インド太平洋主要テーマ特集自由で開かれたインド太平洋/FOIP

守るべき 法治に基づく 国際秩序

米国の航行の自由プログラムが地域の安全と安定を促進

米国海軍大佐(退役)ラウル・ペドロゾ(Raul Pedrozo)

すべての国は、世界の海洋の全利用に関して許容可能な法的枠組みを定めた法に基づいた海洋秩序によって統治される、「自由で開かれたインド太平洋地域」から恩恵を受けている。この国際秩序は、地域の平和と安全、経済的繁栄を促進上で重要な役割を果たしているにもかかわらず、深刻な攻撃を受けている。中国やロシアなどの国々が、国際法と矛盾する領有権を主張し、「無理が通れば道理が引っ込む」ような新秩序を強制しようとしているのだ。米国の航行の自由(FON)プログラムは、確立された国際秩序に対するこれらの攻撃に対抗するための1つの利用可能なツールであり、すべての国にとって安定した世界海洋法制度を維持するという米国のコミットメントを明確に示している。

航行の自由プログラムは、1979年、当時のジミー・カーター(Jimmy Carter)米政権が、書面による外交的抗議は過剰な領有権主張を覆すのに効果的ではなく、新たな違法的主張を回避させたり、または既存の主張を破棄するよう影響を与えるには、米国の決意をより具体的に示す必要があると判断したことから開始された。1982年に採択された国連海洋法条約(UNCLOS)は、沿岸国と海洋国家の利益を注意深く調整した海洋利用を統括する、包括的かつ有力な国際的枠組みと謳われた。

米国は条約の大部分の策定に関わったにもかかわらず、当時のロナルド・レーガン(Ronald Reagan)大統領は、深海底採鉱に関する第11部に支持できない欠陥があるとして、署名を拒否した。しかし、レーガン大統領は、1983年の海洋政策声明(1983 Ocean Policy Statement)で、国連海洋法条約に定められているように、沿岸国が国際法に基づく米国および他の国々の権利を認めるのであれば、米国は沿岸国の海域におけるこれら国々の権利を認めると表明した。

レーガン大統領は同時に、これらの国々は国連海洋法条約の締約国であるにもかかわらず、条約に矛盾する領有権を主張し続けているとの警告を発した。「海洋政策声明(Ocean Policy Statement)」は、航行の自由プログラムの重要性を繰り返しながら、国際社会の航行権と自由を制限する、国家による違法行為を米国は黙認しないこと、また、国連海洋法条約(UNCLOS)に反映されている利害のバランスに沿って、米国が「世界規模でその権利、自由、および海洋の使用を行使し、主張する」ことを示している。

2021年7月、南シナ海での英国海軍とオランダ海軍の艦艇からの補給中に、英国の最新空母「クイーン・エリザベス」で離陸の準備をしている米国海兵隊のF-35 B戦闘機。これら船舶は、国際連合海洋法条約に基づき、インド太平洋地域の航行の自由を守るための英国主導の国際空母打撃群の任務の一部を担っている。ジェイ・アレン(JAY ALLEN)兵曹/英国海軍

すべての国の利用権を保護

航行の自由プログラムは、米国国務省による外交コミュニケーション、他国政府との二国間協議、米国海軍艦船と軍用機による作戦的主張の3つの軌道に沿って運用されている。このプログラムの開始以来、米国海軍と米国空軍は、航行権と自由、および国際的に合法である海洋使用を制限するなどを目的とした過剰な領有権主張に対し、米国は黙認しないことを示すために、世界における数々の作戦で主張してきた。

航行の自由プログラムは挑発的であり、意図しない結果をもたらす可能性があるという指摘があるが、航行の自由作戦(FONOPS)は、本質的には、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法の下ですべての国に保証されている海と空域の権利、自由、および合法的な使用を非挑発的に行使するものである。航行の自由作戦は、慎重に計画され、法的に検討され、上級当局によって適切に承認され、非拡大的な形で安全かつプロフェッショナルに実施されている。このプログラムは世界的に適用されているもので、政治的な出来事や違法な領有権主張を進める国のアイデンティティに基づくものではない。例えば、2020年に米国は敵対国(イランや中国など)、同盟国、友好国を含む19カ国の過剰な領有権主張に異議を唱えている。このプログラムをすべての国に日常的に適用することは、その正当性と非挑発的な意図を維持し、すべての国の船舶と航空機が世界の海洋を利用できるようにするという米国の決意を示している。

