戦略的 課題

戦略的 課題

米国戦略軍の司令官「核装備が可能な敵対国は 複雑な脅威をもたらす」

FORUM スタッフ

ネブラスカ州オマハ近郊のオファット空軍基地(Offutt Air Force Base)に配備されている米国戦略軍(USSTRATCOM)は、米国の核戦略指揮統制任務と世界規模の攻撃作戦およびミサイル防衛に携わっており、米国の指導者に世界中からの脅威を報告し、それらに迅速に対応するための実行手段と選択肢を提供している。

米国戦略軍はまた、戦略的な攻撃を抑止し米国とその同盟国の安全を保証するために部隊を展開しており、あらゆる戦略的対立において勝利を収め、21世紀の戦略的抑止力を築くための知的資本を開発するという責務を担っている。 

爆撃機機動部隊を支援するためにインド太平洋地域に展開された米国空軍のB-52Hストラトフォートレス(B-52H Stratofortress)は、米国軍による柔軟な戦術を可能とする。
リチャード・・P・エベンスバーガー(RICHARD P. EBENSBERGER)曹長/米国空軍

戦略軍の中枢にはグローバル・オペレーション・センター(Global Operations Center)があり、同センターは状況認識を容易にするとともに、米国戦略軍の司令官に米国の戦略的軍事力を指揮・制御する手段を提供している。FORUMは最近、司令官であるチャールズ「チャズ」・A・リチャード(Charles “Chas” A. Richard)米海軍大将に戦略的競争の時代における抑止についてインタビューを行った。

FORUM:侵略と威圧行為を抑止するために、世界の戦略的環境にはどのような課題が存在していますか。また、技術および武器システムという点において、インド太平洋地域の安全保障問題がどのように変化してきたかを説明していただけますか?

チャールズ「チャズ」・A・リチャード(Charles “Chas” A. Richard)米海軍大将

大将:米国は歴史上初めて、戦略面で核戦力を持つ2つの敵に同時に立ち向かわなければいけない状況に陥っており、それぞれに対して異なる抑止アプローチを取る必要があります。現在の中国とロシアの両国は、あらゆる領域および地域の紛争を一方的かつ好きなだけ激化させる能力を有しています。米国は過去30年以上このような能力を持つ敵に遭遇してきませんでした。

直近の国家安全保障戦略の暫定的な指針(Interim National Security Strategic Guidance)で概説されているように、特に中国は急速に主張を強めてきています。もはや中国をロシアと比較して小さな問題として捉えることはできません。深刻さを増す核の脅威として捉えるべきです。中国の戦略的な核戦力の近代化は総合的に見て大きな懸念を引き起こすとともに、米国インド太平洋軍(USINDOPACOM)や他の軍司令部が報告する中国軍の従来戦力の拡大を補完するものです。

さらに、ロシアは過去10年間で戦略的な核戦力の約80%を再整備し、威圧的な近代化の推進と核トライアドの全方面で報復攻撃能力の確保を可能にする新しい兵器プログラムにより、全体的な戦力を強化してきました。 

このような脅威の基本的な抑止方法に変化はありません。私たちは、あらゆる敵の目的を阻止すると共に、実際に行動に移すことで得られる利益よりも行動を控えることで得られる利益の方が大きくなるようにすることで、敵の目的達成を割に合わないものにするように努めています。こうした基本的な抑止行動は、グレーゾーン事態から現在の状況で時間による変化の見通しがつかず予測不可能な対立関係に至るまで用いられるものです。抑止力は、世界中の全領域にわたって平時からグレーゾーン事態、そして紛争状態に陥るまで継続的に運用されます。これを可能にするためには、(米国国防総)省全体から政府全体、そして同盟国やパートナとの協力を通じた統合的な計画と資源供給が必要です。 

