特集統合抑止違法活動

海洋 領域 認識

インド太平洋水路の安全性向上の ために技術や訓練を提供する 国連プログラム

FORUMスタッフ | 写真:国連薬物犯罪事務所

上の安全を確保するためには、単に異常を検知する技術だけでなく、データを分析するためのトレーニングを受けた人材が必要だ。データを理解し、説明・報告できるスキルを持った人材は抑止力の重要な要素となる。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の国際海上犯罪プログラム(GMCP)は、インド太平洋地域の海上法執行機関が技術と人材の両方を確保できるよう、協力を拡大している。

GMCPの太平洋チームは、「海洋安全保障上の課題は、単一の国家だけでは対処できないこと、また、各国の海域が近接していることを考えると、省庁間および国家間の連携を強化することが、この地域の海洋の脅威に効果的に対応するための鍵となる」と述べている。

国連安全保障理事会は、アフリカの角沖の海賊対策として、2010年にGMCPを設立した。設立当初は「海賊対策プログラム」と呼ばれていた同プログラムは、取り組みを強化し地理的な範囲を拡大しながら進展し、世界の6つの地域での活動を開始した。

GMCPの東南アジア・太平洋担当コーディネーターを務めるシャナカ・ジャヤセカラ(Shanaka Jayasekara)氏によると、太平洋地域では、沿岸自動認識システム(AIS)などの技術やインフラの導入、海洋警察の監視センターの整備、海洋法執行機関と地元漁師への訓練提供などにより、海洋領域認識(MDA)を向上させてきた。

ジャヤセカラ氏は、2022年の海上安全保障ワーキンググループで、GMCPの太平洋島嶼国との現在の活動や計画について詳しく説明した。2022年5月にシンガポールのシャングリラホテルで1週間にわたり行われた一連のプレゼンテーションやディスカッションでは、軍、政府、省庁間の担当者が太平洋での取り組みを紹介し、連携を強化する方法をブレインストーミングする機会となった。

国連薬物犯罪事務所の国際海上犯罪プログラムとインドネシア沿岸警備隊が、2022年にインドネシアのバタム島に海上訓練施設を開設。

その精神のもと、太平洋チームはすでにインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムを含む国家間の協力のためのプラットフォームとして、一連の海上法執行に関する対話を行ってきた。こうした対話では、海洋法執行要員と法律顧問が海事に関する動向を共有し、懸念される分野を特定する。また、国連薬物犯罪事務所は、これら沿岸国や国際的なパートナーが海上犯罪に対する理解を深め、対応策を策定できるよう、「スールー海およびセレベス海における海上犯罪に関するコンタクトグループ」を設立した。

国連薬物犯罪事務所のオペレーションディレクターを務める加藤美和氏は、国際海上犯罪プログラムの年次報告書の前書きで、「世界の表面の半分は、どの国の管轄下にもない国際水域で構成されており、海上法執行は法的にも複雑で運用的にも困難を伴う」とした上で、「同時に、世界の主要な貿易ルートの多くが安全な海上航路に依存しており、水上での法の支配の確保は、経済発展と安全保障を促進する鍵であり、(それらは)国連の『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に不可欠な要素である。これは、特にインド太平洋地域のように、接続性と貿易が急速に拡大している地域で言えることだ」と述べている。

このように成長する海域での活発な活動には課題も伴う。国連海洋法条約(UNCLOS)のような既存の枠組みは、そのような障害を制限するために設計されており、主権の問題に関する紛争回避のための手段を示唆し、指針を提供している。国連海洋法条約は、海洋とその資源のすべての利用を管理するためのルールを確立する包括的なリストを概説している。国連海洋問題・海洋法課によると、「条約は海洋空間のあらゆる問題は密接に関連し、全体として取り組む必要があることを明文化」している。

UNCLOSの重要な特徴は、「沿岸国が領海に対して主権を行使し、12海里を超えない範囲までその幅を確立する権利を有する」ことを確認し、外国船舶がこれらの海域を「無害に通過」できるようにすることを認めていることだ。

条約の全文は320条と9つの付属書で構成され、境界画定、環境管理、海洋科学研究、経済・商業活動、技術移転、海洋に関する紛争の解決など、海洋のあらゆる面の統治を扱っている。

国連薬物犯罪事務所のガーダ・ワーリー(Ghada Waly)事務局長は、「沿岸国、内陸国を問わず、すべての国が世界の海の安全に依存している」とした上で、「国連海洋法条約で確認されている航行の自由は、国際法の基本原則と認められている。この伝統ある自由が、現在ますます脅かされている」と述べている。

