オセアニアパートナーシップ特集

成功への 枠組み

同盟・提携国が太平洋の強靱性を支える資源と支援の提供を約束

FORUMスタッフ

2023年3月初旬、時速230キロのサイクロンが連続してバヌアツを襲い、家屋を倒壊させ、送電線を切断したとき、同じ太平洋の国オーストラリアは迅速に対応した。太平洋に浮かぶ人口319,000人のバヌアツが、未曾有の自然災害(2つの猛烈な暴風雨とそれに続く2つの地震)による被害から復興するという途方もない作業に取りかかろうとしていた時も、支援の準備は着々と進んでいた。

オーストラリア空軍(RAAF)のC-17Aグローブマスターが緊急評価チーム、シェルター、浄水物資を約2,000キロ離れたバヌアツまで空輸し、フィジー共和国軍(RFMF)は数十人のエンジニア、医療専門家、その他の軍関係者を民間緊急対応要員とともに派遣した。フランス軍は航空・海軍を動員して貯水タンクや国連の救援物資を運び、フランス兵は根こそぎ倒れた樹木の除去や医療避難を行った。韓国は約2,900万円(20万ドル)の人道支援を承認した。韓国外務省は、「韓国政府は、この援助がサイクロンの被害を受けたバヌアツの人々の日常生活への迅速な復帰と被害からの回復に役立つことを願っている」と述べた。

バヌアツへの人命救助支援の波は、志を同じくする国々が新たな活力を持って太平洋諸島に関わり、海面上昇、公衆衛生の脅威、経済的打撃、資源開発などの課題に対するレジリエンスを構築する姿勢を反映している。この広大な地域が、地政学的な影響力争いや 中国の思惑に対する懸念の高まりと、気候変動という存亡の危機に直面する中、この多国間の取組みは非常に重要な意味を持つ。ある太平洋地域の指導者は、中国が贈収賄やスパイ行為、その他の政治闘争を行っているとまで非難している。

サイクロン上陸から1週間も経たないうちに、オーストラリア海軍の「キャンベラ」と600人の部隊、上陸用舟艇、ヘリコプター、医療施設、物資がバヌアツの首都ポートビラに到着した。オーストラリア政府は、約4億4,000万円(300万ドル)の追加支援とロジスティクスの専門知識の提供も承認した。オーストラリアのペニー・ウォン(Penny Wong)外相は、「今回の発表と派遣は、バヌアツとこの地域全体における、オーストラリアの長年にわたる災害対策と人道支援活動に基づくものだ」とし、「危機に際して、我々は太平洋の家族としてオーストラリアを頼りにすることができる」と述べた。

首都ポートビラで清掃活動を行うオーストラリア陸軍兵士とバヌアツ機動部隊員。 オーストラリア国防省

レジリエンスの強化

オーストラリア政府はその2週間前、2020年と2021年にサイクロンで被害を受けた、ポートビラから1,000km東にある9校の学校を再建するため、フィジーに約6億6,000万円(450万ドル)の資金を提供すると発表した。フィジー・タイムズ紙によると、ウォン外相は、「最も重要なことは、単に再建するだけでなく、カテゴリー5のサイクロンに耐えられるよう、より高い基準で再建することであり、また、再生可能エネルギーや地元の資源を使用し、持続可能な施設にすることだ」と語った。

オーストラリア高等弁務団によると、フィジー最大の二国間開発援助国であるオーストラリアは、人口95万人の島国フィジーに対し、2020年以降、「気候変動と社会的回復力の強化」を含め、約238億円(1億6,000万米ドル)余りの直接予算支援を行ってきた。

このような共同プロジェクトは、地球表面の15%を占める広大な海域に3万もの環礁や島々が点在し、1,200万人の住民が頻繁な地震や火山の噴火にさらされている環太平洋火山帯を含むこの地域全体で急ピッチで進められている。一方、気候変動により、サイクロンや洪水の深刻さと頻度が増しており、南太平洋地域では年間約744億円(5億ドル)の被害が出ていると推定されている。2023年初頭に発表された数々の取り組みには、次のようなものがある:

