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連合軍

「バリカタン」年次演習で フィリピンとアメリカの同盟は 新しい時代へと突入

FORUM スタッフ

フィリピン軍(AFP)と米国軍が、模擬防衛シナリオを用いて、フィリピン北部のルソン島の海岸にパトリオット地対空ミサイルシステムを水陸両用で着陸させ、内陸部に運搬した。ルソン島北部の沖合では、フィリピンのブラックホーク、そして米国のアパッチとチヌークのヘリコプターが昼夜を問わずクロスデッキ作戦を実施した。一方、連合部隊はさらに、中部ルソン地方から気球を発射して、潜在的な敵のターゲティングを混乱させるリハーサルを行った。

こうした強力な活動を通じて、「バリカタン2022(Balikatan 2022)」はフィリピンと米国の相互運用性、パートナーシップ、および同盟関係を新たな段階へと引き上げた。2022年3月28日から4月8日にかけて開催された、第37回目となる今回の演習では、タガログ語で「肩を並べる」という意味の「バリカタン」の意義が一層強まり、インド太平洋における同盟の強化が一体化した抑止力の強化につながることが示された。 

「バリカタン2022」では、これまでになく非常に現実的な指揮統制演習を中心として実施することで、「バリカタン2023」をより高度化させるための基盤を構築する一助となった。全体的な演習では、両国軍で新技術が数多く展開され、同盟部隊間で比類なきチームスピリットが育まれた。フィリピンの空軍、陸軍、沿岸警備隊、海兵隊、海軍、特殊作戦軍が、
米国の空軍、陸軍、海兵隊、海軍、宇宙軍、特殊作戦司令部と協力し、空爆演習、合同実射演習、都市環境での訓練、人道支援などの一連の共同の相互運用性イベントを展開。約4,200人の比軍人と4,440人の米国軍人が、最新の能力や新たな能力をこれまでになく統合された方法で展開することで、抑止力が強化されることを示した。 

フィリピン軍の軍を対外防衛重点へと移行させるプログラムについて、計画担当の副参謀長のジェフリー・ヘチェノワ(Jeffrey Hechanova)少将はFORUMに対して、「今年は、近代化プログラムのもとで購入した複数の機器を使用することができる」と述べた。

さらにヘチェノワ少将は、「以前は、米国の航空機や戦闘機が飛行するのを眺めるだけだったが、FA-50が到着した現在は、一緒に飛行している。護衛艦も到着し、そちらも一緒に航海をしている。必要な設備も揃い、水陸両用作戦も共に展開している。さらに防空装備も到着したし、榴弾砲もある」と「バリカタン」の司令部が置かれたマニラ市郊外のケソン市にある比軍総合司令部、キャンプ・アギナルドでのインタビューで語った。 

人間の絆

「バリカタン2022」は、フィリピンと米国との間の強固な歴史的および文化的な結びつきと、人と人との温かな交流、そして強固な経済関係に日々現われている民主主義と人権への両国共通のコミットメントを反映している。米国には400万人を超すフィリピン系米国人が在住し、約30万人の米国市民がフィリピンで暮らしている。 

「バリカタン2022」で、カガヤン州クラベリアの海岸を確保するフィリピン海兵隊。AP通信

安全保障の究極的な基盤は、地域社会の繁栄を達成できる地元住民の能力を高めることで構築される。気候変動適応性を備えた小学校校舎4棟の建設、複数の地域保健活動の実施など、「バリカタン」演習の一環として主にフィリピン北部の州で実施された土木工学活動は、この概念を実証するものとなった。同演習の人道・市民支援活動の計画・策定を主導したフィリピン軍参謀本部軍民活動部長室のアーマン・マンプスティ(Arman Mampusti)大佐はFORUMに対して、「部隊間の仲間意識を強化すると共に、地域社会間の関係を構築することもできた。個人的にも、今回の活動によって地域住民に多くの知識や情報を伝達できたと感じている。有事の際は、こうした一次救命処置、応急処置、水質・衛生に関する知識や生存訓練が非常に役立つことになる」と述べた。さらに、「他のすべての訓練や作戦が完了した後も、バリカタン演習の一環として両軍が建設した施設は永続的な遺産として残る」として、「こうした校舎を利用して多くの少年少女が勉学に励んで卒業できること、そして暴風雨などの自然災害発生時にこの校舎が避難施設として多くの住民の役に立つことを想像するだけで喜ばしい気持ちになる」と語っている。

