グローバルコモンズ特集統合抑止

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進化する民軍環境に適応するインド太平洋危機対応センター

アイヤナ・パスカル/ CFE-DM(災害管理および人道支援センター・オブ・エクセレンス)

1994年の設立以来、災害管理および人道支援のセンター・オブ・エクセレンス(中核的研究拠点)であるCFE-DMは、危機対応能力を構築し、調整と協力を強化し、関係を強化して、災害時の米国軍と提携諸国軍のパフォーマンスを向上させてきた。これらの核となる領域に加えて、CFE-DMは、米国国防総省(DOD)と米インド太平洋軍(USINDOPACOM)の新たな指針に対応するための取り組みを行ってきた。例えば、国際的な上級指導者のための主要な平和維持活動セミナープログラムの促進、国際部隊のためのHIV/AIDS教育プログラムおよびインド太平洋地域の安全保障部隊のための新型インフルエンザ対応能力構築訓練の開始、USINDOPACOMおよび米アフリカ軍に焦点を当てた米国際開発庁プログラムの支援、対テロ研究員プログラムの支援などがある。

CFE-DMは、ダイナミックな地政学的・環境的文脈の中で取組みに磨きをかけ続けており、その任務の主要な部分は、文民・軍事パートナーとの訓練と協力だ。これは通常、地域組織やUSINDOPACOMの演習への支援や、CFE-DMの人道支援対応訓練(HART)コースを通じて、自然災害に重点を置いて実施されてきた。しかし、紛争は人口の多い都市部で発生することが多くなっている。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻のようなケースでは、権威主義政権は、政治的あるいは民族主義的な目的を達成するために、手段を選ばず民間人を標的にしている。そのため、CFE-DMは、訓練・研究・計画において、より紛争シナリオに重点を置くようになっている。 

過去25年間、CFE-DMは、赤十字国際委員会(ICRC)およびハワイ大学マ ノア校と協力し、毎年、集団災害保健研修(HELP)コースを開催してきた。赤十字国際委員会は、紛争時の人道的対応者のための集団災害保健研修フレームワークを開発し、世界中のパートナー組織によるその円滑な実施を支援している。CFE-DMがハワイで2週間にわたって開催するコースには、民間人と軍人が参加している。このようなバランスのとれた背景が、質の高い教育体験と、人道的緊急事態において再び出会う可能性のある専門家同士の貴重なネットワーク作りの機会となっている。CFE-DMの災害集団保健研修は、現在までに600人以上の修了生を輩出している。

また、米国の合同部隊やパートナーに、紛争地域で人道支援を行う際の複雑さを紹介する「紛争下での人道支援対応訓練(HART-C)」コースも新開設している。このコースでは、人道的通知システム、軍民連携メカニズム、大規模な民間人避難への準備、人道的紛争分析、アクセスとセキュリティ、武力紛争と戦争の結果などのトピックを扱う。

CFE-DMのその他の役割としては、災害管理計画をUSINDOPACOMの機能に統合することや、国防長官室の政策やガイドラインに貢献することが含まれる。また、研究を行い、災害管理参考ハンドブック、ファクトシート、ベストプラクティスパンフレットなどの情報物を作成し、これらをすべてオンライン(cfe-dmha.org/publications)にて一般に公開している。さらには、救援活動中の民間・軍事パートナー間の重要な情報の流れを容易にするための取り組みも推進している。CFE-DMの研究者は、学術機関やパートナー組織と協力してプロジェクトや提案を行い、その研究成果をこの分野の実務家や専門家が利用できるようにし、災害環境における軍民協調の包括的な分析を行っている。

2022年9月の台風11号(ヒンナムノー)通過後の韓国・浦項の市場の外で、泥や瓦礫を片付ける韓国と米国の海兵隊。ダコタ・A・フォーチュナ=チュン(DAKOTA A. FORTUNA-CHUN)中尉/米国海兵隊

