偽情報の 戦略的な拡散

特集

中国共産党が情報環境を武器化した経緯 とこれに対抗する方法 

(文)イ・ドゥアン(DOOWAN LEE)/VAST-OSINT  |(写真)AP 通信社

中国共産党の習近平総書記が政権についてから間もなく、同党の中央公弁庁は後に「9 号文件」として知られることになる通達を発出した。党によるメディア統制とイデオロギー論戦の共同管理に対する揺るぎないこだわりをはっきりと強調した通達であり、アナリストはこれを国内の政治的支配や検閲を重視していた以前の党方針からの劇的な転換と解釈した。習が率いる中国共産党は、情報環境における影響力強化作戦を拡大し世界を操ろうとしている。この任務を担う重要な党組織の 1 つが、中央統一戦線工作部(UFWD)である。

同工作部の指揮の下、中国共産党はソーシャルメディアやニュースメディアのプラットフォームで偽情報による宣伝運動を展開するとともにAIを駆使して同党への抗議の声を検閲している。中国共産党のメッセージにはいくつかの主要テーマがある。たとえば、同党の独裁制モデルを自由主義圏の制度に代わる信頼できる仕組みとして紹介することにより、同党が責任感と善意にあふれた世界のリーダであることを海外のオーディエンスに納得させようと試みてきた。また、選挙や民主主義は正しいことであるとの認識も徐々に覆そうとしている。民主主義諸国の政治プロセスを妨害するために常に偽情報を使った宣伝運動を展開してきた。 

これらの事例は中国共産党による情報操作がますます精巧になっていることを示している。全体として、それらの作戦が米国や他の民主主義国の国家安全保障に以前より大きな脅威をもたらしていることは間違いない。米国とその同盟国およびパートナー諸国は、情報環境を、民主制と独裁制の激しい勢力争いが繰り広げられる重要な場の 1 つととらえるべきである。この記事では、2020 年以降認められた中国共産党による情報操作の主な特徴に光を当てる。次にこの増大する破壊的かつ分散型の脅威とどう闘うべきかについて 3 つの案を示すことにする。 

2020 年は、中国共産党の偽情報拡散活動を分析してきた者にとって重大な分岐点といえる年だった。新型コロナウイルスについての真実を歪曲するキャンペーンは、厚かましい公式声明とともに展開され、信じ難いほどの到達度を見せた。中国共産党は、国内と世界中の人々にウイルスは米国が故意に武漢に送り込んだ生物兵器だったと信じ込ませようとしたのである。このキャンペーンは中国外交部とその外交官、イラン、ロシア、サウジアラビア、ベネズエラなどの政府指導部や外交政策リーダー、多数のオンライン・メディアソースにより膨大な範囲に拡散された。これは国境を越えた共謀のネットワークが拡大しつつあることの証拠でもある。たとえばカナダの陰謀説ウェブサイトである「グルーバル・リサーチ・カナダ(Global Research Canada)」と中国共産党は、頻繁に互いの説を引用・検証し合っている。「情報ロンダリング」として知られるこの偽情報戦術は、中国共産党のキャンペーンを正当化するために、自由主義圏のものとされるアナリストやメディアによる偽情報の拡散を伴うのが普通である。中国外交部の趙立堅(Zhao Lijian)報道官が 2020 年 3 月に Twitter に投稿した新型コロナウイルスの起源に関する偽情報は、少なくとも 54 の言語で 9 万 9,000 回以上リツイートされ、約 2 億 7,500 万人に届いている。

捜査当局は、中国共産党が南シナ海における米国の活動についての誤認を生じさせる目的で 2020 年に大がかりなソーシャルメディア・キャンペーンを行っていたことを発見した。Facebookやその他の プラットフォームで行われ、13 万人のフォロワーを獲得したたこのキャンペーンには、フィリピンを再び中国側につけようという狙 いがあった。