太平洋地域の優先課題

太平洋チームは、この地域の5つの優先事項を掲げている:

  • 正規海軍部隊ではなく沿岸警備隊型部隊を使用して、海上情勢のエスカレーションを緩和するスキルを構築し、海上法執行対話を通じて地域協力を強化することにより、地域を安定化させるプレゼンスを構成するホワイトハル外交を促進する。
  • インドネシア、フィリピン、マレーシアの
    3か国の沿岸警備隊地域司令官ネットワークを構築し、スールー海とセレベス海の動向について理解を深め、スールー海とセレベス海コンタクトグループの下で海上犯罪情報を普及させる。
  • アンダマン海とタイランド湾における麻薬密売対策にむけた多機関アプローチにおける利害関係者の拡大に努める。
  • 機器のサポートと分析能力の強化を通じて、海洋領域認識の能力と分析を強化する。
  • 沿岸国における海事法の評価と模擬裁判を通じて国際基準を調和させることにより、検察能力を強化する。

国連薬物犯罪事務所のデータによると、研修を受けたと回答した国境警備隊職員はわずか30%で、必ずしも十分な研修が行われているとは言えない。

「テクノロジーベースの海洋領域認識に関しても、人的な情報収集についても検討する必要がある」とジャヤセカラ氏はシンガポールのワーキンググループで述べている。

沿岸地域に、単に沿岸自動認識システムや電波探知機を装備するだけでは十分ではない。海事関係者がデータを読み解き、傾向を把握する方法を知らなければ、機器を導入しても意味がない。

フィジーをはじめとする太平洋地域では、GMCPが村長と協力して沿岸のコミュニティや漁師から情報を収集し、海上の生活パターンの異変に注意し、それをソーシャルメディアアプリで海事当局に報告できるよう訓練している。ジャヤセカラ氏は、人的インプットは技術情報源のオペレーションを補完すると述べている。

技術面では、国際海上犯罪プログラムは最近、クック諸島、フィジー、キリバス、ナウル、トンガ、ツバルの各海上監視センターに能力向上のための
Xバンド沿岸レーダーを提供した。

インドネシアの職員は、国際海上犯罪プログラムが実施したトレーニングで、視察、乗船、捜索、押収の手順を練習するインドネシア職員。

訓練の充実がテロ抑止につながる

海上における平和への脅威に対抗するための多国間研究イニシアチブ「ステーブル・シーズ(Stable Seas)」が発表した2020年の報告書「海上の暴力:テロリスト、反乱分子、その他の過激派はいかにして海洋領域を利用するか(Violence at Sea: How Terrorists, Insurgents, and Other Extremists Exploit the Maritime Domain)」によると、テログループは自分たちの有利に利用できる海上セキュリティの脆弱性に着目している。

同報告書は、「彼らは、戦闘機や武器を密輸し、海上標的への攻撃を画策し、違法な人身売買や課税スキームを通じて作戦に資金を提供するために、海上の盲点や海上能力を脆弱さを戦略的に活用することが増えている」とし、「海洋領域の安全確保という課題は、学術的にも政策的にもよく理解されているものの、海洋の脅威を鎮めるための強固で効果的な能力の開発は、依然として複雑な課題となっている」と述べている。

GMCPは、海上で船舶を狙う場合、テロリストは、航行中や港にいる軍艦や民間の船舶を区別なく狙っていると指摘している。また、「戦闘員や武器を攻撃現場に運ぶ手段として、海を利用」しており、「各国が海上の船舶を綿密に監視する能力は、テロリズムに課される制裁体制の成功率を高める上で不可欠だ」という。

GMCPは、テロ対策の向上のためにも、沿岸警備隊、検察官、裁判所、港湾当局と協力し、海上および港湾警備の改善、最新の衛星技術によるさまざまな監視支援の提供、海上テロの模擬裁判の促進を図っている。「GMCPは、海上テロが他の形態の海上犯罪と関連していることが多いことを認識しているため、海上法執行官に提供される能力の多くは、海上テロへの取り組みにも関連している」と同機関は述べている。

さらに、視察、乗船、捜索、押収手順、安全な航行、海賊行為、テロリズム、禁制品や人の密輸に関する理解を強化するための海洋領域認識コースもある。

加藤氏はGMCPの年次報告書の中で、「海上犯罪の脅威や犯罪に対処する加盟国を支援することは、世界中の人々の生活向上に直接貢献することになる」とした上で、「したがって、世界の海における不処罰を減らし、法の支配を強化することは、持続可能な開発を促進し、より広範な平和と安全を促進するための重要なステップとなる」と述べた。

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Back to top button