特集

太平洋地域の 防衛強化

同盟国とパートナー諸国は、数々の安保リスクに対 する太平洋諸島の守りを固めつつある

FORUM スタッフ

球表面の約 15% を占める広大な海洋に囲まれた、およそ 3 万の太平洋諸島。その多くが無人の環礁島であり、全体の人口はインドネシアの首都ジャカルタをやっと超える程度の1,200 万人に過ぎない。多くの島民の生計は大洋の豊かな資源、ターコイズ色に輝くトロピカルな海に浮かぶ美しい島々の観光に大きく依存している。

遠い海に浮かぶ太平洋の島嶼諸国と領土だが、実は世界で渦巻くさまざまな問題のただなかにあり、海面上昇、資源の枯渇からパンデミックによるロックダウン、地政学的紛争に至る現代の大きな試練に直面している。地域・国際協力を通じた平和と繁栄の促進に向け、加盟国の政治経済政策グループとして 1971 年に創設された「太平洋諸島フォーラム(PIF)」は、次のように分析している。「太平洋地域の安全保障環境は複雑さを増す一方である。太平洋コミュニティーは越境犯罪グループ、気候変動、テロ、自然災害、不安定な政治や国際紛争がもたらす安全保障上の脅威にさらされやすい。そのことが各国内の混乱、貿易収入の減少、現地犯罪の増加や法執行の甘さなどにつながっている」

同盟国、パートナー諸国およびそこれらと志を同じくする国々は、同地域の海上防衛を強化して経済面、気候面、安全保障面の脅威に対抗しようとしている。これらの脅威には自国に利する影響力の拡大を目論む中国の動きが含まれる。

ニュージーランド国防軍(NZDF)は、2019 年10 月に発表した報告書「太平洋パートナーシップの推進:太平洋防衛アプローチの枠組み(Advancing Pacific Partnerships: A Framework for Defence’s Approach to the Pacific)」の中で次のように指摘した。
「複雑な攪乱要因の強まりと外部行為者の存在感の増大に伴い、太平洋地域は変わりつつある。この一連の複雑な攪乱要因に、今後は太平洋における影響力拡大競争の激化という問題が絡んでくるだろう。同地域での存在を高めたい外部行為者は、これらの問題を利用して影響力の拡大を図る可能性がある。より大まかに言うと、多くの国が再び太平洋を注視するようになった背景には戦略地政学的な競争意識の高まりがある。その意識の中心に、外部行為者(その活動のすべてが我々の価値観を反映しているとは限らない)の関与のペース、強度、範囲があることは間違いない」

左から、パブロ・ヴァレリン(Pablo Velerin)米国陸軍少佐、防衛協力連絡事務所;ファラー・レート・ラエク(Falur Rate Laek)准将、東ティモール防衛軍参謀長; カリスト・サントス・コリアティ(Calisto Santos Coliati)大佐、東ティモール防衛軍参謀長;ルビー・ジー(Ruby Gee)米国陸軍少佐、「太平洋島嶼国作戦部隊」東ティモール班指揮官;リディア・マッキニー(Lydia MacKinney)陸軍伍長、東ティモール班文化連絡下士官、東ティモール東部配属。ソロモン・ナヴァロ(SOLOMON NAVARRO)二等軍曹/太平洋島嶼国作戦部隊

自信を強める中国

典型的な事例:キリバス世界で一番遠いと言われる島の1つであるキリバスは、オーストラリアと米国のほぼ中間にある遠島である。総人口は、インド最大のクリケットスタジアムに余裕で収容できる11 万人である。そのような小国ではあるが周辺の
広大な太平洋に点在する 33 のサンゴ環礁により、地球の 4 つの半球すべてにまたがる唯一の国となっている。加えてインドの国土面積を超える300 万平方キロメートルもの排他的経済水域 (EEZ)を有する。国際連合の海洋法条約に基づき、他の国々と同じくキリバスにも自国 EEZ 内の天然資源を探査・利用できる主権がある。これに含まれる水産物、石油・ガス、鉱物などの豊富な資源は、強欲な中国の目を引いてきた。

