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インド太平洋諸国は近年、人身取引対策の協力体制を強化している。
その一例として、インドネシア当局は2023年7月、警察官と入国管理官を含む12人を、移植用の腎臓を売るために122人を人身取引した罪で起訴した、とロイター通信は報じている。 ジャカルタ警察犯罪捜査課のヘンキ・ハリャディ(Hengki Haryadi)課長によれば、容疑者らはソーシャルメディアを通じてインドネシア人を勧誘し、手術のためにカンボジアに送り込んだという。 容疑者らは有罪になれば、最高15年の懲役と高額の罰金を科される。
国連薬物犯罪事務所 (UNODC) の2023年版報告書によると、世界的な危機、紛争、気候の脅威により、人身取引のリスクは世界的に高まっている。
7月30日に制定された国連の「人身取引世界反対デー」は、「最新の国連薬物犯罪事務所報告書によって特定された懸念すべき進展と傾向に対する認識を高めることを目的とし、政府、法執行機関、公共サービス、市民社会に対し、予防の強化、被害者の特定と支援、不処罰の廃止に向けた取り組みを評価し、強化するよう呼びかける」ものだ。
米インド太平洋軍(USINDOPACOM)司令官ジョン・アクイリノ(John Aquilino)大将は、米インド太平洋軍の女性・平和・安全保障事務所主催の2023年5月のワークショップでこの問題に焦点を当て、 「人身取引と移民の密入国は、我々が今日直面している複雑で国境を越えた安全保障上の課題の一例だ」と述べた。 ワークショップは、人身取引と移民の密入国に対処するための制度的能力、法律、政策、手続きを強化するマレーシアの努力を支持した。
アクイリノ大将はさらに、「しかし、我々だけでこれらの難題に立ち向かうことはできない。 人権を向上させるには、社会のあらゆる部門からの投資、コミットメント、資金が必要だ。 今日、持続可能な平和と永続的な安定を達成するためにも、法治に基づく国際秩序の促進のために協力することは、かつてないほど重要だ」と語った。
インド太平洋地域では、東南アジア諸国連合(ASEAN)が長年にわたり人身取引に反対してきた。 2023年5月のASEAN首脳会議では、東南アジア諸国の首脳たちが人身取引と闘うための地域的アプローチを強化することを呼びかけ、たとえば、この地域の最貧国に多い、弱い立場の求職者をリクルートする人身取引業者のオンライン活動を取り締まることを約束した。
ロイター通信によると、ASEAN首脳陣は、法執行機関の捜査能力、データ収集、情報交換、合同演習を強化することにより、人身取引防止活動を拡大する計画だ。
2023年5月初旬、東南アジア当局は、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピンなどの国々で、サイバー詐欺や暗号通貨詐欺で働かされていた数千人を救出したとロイター通信は報じた。
2002年に設立された「バリ・プロセス(密入国・人身取引及び関連する国境を越える犯罪に関する地域閣僚会議フォローアップ・プロセス)」もまた、人身取引や移民の密入国に取り組む主要な地域フォーラムだ。 2017年、西オーストラリアのパースで開催された「バリ・プロセス政府・ビジネスフォーラム(GABF)」の初会合では、インド太平洋の45か国の著名な政府・ビジネスリーダーが現代奴隷制の根絶を約束した。 彼らは、特に移民労働者など、社会的弱者を保護するために政府や民間部門と協力し、この目標の達成を追求し続けてきた。
2023年1月、タイの国際移住機関(IOM)、バリ・プロセス地域支援事務所、オーストラリア政府は、企業とバリ・プロセス参加国が移民労働者を保護するための指針を発表した。
「インド太平洋サプライチェーンにおける移民労働者の保護: ビジネスとバリ・プロセス加盟国のためのグッドプラクティスガイド(Protecting Migrant Workers in Indo-Pacific Supply Chains: A Good Practice Guide for Business and Bali Process Member States)」と題されたこの小冊子は、グローバル・サプライ・チェーンにおける搾取を認識し、予防的な政策や法的枠組みを実施または強化し、官民協働で取り組みを進める方法についての指針を示している。
「どの国もどのセクターもこうした問題と無縁ではなく、政府も企業も単独でこうした問題に取り組むことはできない」と、オーストラリアの密入国・人身取引対策大使のルシエンヌ・マントン(Lucienne Manton)氏は指針の発表に際して述べた。 さらに、「官・民・地域が協力し、これらのグッドプラクティスを採用することで、我々は人身取引や奴隷制度、その他の搾取をなくすために共に真の成果を上げることができる」と語った。
この小冊子は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」と、バリ・プロセスの政府・ビジネスフォーラムが2018年に承認した「行動、認識、前進に関する勧告」に基づいて作成されている。
「移民労働者が強制労働を経験する確率は、現地労働者の3倍にもなる。 移民労働者の保護は、すべての人々の関心事であり、倫理的責任であると同時に、政府や企業にとっては法的義務であることも非常に多い」と、国際移住機関のアジア太平洋地域ディレクターを務めるサラ・ルー・アリオラ(Sarah Lou Arriola)氏は言う。
米国国務省が2023年6月に発表した「2023年人身取引報告書」によると、ミャンマー、北朝鮮、中国、ロシアを含む世界の少なくとも11の政府が、人身取引、政府資金によるプログラムでの人身取引、政府系医療サービスやその他の分野での強制労働、政府収容所での性的奴隷、児童兵士の雇用などの「政策やパターン」を報告している。
国連薬物犯罪事務所によれば、国連国際組織犯罪防止条約の人身取引議定書を実施するために、特に危機の際に人身取引の被害者を特定し保護する枠組みを強化することで、各国はその努力を向上させなければならない。
人身取引をなくすためには、「搾取や、人身取引を助長する根本的な社会経済的・文化的問題に対するレジリエンスを強化しなければならない」と国連薬物犯罪事務所は2023年報告書で述べている。 「我々は、人身取引というテーマについてあらゆる人々の意識を喚起し、予防措置を強化し、被害者の特定を改善し、生存者の支援を強化し、不処罰をなくすために、政策や国家資源管理に変化をもたらすことができる人々への働きかけを行う必要がある」