「道徳的な義務」

CFE-DMは、紛争を含む自然災害や人為的災害の変化に適応し続けている。最近の取り組みとしては、民間人保護(POC)および気候変動影響(CCI)プログラムがある。民間人保護プログラムは、軍事作戦中に民間人が被る被害を軽減し、対応することを目的としている。この取り組みには、3つの主要な方法がある。それは、USINDOPACOMが民間人保護のための国防総省の新しい政策と慣行を採用・実施するのを支援すること、ベストプラクティスを特定し、促進すること、地域のパートナー間で主要な課題と効果的な
慣行に関する対話を促進することだ。ベストプラクティスを定義するため、CFE-DMは人道支援機関と協力し、赤十字国際委員会と緊密に連携している。赤十字国際委員会も最近、民間人の被害軽減のためのベストプラクティスに関するハンドブックを発表している。  

これらの取り組みは、ロイド・オースティン米国防長官の指示により2022年8月末に発表された新「民間人被害軽減・対応行動計画」と一致する。同計画の主な施策は次のとおり:

部門全体の分析、学習、訓練を促進するために、民間人保護の「センター・オブ・エクセレンス(中核的研究拠点)」を設立する。

民間人被害オペレーション報告およびデータ管理のための標準化されたプロセスを開発する。

民間人の被害に対処するための指針を軍の教義や作戦計画に盛り込むなど、指揮官や作戦担当者が民間人の環境をよりよく理解するための情報をより多く提供する。

「軍事作戦に関連して民間人を被害から保護することは、道徳的に必須であるばかりでなく、戦場での長期的な成功の達成に不可欠である。状況が許す限り民間人の環境を保護するよう配慮しなければ、苦労して得た戦術的・作戦的成功は最終的に戦略的失敗に終わる可能性もある」と、国防総省のニュースリリースは指摘している。

民間人保護プログラムのアドバイザー兼チームリーダーを務めるジェニー・マカヴォイ(Jenny McAvoy)氏は、「これまで欠けていたのは、国防総省の包括的アプローチだ」と述べている。数十年にわたって民間人保護の問題に取り組んできたマカヴォイ氏は、「司令官が特定の作戦の課題に適応できるようにする能力への投資」の必要性を指摘した。

その背景には、都市部での紛争が増加し、民間人に壊滅的な影響を及ぼしていることがある。人道支援団体や米国政府機関は、こうした被害への対処を模索している。死傷者や破壊だけでなく、人口密集地での紛争の増加により、避難民の数が急増している。国連難民高等弁務官事務所によると、2021年末時点で、世界中で8,930万人が迫害、紛争、暴力、人権侵害、大規模な騒乱のために避難を余儀なくされている。ミャンマーだけでも、2021年2月の軍事クーデターに端を発した暴力が続く中、約100万人が自宅やコミュニティから避難している。

多国籍「環太平洋演習(リムパック)2022」の一環として、人道支援・災害救援訓練に参加する日本の自衛隊と米国軍。
アイヤナ・パスカル/米国国防総省

紛争地域から逃れる難民が国境を越える中、国境内で起こることをコントロールする国家の能力、すなわち主権をめぐっては、常に議論が起こっている。難民を拒否している国もあれば、一定の入国基準を満たすことを要求している国もある。こうした政策は、難民が迫害を受けるという十分な根拠がある場合、難民を強制的に出身国に戻すことを禁止している非強制送還の国際原則に照らして、安全に難民を受け入れる方法に関する倫理的、実際的な重要問題を提起している。

マカヴォイ氏は、米国の軍事戦略全体における安全保障パートナーシップの重要性を踏まえ、これらの問題に取り組むにあたっては、CFE-DMと地域のパートナーが協力していくことが不可欠だと強調した。同センターはまた、国連人道問題調整事務所(UNOCHA)とも連携しており、世界の人道的対応と救援活動の同期化、アドボカシー、政策立案、情報管理サービスの提供、財源の動員などに重点を置いている。 

