特集紛争・緊張統合抑止

中国の 経済的国策を解き明かす

中国政府の一帯一路政策が パプアニューギニアに到着したとき、何が起こったのか?

ピーター・コノリー

国共産党の習近平(Xi Jinping)総書記は2018年11月16日、ポートモレスビーで太平洋諸島の8人の指導者と会談し、関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げした。その後、習主席は、「一帯一路構想( BRI )」に参加していない国々に対し、参加を促した。パプアニューギニアはいち早く、2018年6月に中国と一帯一路構想(BRI)の覚書を締結し、同年にアジア太平洋経済協力(APEC)フォーラムを開催した。しかし、2017年、私がインタビューしたパプアニューギニアの役人やビジネスマンのほとんどは、パプアニューギニアは経済的に中国に提供するものがほとんどないため、自国が一路一帯構想に参加するとは考えていなかった。この記事は、2017年の私の博士課程でのフィールドワークのインタビューや観察結果を2019年のものと比較し、パプアニューギニアが一帯一路構想に参加したことで何が変わったかを評価した、ジャーナル『Security Challenges in 2020』に掲載された長編記事を引用したものである。

太平洋島嶼国への中国の経済移民は、19世紀半ばから福建省や広東省を出発した「オールド・チャイニーズ」と呼ばれる第一波を皮切りに、断続的に行われてきた。第二波の移民は、1950年代から1970年代にかけて東南アジアを経由して到着した。第三波は「ニュー・チャイニーズ」と呼ばれ、1990年代に中国の企業の海外投資を促す「走出去(Going Out)」政策の中で始まった。現在、一帯一路構想の到来とともに拡大した、中国の国有企業の従業員や中国の国益を代表する役人からなる第四波が到来していると思われる。 

中国政府の一帯一路戦略(OBOR)は、2013年、習近平が中国の経済主導による世界進出のビジョンとして開始したものだ。4年後、中国は対外的には「OBOR」から「BRI」に名称を変更し、戦略的に見られることを避けようとしたが、中国語ではOBORにあたる元の言葉を使い続けた。本稿では、英語圏での一般的な用法に合わせ、「OBOR」のことを「BRI」と表記している。とはいえ、「BRI」と「OBOR」はまったく同じものである。本稿では、 BRI(一帯一路構想)は中国の世界的影響力を伝播し、台頭国としての地位を高めるための地政学的戦略であると論じている。

パプアニューギニアは太平洋島嶼国として初めて一帯一路構想に参加した国だ。ピーター・オニール(Peter O’Neill)首相(当時)は2018年6月に北京を公式訪問し、同年のAPEC主催への支持を求めた。習主席はオニール首相に対し、中国がパプアニューギニアのAPEC主催への準備を支援し、サミットに出席すると約束した。APEC開催をサポートするために、中国港湾工程有限責任公司(CHEC)が、10キロメートルの4車線道路とフォーラム用の施設APEC Hausを
200日間で建設することになった。その5か月後、習主席はポートモレスビーを公式訪問し、APEC首脳会議の前に、中国を承認している太平洋島嶼国8か国の首脳を同地に招待した。彼らは皆、中国とBRIの覚書を結び、さらに2つの国が翌年、台湾から中国に外交承認を切り替え、その過程でBRIに参加した。 

これらの出来事は、BRIがパプアニューギニアの発展にどのような利点をもたらすかという大きな期待とともに、どのような代償をもたらすかという不安をもたらした。しかし、BRIとは何かということについては、まだ不透明な部分が残った。

中国政府当局者の視点

パプアニューギニア駐在の中国政府当局者は2019年に私に、BRIは「広範な概念…イメージ、大まかなラインであり、非常に細かい点ではない」とし、BRIとは「協力のためのプラットフォーム…相互に有益な貿易と投資を促進するためのツール」だと説明した。
さらに、略奪的融資で批判された後のBRIの2018年の再調整を反映して、パプアニューギニアの国家戦略に沿ったパプアニューギニア当局との相互協議のプロセスを強調した。 