演習指導部は、フィリピンと米国の間の安全保障関係は、共有される価値観と相互の利益を保護することに深く根ざしていると強調した。ヘチェノワ少将はFORUMに対し、「肩を並べて共に取り組むことこそ、バリカタンの根底にある概念だ」と述べ、さらに「フィリピンとアメリカの間には非常に長い歴史がある。第二次世界大戦、韓国、ベトナムで共に戦った。これが我々連合部隊の歴史だ。現在のバリカタンは、いかに我々の能力が結集して地域における共通の安全保障を強化しているかを反映している」と語った。

フィリピン軍は、同盟国、提携国、および東南アジア諸国連合加盟国との地域全体の防衛協力を促進するため、オーストラリアから45人を超える特別作戦部員を招いて共同訓練を行った。 

指揮統制

キャンプ・アギナルド内の有刺鉄線で囲まれ、立ち入りが禁止された空調設備のあるテントの内部では、50人を超えるフィリピンと米国の合同スタッフが毎日長時間にわたりリアルタイムのデータを検証し、地図やチャートを練り上げた。その目的は、フィリピンの主権に対する仮定的かつ現実的な外部の脅威に対応する計画を策定し、戦闘空間で想定されるパフォーマンスを評価することだった。彼らは演習の計画を絶えず改善するべく、シナリオを展開し、ウォーゲームを実施した。 

スタッフ演習または「STAFFEX」と呼ばれるこの指揮統制演習により、両軍隊は「バリカタン」で初めて実際の計画を試すことができた、とフィリピン軍の合同訓練センター所長のマイケル・ロジコ(Michael Logico)大佐はFORUMに語った。STAFFEXでは、外交的、経済的、政治的要因や事態が危機にどのような影響を与えるかを含む、より広範な戦略的背景を描写した。ロジコ大佐はまた、「これにより、ブラックスワンの発見や慣行と計画の整合性の判断など、これまでは考えられなかったような事柄を想定できる」と語っている。ブラックスワンは、一般的に予測不可能または予測不可能で、究極的な結果をもたらす可能性がある事象を意味する。 

STAFFEXは、単なる計画策定以上に貴重な存在であることが証明された。沖縄にある米国海兵隊第3海兵物流グループの指揮を執るブライアン・ウルフォード(Brian Wolford)准将はFORUMに対し、「我々がここで取り組んでいるのは計画や成果ではなく、最も重要な要素であるプロセスだ」と述べた。演習中、ウォルフォード准将は米国合同任務部隊司令官を務めた。

フィリピン軍司令センターのチーフ、エリック・エスカーチャ(Erick Escarcha)准将は、「STAFFEXは、多くのプロセスを学習することを可能にし、チェーンから供給されるデータから意思決定までの時間を圧縮することができる」と説明した。さらに、「これにより、我々は多くの問題を解決している」とSTAFFEXでフィリピン合同任務部隊司令官のを務めたエスカーチャ准将は述べた。

また、ウルフォード准将は「現在は比較的単純な問題から始めているが、来年はより複雑な問題に焦点を当て、解決できるだろう」とした上で、「我々は臨時組織として結集することができるというメリットがある」と述べた。新型コロナウイルスの影響で、「バリカタン」は2020年と2021年に劇的に縮小され、300人程度の中核要員で実施された。エスカーチャ准将はさらに、「今行っていることは、以前の状態に戻し、来年も引き続き構築し続けることだ」と語った。 

「私たちがここで学んでいるのは実際のところ、二重の要素がある。フィリピン人と米国人の若い海兵隊員、若い兵士をはじめ、我々にとっても、どのように物事を行うか、能力、思考プロセスについて理解し合い、互いの考え方を学ぶ機会になる」とウルフォード准将は述べた上で、「個人的には、他の国がどのように問題を解決するかを心から楽しんで学んでいる。さまざまな状況があり、さまざまな地形がある。異なる可変的要素にも対処しなければならない。これらに触れることは、ここだけにとどまらず、他の場所での計画策定にも役立つ」と語った。

合同挿入訓練で、フィリピン北部のアパリ海岸にある上陸用舟艇からパトリオットミサイルシステムを下ろすフィリピンと米国の軍人。
ディラン・メラニー・マルティネス(MELANYE MARTINEZ)軍曹/米国海兵隊

「バリカタン2023」は、2022年のSTAFFEXの中核的成果を中心に設計され、全体的な演習の成果に基づいて構築される。次回の演習では、例えば、STAFFEX司令局が司令基地演習を展開することになると、エスカーチャ・ウルフォード両准将は想定している。

