パートナーシップ東南アジア

バリカタン、第1回サイバー防衛訓練でパートナーシップと能力を強化

FORUMスタッフ

2023年4月、フィリピン軍(AFP)と米国軍が毎年実施している訓練の38回目となる「バリカタン2023演習」で、サイバー防衛演習(CYDEX)が今回初めて実施された。 マニラ郊外のキャンプ・アギナルドで、フィリピンと米国のサイバー防衛専門家の合同チームとフィリピンの法執行官が、サイバーセキュリティ訓練のためのインタラクティブプラットフォームである米インド太平洋軍(USINDOPACOM)サイバーレンジで訓練を行った。 参加者は、軍事ネットワーク、重要な民間インフラ、その他のデジタルポイントを、犯罪組織やハッカー集団などの悪意のある国家・非国家主体から守るためのシミュレーションを行った。 バリカタンは、長年の同盟国の集団能力と相互運用性を高める場となった。

FORUMは、既存のパートナーシップを強化し、サイバー防衛の戦術、技術、手順の強化に取り組む3人のリーダーたちを取材した。 会話はFORUMのフォーマットに合わせて編集。

ワシントン州空軍のジェイソン・シルブス(Jason Silves)中佐は、タイで毎年開催される多国間演習「コブラ・ゴールド」で、初のサイバー防衛演習を確立するための取り組みを主導するなど、2018年からコブラ・ゴールドでのサイバー防衛業務をサポートしてきた。 また、第1回目のサイバー防衛演習の制作にも携わった。

バリカタン2023でサイバー防衛演習の他の参加者と合流したシルベス中佐 画像提供: FORUMスタッフ

レイナン・カリド(Reynan Carrido)中佐は、2021年からフィリピン軍副参謀長室(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・目標捕捉・偵察担当)のフィリピン軍課長を務めている。 情報システム、サイバー戦管理、作戦・相互運用などの参謀将校や副長官を務めた経歴を持つ。 フィリピンのケソン市にあるAMA大学でコンピューターサイエンスの学位を取得後、2005年にフィリピン海軍に入隊した。

グアム州兵のプラミン・ラビノ(Plamin Rabino)大尉は、2023年10月からグアム州兵の副G-6を務めている。 以前は歩兵司令官、通信小隊長、歩兵小隊長を歴任。 コロラド工科大学でコンピューターサイエンスの修士号を取得し、防衛サイバー作戦チームチーフ、情報セキュリティシステムマネージャーなどの役職を経て、現在に至る。 2006年に入隊し、2012年に歩兵将校に任命された。

バリカタン2023で挨拶するカリド中佐(左)とラビノ大尉(右) 画像提供: FORUMスタッフ

 

FORUM:バリカタンでのサイバー防衛演習の原点は?

シルブス中佐: 2019年から協力関係にあるワシントン州空軍とタイ王国空軍は、国家間提携関係を通じてタイ王国空軍とのサイバー演習を構築しました。 (米国)海兵隊からは、第3海兵遠征旅団の防衛作戦・内部防衛対策中隊が参加しました。 海兵隊、そして、タイ王国軍(空軍、陸軍、海軍、海兵隊)の参加チーム、 さらに、ワシントン州兵3人が演習管理セルを運営していました。 今と比べれば、とても未熟な演習でした。 しかし、成果はありました。 このため、「コブラ・ゴールド2020」に向けて、インドネシア、日本、マレーシア、シンガポール、韓国、タイ、米国の7か国の参加と、さらに1~2か国の追加を想定して計画を進めました。 7か国すべてが参加を希望しました。 私たちは演習を計画し、2019年に学んだすべての教訓を、2020年に反映させました。 素晴らしい計画ができたところで、新型コロナウィルスが発生したのです。 しかし幸いなことに、7か国のうち6か国が演習に参加することになりました。 2021年と2022年には… いわゆるハイブリッド・ソリューションを実施しました。 遠隔で互いに離れているだけに、技術的な課題もありました。 その後、コブラ・ゴールド22を実施した後、米インド太平洋軍から、フィリピンがサイバー演習を構築するのを支援できないか打診がありました。 そこで、フィリピンと協力関係にあるグアム州兵とともに、海兵隊のプランナーが、コブラ・ゴールドで行った内容をベースに、非常によく似たシナリオで、重要インフラ保護に焦点を当てた演習を構築しました。 この演習がどのように成熟していくか、そしてコブラ・ゴールドとバリカタンがどのように共に成熟していくのかをとても楽しみにしています。