「では、 BRI事業とは何か」と問われ、この当局者は「詳細な定義はない」と認めた。しかし、貿易、インフラ、政策、人と人、金融の「5つの連結性」に沿ったプロジェクトであれば、「広く BRI事業と見なすことができる」と続けた。また、「中国企業は欧米企業より価格が安いので、比較優位性がある」と付け加えた。

これらのガイドラインは、おそらく中国の戦略的計画にとっては理にかなっているのかもしれないが、他者がどの活動が BRIの一部であるかを見分けるには、あまりにも広範だ。これは意図的なもので、中国が自国のグローバルな筋書に合うように、何が入っていて何が入っていないのかを選択できるようにするためかもしれない。この政府当局者は、 BRI事業は中国の金で賄う必要はなく、アジア開発銀行(ADB)や世界銀行などの多国間機関、あるいは他の国が資金を提供することも可能だと説明した。さらに、 BRIが存在する以前にプロジェクトが開始されていた可能性もある。「「5つの連結性」に合致すれば、それは BRI事業だ」と彼は述べた。

この政府当局者の説明では、BRI事業とは、中国の戦略的シナリオに合致し、中国企業によって提供されるものであれば何でもよいということである。これにより、中国は経済的な手段を用いて、世界的な影響力を獲得するための地政学的目的を達成することができる。こうした事業は、BRIの枠組みの中で、他者から支払われるケースがますます増えている。

ニュー・チャイニーズの視点

ポートモレスビーにあるパプアニューギニアの中国系ビジネスコミュニティの主要メンバーによると、2015年の太平洋競技大会に向け、中国の建設会社がパプアニューギニアに流入したという。そのほとんどは中国の国営企業で、プロジェクトを終えてもパプアニューギニアにとどまり、価格を下げ、競争を激化させた。こうした企業は中国から労働者を呼び寄せ、低賃金で働かせることで、地元企業の入札を最大50%引き下げることができたため、競争力を持っていた。

このビジネス関係者は、中国企業を優遇していたオニール首相に代わり、2019年にジェームズ・マラペ首相が就任したことで、ニュー・チャイニーズたちの間で懸念が高まったという。マラペは「パプアニューギニアを取り戻す」と公約しており、これは多くの人が、中国の影響力を含むパプアニューギニア経済のいくつかの分野における外国の支配を拒否するものだと解釈した。彼は、この新しい政策によって混乱が生じた場合、「政府がわからないときはアジア開発銀行が判断する」と付け加えた。

インタビューに応じた同ビジネス関係者は、BRIが太平洋における中国の政治的・経済的影響力を拡大することを目的としていることを確認した。覚書が締結されると、パプアニューギニアは「BRIの地図上」にあり、中国の視点から「ビジネスのために開かれている」と見なされるようになった。パプアニューギニア国内の中国国営企業の数は、1995年に中国海外工程が到着して以来、徐々に増加していたが、パプアニューギニアがBRIに参加した後はほぼ倍増した。2018年6月から2019年
7月にかけて、パプアニューギニア国内の中国国営企業の数は21社から39社に増加した。パプアニューギニアの人々、オールド・チャイニーズ、欧米企業は、この市場の飽和状態に太刀打ちすることができなかった。ここでも、ほとんどの新規参入企業は、特定の仕事をするために参入し、その後も国内に居続け、競合他社を激しく引き離すことで契約を獲得していった。こうした市場支配は、ほとんどの中国企業が子会社から追加の入札提出を行うことで競争を阻止して、増幅されている。

国営企業数の急増は、中国商務省(MOFCOM)のパプアニューギニア向け外国投資ガイドの主要中国企業リストの2018年と2020年を比較することで裏付けられる。また、2019年後半のパプアニ投資促進庁のウェブサイトでは、1995年以降、79以上の中国企業と12の協会が同国に登録されていることが示されている。これは、中国商務省が掲載した主要な企業以外にも、多くの子会社や小規模な企業が存在することを示すものだ。