2021 年 5 月に民主制の台湾との外交関係を 2019 年に破棄し、共産中国の支持に回っていたキリバス政府は、キリバスの環礁の 1 つにある飛行場においてその改良工事の実現可能性調査に中国が資金援助を行うと発表した。ロイター通信は、このプロジェクトが観光の支えになるという政府のコメントを報じた。しかし、一部の議員は、第二次世界大戦中に米軍基地として使われた同飛行場に中国が関心を寄せていることへの懸念を表明し、このプロジェクトが中国の 「一帯一路」(略奪目的の貸付であるとして広く非難されているインフラ構想)の一部になるのではないかとの疑念を表明している。その1ヵ月後には、キリバスと他の2つの太平洋島嶼国(ミクロネシア連邦とナウル共和国)の通信を強化するために世界銀行主導で進められていた海底ケーブルの敷設プロジェクトが、中国の関与をめぐる安全保障上の懸念により棚上げになった。ロイター通信によると、このインフラは米国領グアムとつながり主に米国政府によって使用されている海底ケーブルに接続されるはずだった。ある中国企業が最も低い入札額を提示したが、米国とキリバス当局は、中国企業が中国政府の情報機関やセキュリティーサービスへの協力を求められていると警告した。

キャンベラに拠点を置くシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(Australian Strategic Policy Institute)の出版物「ザ・ストラテジスト (The Strategist)」に掲載された 2020 年 9 月の 記事は、キリバスのインフラプロジェクトに中国が関与すれば、「太平洋の真向かいに中国の軍事基地または(少なくとも最初は)軍民両用の施設の可能性」が生じるとした上で、次のように述べている。 「そのような施設があれば、中国は世界最高の マグロ漁場と深海鉱物資源を掌握できるだけでなくハワイ、クワジェリン環礁、ジョンストン環礁、ウェーク島の米軍基地付近に拠点を持つことができる。それらの施設はまた、北米・オーストラリア・ニュージーランド間の主なシーレーンの真向 かいに置かれることになる」

米国外交政策評議会(AFPC)のアレクサンダー・B・グレイ(Alexander B. Gray)国家安保問題上 級研究員は、今や太平洋諸島全体で中国政府の 「自信に満ちた態度」が感じられるようになったと語る。パラオでは、同国の海事当局が米国沿岸警備隊の支援を受け、パラオ領海で違法なナマコ漁を行った疑いのある中国船を拿捕する事件があった。その 1 ヵ月後 の2021年1月、パラオのスランゲル・ウィップス・ジュニア(Surangel Whipps Jr.)新大統領は、中国による島嶼国いじめを非難する声明を出している。世界の違法・無報告・無規制(IUU)漁業の多くは中国の大規模遠洋漁船団によるものと言われ、今や海洋漁業全体の約 30% が中国漁船による IUU 漁業 である。米国笹川平和財団の秋元諭宏会長は、ジャパンタイムズ紙への寄稿で次のように述べた。 「天然資源については、中国が太平洋地域の漁業資源を積極的に利用しています。国内消費の増大する需要を 満たすために自国沿海の資源を獲り尽くしてしまった中国にとって、太平洋地域の広大で豊かな海は素晴 らしい漁場なのです」

一方で中国政府が行使する経済的な圧力も見逃せない。たとえばパラオに対しては、台湾との外交関係に対する 報復として自国民のパラオ観光を禁止している。観光地 として人気の高いパラオにとってはきわめて重要な収入源 が絶たれた形である。2021 年 5 月、米国国家安全保障会議(NSC)のグレイ(Gray)元オセアニア・インド 太平洋安全保障部長は、「ザ・ディプロマット(The Diplomat)」誌で次のように述べている。「我々は、太平洋の小さな島々が直面する課題をしっかりと念頭に 置くべきである。これらの国々は同地域で最も戦略的な地理的エリアの一部を含むだけでなく、国際会議や国連で長きにわたり米国の利益に沿う姿勢を表明してきた民主主義国家でもあるからだ」

「共通の目的を持って取り組める分野」

民主主義の同盟国とパートナー諸国が推進する太平洋地域への関与。その目的の少なくとも1つは、同地域の覇権を握ろうとする中国共産党の野心に対抗することである。これに伴い、前述の課題に対処することを目的とした 共同の取り組みも加速している。ロイター通信によると、米国国家安全保障会議のインド太平洋事務コーディネーターであるカート・キャンベル(Kurt Campbell)は、シンクタンク「新アメリカ安全保障センター (Center for a New American Security)」が 2021 年6 月に開催したイベントで次のように述べた。 「我が国がオーストラリア、ニュージーランド、日本などの同盟国と緊密に協力して今後速やかにやるべきことの 1 つは、太平洋島嶼国との会合を開き、共通の目的を持って取り組める分野について話し合うことです。これらの国は、我が国にとって歴史的道義の面でも戦略的利益の面でもきわめて重要な島々です。そして (繰り返しになりますが)これらの国々をめぐっては価値観、国連における役割、保健医療面の課題、気候変動、潜在的な軍事面での役割、健全な漁業資源等々をめぐる競争が激化しています」

