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プリント技術

軍は、戦力の効率と即応性を向上 させるために3Dプリントに投資

FORUMスタッフ

3Dプリントのような高速でオンデマンドかつカスタマイズ可能な技術は、戦場や人道支援活動において軍人がより効率的に活動できるよう支援することができる。インド太平洋およびその他の地域の軍隊は、この戦力となる近代化ツールの研究、開発、取得に多額の投資を行っている。 

少なくとも過去10年間、武器や戦闘車両の部品の修理や交換にこの技術を使用してきた。在日米軍は、新型コロナウイルス感染症を予防するためのフェイスシールドやマスクを作るために3Dプリントを使用した。橋や家を3Dプリントで作る技術も存在する。今では、軍用トラックの外装を一度に作れるほど大きな3D金属プリンターを開発する計画さえある。

3Dプリントは、専門的にはアディティブ・マニュファクチャリング(AM)と呼ばれ、3Dモデルデータから部品を作るために素材を結合するプロセスで通常はレイヤーごとに作られる。イギリスに本社を置く独立系の製造会社AMFGによると、インド太平洋地域だけで3Dプリントの支出は2024年までに36億米ドル以上に膨れ上がると予測されている。

2021年4月、GE アディティブ、アジア太平洋(General Electric Additive Asia Pacific)部門のゼネラルマネージャーであるチェク・ハン・タン(Czek Haan Tan)氏は、GE.comのブログで、「世界的には、政策立案者がAI (人工知能)、自動化、および付加体を産業戦略と政策にどのように織り込むかを再考している」と述べている。「しかし、アジアでは、パンデミック以前より政策立案者が先進的な技術にコミットしていた」

モデリングソフトウェアで3DプリントされたN95フェイスマスクを準備する米国空軍の二等空兵。一等飛行兵ロビン・ハンシンガー/米国空軍

2019年11月のAMFGの報告によると、インド太平洋地域の3Dプリント市場では中国が最大のシェアを占めており、日本、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)がそれぞれ続き、オーストラリアとインドが同率のシェアで続く。AMFGの報告によると、3Dプリントに対する米国の支出は、インド太平洋地域の他の地域の支出合計を上回り、欧州連合の数値はインド太平洋地域の数値よりもわずかに少なかった。他の業界の数値では、ヨーロッパはインド太平洋地域より先を行く。

ビジネス・インサイダーは、「3Dプリントは、戦争と外交政策に革命をもたし、驚くべき新たなデザインを可能にするだけでなく、防衛産業を、そしておそらくは世界経済全体を根底から覆す」と述べている。「10億ドル規模の防衛産業は、この技術革新の端緒にあり、米軍はすでにユニフォーム、戦傷治療用の人工皮膚、さらには食品をプリントする取り組みに多額の投資を行っている」

業界のリーダーである米国は、2021年1月に米国国防総省の付加体製造戦略を発表するなど、3Dプリントのポリシーを定期的に更新している。同文書では、AM技術を「防衛システムの革新と近代化を可能にし、戦闘準備をサポートし、戦力を強化する強力なツール」と表現した。

米国国防総省によると、3Dプリントは3つの重要な方法で軍事作戦を強化することができる。

オーストラリア国際航空ショー(2015 年2 月、メルボルンで開催)で展示された世界初の3D プリントによるエンジン。AFP/GETTY IMAGES

国防体制の近代化。「AM技術は素材、機械、設計プロセスを統合することで部品の設計方法を根本的に変え、従来の製造方法では作れないような部品形状を可能にする。これらの革新的なデザインはより優れた運用パフォーマンスを実現し、センサーや電子部品などの他の部品にプリントによる製造物を組み込むことで、システムの性能を向上させることができる」

物資準備の迅速化。「AM技術は使用時間を短縮することで、戦闘に従事する人員が必要に応じて重要な能力を受け取れるようにすることができ、それにより試作品の迅速な製作を可能にし、開発時間の短縮やイテレーションの迅速化につながる。AMシステムは機能的にはボックス内の工場であり、簡単にオン・オフができるデジタル制御された生産ラインだと言える」

戦争の革新と能力を強化「AM技術は、戦術 ユニットが現場で革新的なソリューションを開発することを可能にし、戦闘員という我々の最大の強みへバランスをシフトしてくれる。AM技術は戦闘に従事する人員にさらなる能力を提供 してくれるが、適切な使用をサポートするための安全ガイドライン、訓練、およびシステムと バランスをとる必要がある」