フィジー・タイムズ紙は、ニュージーランドがフィジーに約6億円(450万ドル)の資金を提供し、さらに気候変動対策に約13億円(900万ドル)の資金を提供すると報じた。フィジーのシティベニ・ランブカ首相との記者会見で、ニュージーランドのナナイア・マフタ(Nanaia Mahuta)外務大臣は、「気候変動が我々のコミュニティに与える影響について、提携国がフィジーと、そしてニュージーランドと協力することで、我々が直面する重大な課題に確実に対処できることを中心に話し合った」と述べた。

韓国が出資する韓国国際協力団(KOICA)は、フィジーの首都スバの北に位置するタマブアの新しい医療センターに最大約14億円(1,000万米ドル)を提供する。フィジー・タイムズ紙によると、ランブカ首相は「今回の時機を得たプロジェクトについて、韓国国際協力団を通じて韓国政府と韓国国民に感謝の意を表したい」と述べた。

サモアでは、米国国際開発庁(USAID)が気候変動への適応、災害リスクへの備えと対応、衛生と衛生に関する地域主導の取り組みに約2億円(150万ドル)を供与したと、サモア・オブザーバー紙が報じた。米国国際開発庁のパトリック・ボワーズ(Patrick Bowers)副開発顧問は、「米国政府は、太平洋島嶼地域の最も脆弱なコミュニティが、災害による混乱から解放され、健康で安全な生活を送ることができるよう、その能力を強化することに尽力している」と述べた。

日本はサモアに14台の新しい警察車両を無償提供したほか、地元当局はドイツが一部資金を提供し改良された学校2校を公開した、とサモア・オブザーバー紙は報じた。「教育は、我々が直面するグローバルな課題に対処するために必要な知識を若い世代に身につけさせる上で、重要な役割を果たしている」とドイツのベアテ・グルゼスキ(Beate Grzeski)特使は述べた。 

台湾は、フィジー北東部のラバサに血液透析センターを設立するため、透析装置、浄水器、その他の物資を寄付した。台湾は、20年にわたるフィジーへの支援の中で、8,000件以上の外来患者サービスや手術を行うチームを派遣してきた。「台湾は、フィジーとの友好とパートナーシップをさらに深めるため、医療分野だけでなく他の分野でもフィジーへの援助を継続する」と、在フィジー台湾自治領代表のジョセフ・チョウ(Joseph Chow)氏は声明で述べた。

2023年2月、レマタウ作戦の一環として、米国沿岸警備隊哨戒艇オリバー・ヘンリーの乗組員がミクロネシアのウォレアイ環礁に物資を届けた。ブランダン・マルドニー(BREANDAN MULDOWNEY)二等兵曹/米国沿岸警備隊

軌道に戻る

この地域の自然災害や人為的な災害に対する備えを強化することに重点が置かれるようになった背景には、中国とソロモン諸島の安全保障協定(2022年)に端を発した衝撃がある。詳細は未だ非公開だが、この協定は中国の軍艦がソロモン諸島で補給することを許可し、軍隊を持たないソロモン諸島で中国の治安部隊が法執行を支援することを可能にすると考えられている。アナリストたちは、これは中国軍の恒久的な駐留の前兆かもしれないと主張しているが、両国はこれを否定している。米インド太平洋軍司令官ジョン・アクイリノ大将は、2023年3月、シンガポールの国際戦略研究所での講演で「最近、ソロモン諸島において、中国が潜在的に足がかりをつかもうとする行動が見られた」と指摘し、「太平洋諸島にもっと時間をかけ、関与し、援助と支援を提供することに、我々の多くが目覚めたと思う。我々は軌道に戻ったと言えるし、これらの国々にとって有意義で有益な方法で関わり続けている」と述べた。

これには米国国際開発庁の2022〜27年太平洋諸島戦略枠組みも含まれる。この数十億ドル規模の官民イニシアチブは、太平洋島嶼国12か国において、「気候や災害の影響、パンデミック、経済的衝撃への対応と適応を強化し、民主的価値観、良好なガバナンス、人権を擁護し、すべての太平洋諸島民のための公平性と包摂を促進する強力な政治システムを構築する」ことを目的としている。