日本と米国は、共にオーストラリアとニュージーランドが加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)の対話国であり、同フォーラムに大きく貢献している。日米それぞれの政府によれば、日本政府が 2018 年以降 5 億 8,000 万米ドル(661 億円)の開発援助を同地域に提供している一方で、米国政府は毎年 3 億 5,000 万米ドル(399 億円)を同地域に拠出している。さらに、米国国際開発庁(USAID )の「気候変動対策 プロジェクト(Climate Ready project)」は、太平洋諸島・地域による気候変動の影響緩和を支援するために、2017 年から 2022 年にかけて 2,400 万米ドル (27 億 3,000 万円)の予算を確保している。

米国はまた、米国沿岸警備隊の船舶に乗った 現地法執行機関の役人が自国 EEZ 内で犯罪を取り締まることができる二国間乗船協定を各国と締結済 みである。2020 年、米国陸軍は太平洋地域における同軍のプレゼンスを強化し、島嶼国・領土の市民援助プロジェクト、軍事・安保作戦および演習、人道援助プログラムや災害救助プログラムの設計と実行を支援する太平洋島嶼国作戦部隊(Operations in Pacific Island Countries)を創設した。

同 2020 年には、このほか米軍太平洋艦隊が 第 27 回環太平洋演習(RIMPAC)を実施した。この 演習は自由で開かれたインド太平洋を支えるシーレーン の安全確保に不可欠な相互運用性と戦略的な海上 パートナーシップの強化を目的として、2 年に 1 度行われている。8 月の 2 週間にわたってハワイ島周辺の海域で行われたこの RIMPAC 2000 には、10 のパートナー諸国から船舶22隻、潜水艦1隻、兵員等 5,300 名が参加した。

日本の外務省によると、日本は教育、保険、インフラといった分野の財政支援のほか、1996 年に東京で設立された太平洋諸島センター(Pacific Islands Center)を共同運営し、太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国の持続可能な経済発展を投資の促進や貿易・観光の振興を通じて支援している。日本の防衛省によると、日本はまた、「自由で開かれたインド太平洋」構想の一環として太平洋島嶼国との防衛面における協力や交流を強化しているという。これには初の多国間防衛大臣級会合である「日本・太平洋島嶼国防衛対話 (Japan-Pacific Islands Defense Dialogue)」の開催、日本の自衛隊部隊による航空機見学や寄港の推進などが 含まれる。前述の秋元諭宏・笹川平和財団会長は、2019 年 12 月のジャパンタイムズ紙で次のように語っている。

「米国の主要同盟国であり、太平洋島嶼国に長く継続的 に関わってきたアジアの一国でもある日本には、この地域で果たすべき独自の役割があります。また、自らが 支持する法治、質の高いインフラ、人間の安全保障  (ヒューマンセキュリティ)といった価値観を通じて経済発展と環境保全のメリットを強調できるのです」

太平洋諸島地域にあるキリバスの遠島の 1 つ、カントン(Canton)島に戦略的に建設された飛行場の衛星画像。中国はこの飛行場のアップグレードを計画している。デジタルグローブ(DigitalGlobe)

地域のリセット

オーストラリアの外務・貿易省によると、2016 年の 太平洋諸島フォーラム(PIF)会合で発表された オーストラリアの「太平洋ステップアップ(Pacific Step-up)」戦略は、同国の「最優先外交政策」であり、2020〜2021 年だけでも10億米ドル(1,137 億
4,000 万円)以上がこの地域に拠出されている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって同地域の生活に欠かせない観光産業とサービス産業が壊滅的な打撃を被った際には、支援対象が重要な物資にまで拡大された。オーストラリアのスコット・モリソン首相は、2020 年 9 月の国連総会で次のように述べている。 「オーストラリアは、これらの国々にとって最大の開発パートナーです。そのため防護具や検査機器、医療の専門知識を提供してきたほか、専門家や物資が出入りしやすい基本的サービスと人間の通路を維持しています」