要点:3Dプリントは、より致死的なシステムの運用、即応性の向上、そして戦場でリアルタイムに問題を解決できる権限を持った戦闘に従事する人員の育成を可能にする。

兵士は3Dプリンターを使用し、このような現場修理用のレンチなどの工具を作ることができる。AFP/GETTY IMAGES

3Dプリント技術が進歩する一方で、軍事分野では以前からその応用が進んできた。例えば、Dezeen誌によるとアフガニスタンの米軍兵士は、2013年にモバイル3Dプリントラボをを利用して、配送を待たずに現場で機器を修理するための予備部品を生成した。 

「米国からオーストラリアに至るまで、軍隊は何十年も前から付加体製造の可能性を認識しており、すでに現場で3Dプリンターを活用している。現在3Dプリントされた部品は、重要な航空機のエンジン、戦車や潜水艦、兵士自体に使われている」と、3Dプリントの専門誌の「All3DP」は述べている。

オーストラリア陸軍は、陸軍第1戦闘支援大隊(1 CSSB)が現場における金属部品の3Dプリントを通じてサプライチェーンの改善を支援する金属3Dプリント会社のSPEE3Dとの提携を2022年まで延長した。 

「現場で設計しプリントされたカスタムメイドの部品は、装備を実戦に復帰させ、戦場での主な役割を果たすことができることを意味する。このような最新技術を採用することでサプライチェーンを強化し、必要なものを短時間で正確に作ることができる」と、1 CSSBの指揮官であるケイン・ライト(Kane Wright)中佐は、オーストラリア国防省の報道で述べている。「技術に精通した兵士たちは、SPEE3Dのスキルと技術によって管理や物流の負担を軽減し、基地や従来の商業メーカーに頼ることなく独自のソリューションを展開できる」

オーストラリアのパイロットプログラムでは、予備部品の設計からプリントまでを現場で行うことで、兵士がワークフロー全体をコントロールできることが証明された。

兵士は3Dプリンターを使用し、このような現場修理用のレンチなどの工具を作ることができる。AFP/GETTY IMAGES

中国人民解放軍は2015年に公開訓練を行い、3Dプリンターの活用を示す公開演習を行った。3DPrint.comによると、この訓練で解放軍の兵士は石油タンカーの火災に対応する際に車両の損傷に気づいたという。必要な部品の在庫がなかったが、技術者の対応や修理を待たずに兵士は3Dプリンターを使用し再び稼働させた。

「従来の部品加工のやり方はもう不要であり、計画、研削、ルーティングやその他の複雑なプロセスは必要なくなった」と、訓練に参加した解放軍兵士のDong Kaiyi氏は、3DPrint.comに語った。「3Dプリンターが使えるようになったことで現場の修理効率が上がり、多くの重整備機は必要なくなった」  

専門家によると、中国の軍事技術の進歩をオープンソースで確認することは困難であるという。中国人民解放軍のウェブサイト「中国軍事」によると、中国宇宙技術研究院は2020年半ば、、宇宙で初めて3Dプリント実験を行ったと発表し、ハニカム構造体の平面部分、宇宙科学院の親会社である中国航天科技公司のエンブレムを制作した。 

他のテクノロジーと同様に3Dプリントにも課題がある。ランド研究所は、「Additive Manufacturing in 2040: Powerful Enabler, Disruptive Threat(仮訳:2040 年における付加 的製造業:強力なイネーブラー、破壊的な脅威)」と題する報告書の中でそれらを調査した。

「安全保障への影響も視野に入れなければならない。武器のプリントが容易かつ安価になれば、動的攻撃(致死的な力による暴力)の脅威は著しく増大する可能性がある」とランド研究所の報告書は述べている。「インターネットを通じて異国のテロリストやその他の暴力的な過激派グループは、より危険な新兵器の印刷可能なデザインをすぐに入手できるようになる可能性がある。AM技術はまた、自国の反体制派と単独犯がこれまで武器を入手できなかった場所(学校、政府の建物、空港など)で、素早く武器をプリントすることを容易にする」と述べた。

訓練とともに個人、社会、軍隊にとっての安全保障上のリスクに対する意識を高めなければならない、とランド研究所は警告する。また政策立案者は、3Dプリント技術を規制する際に意図せずして軍隊やその他の組織がこの技術を有益に利用することを妨げないよう、専有権保護も含めてバランスをとる必要があるとランド研究所は指摘している。

「新しい技術には潜在的な利益と脅威があり、リスクはあるが、政策立案者はAM技術がもたらす難解な安全保障上の問題に取り組み始めなければならない。今日の決断は、将来直面するであろう機会や脅威を形成する力がある、」とランド研究所の報告書は結論付け、潜在的な安全保障への影響を理解するためにさらなる調査を行うべきであると述べている。「今こそこの強力な新技術の畏敬すべき可能性と起こりうる負の影響について検討を始める時である」

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