国連人道問題調整事務所アジア太平洋地域事務所人道問題担当官のヘレネ・スカールダル(Helene Skaardal)氏は、「民間人の保護は、苦しみを和らげ、リスクを減らし、危機の影響を受けた人々に対する暴力を防ぐために人道支援者として行うすべてのことの中核だ。民間人の保護は、災害や紛争ではさまざまな形をとることがあり、多部門にわたる包括的対応が必要だ」と述べている。  

義務付けられている軍の役割

人道・軍事関係者間の調整は、対応が自然災害、武力紛争、その他の複合的緊急事態に関連するかどうかによって大きく異なる可能性がある。インド太平洋地域では、多くの軍隊が自然災害への対応において義務付けられた役割を果たしており、民間機関や非政府組織(NGO)が利用できる資源をしばしば上回る能力を提供している。したがって、自然災害への対応では、「任務を分担し、情報を共有し、共同で作戦を計画できるよう、民間と軍の調整メカニズムを明確に確立することが重要だ」とスカールダル氏は述べている。

同氏はまた、「しかし、複雑な緊急事態や武力紛争では、軍隊が紛争の当事者となることが多い」とした上で、「そのため、出発点として、軍事主体との人道的関与は、協力モデルではなく、共存と人道的外交を基本としている」と述べている。それは、人道的な取り組みは常に政治的または軍事的な目的から独立していなければならないため、人道支援者が中立・公平な立場を保ちつつ、同時に保護の成果を促進・擁護することが極めて重要だからだ。「私たちがしようとしているのは、基本的に、紛争の影響を受けている人々に救命のための人道支援を届ける人道的アクセスを交渉し、民間人の保護と国際人道法の尊重を提唱することだ」と、スカールダル氏は述べている。

都市化の進展や民間人を意図的に標的にすることを含む、進化する戦争の状況は、リスクを軽減し、保護を提供するための人道的努力に大きな課題をもたらしている。ロシアによる侵攻後、紛争地域の人道的アクセスを改善するためにウクライナに派遣されたスカールダル氏は、「今日の武力紛争でよく見られるのは、武装勢力によって人道支援者の移動が制限され、影響を受けている人々へのアクセスが制限されていることだ」とし、「紛争の影響を受けている人々に必要な人道支援を届けることができず、さらに、人権侵害や暴力が行われても水面下に隠れてしまう可能性もある」と語った。 

人道的アクセスの交渉は、武装勢力の階層的性質のために時間がかかることが多く、救命支援の提供が遅れたり、地域ごとの解決の妨げになることもある。しかし、紛争当事者との関わりを持たずに援助を提供することは、人道支援要員をより高い危険にさらす危惧がある。こうした障害はミャンマーでも顕著であり、2022年9月、軍部と民族武装集団の衝突によりコミュニティへのアクセスが遮断されたラカイン州では、政権が国連機関や非政府組織に人道支援の提供停止を命じたと、ニュースサイト「ザ・イラワディー」は報じている。

こうした課題にもかかわらず、国際人道問題事務所をはじめとする組織は、国防総省の新しい「民間人被害軽減・対応行動計画」など、民間人の保護を軍事慣行に成文化する取り組みと並行して、民間人の保護に努めている。それでもなお、国際人道法違反に対する説明責任メカニズムを強化する必要があるとスカールダル氏は語る。同氏は、「国連のシステムで働き、人道的なセクターで働く中で、民間人保護の中心性は長い間存在し続けてきた」とした上で、「人道支援機関では、数年前から民間人保護の中心性を強化するプロセスが展開されてきたが、ウクライナの戦争のために、おそらく今新しい勢いを付けつつある。しかし、ウクライナは民間人が最も苦しんでいる多くの事例の中で注目されているケースの1つに過ぎないという認識もある」と述べた。