エスカーチャ准将は、「米軍と比軍が集結し、プラグアンドプレイのように簡単に連携できる時を心待ちにしている」とし、「これは音楽に例えられる。すべてのミュージシャンが互いを理解している。だから、初対面でも一緒に歌い、ハーモニーを奏でることができるのだ」と述べた。 

とはいえ、「バリカタン」はすでにスタッフ間の調整を超えた高いレベルに達している。「表面上、バリカタンは訓練、共同作戦能力、相互運用性を向上させるためのプラットフォームであるが、これらすべてがフィリピンの安全保障に貢献している」とロジコ大佐は述べた。しかし、同演習には他にも目的がある。「バリカタンを行う時、我々は一人ではないという戦略的メッセージを敵に向けて送っている。不足しているものがあれば、提携国と同盟者がいつでもここに来て、不足しているものを何でも補なうことができる。我々は引き続き訓練を共にしているし、同盟はこれまでになく強力なものになっている」とロジコ大佐は語っている。

相互防衛

「バリカタン2022」に至るまでの1年間、フィリピンと米国の首脳は1951年に締結された相互防衛条約(MDT)へのコミットメントを強化して両国の同盟を前進させた。2021年7月、ロイド・オースティン(Lloyd Austin)米国国防長官が両国の外交関係の75周年および相互防衛条約締結70周年を祝うためにマニラを訪問し、強力かつ永続的な米比同盟を再確認した。オースティン国防長官はフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領(当時)、デルフィン・ロレンザーナ(Delfin Lorenzana)国防大臣(当時)、テオドロ・ロクシン・ジュニア外務大臣(当時)と会談し、インド太平洋地域における広範なフィリピンと米国のパートナーシップの重要性を強調した。

会談後、ロレンザーナ国防大臣は、軍人が互いの国でどのように扱われるかを詳述した両国の訪問軍地位協定(VFA)を継続するというドゥテルテ大統領の決定を発表した。「インド太平洋の安全、安定、繁栄には、強力で強靭な米国とフィリピンの同盟は今後も不可欠だ。 訪問軍地位協定の完全復活は、力を合わせてそうした目標を達成する上で有効だ」とオースティン国防長官は述べた。

2021年9月、ロレンザーナ国防大臣は同盟70周年を祝ったオースティン国防長官の訪問に応える形で、ワシントンを訪問した。大臣は、「現在の地域的展開の最中におけるこのような重要なマイルストーンは、両国を結ぶ永続的な関係を再確認するための独自の機会」であると述べた上で、さらには、「相互の防衛・安全保障上の懸念と優先事項をより深く理解するようになり、両国と地域の共通の目標を理解するようになった」と語った。

その後も、一連のハイレベルな協議が行われた。2021年10月には、相互防衛協議会および安全保障協議会がフィリピンで開催された。そのすぐ後には当時の、フィリピン軍参謀長のホセ・C・ファウスティノ・ジュニア(Jose C. Faustino Jr.)大将と米国インド太平洋軍(USINDOPACOM)司令官のジョン・アクイリノ(John Aquilino)大将は、それぞれの軍に、合同的即応性をさらに深めていくよう命じた。以降、軍事担当者は相互防衛条約の理解を深め、インド太平洋地域で進化し続ける安全保障状況に相互防衛条約が対応し続けられるよう準備を強化してきた。ヘチャノワ少将はFORUMに対して、「相互防衛条約についての我々の共通理解を改善し続ける必要がある」とした上で、「その相互性から、用語、手順、現場の構成、建造物、方針について共通の理解が必要だ。これにより、相互防衛条約が行使された場合、両軍の方針および相互運用性の実効性が証明される」と述べた。

総合抑止の運用化

2022年3月10日、米国上院軍事委員会での証言で、アクイリノ大将はこの地域が直面する課題を概説し、「中国は、あらゆる形態の国力を利用して、法治に基づく国際秩序を自らの利益のみにするために、他のすべての国々を犠牲にして独自の作戦を展開している」と述べた。アクイリノ大将は証言の中でさらに、フィリピンでは西フィリピン海と呼ばれている南シナ海における中国の拡張主義的行動と、南シナ海における中国の不法な領有権主張についてフィリピンを支持する常設仲裁裁判所の判決を中国が無視していることが、中国が国際法治に基づく秩序を軽視していることを表していると述べた。

