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知られざる 真実

北朝鮮の主張が検証 できず北朝鮮国民や ミサイル、指導者の 現状に疑問の声

国際関係において透明性を確保することは、信頼関係を築き紛争を回避するために非常に重要だ。しかし、北朝鮮政権は自国民の福祉、非核化の取り組みとその欠如、指導者の健康状態や居場所についての確認可能な情報開示については消極的である。

新型コロナウイルス感染症の感染者ゼロという北朝鮮の主張を国際社会が検証できないことや、2020年と2021年に独裁者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が国民から姿を消す頻度が増え期間が長くなったことは、
政権の不安定さに対する憶測を助長する。

「それでも政権を安売りするのは決して得策ではなく、過去に数え切れないほど報道された、その終焉を凌駕している」と、ヘリテージ財団の北東アジア担当上級研究員であるブルース・クリングナー(Bruce Klingner)氏は、2021年7月にシンクタンクのウェブサイトに寄稿している。

実際2021年6月に金正恩氏が4週間活動を休止した後に、痩せた姿で再登場して健康状態についてさらなる憶測を呼んだが、同政権は3ヵ月後、国連安保理決議に違反する一連のミサイルシステムの実験を数日おきに行い、挑発行為を再開することになる。もし、現支配者が健康を害しているという噂が本当であれば、金王朝の将来について疑問を抱くかもしれない。そうなると金正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏がその答えとして浮上する。

政権内での存在感を高める、北朝鮮の独裁者金正恩氏の妹、金与正氏。AP通信

ガーディアン紙によれば、「2018年の韓国平昌冬季オリンピックに金(正恩)氏の名代として参加して以来、金与正氏は労働党内で権威ある肩書を手に入れただけでなく、反逆罪の疑いで自分の叔父の処刑を命じることができる指導者である兄の絶大的な信頼を得ている」という。

金与正氏は重要なイベントの際は兄の側にいる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、近年頭角を現す彼女は、金正恩氏とドナルド・トランプ米国大統領の3回の直接会談にそれぞれ出席した。本紙は金与正氏が北朝鮮の宣伝扇動部門を率い、2020年に非核化を主張する米国を批判する北朝鮮の声明や、北朝鮮による軍事演習を批判する韓国を叱責する声明に署名したと報じている。

彼女は2021年9月、韓国の文在寅大統領(当時)が北朝鮮の核実験を挑発だと批判し続けた場合、韓国との二国間関係は「完全に破壊する」と警告し再びメディアの注目を集めたとAP通信は報じている。

AP通信によると、彼女は「もし大統領が(我々に対する)誹謗・中傷に加わればこれに対抗する行動が起こり、南北関係は完全に破壊に向かって突き進むだろう」と声明を出し、「我々はそれを望んでいない」と述べた。

1948年以来、金日成氏に始まり息子の金正日氏、孫の金正恩氏の3人が北朝鮮を支配してきた。金与正氏の地位は上がっているかもしれないが、専門家は彼女が次の政権リーダーになる具体的な証拠はないと述べている。実際、多くのアナリストは、金正恩氏の支配が終わるのはまだ先のことだと考えている。AP通信によると、彼が痩せたのは病気の兆候ではなく、健康や長寿を増進するための試みではないかとの意見もある。

2018年4月、韓国で行われた南北首脳会談を前に、北朝鮮金正恩氏の妹、金与正氏にあいさつする当時の韓国大統領、 文在寅氏(左から2人目)。GETTY Images

戦争は続く

1950〜1953年にかけての朝鮮戦争は平和条約によるものではなく休戦に終わったため、北朝鮮と韓国は厳密には戦争状態にある。統一の試みは失敗に終わったが、2021年9月に文大統領は再び公式な終戦を呼びかけた。

文大統領は国連総会で「今日、私は改めて朝鮮半島の終戦宣言に力を結集することを各国共同体に求め、韓国、北朝鮮、米国の3国、あるいは韓国、北朝鮮、米国、中国の4国が集まり朝鮮半島の終戦を宣言することを提案する」と述べた。

国際社会の最も切実な夢は、「平和で安全な生活を実現すること 」だという。国連やその他の機関の取り組みにもかかわらず、朝鮮半島ではそのような夢は実現されていない、しかし韓国は朝鮮半島に永続的な平和が「しっかりと根付く」よう、引き続き尽力すると述べた。