バサムク近郊でパプアニューギニアの女性たちから農産物を買うラム・ニコ精錬所の中国人労働者たち。 ショーン・ゲスラー(Shaun Gessler)

中国国有企業の視点

中国のある国営建設企業の幹部は、BRIを「走出去」政策によって20年以上前からすでに始まっていたことを別の名前で呼び変えたに過ぎない、と見ている。彼は、BRIは欧米の政府を怖がらせたため、ビジネスには不利だと嘆き、さらに、中国の追加資金をもたらさなかったため、パプアニューギニアでは「中国の台頭を声高に宣言したが、何の変化もなかった」と説明した。「我々はビジネスで来ているので、政治的なトラブルは避けたい」と言いつつも、「我々はビジネスマンだが、国営のビジネスマンだ。国営企業は国家が必要とするものを支援するよう命じられることもある」とはっきり述べた。 

主要な国営企業は、パプアニューギニア国内のBRI事業の調整を担っていると思われる中国商務省の経済・商業カウンセラーと密接に連携している。そして、この中国国営建設企業幹部は、たとえ経済的な論理や便宜を欠くものであっても、国営企業はそうした方向性が戦略的あるいは政治的な目的を果たすことがあることを受け入れると述べた。

国営企業は中国の経済施策の主要な手段であり、理想的な地政学的手段であると思われる。1985年にデイヴィッド・ボールドウィン(David Baldwin)は、非経済的権力を行使して他国の政策に影響を及ぼすために、歴史を通して経済的な施策が利用されてきたことを立証した。1990年にエドワード・ルトワック(Edward Luttwak)が戦争によらない地政学的競争として「ジオエコノミクス」を提唱し、2016年にロバート・ブラックウィル(Robert Blackwill)とジェニファー・ハリス(Jennifer Harris)がこれを「経済ツールによる地政学的目標の追求」と説明した。そのような意図は、経済的なツールが経済的な仮定と相反して動作するようにさせる可能性がある。例えば、チン・クワン・リー(Ching Kwan Lee)は2017年に、ザンビア国内の中国国営企業は、純粋な経済的利益ではなく「国家資本」を追求していたため、欧米の国営企業とは異なる動機付けがあったことを実証した。パプアニューギニアにおけるこうした思想の一例は、国営の中国冶金科工集団公司(MCC)が運営するマダン州にあるラム・ニコ社のニッケル・コバルト鉱山と精錬所だ。この戦略的資源の長期蓄積を実現するため、ラム・ニコ鉱山は2007年から10年以上にわたり赤字操業を続けてきた。

しかし、2019年のソロモン諸島が台湾から中国への外交関係を切り替えたことは、中国の国営企業が地政学的成果を得るための国家的な経済施策に利用された、より直接的な例となった。バヌアツに本社を置く中国土木行程集団有限公司(CCECC)の南太平洋総支配人は、ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ(Manasseh Sogavare)首相に外交関係の切り替えを促すため、約680億円(5億ドル)相当の補助金と融資を提供した。CCECCはその後、2023年の太平洋競技大会に向けてホニアラでのインフラ整備を約束し、ソガバレ政権の大きな利害を満たした。

同国営企業幹部は、自分であれば喜んで外国の資金を使うと述べ、中国の政策銀行や商業銀行よりもアジア開発銀行の資金を絶対的に好むと明言した。彼は、国営企業が特にアジア開発銀行の融資を好むのは、アジア開発銀行が専門的な調査や施設調査を行うからであり、中国の銀行はこれらのプロセスをホスト国が実施するよう要求するため、特に支払いにおいて矛盾や遅延が生じる可能性があると述べた。彼はさらに、BRIの一環として中国の金融を利用するよう、中国国家から圧力がかかることはない、と付け加えた。中国は、他人の金を使い、自分の手柄にすることを好むようだ。