演習中に水陸両用強襲輸送車を操縦するフィリピン海兵隊。AP通信

今日の脅威環境において、「敵はグレーゾーン戦術を採用している。敵のグレーゾーンアプローチに対抗するために、フィリピンと米国が協力して独自の戦術を策定する必要がある」と比軍のヘチャノワ少将は説明している。グレーゾーン戦術とは、通常の外交的、経済的、政治的活動を超え、かつ武力紛争までには至らない強圧的な行動を指す。 

ヘチャノワ少将はさらに、「中国は、西フィリピン海を搾取する上で法律の微妙な差異を利用している。彼らは自分たちが海洋法に関する国際連合条約のニュアンスに違反して違法に近い船を派遣していることを承知している」と述べた。ドゥテルテ比大統領は、在職中に国連に出席した際にこの点を明確に示し、「常設仲裁裁判所による判決は国際法の一部となっており、フィリピンは今後も西フィリピン海の紛争の解決において法治に基づく秩序を遵守する」と述べた。

米国インド太平洋軍の多国間訓練の責任者であり、演習の指揮を執るスコット・ワイディー(Scott Weidie)氏は、「相互防衛条約は紛争を平和的に解決しようとする重要な目標を認識しているが、もしその努力がうまくいかなかった場合、バリカタンは平和の破壊または平和の破壊の脅威に対応する米比両国の能力を強化するための主要な取り組みとなる」と説明した。ワイディー氏はさらに、「米国インド太平洋軍の使命は、統合抑止の実行を通して紛争を防止し、必要に応じて戦い、勝利する準備を整えることだ。バリカタンは、必要に応じて即応性が求められる、フィリピンとアメリカの防衛の運用化を可能にする」と述べた。 

「バリカタン2022」は、連合部隊にこれまでとは異なる考え方、行動、作戦を要求することでイニシアチブを取るというアクイリノ大将の方向性と歩調を合わせたものだ。「このために、我々はフィリピンの同盟国と協力して、態勢を整え、フィリピンと米国の軍隊に必要な共同作戦能力に焦点を当てることで、危機への即応性、相互運用性、任務の有効性、努力の統一性を向上させている」とワイディー氏は述べた。両国は、両国間の対応能力を向上させ、米国がフィリピン国内でより柔軟に運用できるようにするために必要なインフラを整備するために、防衛協力強化協定(Enhanced Defense Cooperation Agreement)を進めている。

ヘチャノワ少将は、同盟の強化は「継続的な活動だ」とした上で、「我々は、共に戦うべき状況が発生した場合、効率的に実行できるよう、両国の可能性を引き続き活用していく」と述べた。

テクノロジーとパートナーシップを証明

フィリピン軍と米軍は、「バリカタン」で様々な技術やプロトコルを試し、共同戦闘能力を向上させた。当時、米国陸軍近代化の中核である新マルチドメインタスクフォース(MDTF)の司令官であったジェームズ・アイゼンハワー(James Isenhower)准将はFORUMに対して、「我々は、戦いに行くたびに、友人、提携国、同盟国と共に戦うことになる。最良の方法、つまり、戦闘に参加しなければならない場合に最も効果的な方法は、事前に関係を構築することだ。同盟・提携諸国と協力して技術を共同開発することは、関係や信頼性を構築する上で常に重要な側面となる」と述べた。 

さらに、「いろいろな点で、我々は学んだことを共有することができる。そうすることで意欲を高め、新たなレベルの熟練度に達したり、それまで有していなかった能力を構築したりすることが可能になる。それと同時に、米軍は比軍から学び、比軍は米軍から学ぶ。このように両軍は真の提携軍として非常に公平な方法でアプローチしている」として、「比軍の兵士はこの地に居住していることで、この環境に精通している。これは米軍には持ち得ないメリットだ。そのため、比軍の考え方やその見通し、そして比軍が地域の歴史をどのように捉えているかを理解することは常に有意義であり、これにより米軍はそれをどのように取り入れ、この環境で比軍とどのように協力を図ることができるかを把握することが可能となる」と続けた。マルチドメインタスクフォースは2022年に「バリカタン」に初参加。「バリカタン」演習は両軍が1986年に初めて実施した。