文大統領は「非核化と共栄を目指す朝鮮半島で、韓国政府は朝鮮半島の平和プロセスを着実に推進し国際社会の支持のもと、歴史的な節目を達成した。朝鮮半島の平和は常に対話と協力から始まる。南北朝鮮間および米国と北朝鮮との間の対話を速やかに再開することを求める」と述べた。

AP通信によると、金与正氏はこれに対し、南が和解に向けたステップを踏みたければ「敵対的政策」と「二重取引基準」を放棄するよう要求した。同通信によると、彼女は詳細には触れていないが、北朝鮮は韓国が制裁から解放され核兵器国として国際的に認められるような譲歩をすることを望んでいると専門家は見ている。

CNNの報道では、金与正氏は「公平性と互いを尊重する姿勢が保たれてこそ南北間の円滑な理解が得られると思う」と述べた。「南北関係を1日も早く膠着状態から回復し平和的安定を実現したいという韓国国民の思いは、抗しがたいほど強いと感じ、我々にも同じ願望がある」

ニューヨークタイムズ紙によると、タフツ大学フレッチャースクールの北朝鮮専門家であるイ・スンユン( Lee Sung – yoon )氏は、金与正氏は2022年5月の「文大統領が任期満了前にどうしても達成したい課題」を提示しているに過ぎないと警告している。金与正氏は「心理操作に長けていることを改めて示した」とイ氏は同紙に語っている。

2021年9月の第76回国連総会で、朝鮮半島の平和を取り戻すため、1950~53年の朝鮮戦争を正式に終結させる宣言を推進すると演説する韓国の文在寅。AP通信

タイムズ紙によると、金与正氏は自身の発言について「単なる個人的な意見だ」と言ったというが、韓国側は意味があったと認識する。それでも行動は言葉よりも雄弁であり、韓国の統一省は北朝鮮のコミュニケーション意欲の矛盾を指摘した。同政権は2021年8月、二国間の軍事関係を管理するホットラインで韓国からの電話受信を取りやめていたが、2ヵ月後に再び通信を回復した。

2021年9月末、同省の李種珠(イ・ジョンジュ)報道官は、記者団に対し「非核化と朝鮮半島の恒久平和の確立、対話と協力による南北関係の前進を実現するために、円滑で安定した方法でコミュニケーションを取ることが何よりも重要だ」と述べた。

容姿の変化

金正恩氏の減量は専門家が注目する唯一の変化ではない。2021年9月に行われた北朝鮮の軍事パレードでは、観客は壮大なショーを期待していたが、実際には専門家が推測する崩壊した北朝鮮の厳しい現実が反映された質素なイベントが行われた。パンデミックによる国境閉鎖の長期化、洪水による食料不足、制裁、経済の不振などにより同国は苦戦している。また、金氏は演説を行わなかった。

ソウル梨花女子大学校国際学部のレイフ=エリック・イーズリー( Leif – Eric Easley )教授は、「北朝鮮社会は、金正恩体制の決定により多大なストレスを受けている。パレードは強さを示し、検疫の士気を高める役割を果たすことを意図する。主に国内の政治的聴衆を対象としたパレードから、外交政策や交渉のシグナルを過剰に解釈してはならない」と、警告前にタイムズに語った。

国連食糧農業機関の報告書によると、北朝鮮は過去10年で最悪の食糧危機に瀕しており、9月のパレードは国民の結束を高めるための試みが主な目的だったと見られている。しかし、さらに驚くべきことは2021年6月に金正恩氏が危機を公に認め、食糧不足の解消が「最優先事項」だと発言したことだ。

南北を隔てる非武装地帯にある韓国の オドゥサン(鰲頭山)統一展望台から北朝鮮を望む観光客。AFP/GETTY Images

タイムズ紙は、「特に、農業部門が洪水被害を受けて穀物生産を果たせなかったため、現在国民の食糧事情は緊迫している。党と州全体が農業に集中することが不可欠だ」とコメントしたと報じている。

さらに同紙は、パンデミックの影響で北朝鮮が中国との国境閉鎖を長引かせたため、医薬品などの必需品の調達が困難になっているとも伝えている。多くのストリートチルドレンが食料調達のためにゴミ箱をあさり、家庭では食料を買うために家具を売っているというのだ。