2021年3月のボマー・タスクフォース・ヨーロッパ(Bomber Task Force Europe)展開中、ノルウェーのオーランド空軍基地(Orland Air Force Station)でB-1B ランサー(B-1B Lancer)を誘導する第9遠征爆撃中隊 (9th Expeditionary Bomb Squadron)のクルーチーフ。 コリン・ホロウェル(COLIN HOLLOWELL)一等空兵/米国空軍

FORUM:インド太平洋地域での戦略的抑止力の提供と安全保障の維持における米国戦略軍の役割は何でしょうか。

大将: 米国戦略軍の任務は、戦略的攻撃を阻止し国家の安全を保障するための戦力を構築し、同盟国およびパートナーの安全を確保することです。その役割において米国戦略軍は世界中の合同軍事作戦で必要な条件を設定しています。各部門のすべての作戦計画および能力は戦略的な抑止力が維持されることを前提としています。戦略的抑止、特に核抑止が失敗した場合は我々の計画および能力のいずれも意図されたとおりに機能しません。 

さらに、戦略軍の能力はヨーロッパ、アジア、太平洋地域の同盟国やパートナーの安全を保証する米国の公式な拡大抑止に対する取り組みを支援するものでもあります。米国の拡大抑止に対する固い決意や、潜在的な敵の核または核兵器以外の攻撃を抑止し、必要に応じて撃退するために米国および同盟国が保有する能力は、いかなる国にとっても疑う余地のないものです。

FORUM:地域安全保障に多国間アプローチが重要なのはなぜでしょうか。また、中国に対して特別なアプローチはありますか?北朝鮮、ロシアに関してはどのようにお考えですか?

大将:米国の同盟国はより多角的な安全保障と解決手段を提供してくれるため、多国間アプローチはとても重要です。権威主義的観点に基づいた世界秩序に対して同盟国が対抗姿勢を見せることでルールに基づく国際システムを強化し、敵対勢力に対して抑制を促すことができます。

潜在的な敵に米国の決意を効果的に伝えるため、
米国は戦略的抑止の失敗を防ぐ能力を最大限に発揮し、国力のあらゆる要素を結びつけることで危機における誤算のリスクを低減する方法を見つける必要があります。戦略軍は解決のための第一の手段として外交努力を支持しており、そのために革新的かつ信頼できる方法で戦略的な脅威を抑止し、理想的な状況を作り上げて世界環境を整えています。  

戦略抑止パトロールを終え、母港であるジョージア州のキングスベイ海軍潜水艦基地(Naval Submarine Base Kings Bay)に帰還する弾道ミサイル潜水艦USSメリーランド(USS Maryland)。ブライアン・トムフォード(BRYAN TOMFORDE)二等兵曹/米国海軍

FORUM:21世紀の戦略的な抑止力をどのように定義 していますか。

大将:米国の国家安全保障戦略の暫定的な指針は、「世界の力関係は変化しており、それが新たな脅威を生み出しているという現実にも対抗しなければならない」
ということを強調しています。中国とロシアは幅広い活動を通じて米国を脅かしており、これに対しては政府全体が協調して統合的に対応する必要があります。

このような戦略に対抗するため、私たちは常にあらゆる分野の脅威に対して備えておく必要があります。潜在的な敵対勢力は高度な核戦力を構築しており、自国の目的を追求するために能力を増す従来の戦力を展開して武力紛争以下のレベルの対立を引き起こすことで戦略的優位を確立しようとしています。  

米国とその同盟国およびパートナーは、このような紛争が敵国が核の使用を最良の選択肢とみなす事態につながる可能性も考慮する必要があります。 

FORUM:長期的および短期的に戦略的優位を保つために米国がしなければならないことは何ですか?