BRIの資金調達

2014年から2019年にかけて、パプアニューギニア国内の中国国営企業の間ではアジア開発銀行の融資を好む傾向が見られた。南西太平洋でBRIを進めるための主要な国営企業2社と見られる、中国港湾工程有限責任公司と中国土木行程有限公司は、特に多国間資金調達を重視していた。2019年に幹部らが述べたところによると、パプアニューギニアの中国港湾工程有限責任公司による事業の約90%がアジア開発銀行から、バヌアツの中国土木行程集団有限公司による事業の約75%が世界銀行から資金提供を受けていたという。ポートモレスビーにあるアジア開発銀行事務所のインフラ専門家は、
2019年にパプアニューギニアで行われたアジア開発銀行のインフラ事業の80%以上の契約を中国の国営企業が獲得したと推定した。彼はアジア開発銀行の厳格なプロセスを説明し、高地の道路網の拡張と改善、地方の飛行場の改善など、10年単位の3つのインフラ事業のデータを提供した。これらのプロジェクトは、パプアニューギニアの経済と人々にとって明らかに重要なものだ。

同専門家は、中国企業がアジア開発銀行を好むのは、請負業者に直接、確実に報酬を支払うからだと考えていた。彼は、中国の国営企業は常に最低の入札額を提示し、アジア開発銀行はこの競争から良い価値を得て、そうしたプロセスを通じて品質を保証していると述べた。

アジア開発銀行の最大の出資国である日本、米国、インド、オーストラリアの4か国は、BRIを支持しておらず、参加もしていない。これらの国はパプアニューギニアの開発を支援することにコミットしているが、アジア開発銀行を通じた貢献をBRIの一部と分類することはないだろう。同時に、こうした国々の資金で賄われながら、中国の国営企業がアジア開発銀行のために提供する事業は、しばしば中国によってBRIと主張される。中国はアジア開発銀行の資金に多額の出資を行っている一方で、2018年にはアジア開発銀行最大の借入国となっている。このことは、中国の競争相手にとって重要な意味を持つにもかかわらず、意外なほど注目されていない。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元中国駐在金融特派員で執筆者のディニー・マクマホン(Dinny McMahon)氏が、中国の2つの政策銀行のうち大きい方の中国開発銀行(CDB)の外貨保有高を分析している。彼は、中国開発銀行は2014年まで順調に外貨を増やしていたが、習主席が一帯一路構想(OBOR)を唱え始めた2014年から2016年にかけて、漸増に鈍化したことを明らかにした。2017年、第1回
「一帯一路フォーラム」で一新された一帯一路構想(BRI)が勢いを増すと、中国開発銀行の外貨保有高が減少に転じた。「中国のBRIの尖兵であるはずの中国開発銀行が、外貨を減らしていることは、非常に奇妙に感じられた」とマクマホン氏は述べている。彼は、2016年に中国の外貨準備高が約570兆円(4.2兆米ドル)から約434兆円(3.2兆米ドル)へと25%近く減少したことが原因であるとした。中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は、2つの政策銀行を隠れ蓑にして人民元を守ろうとし、中国の通貨を支えようとした。

これにより、パプアニューギニアへのBRIの適用に影響が生じた。習主席は「APEC2018」フォーラムで中国開発銀行からオニール首相(当時)への約400億円(3億ドル)の融資を約束したが、中国開発銀行はその履行に消極的だったようだ。1年間に及んだ交渉は成立せず、オーストラリアがパプアニューギニアの債務に対応するため、直接予算援助として融資を実施した。中国商務省などの省庁や中国開発銀行などの政策銀行は、BRIを、特に周縁的で安全性が低いと認識されている場所では、機会というよりリスクと捉えているのだろうか?より小規模な中国輸出入銀行は、従来、太平洋諸島の融資においてより大きな存在感を示してきたが、同様の圧力を経験した様子だ。