「バリカタン」は、例えば、比軍と米国軍が、接近阻止・領域拒否(A2AD)ネットワークをはじめ、第一列島線における潜在的なシナリオに対抗するための戦略的オプションを開発することを可能にした。こうしたネットワークは、ネットワークの重心を狙うか、または敵の能力を層ごとに解体していくかに関わらず、合同部隊の徹底的な調整を必要とする。「これらのネットワークは、戦力投射を防ぐために構築される。我々が能力を発展させる中で、マルチドメインタスクフォースは、A2ADネットワークを無力化して好機を生み出し、連合部隊がすでに得意としていることを実行できるようにするための重要な構成要素となる」とアイゼンハワー准将は説明する。そして「インド太平洋地域のような環境では、戦力投射は必須であり、そのための技術が不可欠だ。行動の自由や機動の自由がなければ、リーダーに戦略的な選択肢を提供することができなくなり、我々は危険にさらされることになる」と付け加えた。

2022年3月、フィリピン北部のアパリビーチでパトリオットミサイルシステムの挿入に参加する米国海兵隊 CH-53E スーパースタリオンヘリコプター。カラハン・モリス(KALLAHAN MORRIS)/ 米国海兵隊

フィリピンの領土防衛要件を踏まえ、アイゼンハワー准将は「パトリオットは、同盟国や提携国を支援するためにこうした環境に配備できる能力の一つだ」と述べている。当時の米国陸軍第38 防空砲兵旅団司令官、マシュー・ダルトン(Matthew Dalton)大佐によると、「バリカタン」演習中、両国軍は初めて米国海軍の上陸用舟艇エアクッションを介して水陸両用でパトリオットの装備を挿入し、CH-47ヘリコプター内にパトリオットミサイルを2発移動させている。レーダー、ミサイル、発射装置、支援車両などで構成されるパトリオットシステムを使用すれば、敵のミサイルや航空機を配備位置から最大70キロの範囲内で発射から9秒以内に迎撃することができる。

ダルトン大佐は、「ルソン島北部でのパトリオット展開は、インド太平洋のあらゆる場所で実行可能な現実的なシナリオだ。フィリピンでの作戦実行では、両国の提携国と協力し、戦力維持を練習し、装備を強化し、厳しい状況下での現場レベルのメンテナンスを行うことができた。兵士と指導部は、モータープールから数千マイル離れた場所に配置されて初めて遭遇するような障害を克服するために、創造的かつ批判的な思考を採用する必要があった」と語った。

比軍と米国軍はその他の複合的および共同的な能力や技術をテストし、両軍間の概念の運用性を新たに実証した。比軍と米国特殊作戦軍(SOF)は、カガヤン・ノース空港で模擬飛行場占拠を実施し、HIMARSと呼ばれる高機動ロケット砲システムの迅速展開(HIRAIN)を配備するための戦術と手順を洗練させた。ミサイルベースのHIMARSは、一度現場に挿入されると、ターゲットとの交戦に使用され、敵が発砲する前に素早く航空機に戻され、エリアから回収される。HIMARSはまた、陸に上陸し、海上目標に対して配備することも可能だ。 

「バリカタン」演習中、フィリピンと米国の特殊作戦部隊は、暴力的過激派組織(VEO)に対抗する以上の不測事態に備えて、相互運用性と実験性を高めるための複雑なマルチドメイン作戦にも従事。両軍は目標を遂行し、関連する対暴力的過激派組織機能を敵と同等な環境へと統合した。防空領域では、戦闘航空管制官が米国空軍AC-130から105 mm砲、30 mm砲、精密誘導弾をバハサ射撃場に向けて呼び入れた。AC-130がフィリピン国内で比軍の近接航空支援訓練を支援したのは今回が初めてだ。 

フォート・マグサイサイとルソン島全域では、非従来・非正規の戦術に関する歴代の知識を基に、特殊作戦軍のスキルと比軍と米国軍の相互運用性をさらに磨くための地上特殊作戦軍訓練を実施。合同部隊は、ルソン島東部全域で、コレギドール島の侵入と奪還を含む複雑な目標を実行した。パラワン島沖では、比海軍特殊作戦軍、豪特殊部隊、米国海軍特殊部隊を含む多国籍の特殊作戦軍チームが海上封鎖訓練を実施し、フィリピン海のガス・石油プラットフォームを奪還するための空襲・海上襲撃を行った。

米国陸軍の太平洋司令部とマルチドメインタスクフォースは、比軍とさらに新たなセキュリティアプリケーションで協力し、海洋領域認識を支援し、マルチドメイン運用に貢献するための成層圏能力を試験するための高高度気球をルソン島中部のフォート・マグサイサイから打ち上げた。両国のチームは、商業航空会社の運航高度をはるかに上回る、海抜15,000〜21,000メートルに無人気球を飛ばした。気球は、監視ビデオを含むデータ送信のために空中に密かにコンステレーションを生み出したり、電子戦能力を強化したりするなど、さまざまな防御可能性を提供している。 