一方、オーストラリア連邦政府によると、オーストラリアの「太平洋巡視艇交換プロジェクト(Pacific Patrol Boat Replacement project)」では、1987 年から 1997 年にかけて12の太平洋島嶼国と東ティモールに寄贈した巡視艇を新しい巡視艇と交換するため、2023 年までに21 隻を購入する予定である。オーストラリアの太平洋海上安全保障プログラムの一部をなすこの 2 億 5000 万米ドル (284 億円)の交換プロジェクトは、島嶼国の国境巡視能力、IUU 漁業その他の海上犯罪への対抗能力、捜索救助能力を高めることが期待される。2021 年 6 月には、ガーディアン級巡視艇の 11 回目の交換用として「RKS ティアノアイII」をキリバスに寄贈した。

このオーストラリアとタスマン海をはさんで向かい合うニュージーランドもまた、地域への関与を強化している。オーストラリアのモリソン首相とニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、2019 年2 月の声明で「太平洋の繁栄と安全は両国にとって根本的に重要」であると述べ、両国と島嶼国・領土とのパートナーシップを拡大することで合意した。ニュージーランドは、2018年に打ち出した「太平洋リセット(Pacific Reset)」政策に基づいて援助額を引き上げ、閣僚級会議の頻度を増やし、同地域に焦点を当てた 12 以上の外交・開発ポストを新設した。2020 年半ばには、災害対応などの活動をコーディネートする駐在防衛顧問をトンガに派遣した。ニュージーランド国防軍(NZDF)は、「倫理的かつ効果的なリーダーシップの基本を太平洋の保安要員に根付かせる」ための専門的なリーダシップ訓練を島嶼国に対して提供すると同時に、太平洋地域での水陸作戦と海上パトロールを支援するためのリソースを強化・再編成している。同軍の 「太平洋パートナーシップ推進(Advancing Pacific Partnership)」レポートは、「気候変動から戦略地政学的競争まで、太平洋が直面する一連の課題には、我が国や我が国と志を同じくするパートナー諸国からより多くのものを要求している」と指摘する。

確かに、今そこにある脅威に直面する太平洋島嶼国は、オーストラリア、日本、ニュージーランド、米国のみならず、インド太平洋、欧州そして世界中の友好国に頼ることになるだろう。パラオのウィップス大統領は、2021 年 3 月に台湾を訪れた際に次のように述べている。「小国である我が国は、簡単に潜入されてしまいます。そのため我が国を守り安全を提供してくれるパートナー諸国に頼っています」。中国人民解放軍は、この主権の脆弱性に関するウィップス大統領の懸念をさらに高めるような行動に出た。中国が領有権を主張する自治島を同大統領が訪問している間に、軍用機10 機を台湾の防空識別圏に送り込んだのである。

米国外交政策評議会のグレイ氏は、「ザ・ディプロマット」誌で、「中国政府の野心が急速に膨らむ中、米国とその同盟国はインド太平洋の小国が引き続き独立、安全、繁栄を享受できるように力を結集する必要があるだろう」と述べている。


太平洋パートナー諸国

太平洋島嶼国における持続的な関係の構築

太平洋島嶼国作戦

平洋島嶼国作戦部隊(OPIC)は、オセアニア全域の関係強化に向け、米国陸軍が太平洋を中心に展開する取り組みである。自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す同部隊は、個人の自由および世界の自治という共通の価値観を含め、米国と
太平洋島嶼国が強い社会的責任感をもって育んできた友好と連帯の歴史的な絆を強化するものである。同部隊のチームは軍、政府、社会のパートナーとつながることで専門知識の膨大なネットワークを活用し、オセアニア全域の価値を創出している。

部隊を構成するのは現役兵、予備兵および州兵を含む米国陸軍構成部隊の兵士たちである。2020 年に正式に発足し、主に本部所在地であるハワイ州フォートシャフターフラッツにある第 9 任務支援司令部(9th MSC)の部隊およびメンバーを含んでいる。その第9任務支援司令部は、すでにオセアニア(メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアを含む)に要員を駐留させている。同司令部がこの地域と深くつながっていること、任務に従事する多くの兵士たちにとってオセアニアは家族と祖先の地であることを考えれば同司令部はこの任務に最適である。

第 9 任務支援司令部の司令官として 2021 年 6 月に同作戦を指揮したティモシー・D・コネリー(Timothy D. Connelly)米国陸軍准将は次のように述べている。「第 9 任務支援司令部の素晴らしい点は、その陣形に現地(太平洋島嶼国)出身の兵士たちがいることです。彼らは米国陸軍から習得した素晴らしい軍事スキルと訓練経験を有するだけでなく、多くが南太平洋の出身者であることで現地の文化や言葉、習慣などのユニークな知識を私たちにもたらしてくれるのです」