2022年8月、赤十字国際委員会およびハワイ大学と共同でCFE-DMが主催した「集団災害保健研修コース」に15か国から民間人・軍人が参加。アイヤナ・パスカル/米国国防総省

気候変動による変化 

気候変動の不安定な影響は、人類の安全保障を脅かす。熱波や干ばつで食料生産が減少し、洪水、暴風雨、山火事により、人命、生活、インフラが損害を受け、破壊される。気候変動は、浸水や砂漠化により脆弱な土地を居住不能にし、これらの脅威から逃れるために人間の移住が促される可能性がある。

「我々は、今後も起こり続けるであろうこれらの影響を目の当たりにしてきた」と、CFE-DMの新しい気候変動影響プログラムのプログラムマネージャー、スティーブ・フラーノ(Steve Frano)氏は語る。同氏はさらに、「太平洋諸島では、海面上昇がその顕著な例だ。海面が上昇して、そこで生活する地域住民を強制的に追い出すだけではない。海面上昇や暴風雨による高潮が起こり、海水の浸入が生活や食料の栽培に影響を与えるような、ゆっくりとした進行を見せていくだろう。もし、住民が自分の土地で生き残るために適応できなくなったら、移動しなければならない(中略)では、どこに行けばいいか。これらの国の多くにとっては、人々のコミュニティ、家族、歴史、すべてが土地と結びついているため、土地を離れるという考えは、場合によっては不可能な解決策となる」と述べる。 

気候変動影響プログラムは、自由で開かれたインド太平洋を推進する地域の安全保障の取り組みに対する気候変動の影響を強調するための意識形成と知識の交換を支援している。なかでも、気候安全保障の専門家の包括的な地域ネットワークを促進し、気候変動の安全保障上の影響に対応するための情報交換や協力的な計画・プログラムを議論する場を提供することに重点が置かれている。地域のパートナーと関わることで、専門家は気候変動と安全保障に対する自国のアプローチを共有し、優先事項を明確にすることができる。「我々は同盟国やパートナーと話し合い、プログラムやイニシアチブを開発し、我々自身の計画に取り入れている」とフラーノ氏は語る。 

自然環境の変化の可能性、さらに人々や地域社会、国への影響を理解することは、安全保障と安定を維持する軍の能力に影響を及ぼす問題でもあるため、USINDOPACOMをはじめとする地域の軍事組織にとっても不可欠だ。より頻繁で深刻な自然災害に直面し、救援を他国に求める中、主権の衰退を懸念する国があるかもしれない。例えば、太平洋島嶼国の中には、海面上昇によって、自国の主権を規定する境界線がすでに流されている国もある。このような侵食は、やがて大規模な人間の移住を促し、ひいては地域の安全保障の基盤を揺るがすことにもなりかねない。フラーノ氏は「国家主権と人道支援・災害救援(HADR)を考えるとき、地震発生時のシナリオのように、何かが起こり、それに対応するという形で展開するとは限らない」とした上で、「しかし、こうした他の変化が、我々の考え方を国民にサービスを提供する国家の能力を強調する方向に促していくことになるだろう」と述べている。

このように、CFE-DMの各プログラムは、気候変動への懸念と民間人の保護が人道支援・災害救援の計画と実行に統合されるよう、地域内外のパートナーと引き続き協力していく。CFE-DMは設立30周年を迎えようとしているが、自然災害や人災に対する民軍対応を改善しようとする米国および提携国の軍、民間機関、人道支援組織にとって、豊かなリソースであり続けている。その訓練と関与、研究、情報共有、作戦計画という中心機能分野は、センター設立当時と同様に、現代が抱える問題との関連性を維持している。同時に、 CFE-DMは、米国国防総省とUSINDOPACOMの新たな要件に対応するため、民間人保護プログラムと気候変動影響プログラムなどのインド太平洋と世界戦略の変化に対応する新しい取り組みをはじめとする進化を続けている。

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