インド太平洋という戦場

中国共産党の仕掛ける情報戦が世界に拡大する中、中国政府の偽情報キャンペーンの矛先はインド太平洋地域にも向けられている。特に、香港における 2019 年の民主運動について誤認を生じさせようという中国共産党の企てには高度な情報操作が認められた。同党はその広範なメディアインフラを利用して、民主活動家が海外の関係者と結託しているという見当違いの主張を拡散している。同様に台湾も標的にし、その政治的独立と社会的な結束の弱体化を図った。たとえば 2018 年 には、与党民進党の地盤である高雄市の市長選で親中的な国民党の韓国瑜(Han Kuo-Yu)候補にてこ入れし、大きなインパクトを与えている。民主進歩党を中傷し韓 国瑜を称える嘘の談話や細工した写真が中国やその関係国で制作され、ソーシャルメディアで広い範囲に拡散した。中国共産党は 2020 年の台湾大統領選でも揺さぶりをかけようと試みたが、台湾にはこれを迎え撃つ準備ができていた。ここではメディアリテラシーの向上と官民の連携による偽情報の拡散抑止が重要な役割を果たしている。 

地域の安定を脅かし米国の戦略的利益を侵食する中国共産党による情報操作は、台湾と香港以外でも展開された。調査報告書が大規模な強制収容所や失踪者の存在、裁判なしの死刑や強制避妊手術の横行を明らかにししても、中国共産党は真実を捻じ曲げるための攻撃をやめなかった。新疆ウイグル自治区で行われているウイグル族やその他の少数民族の大量虐殺 (ジェノサイド)を覆い隠すために、同自治区の経済発展や教育に関する偽りの主張を世界中にまき散らしてきた。さらには同地区から出る情報を独占するために、外国のジャーナリストが同地区に入るのを禁じている。タイでは、2020年に米国で襲われ暴力を受けるアジア人を撮ったという偽りの動画がソーシャルメディアに登場した。タイで反米感情を煽り拡散させることが狙いである。動画はタイの親中派によって広くシェアされ急速に拡散したが、実際はエクアドルの刑務所で発生した暴動の動画から取ったものだった。それだけではない。フィリピンでも南シナ海における米国の活動について誤認を招くようなキャンペーンがソーシャルメディア上で展開されている。中国共産党に賛同する現地政治家の言葉を大袈裟に取り上げ、13 万人のフォロワーを獲得したこのキャンペーンには、フィリピンを再び中国側につけようという狙いがあった。要するに、中国共産党による近年の偽情報キャンペーンは、以前よりはるかに広い範囲で強力に進められているということである。こうした情報環境で中国共産党に対抗するためには、3 つの点に注目する必要がある。第一に、中国共産党はメディアプラットフォームへの非対称的なアクセスを大いに活用している。Facebook、Twitterをはじめとする自由主義圏の主なソーシャルメディアプラットフォームが独裁制側からのアクセスをほとんど(または全く)制限していないのに対し、WeChat(微信)、Sina Weibo (新浪微博)、Tencent Weibo(騰訊微博)、Tencent QQ (騰訊QQ)といった中国のソーシャルメディアは自由主義圏からのアクセスにさまざまなレベルの規制を課している。さらに中国共産党は、そのソーシャルメディアプラットフォームを検閲と監視に利用している。これらのプラットフォームの外国人による利用のデータは、収集・諜報目的で同党により集計されている可能性が高い。中国本土のユーザーは、ほとんどの自由主義圏のニュースメディアやソーシャルメディアプラットフォームにアクセスできない。そのため中国共産党が中国国内で発信している偽情報をいかに把握し、これらのプラットフォーム上のデータを集計するかが自由主義圏にとっての課題となる。 

第二に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界を襲って以来、中国共産党がそのオンラインでのプレゼンスを世界中で飛躍的に高めてきた。自由主義圏のソーシャルメディアにおける中国共産党員の活動は、もはや記録的なレベルに達している。たとえば同党の外交官が 2020 年の9 ヵ月間で行った Twitter への投稿は、1 日平均 778 本、合計 210,382 本に上る。

第三に、中国共産党の諜報機関は膨大な量のデータを武器に監視と検閲を行うにあたり、国家が管理するテクノロジー企業に大きく依存している。米国やその同盟国がこれを単純に模倣すれば、民主主義の原則と基準を大きく侵すことになる。中国共産党の関連企業は、サイバー攻撃を可能にするバックドアをインストールしていることで知られる。また、同党がこの地域で実施するサイバースパイ活動とサイバーハッキングも大幅に増加した。  