私たちは、防衛インフラに対するサイバー作戦から、サイバー作戦と重要インフラへと焦点を移しています。これは、紛争が起きたときには、情報ネットワークよりも重要インフラの方がはるかに重要であるとの認識からです。 米国サイバー軍(CYBERCOM)は、今後も米国国防総省のネットワークを保護する役割を担っていくでしょう。 しかし、私は陸軍で戦車兵としてキャリアをスタートさせたため、燃料と弾丸のことを深く理解しています。燃料と弾丸がなければ動きません。 敵が港や列車を閉鎖したり、燃料の入手を妨げたりすれば、動けなくなります。 そこで、重要インフラが非常に大切になるのです。

重要インフラに焦点を当て、このような演習を成熟させることで、実は多くの疑問を投げかけているのです。 司令官たちは、サイバーが自分たちが思っているよりもずっと大きな問題であることに気づくことになるのです。 私たちは、民間インフラで活動する防衛サイバーチームにどのような権限があるのかという政策的な疑問を投げかけています。率直に言って、戦争で対処するのではなく、演習で問いかけ、対処する必要のある疑問があります。 戦争が始まってから、重要なインフラをどのように保護するかを理解しようとしてももう遅いのです。

 

FORUM:バリカタンの最初のサイバー防衛演習では、どのような役割を担いましたか?

カリド中佐:演習指揮補佐官として、計画作成中は、シナリオ管理のためのサイバー防衛演習のリードプランナーおよびサイバー防衛演習のミッション司令官を務めました。

ラビノ大尉:私の役割は、サイバー演習指揮です。 すべての要件に目を配り、円滑に運営されていることを確認し、さらに、特にサイバー防衛を担当するチームについて訓練価値があるかどうかを確認しています。 地域内の能力を高めるためにも、彼らに重点を置いています。

 

FORUM: バリカタン参加者にとって、サイバー防衛演習で最も重要だったことは?

カリド中佐:フィリピン国家警察、フィリピン海軍、フィリピン陸軍、フィリピン空軍を含むフィリピン軍サイバー要員のサイバー戦争能力強化として、サイバーレンジでの訓練シナリオの幅を拡大させたことだと思います。 要員は、フィリピン軍のネットワークや政府の重要インフラを守るための技術を運用できる能力を持つ必要があります。 今回のサイバー防衛演習では、米国とともに、経験や教訓を共有することができたと思います。

ラビノ大尉:私は、サイバーセキュリティはマルチドメイン・オペレーションにおいて非常に重要だと考えています。 私たちはデジタル空間でつながっており、これは、陸・空・海の資産をいかに守るかということにつながります。 軍事的な側面にとどまらず、民間企業や政府機関も関係することです。 サイバーテクノロジーは非常に速く進歩しています。 サイバー専門家は、 人工知能や量子コンピューターなど、 実際に生み出されているすべての技術についていけるようにする必要があるのです。

現在、私たちはサイバーセキュリティツールのすべてを学ぶことができ、サイバー専門家は実際にネットワークを防御するためのスキルセットを身につけることができます。 ネットワークを監視し、脆弱性を修正し続けるためには、これらのツールをすべて実際に適用する必要があるのです。 これらは皆リスクマネジメントのためです。 すべてを守ることはできませんが、少なくとも、国だけでなく、その地域の重要インフラ、つまり、電力、水、ダム、交通など、国民が頼る重要なインフラはすべて守ることができます。

 

FORUM: なぜサイバー防衛にパートナーシップが不可欠なのですか?