米国やその同盟国、提携国が太平洋地域への投資を拡大する中、中国は資金援助を減らしている。中国の太平洋島嶼国に対する二国間援助と開発融資は、2016年
の最高額約497億円(3億3,400万米ドル)から、2020年には2008年の拠出額を下回る約279億円
(1億8,800万米ドル)に減少したと、フィジー・タイムズ紙が2023年3月に報じた。一方、フィジーの中央銀行によると、2020年時点のフィジーの対外債務のほぼ4分の1にあたる約282億円(約1億9000万米ドル)は、国営の中国輸出入銀行に対するものだった。

中国のこの地域へのコミットメントに対する懸念は財政面だけにとどまらず、2023年初頭に遅まきながら太平洋担当特使が任命されたことでも払拭されることはないだろう。前年、太平洋島嶼国10か国は、経済と安全保障面での関係深化を求める中国の広範な提案をはねつけた。「ディプロマット」誌によれば、当時のミクロネシアのデビッド・パニュエロ(David Panuelo)大統領は、この計画はこの地域を「中国の軌道に非常に近づけることになるだろう」と警告し、その後、議員たちに外交的忠誠を中国から台湾に切り替えるよう求めたという。パニュエロ大統領は、中国が自国の領土だと主張する台湾を侵略した場合、ミクロネシアの支持、あるいは少なくとも中立を確保するために、中国が賄賂やスパイ行為といったグレーゾーン戦術を使うだろうと警告した。

パニュエロ大統領は2023年3月の書簡で、「中国の政治戦争が多くの分野で成功している理由のひとつは、我々が賄賂をもらって加担し、沈黙していることだ」と書いている。さらに、「はっきりさせておきたいのは、私は、公的な立場で行動する中国当局者から、私の身の安全に対する直接的な脅迫を受けてきたということだ」と記している。

中国はこの告発を否定した。

ハワイを拠点とする独立研究機関、イースト・ウエスト・センターのデニー・ロイ(Denny Roy)上級研究員は、アジア・タイムズ紙の2023年3月の記事で、中国はこの地域でソロモン諸島協定などの限定的な利益を得たものの、「全体像は、太平洋を中国の湖にしようとする中国の試みが行き詰まり、当面強い逆流に直面することを示唆している」とし、「中国が太平洋で直面している反発の多くは、過度の干渉という典型的な特徴を持つ中国政府自身の行動によって引き起こされている」と述べている。

2022年9月、オーストラリア北部沖のカカドゥ演習で乗艦作戦を行う、オーストラリア海軍哨戒艇「ブルーム」(左)とフィジー共和国海軍哨戒艇「サベナカ」。 豪国防省

即応態勢

ちょうどパニュエロ大統領が中国の威圧行動を暴露していた頃、米国沿岸警備隊の哨戒艇オリバー・ヘンリーは、違法漁業対策と遠隔環礁のコミュニティとの連携強化のため、ミクロネシアへの1週間の派遣を完了したところだった。レマタウ作戦の一環として、哨戒艇の乗組員はグアムの住民や企業から寄付された2,000キログラム以上の物資(食料、衣類、教材、玩具、漁具、船舶用グラスファイバー修理キット、水ポンプなど)を届けた。この訪問は、米国沿岸警備隊と地元の公共安全・災害管理当局による捜索救助訓練と重なった。米国沿岸警備隊ミクロネシア/セクター・グアムの司令官であるニック・シモンズ大尉(Capt. Nick Simmons)はニュースリリースで、「ミクロネシア連邦の提携国、特に捜索救助の能力を高め続けることは、依然として最優先事項だ」と述べた。

その他の地域では、ニュージーランド国防軍(NZ軍)約300人が2023年3月、人道支援・災害救援(HADR)訓練、水陸両用上陸作戦、学校への図書や物資の輸送などを含む「マヒ・タヒ作戦」のため、輸送艦「カンタベリー」でフィジーに派遣された。カンタベリーでは、フィジーの水兵たちも上陸用舟艇とヘリコプターの操作訓練を受けた。「太平洋全域での災害への対応はニュージーランド軍にとって重要な役割であり、この重要な能力を必要なときに発揮できるよう、できる限り頻繁に訓練を行なう必要がある」と、演習を指揮する合同任務群司令官のメル・チャイルズ大佐(Col. Mel Childs)はニュースリリースで述べた。さらに、「私のキャリアを通じて、フィジー共和国軍と訓練や仕事ができたことは幸運であり、フィジー軍の友人たちとは素晴らしい関係を享受している」と述べた。

