米宇宙コマンド
米国とその同盟およびパートナー諸国は、過去70年間にわたってネットワークを構築し、共通の敵に対して競争上の優位性を独自に実現してきた。また、パートナー諸国は、日々インテリジェンスを共有し、共に訓練し、協力することで、それぞれの国が単独で達成できる能力をはるかに上回る複合的な能力を生み出している。
世界的が宇宙に関心を持つということは、米国は国際的なパートナーシップを拡大し深化させると同時に、連携の新たな道を拓くことができることを意味する。宇宙空間へのアクセスは地球上の生活に大きく貢献する。あまり認識されていないが、宇宙対応テクノロジーは日常の活動をさまざまな形で支えている。技術の進歩とコストの低下により、社会はより宇宙ベースの能力に依存するようになり、こうした能力へのアクセスが失われれば深刻な影響が生じるであろう。たとえば、位置情報、ナビゲーション、時刻情報といったサービスは、現代のインフラストラクチャにおいて重要なサポートを提供している。正確な時刻情報がなければ、金融機関は取引のタイムスタンプを作成することができず、ATMやクレジットカードの使用が妨げられる。公益事業の企業は、重要な資源の管理・配給ができなくなるだろう。宇宙環境の急速な進化は、米国と国際社会に重要な課題を提示している。
セキュリティ上の脅威に関する懸念を共有することは、強力な同盟・提携関係の基盤を築くことになる。主な課題には、スペースデブリや対衛星兵器(ASAT)能力の開発・展開が挙げられるが、懸念の焦点は中国だ。中国は、公式には宇宙の平和利用を主張しているが、サイバー空間と電子戦を共同軍事作戦に統合するための改革を実施しつつ、対宇宙システムを秘密裏に実験・改善し続けている。
中国は宇宙でのプレゼンスを拡大するために民間および軍事活動を急速に調整しており、制御不能な降下、危険なデブリを発生させるASAT試験、長期軌道および長距離攻撃が可能な超音速滑空飛翔体の出動といった宇宙プログラムを実施してきた。2021年12月、ロイド・オースティン米国防長官は、レーガン国家防衛フォーラム(Reagan National Defense Forum)での基調講演の中で、中国が「情報、サイバー、宇宙作戦の統合にますます力を注いでいる」と述べた。
2007年の中国によるASAT兵器実験後に世界が目撃したように、対宇宙兵器実験は悲惨かつ永続的な結果をもたらす可能性がある。この実験では3,000以上のスペースデブリが発生し、そのデブリ雲の多くは数十年間軌道上に留まり、国際宇宙ステーションや他の宇宙船を脅かすことになると予想されている。実際、2021年11月には、NASAのCrew-3ミッションが、中国のASAT兵器実験によって生じたデブリを回避するために宇宙ステーションを動かすことを余儀なくされている。
NASAは、宇宙ステーション周辺の深さ4km、幅48kmの長方形ゾーンに入る軌道上に、ミサイルによって破壊された中国の気象衛星の残骸から生じたデブリが存在したと報告している。
2007年以前のスペースデブリは、そのほとんどが打ち上げ機の残骸だったが、現在はその3分の1以上が、2007年の中国による軌道上の衛星の破壊などの事象が原因となっている。中国は宇宙を支配するという目標を追求し続けているが、平和で繁栄した宇宙領域の将来は、責任ある宇宙行動の信条に専念する自由国家の世界連合が頼りだ。
世界人口の60%が居住しているインド太平洋地域では、同盟国およびパートナー国の強力なネットワークが、安定を維持し、侵略を抑止し、安全保障上の脅威に立ち向かう上で不可欠な役割を果たしている。そのような中で、米国は同地域全体で志を同じくする国々と主要な関係を構築し、維持してきた。米宇宙コマンド(USSPACECOM)は、主に宇宙ドメイン認識(SDA)協定、演習およびインフラ共有を通じてこうした関係を育んでおり、オーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国、タイを含む世界中のパートナーと25以上のSDA協定を結んでいる。軌道上には、衛星や打ち上げに潜在的な脅威をもたらす何万もの物体が存在しているが、宇宙ドメイン認識とはそれらの物体を追跡し、特定の時点での位置を予測することを指す。オーストラリア、日本、韓国を含むインド太平洋諸国は、宇宙状況監視多国間机上演習(グローバル・センチネル演習)などの演習に参加しているが、これは参加国間のシームレスな相互運用性を強調するものである。
米国宇宙軍司令部は、宇宙における責任ある行動を促進するために、他のインド太平洋諸国との提携の機会も模索し続けている。同盟国と提携国は非常に重要な存在であり、戦略的競争の時代の中で米国宇宙軍司令部はネットワーク強化を続けている。2021年10月には、米韓同盟のさらなる強化のため、統合軍宇宙構成部隊(統合軍宇宙構成部隊)司令官デアンナ・バート(DeAnna Burt)少将が韓国を訪問した。韓国は、宇宙作戦中隊の創設や、初の専用軍事衛星打ち上げなど、宇宙開発の進展にマイルストーンを達成している。米国第7空軍のニュースリリースによると、バート少将は「この事業のリーダー達が築いた国際的な協力とパートナーシップがなければ、宇宙開発は不可能だ」とし、「成功にはパートナーシップが不可欠だ」と述べた。
米国宇宙軍司令部はまた、オーストラリアの合同作戦部長であるオーストラリア陸軍のグレゴリー・ビルトン(Gregory Bilton)中将を迎え、両国間の宇宙協力の重要性を再確認した。
第二次世界大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルは、次のように述べたことで知られている。「味方と戦うより悪いことはただ一つ、それは味方なしで戦うことである」。この言葉は、現在も1945年同様に真実味がある。同盟と安全保障パートナーシップの共有システムは、米国や他のインド太平洋諸国に大きな戦略的優位性をもたらしたが、新たな戦略的競争により、米国とその同盟国およびパートナー国が直面する課題の範囲と規模が拡大している。侵略を抑止するには、回復力のある宇宙安全保障の姿勢が必要であり、パートナーは宇宙での敵対行為を検出し、要因を求めることができる能力を持たなければならない。
こうしたことは、インド太平洋地域および世界中の同盟国・パートナー国による堅実な支援と取り組みがなければ達成不可能だ。宇宙における抑止力は、侵略に対するクロスドメイン対応の信頼性と正当性を必要とするが、こうしたアプローチは同盟によって大幅に強化される。これらの揺るぎない同盟により、インド太平洋地域のパートナーは、地理的な限界をはるかに超えて拡大する平和で繁栄した未来を打ち出すことになる。