フィリピン軍と米軍にとって、「バリカタン」は、多くの技術応用や成果が臨機応変にまたは演習の最中に行われることを踏まえ、定期的な実験の価値を示した。「素早く繰り返ることが非常に重要だ。提携国や同盟国と繰り返し訓練し、力を合わせることで、様々な可能性をより迅速に発揮し、今後の戦い方に資することができる」とアイゼンハワー氏は説明した上で、「小部隊レベルでも、実験や演習を進め、高度かつ責任ある方法でこれらを行えば、二国間の相互運用性と信頼性の向上の可能性に対する認識の高まりにつながる」と述べた。

躍進

「バリカタン2022」は、「バリカタン2023」でより複雑な実験能力やさらに強力なパートナーシップを構築するための基盤を築いた。一例として、ドルトン大佐によると、第38防空砲兵旅団は防空および制空権管理作戦で達成した偉大な進歩を足がかりに、来年は一層成長することを楽しみにしており、フィリピン軍の第580航空管制警告翼と第960防空・ミサイル防衛グループを含むフィリピン空軍防空司令部と「バリカタン2023」において、さらなる訓練・統合を行うことについて話し合ったという。ドルトン大佐は、「今回の演習では、[第38防空砲兵旅団]のパートナーと初めて関わったことで、新たな友情が生まれ、我々の部隊が領域を超えて訓練し、能力に関する知識を共有することができた。紛争時に、信頼できる俊敏かつ致命的な防衛的攻撃でいかに協力できるかを学んだ」と述べている。

2022年の演習中、フィリピン軍と米国の関係が飛躍的に成長したことから、2023年の「バリカタン」はさらに良いものとなるのは必至だ。あらゆる観点から、相互防衛条約と軍事同盟に対する両国のコミットメントは、「バリカタン」演習を通じてこれまで以上に強力であることが証明された。フィリピン軍のマンプスティ大佐は「今年のバリカタン演習は軍隊にとって『当たり年』であったと感じる」と言う。そして次のように続けた。「新型コロナウイルス感染症の発生から2年余、その間二国間訓練活動にはギャップも生じたが、米国とフィリピンの両軍が持つ、優れた即応性、柔軟性、相互運用性、回復力は健在であることを、今回のバリカタン演習が実証してくれた。これは両国が共有してきた歴史および友好関係構築に向けた長年の取り組みの証である」。


相互防衛条約 

フィリピン共和国・アメリカ合衆国間1951年8月30日調印

第一条 締約国は、国連憲章に規定されるように、国際的な平和、安全、正義が危険にさらされないように、平和的な手段で関与する可能性のある国際紛争を解決することを約束し、国際関係において、国連の目的に反するいかなる方法でも武力の脅威または使用を控えることを約束する。

第二条 本条約の目的をより効果的に達成するため、締約国は、個別的かつ共同的に自助及び共助により、武力攻撃に抵抗するための個別的及び集団的能力を維持及び開発する。

第三条 締約国は、外相又は代理人を通じて、本条約の実施に関して、並びにいずれかの締約国の領土の完全性、政治的独立又は安全が太平洋における外部の武力攻撃によって脅かされているときは、随時協議するものとする。

第四条 各締約国は、締約国のいずれかが太平洋地域で武力攻撃を受けると自国の平和と安全が危うくなることを認識し、自国の憲法の手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。このような武力攻撃およびその結果として講じられたすべての措置は、直ちに国際連合安全保障理事会に報告されるものとする。これらの措置は、安全保障理事会が国際的な平和及び安全の回復及び維持のために必要な措置を講じたときは、終了する。

第五条 第四条の目的上、締約国のいずれかに対する武力攻撃は、締約国のいずれかの首都圏、またはその管轄下にある太平洋の島嶼部、その軍隊、公船または太平洋の航空機に対する武力攻撃を含むものとみなされる。

第六条 本条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利義務、または国際平和と安全を維持するための国際連合の責任に、いかなる形でも影響を及ぼすものと解釈されてはならない。

第七条 本条約は、フィリピン共和国とアメリカ合衆国がそれぞれの憲法手続に従って批准し、マニラで批准書が交換されたときに発効する。

第八条 本条約は、無期限に有効であるものとする。いずれの提携国も、他方提携国に通知してから1年後に本条約を解除することができる。

出典:フィリピン共和国、下院、立法府図書館

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