同盟国や提携国間の安全保障協定は、このような取り組みがいかに成功してきたかを物語っている。2023年
5月下旬、パプアニューギニアと米国は、パプアニューギニア国防軍の訓練とインフラを強化する防衛協力協定に調印した。これは、パプアニューギニアの要員が、密輸、違法漁業、その他の不法行為をパトロールする米国沿岸警備隊と海軍の船舶に同乗することを認める協定に続くものだ。 

パプアニューギニアはまた、オーストラリアとも安全保障条約を交渉中で、この条約は「気候変動、サイバーセキュリティ、国家運営の経済的要素など、非伝統的な安全保障上の課題が我々の戦略的環境に影響を与えることを認識し、両国の共有する安全保障上の利益の進化を反映するものである」と両国は2023年
1月の声明で述べている。その1カ月前、オーストラリア政府はバヌアツと、人道支援・災害救援からバイオセキュリティ、海上安全までを対象とする安全保障パートナーシップを締結した。オーストラリアのリチャード・マールズ(Richard Marles)国防相は声明で、「この合意は、この地域の平和と安全保障に対する家族第一主義の実践的な表現だ」とし、「これは、オーストラリアとバヌアツが、太平洋の家族の一員として協力し、共通の安全保障上の課題に取り組むという、継続的なコミットメントを反映したものだ」と述べた。

2023年3月、パプアニューギニア国防軍(PNGDF)に新型 PAC-750XL 汎用機 2 機を納入する契約に調印する、パプアニューギニア国防軍司令官マーク・ゴイナ(Mark Goina)少将(左)とオーストラリア国防軍司令官アンガス・キャンベル(Angus Campbell)大将。 オーストラリア国防省

連帯の強化

そうした課題には、バヌアツが2つのサイクロンによる壊滅的な被害から立ち直るまでの長い道のりが含まれる。国内80の島々の人口の80%以上が被害を受け、国内総生産の半分を超える約1,423億円(9億5600万
ドル)の経済的打撃を受けた。その間、同盟国や提携国は現地に滞在する予定だ。このサイクロンのわずか数週間後、米国国務省は「気候危機への取り組みを含む潜在的な二国間協力と開発援助の分野を促進する」ため、ポートビラに大使館を開設すると発表した。2023年4月上旬までに、国連世界食糧計画の主導で、フィジーからの寄付を含む30トンの食糧配給と医薬品が届けられ、緊急通信システムが設置された。

復興への取り組みが軌道に乗り始めた頃にも、提携国からこの地域への長期的な投資が約束された。フィジー・タイムズ紙が2023年3月に報じたところによると、英国はスバで、気候変動に対するレジリエンスを構築するために、脆弱なコミュニティに助成金を支給する「パシフィック・パートナーシップ・ファシリティ」を立ち上げた。サモアでは、アジア開発銀行が、2017年から2026年まで実施される「太平洋災害回復プログラム」の一環として、自然災害と保健緊急事態のために約14億円(1,000万米ドル)を拠出した。また、日本は国連開発計画(UNDP)を通じて、太平洋島嶼国4か国(パプアニューギニア、サモア、東ティモール、バヌアツ)の太陽光発電や水力発電を含む再生可能エネルギーへの移行を支援するため、2年間で約55億円(3,700万米ドル)を拠出することを約束した。「多くの太平洋諸国は、温室効果ガス排出における役割はごくわずかであるにもかかわらず、多発する気候危機への対策の青写真を描いてきた」と、国連開発計画のアジア太平洋局長であるカンニ・ウィグナラジャ(Kanni Wignaraja)氏は声明で述べた。

フィジーのランブカ大統領は、地域の課題に対するこのような統一的かつ包括的な対応こそが勝利につながると指摘し、「この地域における地政学的な関心の高まりと、気候変動がもたらす現実的な脅威を背景に、太平洋の家族としての連帯は極めて重要だ」と述べた。

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