「彼(金正恩氏)が10年前に政権を握ったときの公約の一つは、長年苦しんできた人々が苦しまなくてもいいようにする」ことだった。「このような経済計画は、同国の軍備増強に起因する国際的な制裁で挫折した」。

北朝鮮政権は、自国内で起こるネガティブな状況や潜在的な危険性をほとんど認めていない。金氏と労働党が明らかにしないことは、人工衛星が明らかにする。

例えば、画像や公開資料を用いて北朝鮮の活動を監視している国際原子力機関(IAEA)によると、2021年8月の衛星画像から、北朝鮮が寧辺の核研究施設のプルトニウム生産炉を再稼働させたようだとの情報が得られたという。核兵器の専門家でミドルベリー国際研究所(Middlebury Institute of International Studies)のジェフリー・ルイス(Jeffrey Lewis)教授は、CNNの取材に対し、2021年9月の画像から「寧辺の核施設で改修工事が行われている」ことが明らかになり、それによって「北朝鮮が兵器利用可能な核物質の生産を25%増加させることができるようになる」とし、「寧辺の最近の拡張はおそらく兵器製造のための核物質生産を増やす計画を反映している」と述べた。

ルイス氏は、この建設は現在進行中の施設の床面積を増やす作業と一致すると指摘しており、約1,000平方メートルの新たな敷地には、さらに1,000台もの遠心分離機に設置が可能で、年間でより多くのウラン濃縮が可能になると、CNNに語った。

北朝鮮が核開発を続けていることが明らかになる中で、米国は外交的に非核化を達成する姿勢を崩していない。CNNによると、米国務省のネッド・プライス報道官は、「我々の要求は明確に示してきた」と述べている。「我々は、対話によって最終的な目的である朝鮮半島の非核化を達成するという原則に従事している」。

IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー(Rafael Mariano Grossi)事務局長は、北朝鮮の核開発について、「朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)」と名指しした上で、「深刻な懸念の原因」「根深い問題」と批判している。

2021年9月、平壌の金日成広場で行われた共和国73周年を記念する準軍事パレードに出席した減量後の金正恩氏。AP通信

グロッシー事務局長は2021年9月、IAEA総会での演説で「北朝鮮の核開発計画の継続は、関連する国連安保理決議への明確な違反であり、深く遺憾に思う。私は北朝鮮に対し、関連する国連安全保障理事会決議の下での義務を完全に遵守し、NPT(核不拡散条約)保障措置協定の完全かつ効果的な実施において機関に速やかに協力し、すべての未解決問題、特に機関査察官の不在中に発生した問題を解決するよう要請する」と述べた。 

また、専門家は、北朝鮮が2022年の初めにおける弾道ミサイル実験の増加は、金正恩氏が国際法を無視し続け大量破壊兵器の材料を備蓄していることの表れであると指摘している。北朝鮮は2022年1月に、2021年に実施した全実験を上回る7回の弾道ミサイル発射実験を行い、米国は金正恩氏の弾道ミサイル関連資材の開発や調達に協力したとしてその個人と団体に対する新たな制裁を発動
した。

さらに正恩氏は2月27日と3月5日にも「比較的新しい大陸間弾道ミサイルシステム」と思われる実験を行い、緊張を高め続ける。これによって米国の追加制裁が行われることになる。韓国の報道によると、3月16日の第10回目の実験は、発射直後に爆発して明らかな失敗に終わったが、より大規模な実験が控えているとの憶測を呼んだ。

2月の核実験後、米国をはじめとする10ヵ国は、弾道ミサイル発射を「不法かつ撹乱的だ」と非難し、国連安保理に対して北朝鮮政権が複数の国連決議に違反していると非難するよう促した。アルバニア、ブラジル、フランス、アイルランド、ノルウェー、英国の6ヵ国と、オーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国の外交官に囲まれ、米国のジェフリー・デローレンティス国連次席大使は国連加盟11ヵ国の共同声明を読み上げ、「我々は引き続き真剣かつ持続的な外交を模索し、米国やその他の国々の支援活動に積極的に応えるよう平壌に求める」と述べた。11ヵ国が発表した共同声明は北朝鮮に対して、「外交手段を選択することで地域の緊張の緩和および国際的な平和と安全の推進に貢献する」ことを促すとともに、国連は対話に応じる構えであり「決して平和と安定の追求を断念しない」ことを強調する内容となっている。