オセアニアでの取り組みが形になった 2020 年初頭には、太平洋島嶼国を支援する複数の「オセアニア・パスウェイ・チーム(Oceania Pathways Teams)」が発足した。これらのチームは文化専門家と民事専門家で構成され、「受け入れ国の能力構築」「オセアニア全域の関係強化」という上位2つの目標をはじめとする数多くの目標を達成すべく結成されている。

同チームは、米国陸軍および姉妹軍のエンジニアリング能力、医療・獣医医療能力を活用して地域全体を支援してきた。一方では第 9 任務支援司令部もまた、災害対策プランの策定、安保協力や兵士の技能交流を担うチームを太平洋島嶼国に派遣している。「パシフィック・パスウェイズ(Pacific Pathways)」をはじめとする軍同士の訓練演習には米国、同盟国、パートナー諸国の軍隊の即応性を高める効果がある。文化的専門知識、民事、「太平洋島嶼国作戦部隊」の政府をあげた取り組みがもたらす資産の融合により長期的なパートナーシップと持続可能な成長が実現する。

その太平洋島嶼国作戦部隊もずっと順風満帆だったわけではない。部隊発足直後に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが襲来し、作戦に深刻な影響を及ぼした。当時の作戦責任者であるエリック・モーリー(Eric Morey)少佐は、次のように述べている。「我々はその時に行っていたすべての作業を中止し、計画を練り直すことを余儀なくされました。作戦という観点から見ると、それはとてつもなく大変なことです。すべての構成要素、同盟パートナー、オセアニア諸国について創造的なソリューションと忍耐、チームワークが要求されたからです」

そうした障害にもかかわらず同部隊はチームを前進させ太平洋島嶼国の支援に取り組んだ。米国インド太平洋軍 (USINDOPACOM )がオセアニアへのコミットメントを強化したことで最初に恩恵を受けたのは、フィジー、マーシャル諸島、パラオ、パプアニューギニア、東ティモールである。パートナー諸国の新型コロナウイルス感染症対策を支援することは、「太平洋島嶼国作戦部隊」の主な任務となった。

パンデミックのもたらす問題が 2021 年に持ち越されても同部隊は引き続き能力の構築に取り組み、より多くの太平洋島嶼国に活動の場を拡げてきた。同部隊の成功の鍵は駐留先の国々の実情に合わせたソリューションを提供する能力にある。それらの国々との深い文化的なつながりや協調こそが同部隊の主な成功の秘訣である。

同部隊の作戦のあらゆる局面で現地の文化を取り入れ学ぶことが重視される。最近行われたフィットネスセッションでは部隊の隊員がパドリングのレッスンを受けた。この古代の航法の基礎を兵士たちに教えたクリス・カオプイキ(Kris Kaopuiki)軍曹は、次のように述べている。「我々が支援する人々と文化を理解して体験し、これらに接するのにパドリングほど良い方法はありません。このスポーツの伝統と規律はこの地の古代社会と深く結びついているからです」同部隊の隊員たちは、カヴァの儀式や「太平洋諸島島民の文化遺産の夜(Pacific Islander heritage nights)」などのイベントにも積極的に参加してきた。

米国陸軍太平洋部隊が企画し指揮をとる「パシフィック・パスウェイズ」は、軍同士の演習を通じて米国、同盟国およびパートナー諸国の軍隊の即応性を高めるための取り組みである。演習はインド太平洋全域に普及しており最近ではオセアニア諸国の参加が増えている。

太平洋島嶼国作戦部隊は、米国インド太平洋軍が戦略的関係の構築を継続し、地域で息の長いプレゼンスを提供し続けるため成熟した資産として 2022 年を迎えた。同部隊が太平洋島嶼国にもたらす能力と価値は、上級幹部の関与、合同演習、会議、人道援助、災害対応計画の策定から新型コロナウイルス感染症関連の支援、エンジニアの関与、市民活動・プロジェクトまで膨大な数に上る。太平洋島嶼国作戦部隊の副司令官であるブレーズ・ザンドリ (Blaise Zandoli)米国陸軍大佐は、「米国とオセアニアの太平洋島嶼国は、多くの基本的な価値観を共有している。それらの価値観の軸をなすのは、民主主義と強固な社会的文脈における個人の尊重を織り込んだ人間の存在に対する精神的なアプローチだ。「この共通の価値観と現実的な互恵関係を考えれば提携を結ぶのは自然の成り行きと言える」と述べている。

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