このことは、BRIのもとで中国が約束した事業のかなりの部分を国際銀行システムが負担することになる可能性を示唆している。これは中国の戦略的メッセージに沿わないかもしれないが、このケーススタディで検討したすべての中国の視点と一致する。パプアニューギニアの中国国営企業は、明らかにアジア開発銀行の融資を好み、多国間融資をめぐって激しい競争を繰り広げる環境を作り出し、他のほとんどの企業はその低コストに対抗できないでいる。中国の援助、政策銀行、中央機関は、パプアニューギニア市場の支配を確立することでその使命を達成し、中国は、他国からの資金援助が増えるBRIを通じて、自国の評価を高めることに満足している。こうした環境は、中国の経済的な国家施策が地政学的・戦略地政学的な目的を追求することを可能にする。

2017年8月、パプアニューギニアの東ニューブリテン州ラバウルに停泊するクルーズ船。ピーター・コノリー

パプアニューギニアの視点

パプアニューギニアにおけるBRIの到来を中国の視点から観察した結果、最も重要な疑問が浮かび上がる。それは、パプアニューギニアの人々にとってこれはどんな意味を持つのか、という問いだ。パプアニューギニアのほとんどの人は、国内および地域の経済発展のために、インフラと金融が必要だと考えており、これが、BRIへの大きな期待につながった。しかし、こうした期待には、BRIの背後にある意図、その実現方法、潜在的な影響についてバランスのとれた現実的な見解も混在している。このような考え方は、国益を追求するパプアニューギニアの機関の基盤となっている。

パプアニューギニアがBRIに参加する前の2017年、あるパプアニューギニアの起業家が、中国との経済連携に何を期待するかを述べた。彼は「中国は道路、港、光ファイバー」と「福建省の草の根的なご都合主義でこの国の風景を変えようとしている」と指摘し、パプアニューギニアは「中国からスクラップを受け取っているだけ」だと考えていた。彼は、パプアニューギニア市場がデューデリジェンスとより高い基準を要求することを学んだことで「乱暴な西側重商主義の時代は終わりを迎えている」とし、中国の指導者は現在、国有企業に世界的なコンプライアンス基準を引き上げるよう求めている、という。「今後10年間で、中国はこの地域を作るか壊すかのどちらかだろう」と彼は述べた。さらに、中国の影響力に関して、「同居より共存」の選択は、国家の規律に依存すると結論づけた。この規律は2018年以来試されている。

その2年後、あるパプアニューギニアのアナリストは、オニール首相が在任中に中国から大きな影響を受けたと認識されていること、そして彼の解任はこの認識に関連していると説明した。同アナリストは、オニール首相がAPEC準備の資金繰りに必死だったとき、「中国はパプアニューギニアとの関係を強化する機会を得た」と述べている。パプアニューギニアのチャールズ・アベル(Charles Abel)副首相(当時)は負債を懸念し、中国輸出入銀行ではなくアジア開発銀行や世界銀行の融資を利用したいと考えていた。複数の当局筋によると、中国とパプアニューギニアとの関係における権力者層による恣意的な選択の認識は、2018年6月のBRI覚書の調印から5か月後のAPECの間に高まった。

パプアニューギニア外務省のある高官は、中国は重要な開発パートナーであり、パプアニューギニアが切実に必要とする安価なインフラを提供していると指摘した。同時に、「開発する必要がある一方で、自国の規制に留意する必要もある…良いことだが、双方で誠実さを発揮する必要がある」と付け加えた。さらに、パプアニューギニアは岐路に立っており、中国との関係において国益を守るための「フィルタリング・メカニズム」を開発する必要があるとの見解を示した。

パプアニューギニア治安当局のある高官は、2018年の中国とパプアニューギニアの政治関係は前例のないものであり、APECでオニールと習近平の対話を通じて成熟したとの見解を示した。他の政治家は、こうした議論から取り残されていることを懸念していた。治安当局高官は、これがオニールの没落に寄与したと考え、「政治的求愛には憂慮すべきものがあった」と指摘した。彼は、中国の存在がパプアニューギニアの安全と安定に影響を与える可能性があることを認めた。また、パプアニューギニアの別の高官は、「中国人はコミュニティに同化しようとしないため、分裂に拍車をかけている」と指摘した。中国のプレゼンスの高まりは、不安を招き、既存の不満を増長させるような、意図せざる結果をもたらす危険性がある。私はこれを「偶発的摩擦」と呼んでいる。