大将:米国は国民の安全を守るという義務を果たすために、近代化された核戦力と支援インフラを必要としています。 

過去60年間の米国政権の一貫した方針からも明らかなことですが、安全・確実で効果的な核戦力は戦略的攻撃を抑止するための手段として依然として最も信頼できるものです。現在のプログラム・オブ・レコード(装備品の調達計画)は、これらの要件を満たすための最良の方法であるということが繰り返し実証されています。 

さらに、私たちの強みは協力して物事を進める能力にあります。脅威に対抗するための軍事戦略は一般的に国の持てる力を最大限活用するものとして定義されており、この戦略を中心として計画とリソースを統合することで長期的な脅威に対処することができます。

米国空軍のB-2スピリット(B-2 Spirit)マルチロール爆撃機は、非核弾頭および核弾頭の両方に対応しており、戦略的抑止力において重要な役割を果たす。ディラン・ムラカミ(DYLAN MURAKAMI)上等空兵/米国空軍

FORUM:統合された戦略的抑止力を達成し、世界規模で統合された運用を実現するための優先事項をどのように定義しますか。

大将: 米国戦略軍は他の戦闘指揮官と引き続き協力して計画、運用、活動を統合し、戦略的抑止のために国のすべての分野を同期させることの重要性を強調していきます。

戦略的抑止力の組み立てにおける同盟国の重要性も過小評価してはなりません。脅威は宇宙やサイバー
空間で起こる可能性があるので、集団的安全保障の実現には様々な状況に合わせた抑止力の開発に同盟国が参加することが必要です。

FORUM:インド太平洋の防衛にとって潜水艦はどの程度重要ですか。

大将:核トライアドは3つの要素(陸上、海上、空中)で構成されています。弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)は米国の核攻撃プラットフォームの中で最も生存率と持続力が高いものです。潜水艦(Submersible Ship)弾道(Ballistic)核動力(Nuclear)の略語である弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)は、私たちの艦隊が世代交代するまでに抑止力とその確実性を高める役割を果たします。大陸間の射程を持つトライデントII D5(Trident II D5)ミサイルを搭載した弾道ミサイル原子力潜水艦は、ほとんど探知されないまま世界中の海中を巡航し、あらゆるシナリオで確実な対応能力を発揮します。

この確実な反撃能力により核トライアドの他の要素とは異なる方法で抑止力の差を埋めることができます。高い生存能力も相まって、この決定的な反撃能力は米国大統領 により多くの対応手段を提供します。

FORUM:戦略的抑止用の陸・海・空の装備はどのように近代化する予定ですか。

大将:米国戦略軍は機関ごとに提供される機能を活用しています。戦略軍は核トライアドの要素が再定義されたときに各機関と連携して必要な要件を満たすことで、これらの新しい武器システムが利用可能になったときに指揮統制が整っていることを保証します。

FORUM:極超音速攻撃技術の目標は何ですか?米国が最大の競争国相手に遅れを取っているということはありますか?

大将: 極超音速兵器は、敵を継続して抑止するために必要な従来の核戦力を補完しうると考えられており、国家安全保障戦略で掲げられている核兵器の削減を後押しするものでもあります。通常弾頭を持つ極超音速兵器は、大統領に核の使用を迫ることなく、高価値で即座に叩かなければいけない目標物を攻撃するオプションを提供するという重要な役割を果たします。

潜在的な敵対勢力は極超音速技術の兵器化に対する関心を日増しに高めており、見過ごすことのできない潜在的な能力差を生み出しています。 

極超音速兵器の開発と配備は、長年にわたり米国戦略軍の要件であり優先事項でした。極超音速兵器は、他の兵器で攻撃できない、目的地に到達できない、
または使用が好ましくない場合に、遠隔地にあり防御されている目標物に対して応答性の高い長距離の非核攻撃オプションを提供します。

FORUM:ミサイル防衛に関して何かコメントはありますか。

大将:ミサイル防衛は、地域に合わせた包括的な戦略的抑止のための重要な要素として今後も継続して運用されます。

米国戦略軍は能力拡大を推進し、戦闘部隊や各種機関と協力して合同訓練や教育を行い世界規模のミサイル防衛計画の策定と運用を支援する責任を果たします。

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