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北朝鮮との外交的協力の強化を公言した中国政府の思惑はいかに。これが実際に北朝鮮政権の核・弾道兵器計画の抑制に働くか、それとも北朝鮮による兵器開発の阻止を目的とした国連安全保障理事会決議の執行を一段と弱体化させることが中国の真意かについての憶測が高まっている。
中国共産党中央委員会総書記を兼任する習近平(Xi Jinping)主席が北朝鮮の金正恩(Kim Jong-un)総書記(最高指導者)に宛てた書簡が2023年4月中旬に公開されたが、フランス通信社(Agence France-Presse)が伝えたところでは、北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信(KCNA)は中国が北朝鮮政府との関係を「より深化する」ことを検討していると報道している。
朝鮮中央通信の報道によると、習主席は書簡で「現在、国際情勢と地域情勢が深刻かつ複雑に変化している」ことから、同主席は「戦略的通信を強化し、連携して対応」することで、両国関係を向上させる意向を北朝鮮に伝えた模様である。
この中朝の動きは、前例がないほどに兵器実験を繰り返す北朝鮮の行為を強く非難する共同声明をG7(主要7か国)外相会合が発表したことが契機となったと考えられる。ロイター通信が報じたところでは、2023年4月に長野県軽井沢で開催された外相会合後に発表された共同声明を通して、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国主要7か国の外相ならびに欧州連合(EU)の上級代表は、「こうした行動に対しては、国連安保理でさらに厳格な措置に関する決議を採決することを含め、国際社会が団結して迅速かつ強力に対応する必要がある」と述べている。
現在も国連安保理の決議を無視し続ける金政権は、最新の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含め、これまでのところ2023年に少なくとも12回のミサイル発射実験を実施している。 AP通信の報道によると、北朝鮮は4月13日に固体燃料エンジン搭載型の大陸間弾道ミサイルの発射実験を実施したと発表した。同国がこの新型ミサイルの開発に成功すれば、米国本土の奇襲攻撃も可能となる。 タイム誌が伝えたところでは、2022年に北朝鮮は2021年の10倍に当たる68回の発射実験を実施している。
CNNニュースの報道では、4月中旬に金総書記が北朝鮮初の軍事偵察衛星の打ち上げに向けて最終準備を急ぐ方針を明らかにしたことを朝鮮中央通信が伝えている。
G7外相会合開催中、日韓米は北朝鮮の弾道ミサイルの探知、追跡、情報共有の手順習得に焦点を当てながら、日本列島と朝鮮半島に挟まれた日本海の公海で海軍演習を実施した。 韓国と米国もまた、両国間の相互運用性の向上を目的として、年2回の定例合同航空演習を10日間の日程で実施している。 (写真:2023年4月21日、韓国で実施された合同航空演習で、朝鮮半島上空を飛行する韓国軍と米軍の戦闘機)
2006年以降、国連安保理は北朝鮮の核兵器開発と関連活動の制裁に関連する9件の決議を全会一致で採択している。 オーストラリア、欧州連合、日本、韓国、米国はいずれも、追加の一方的制裁措置を発動している。最も新しい制裁措置は2022年12月に発表された。
中国は北朝鮮の核実験に絡む国連制裁措置には同意したものの、これまで制裁を実施した形跡はなく、むしろ金正恩政権の兵器開発に対する非難をそらし、黙認することを選んでいる。
アナリスト等の説明によると、過去においても中国は採択されたいくつかの国連決議を弱体化させ、北朝鮮との貿易関係を継続的に発展させてきた。 北朝鮮の石炭輸出を黙認するなど、北朝鮮の制裁回避に加担する中国の行為に対して、西側諸国はこれまでも非難の声を上げている。 また、2022年3月にウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国企業が北朝鮮輸出入禁止措置を無視していると主張する国連や米国財務省などの制裁調査官の証言を取り上げている。
ロシアのウクライナ侵攻により世界的な緊張が高まっていることもあり、常任理事国と非常任理事国の計15か国で構成される国連安保理では、国連安保理決議違反に当たる最近のミサイル発射実験に関する対北朝鮮制裁については採択に至っていない。 2022年5月下旬、たばこの禁輸や石油輸出の半減を盛り込んで米国が国連安保理に提示した北朝鮮制裁強化の議案は、中国とロシアが拒否権を行使したことで否決された。
北朝鮮政権によるミサイル発射実験に関連して、米国政府は昨年、同盟・提携諸国が提示する対北朝鮮制裁を中国とロシアが阻止していると主張した。 サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)紙が報じたことろでは、追加制裁は北朝鮮との緊張を高めるだけであると主張する中国政府とロシア政府は、既存の制裁緩和を要求している。
北朝鮮を庇護する外交に基づき、中国共産党が北朝鮮の核兵器計画のみならず、同国の飢餓・貧困問題の緩和に乗り出すか否かについては疑問が残る。非営利組織「ボーゲン・プロジェクト」の推定によると、主に金政権の不良な統治に起因して、北朝鮮人口の最大60%が飢餓と貧困に喘いでいる。
アナリスト等は、中国は現在、北朝鮮の主要貿易相手国であり、かつ政治的支援国であるものの、 北朝鮮の飢餓問題が何十年にもわたり継続いることを考えると、北朝鮮に対する中国の人道支援は歴史的にも不十分であると指摘している。 国連制裁では人道支援は制限されていない。
習主席が北朝鮮に対して協力の意向を示したことは先に述べたが、複数の報道によると、2023年3月下旬には中国共産党の新しい駐北朝鮮大使、王亜軍(Wang Yajun)が赴任したばかりである。これは両国間の関係強化が狙いと見られている。
AP通信が伝えたところでは、中国外務省の毛寧(Mao Ning)報道官は定例記者会見で、王大使は「山と川を境に隣接する友好国」間の伝統的な協力関係を推進するために重要な役割を果たすと発表している。
韓国政府系報道機関の聯合ニュース(Yonhap News Agency)が報じたところでは、中国政府は李進軍駐朝大使の後任として2021年2月にすでに王大使を任命していたが、新型コロナウイルス感染症パンデミックに起因する北朝鮮の国境封鎖措置により、同大使の派遣が2年以上遅延していた。
画像提供:AP通信