はありません。第二次世界大戦はそれほど長くはかかりませんでしたし、その間にさまざまなものが構想され、創造されました。我々は、実用的な開発だけでなく、いかに迅速に物事を行うかということにも注目する必要があります。モデルTから始めて、時間をかけながらロールスロイスに辿り着くのです。これもそのひとつです。我々は、共同デザインの要素を理解するために協力的な方法で話し合うのとは対照的に、あるものに必要なさまざまなパラメーターを計算する10年の開発期間にとらわれてしまいがちです。早くできることは何か?例えば、達成しようとしていることの90%を達成できるか?1週間もあればできるかもしれません。でも、100%達成するには5年はかかるでしょう。

国防省は能力開発に対する見方がかなり伝統的です。しかし、従来のアプローチでは時間がかかり、コストも非常に高くつきます。ですから、特にオーストラリアや小国にとっては、能力の優位性を提供するために、技術の向上を加速させる方法を検討する必要があります。ある種の乗数効果をもたらす技術や能力で、いかにして非対称的な優位性を得られるか。

最初からロールスロイスのようなものを作ろうとするのではなく、従来とは異なる方法を模索し、迅速に達成できることを見極め、時間をかけてその能力を向上させていく必要があります。本質的に、科学技術と我々が住む素晴らしい世界の根幹は、絶え間ない改善です。したがって、変革的な能力を導入したうえで、時間をかけて改善していく必要があります。基本的に、私が提唱しているのはそういうことです。

政府(特に国防)と民間産業との間のコミュニケーションは増えていますか?

それこそがこの[太平洋作戦科学・技術]会議の目的です。今はもっとつながりがあるか?政府、国防総省と協力して物事を解決するために、民間企業に協力してもらうことにより重点を置いているのか?こうした問いに対する答えは、イエスです。2016年、オーストラリア国防省は方向転換しました。我々は、産業界が能力の基礎となることを約束しました。つまりは産業界とパートナーシップを結ぶということです。それは国防の活動全般にわたるものですが、研究開発も間違いなく含まれます。それは重要なことです。2016年、オーストラリアは「国防イノベーション・ハブ(Defence Innovation Hub)」と次世代技術基金を創設し、イノベーションに投資しました。小規模な産業や企業を支援し、育成するプログラムによって、我々はその水準を引き上げることができました。中小企業(SME)は、研究者と商業化のパートナーを結びつけ、潜在的な機会を模索しているほか、そのようなビジネスモデルを基に企業が設立されています。今の我々があるのは、企業が独自のイノベーション・システムを構築してきたからです。「先進戦略能力アクセラレーター(Advanced Strategy Capabilities Accelerator)」は、オーストラリアの国防革新システムにおける次の革命です。

最大の課題は何ですか?

コストの高いビジネスであり、お金は決して二の次ではありません。しかし、最大の課題は、使命を果たすことのできる人材、つまり、我々が成し遂げるべきことを理解し、それをテクノロジーの芸術と融合させることのできる人材を見つけることです。イノベーションは創造的なプロセスです。ビジョンを明確にし、それを実行に移せる特別な人が必要です。米国国防高等研究計画局(U.S. Defense Advanced Research Projects Agency – DARPA)はこれを見事に実践しています。

ビジョンを売り込むことができれば、人を集め、資金を調達し、企業を集め、軍人や科学者を確保することができます。そういうつながりが大事なのです。どのような道のりを選ぶことができますか?ミッションが誰にでも明確に示され、適切な人材が配置されていれば、物事は一直線に進み、前進し始めます。プログラム構築に着手することができます。

オーストラリアはイノベーションに投資しています。オーストラリアのシステムは、より多くのものを吸収できるようになり、今ではより成熟したイノベーションの仕組みが整っています。

太平洋作戦科学・技術会議のような会議には価値がありますか?

もちろんです。このようなイベントがもっと必要です。我々はさら深くつながっていなければなりません。テクノロジーは我々が定期的にミーティングを行うことを可能にし、世界をより小さな場所にしました。しかし、実際に会って人間関係を築くことは不可欠です。こうした会話は、覚書(MOU)の締結やプロジェクトの手配のプロセスを効率化します。ペンタゴンの仲間たちとは、太平洋作戦科学・技術会議のようなイベントを通じて実際に会うことも、バーチャルで会うことも、COVID-19以前よりも多くなりました。 

COVID-19の影響で、常に直接会うことができなくなったため、我々はそれまでよりさらにコミュニケーションを取る必要に迫られました。パンデミック以前は、年に数回、会議室に集まってさまざまな機会について話し合っていました。そしてそれぞれの国に戻り、自国での仕事に取り掛かっていました。COVIDの間は、今回の会議のようなイベントは数多く開催されませんでした。そこで、我々は新しいコミュニケーション方法を考えなければなりませんでした。頻繁にディスカッションをすることの価値を実感していますし、今ではもっとオープンになっています。強力で生産的な国際的パートナーシップを可能にするには、太平洋作戦科学・技術会議のようなイベントとオンラインでの交流を融合させる必要があります。バーチャルでのミーティングは、オーストラリアでは少し早いということですね。科学はまだ時差を回避できないのです。

我々はどこへ向かっているのでしょうか?

テクノロジーは急速に進歩し、軍隊に変革をもたらしています。自律性、AI(人工知能)、量子、極超音速推進、ハイパーコネクティビティは、この変革の基盤です。そこには怖さもありますが、あらゆることが可能に思えます。世界がこれまでとは異なるだけに、パートナーシップで管理する必要があるのです。同盟国・提携国間のコミュニケーションは良くなっていますが、世界の他の国々もそうであることは間違いありません。官僚的でなく、より生産的な方法で、より透明性をもって物事を進める必要があります。シームレスを目指すのです。

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