読者の皆様、
インド太平洋防衛フォーラムにようこそ。今号のテーマは
「非対称な脅威」です。
中国政府は2012年にフィリピンからスカボロー礁を武力で奪取した後、浚渫船(しゅんせつせん)が作った人工地形を基礎に軍事基地のネットワークを構築。それによって係争中の南シナ海の大部分を支配するための作戦を十年近くに渡って展開しました。その結果生じた中国の領土奪取は、インド太平洋地域で同政権がハイブリッド戦争を使用した最も顕著な例となっています。
今号では、従来の戦争の開始点を下回る継続的かつ新しい「非対称な脅威」に対抗するための統合抑止の重要性を中心に取り上げ、さらにインド太平洋の同盟国、提携国、志を同じくする国々が、こうした侵略や圧力への戦略的対応を積極的に準備することによって、地域の安全と安定を確保できる理由と方法も明らかにします。
冒頭の特集では、米国のアーサー・N・トゥラック(Arthur N. Tulak)退役陸軍大佐が、中国とロシアのグレーゾーン活動に対抗するために同盟諸国と提携諸国が主導する戦略的アプローチについて考察しています。ハイブリッド戦争と圧力に焦点を当てた統合的な抑止力を展開するには、中国とロシアの行動を対象とした明確な戦域レベルの概念と目標を策定する必要があると同氏は主張。このような積極的な戦術を用いることに対する費用便益の計算を変えるには、協調的な複数年に及ぶ作戦が必要であると記しています。
さらに、専門家チームによる分析では、中国が中国共産党の目的を達成するために、どのように人工島の拠点の構築から、海上民兵を用いた南シナ海での活動の支配を主張することに重点を移したかについて解説。FORUMスタッフによる記事では、中国の一帯一路構想により推し進 められたインフラプロジェクトが、多くのインド太平洋諸国に持続不可能な債務を負わせることになった経緯が記されています。別の記事でも、地理戦略家で著述家のブラーマ・チェラニー氏が、中国共産党がインド太平洋で水を武器化した方法について洞察し、同政権が大規模な上流 ダムの建設を通じて川の国境を越えた流れを非対称に制御することで、水をめぐる紛争の可能性が高まるとしています。
中国の領域計算を変化させることを期待しつつ、本誌の他の記事では、地域同盟とパートナーシップの強化、半導体産業とその他のサプライチェーンの保護など、考えられる解決策を指摘します。また、FORUMスタッフの記事では、「バリカタン2022」によってフィリピンと米国の相互運用性、パートナーシップ、同盟関係をどのように新たなレベルへと引き上げられたかを詳述するとともに絶えず強化されている両国間の結びつきが、いかにインド太平洋における統合抑止力の増大につながるかを明らかにしています。
本誌は、これらの論説を通じて、「非対称な脅威」に対する議論が各地域で活発化する促進されることを望んでいます。読者の方々のコメントをお待ちしております。FORUMスタッフ(ipdf@ipdefenseforum.com)宛に皆様のご意見やご感想をお寄せください。
FORUMスタッフ
米インド太平洋軍司令官