カリド中佐:サイバー防衛演習は、個人的な訓練だけでなく、多国間の連携により、技術的なレベルだけでなく、フィリピン軍内の仲間意識、グアム州兵、太平洋海兵隊、太平洋空軍、太平洋艦隊、そしてワシントン、グアム、ハワイの米国州兵というカウンターパートの仲間意識を高めることができます。

米国との関係を構築していく中で、この能力はカウンターパートの協力のもとで強化していくはずです。

ラビノ大尉:私たちの協力関係は非常に重要なものです。 私たちは、海によって隔てられているように見えるかもしれませんが、実際には海によってつながっているのです。なぜなら、私たちは皆、列島という環境の中にいるのですから。 ですから、特にフィリピン軍というパートナーがいることは、とても喜ばしく、幸運なことです。 なぜなら、サイバー世界では、他の地域に対して何かをするために、特定の場所にいる必要はないからです。 私たちは、軍人としてだけでなく、地域のサイバー専門家として、皆が一丸となって取り組む必要があります。 サイバー専門家には需要があり、私たちには守るべきものがあります。 私たちが地域社会の意識を高めることで、それが全世界にとってより良いものとなるのです。

 

FORUM:サイバー防衛演習は、現実のサイバーセキュリティにどのように反映されるのでしょう?

カリド中佐:すべての訓練シナリオは、フィリピン軍と米国とで実施され、例えば、水処理施設、発電、スマートビル、SCADA(監視制御・データ収集)、サイバー攻撃で危険にさらされる可能性のある通信などを(守る)ことが挙げられます。 これらの重要インフラは保護する必要があり、紛争時には軍隊が最初の防衛線となる可能性があります。 ですから、これらの重要インフラを優先事項とします。 このようなサイバー戦争に関わっている他の国々は、銃を撃つことなく人々を機能不全に陥らせることができます。 サイバーは、他国の経済を無力化することができる戦争の一形態として使用することができます。 サイバー防衛演習の中のシナリオは、現在の世界にも存在するものであり、対処する必要があるのです。

我が国のサイバー専門家には次のメッセージがあります。私たちがフィリピン軍独自の方針を打ち出すために使える技術や手順を学んでください。 そして学んだことを活かして、サイバーセキュリティやサイバー防衛の面で能力を高め、バリカタンで経験したような独自のサイバー空間運用を実現していくのです。

ラビノ大尉:私たちのチームがサイバーセキュリティのスキルを本当に高めるためには、(コンピューターサイエンスの)コースを受講するだけでなく、学んだことを実践的に訓練する必要があります。 ですから、今回のサイバー演習は、サイバーレンジを使用することで、私たちのサイバー専門家にとって非常に有益なものとなっています。

例えば、歩兵がターゲットと交戦するためには、武器資格認定レンジが必要です。 これは、サイバー専門家も同じです。 ネットワークを守るために、サイバー専門家はサイバーレンジを必要とします。 もちろん、実際に生産ネットワークを壊すわけにはいかないので、実際の生産ネットワークで訓練することはできません。 そのため、サンドボックスの中で行う必要があるのです。 米国の兵士、海兵隊員、航空兵、宇宙軍、彼らは多くのことを学んでいます。 特に、ここバリカタンで初めて行われるサイバー演習で、このようなサイバーレンジができたことは、大きな収穫です。

 

FORUM:サイバー専門家が、軍だけでなく民間人にも提供できるものとは?

カリド中佐:ネットワーク、個人情報、組織情報を守るために、サイバー専門家と軍隊が必要です。 軍事組織が自分たちの情報を公開しないのと同じように、個人情報も情報収集に利用される可能性があるので、同様の対策をすることが重要です。 今回のサイバー演習は、一般市民や軍隊だけでなく、自分たちの家族も守ることになります。 インターネットを使用する場合、リンクをクリックするだけで、不利益を被る可能性があります。 そして私たちの個人情報はすべて公開される可能性があります。 だから、こうして軍や家族、そして自分自身を守っているのです。 サイバ-セキュリティーには、すべて繋がっています。

ラビノ大尉:プロフェッショナルの育成が重要です。 私たちは、サイバーについて学ぶべきことがたくさんあります。 パスワードの変更という単純なことでさえ、14文字、特殊文字、さまざまな数字や大文字を使った複雑な方法で行うのですから。 特に今、特に若い世代に重要なことです。

サイバー意識については、教育部門、大学部門、民間部門、政府部門、そしてもちろん軍事部門に至るまで、あらゆるレベルで強化する必要があると思います。

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Back to top button