人権について

国際的な制裁やパンデミックの進行により北朝鮮国民は日々苦難を強いられている。その最中でも労働キャンプは存在し続けている。非政府組織などは、これらのキャンプが人権を侵害していると告発している。一方、ニューヨーク市に本部を置く、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチによると、金正恩氏は2021年9月、若者が 「衰退」や 「文化浸透」を償うために強制労働に 「志願」したことについて感謝の意を示したという。

「北朝鮮政府がイデオロギー的な要求により正当化された強制労働を使用することは一般的だ」ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、強制労働者は、鉱山、農業、建設など、金正恩氏が優先事項とみなすプロジェクトに使われる。これにより国境を越えた貿易がほぼ停止している今、北朝鮮は国内生産を強化することができ、具体的な政治的メッセージを国民に発信できるのだ。

2021年4月に金氏は政権が反社会的、個人主義的、不愉快だとみなすものを取り締まるよう命じた。これには言論や行為、ファッションも含まれる。

「若者たちは無許可のビデオやテレビ放送、文章を見たり読んだり聞いたりすることをやめ、韓国のテレビシリーズの登場人物の話し方や服装、髪型を真似ないこと、北朝鮮の指導者に忠誠を示し、社会主義体制を継承し、政府の宣伝や命令に従う生活を再認識することを指示された」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチは報告している。「鉱山、農場、建設現場などで働くいわゆる志願者は、極めて過酷で危険な条件下で長期間、ほとんどあるいはまったく報酬を受けずに身を切るような労働を強いられている。北朝鮮政府は、これらはすべて志願制だと主張するかもしれないが、現実に要求を断わることはほぼ不可能だ。北朝鮮では犯罪に対する処罰が恣意的で、忠誠心や人脈、賄賂の支払い能力などの記録によって決まるため、志願者としての活動を拒否すれば拷問や長期収監などの厳しい処罰を受けることになる」

国連人権理事会は、北朝鮮の収容所を監視し、脱出した生存者に聞き取りを行い、金正恩氏をはじめとする虐待に関与した北朝鮮当局者を告発することを約束している。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2021年1月、「入手可能な情報の分析により、朝鮮民主主義人民共和国で人道に対する犯罪が行われ、現在も続いている可能性があると信じるに足る根拠があることを引き続き確認する」と報告した。「国連人権高等弁務官事務所は、人道に対する罪には時効がなく、過去および現在進行中の犯罪について責任を負うべきであることを繰り返し言及し、朝鮮半島の恒久的な平和は、このような侵害が終わり真実、正義、賠償、不再発の保証に対する被害者の権利が実現されて初めて達成される」と述べた。

安明哲(アン・ミョンチョル)氏は北朝鮮の収容所の中で起きている残虐な行為をよく知る人物だ。元朝鮮人民軍兵士であった安氏は、1980年代から1990年代にかけて、会寧や穏城強制収容所など様々な収容所で看守として働いたが、脱走して韓国に亡命した。現在、安氏はソウルを拠点に脱北者を支援し、金正恩氏を人道に対する罪でオランダのハーグにある国際刑事裁判所へ提訴するための活動に取り組むNGO団体の「NKウォッチ」の専務理事を務める。

「北朝鮮における強制労働や食糧不足問題は、北朝鮮政府の誕生以来70年間継続して起きており、北朝鮮の人権状況は全体的に見ても非常に悪い」と安氏はFORUMに語っている。「その最大の理由は、金一族が体制維持のために外界の情報を遮断し、北朝鮮人は幼少期から金一族の偶像崇拝のプロパガンダに洗脳されて外界について何も知らないからであり、その結果、北朝鮮国民の間ではそういう生き方をするために生まれてきたと受け入れる雰囲気がある」

安氏によると、脱北者は、電話などを通じて外界の情報を伝えることで、閉鎖的な社会に少しでも変化をもたらすことができるという。さらに、国際社会に対して非核化の議論と同様に北朝鮮に関する議論においての人権侵害を最重要視するよう要請した。

その他にも多くの真実が国内にはある。「北朝鮮の最重要事項は人権問題だ」と安氏はFORUMに語った。「言葉では表現できないが北朝鮮の人々は拷問を受けており、国際社会は、人道に対する罪は国際的に罰せられなければならないというメッセージを北朝鮮に送り続ける必要がある」。

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