2017年および2019年のパプアニューギニア政府高官へのインタビューでは、国益に対する理解が共有されていることが示された。また、自国と中国との関係の進展に伴い、リスクと機会のバランスを取る必要性があるという認識も示された。「APEC2018」後は、大半の人々がパプアニューギニアの中国への負債が増えることを懸念していた。米国のウィリアム・アンド・メアリー大学の研究所エイドデータ(AidData)が2021年に発表した報告書によると、国内総生産に占める中国への債務エクスポージャーは17.2%で、内訳は隠れ債務(国営企業から国営企業)が11%、ソブリン債務(政府から政府)が5.2%だった。また、BRIに参加した後、パプアニューギニアに対する中国の資金拠出が減少しているという結果も、マクマホン氏の分析に沿ったものとなった。

こうした研究結果は、不可解であると同時に、パプアニューギニアにとって選択肢があることも示している。債務の問題はともかく、パプアニューギニアにおけるBRIの大部分がアジア開発銀行のような中国以外の金融機関から支払われるのであれば、理論的には、中国におもねることなく、必要な開発をより低コストで確保できる自由度が高まることになる。ジョージ・カーター(George Carter)とスチュワート・ファース(Stewart Firth)が「新しいメラネシアの自己主張」、グレッグ・フライ(Greg Fry)とサンドラ・タルト(Sandra Tarte)が「新しい太平洋外交」として指摘した幅広い傾向の一部として、これが事実であるという証拠が増えてきている。

非経済的コスト

パプアニューギニア政府は、過去3年間、中国との関係の中で国益を追求する姿勢を強めてきた。2020年、マラペ首相は中国の紫金鉱業集団が47.5%を所有するエンガ州のポルジェラ金鉱山のリース更新を拒否した。同年末、パプアニューギニアのパンデミック・コントローラーのデビッド・マニング(David Manning)氏は、国内の大手中国国営企業の中国人労働者180人を、中国による秘密裡のワクチン試験に関わっていると判断し、中国に送還した。2022年には、パプアニューギニアの省庁間タスクフォースが、中国資本のMCCラム・ニコ鉱山を家宅捜索した結果、スタッフ260人の労働許可証とビザが遵守されていないことが判明した。最も重要なのは、中国の太平洋島嶼国パートナー10か国が、2022年5月の第2回外相会議で、中国が提示した「共通発展ビジョン」を拒否したことである。また、中国の存在に対して、部族の権力構造や地方政府が自分たちの利益を守るために行動する反応も見られる。

パプアニューギニアの視点から見ると、BRIは複雑な結果をもたらした。同構想は、貿易やビジネスチャンスとともに、安価で急速に生産されるインフラの機会を生み出した一方で、パプアニューギニアの政府当局者は、中国の意図が明らかになるにつれ、こうした機会にはリスクや不満、非経済的コストが伴うと警戒するようになった。パプアニューギニアは、中国との関係を交渉する中で、BRIが、中国の大戦略を実現するためのを経済施策行う地政学的戦略であるとの認識を強めている。BRIが一見もたらす経済的優位性は、それゆえ、非経済的なコストを招く。実際には、双方に有利なものではない。こうした認識は、パプアニューギニアの国益を追求するための選択肢を評価する上での基礎となる。

本記事は「The Belt and Road comes to Papua New Guinea: Chinese Geoeconomics with Melanesian characteristics?」(「Security Challenges」、 Vol. 16, No. 4, Geo-Economics in the Indo-Pacific (2020), pages 41-64.)をFORUM のために編集したものです。記事全文は、https://www.jstor.org/stable/10.2307/26976257をご覧ください。

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