要するに、情報戦は大国間の競争の最も重要な場ということである。しかも中国共産党による情報環境の武器化がここまで進んだことは、地域内外の安全保障にとって深刻な脅威である。米国とその同盟国およびパートナー諸国は、通常の軍事計画 および作戦にデータ駆動型のオープンソース・インテリジェンスを取り入れる必要がある。中国共産党のプロパガンダの急速な拡大に対抗するには、以下の戦略が有効である。 

中国外交部の趙立堅(Zhao Lijian)報道官が 2020 年 3 月にTwitterに投稿した新型コロナウイルスの起源に関する偽情報は、少なくとも 54 の言語で 9万 9,000 回以上リツイートされ、約 2 億 7,500 万人に届いている。

情報環境における競争

第一に、いわゆる「荒らし潰し(whack-a-troll)」的なアプローチだけで中国共産党の偽情報と闘うのは不可能と心得る必要がある。悪意のある行為者は他のプラットフォームに移動したり、ユーザーアカウントを変更する可能性があるためだ。中国共産党は、そのアカウントを他国の政府や企業が排除するより速く、いつでもより多くのアカウントを作成したり契約することができる。各国政府は、むしろ偽情報を全領域で絶え間なく続くキャンペーンとして扱うべきである。より具体的に言うと、情報環境の完全性の保全を担う責任者は以下を考慮する必要がある。

偽情報の出所、拡散の仕組みと影響を絶えず観察する。地上での作戦と同様に、情報戦においても敵の指揮、コントロール、戦略およびコミュニケーションをマッピングし共有することが重要である。

偽情報の拡散システム全体に注目する。他のあらゆる武器システムと同じく、偽情報にも特定可能なサプライチェーンがある。中国国内のドメインを攻撃することはほぼ不可能だが、中国共産党の偽情報は地域や現地のメディアに大きく依存している。

積極的な行動の適切な過程を社会全体の観点から決定する必要がある。脅威の多くが商用または民間のネットワークに存在する以上、政府だけで悪意のあるコンテンツの影響に対抗するのは不可能な場合が多いことに注意すべきである。ここでは産業界や市民社会との協力を検討することが非常に重要になる。

最適な行動過程を実現するために、利用可能な最良のソリューションに従って行動する。この措置の好例が、事実確認とセキュリティー侵害を受けたメディアの公開を推進する台湾の「デジタル説明責任プロジェクト(Digital Accountability Project)」である。

台北で支持者と共に 2020 年 1 月の再選を祝う台湾の蔡英文総統。中国共産党は蔡の対立候補を支持して選挙に影響を与えようとしたが、メディアリテラシーの向上と官民の連携による偽情報の拡散抑止に阻まれて失敗した。

第二に、政府および産業界のリーダーは、あらゆる危機において、外国や過激派による情報操作がより強力かつ頻繁に行われることを予想しておく必要がある。新型コロナウイルス感染症は、独裁政権が偽情報を利用して民主主義国家の危機を増幅させようとした例である。言い換えれば、特に新たな危機の発生に備えて悪意のある情報操作から資産や国民を守るための常駐システムを官民で開発することがきわめて重要である。このような取り組みの一環として、国外からの政略的かつ破壊的な情報操作に国民が騙されないようにするための積極的なメッセージの発信も行うべきである。

第三に、政府と産業界のリーダーは官民提携をさらに活用・推進することで、成熟した技術ソリューションの統合を促進しなければならない。たとえば米国政府は、米国国防省国防イノベーション委員会の下部組織である国防イノベーションユニット(Defense Innovation Unit)や国家安全保障イノベーションネットワーク (National Security Innovation Network)のようなイノベーション提携プログラムを、同盟国やパートナー諸国が再現・調整できるように支援すべきである。つまり民主主義諸国が開かれた社会の同盟として中国共産党の情報戦に対抗する方法を共に考え、調整・分配できるようにしなければならない。 

情報環境における中国共産党との競争を有利に進めるには、社会全体のアプローチが単なる選択肢ではなく、むしろ必須条件となる。このアプローチでは情報国家戦略を担う各政府機関が、シンクタンク、学識経験者、民間企業のステークホルダーからなる諮問委員会を設置し、より永続的な官民提携の枠組みを構築する。この専門家委員会は、定期的に会合して開かれた社会と経済をめぐる戦略的課題について討議し、確証バイアスや官僚主義に妨げられることなく解決策を模索することになる。

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