中国とロシアは、航行の自由作戦を実施する米国軍艦を自国が領有権を主張している領海から「追放」したと日常的に主張している。こうした不誠実な主張は、国内でナショナリズムの感情を煽り、合法的な米国の海上作戦を誤って伝えることを目的とした安易なプロパガンダである。航行の自由プログラムが実施されてきた40年以上の期間の中で、米国の軍艦が沿岸国の海域から追い出されたことはない。沿岸国当局から挑発を受けた場合、米国軍艦は単に国際法に従って合法的な作戦を実行していると回答し、任務が完了するまで指定されたコースを進む。1988年、ソ連の軍艦2隻が、クリミア半島沖で航行の自由を実施していたUSSキャロン(USS Caron)とUSSヨークタウン(USS Yorktown)に意図的に衝突した。ソ連艦艇による衝突や度重なる脅しにもかかわらず、アメリカ軍艦艇は軌道を維持し、75分間の通過を終えてソ連が領有権を主張する領海から出た。

1988年に黒海で発生したこの事件は、航行の自由プログラムが航行権と自由を守るためにどう活用できるかを示す良い例である。これを機に、1986年以来続いてきた無害通航の法的側面について、2つの超大国間の二国間協議が再び活発化することとなった。協議の結果、1989年、「無害通航を規律する国際法規範の統一解釈(1989 Uniform Interpretation of Rules of International Law Governing Innocent Passage)」通称「ジャクソンホール協定(Jackson Hole Agreement)」が制定された。この協定において、ソ連は、「軍艦を含むすべての船舶は、貨物、軍備、推進手段にかかわらず、国際法に従って領海を無害通航する権利を有しており、事前の通知も承認も必要としない」という米国の立場に同意した。

南シナ海で他覚的に実施された航行の自由作戦において、英国海軍の空母クイーン・エリザベスに着艦する準備をする第211海兵隊戦闘機攻撃飛行隊のF-35B戦闘機。ジェイ・アレン(JAY ALLEN)兵曹/英国海軍

中国の過度な領有権主張に対抗

2021年10月に発表された米国海軍長官の新戦略的ガイダンスは、米国が「海の自由を維持し、国際法と規範を支援し、同盟国を支持し、国際法が許す場所で飛行、航行、運用を継続するための適切なプラットフォーム、能力、能力の組み合わせを備えた海軍の存在を確保するために、世界的に姿勢を拡大する」ことをあらためて明確にしている。堅牢な航行の自由プログラムは、世界の海洋へのアクセスを制限する過剰な領有権主主張の拡大に対抗することを目的とした、拡大された世界的な姿勢の1つの柱である。このような過剰な領有権主張を野放しにしておくと、米国や他の国々が享受する海の権利、自由、および合法的な使用が侵害される可能性がある。つまり、航行の自由プログラムは、国際法が許す場所である限り、飛行、航行、運航する米国の意欲を示すものであり、世界の海洋に関する安定的かつルールに基づく法制度への揺るぎないコミットメントを裏付けている。

これは特に、中国が日常的に国際法を軽視した上、違法な領有権主張を展開し、海洋資源を合法的に開発する小国を脅迫するために危険かつ挑発的な行動を行っている南シナ海について言えることだ。2016年、国際仲裁裁判所は、悪名高い九段線に基づいて中国が南シナ海で主張している海洋権には法的根拠がないという判決を全会一致で下した。同裁判所はまた、南沙諸島(スプラトリー諸島)にある7つの島で中国が行っている大規模な埋め立て工事と人工島の建設が海洋環境に深刻な被害をもたらしており、中国は脆弱な生態系の保全と保護の義務に違反していると判断した。判決は法的拘束力を持つものの、中国はこれに従うことを拒否している。米国は、2016年以来、南沙諸島(スプラトリー諸島)と西沙諸島(パラセル諸島)おいて中国が領有権を過度に主張していることに対して異議を唱え、30回以上にわたる航行の自由作戦を実施してきた。

国際社会には、世界の安全と繁栄にとって不可欠な海洋の自由を守る永続的な義務と責任がある。したがって、米国は各国が独自の航行の自由作戦を遂行し、航行の権利と自由を妨げる過度の領有権主張に公然と反対することを奨励している。一部の国が、航行権と自由に対して、国際法で定められたものを超えるを制限を主張し続ける限り、米国は世界の安全、安定、繁栄を確保するために不可欠であると証明されている法に基づく秩序を維持するという決意を示し続ける。

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