特集

中国版 ギャング主義

中国政府の組織犯罪との結びつきは民主主義を損ない、地域の安定を脅かす

FORUM スタッフ

2017 年 1 月 7 日、台湾の桃園国際空港に到 着した香港の親民党活動家を親中国政府派デモ 隊の暴徒が襲撃した。台湾警察は後に攻撃者の中に四海幇、竹聯幇組織犯罪シンジケート、中国統一促進党(CUPP)のメンバーを特定し、暴徒の中には元竹聯幇指導者かつ中国統一促進党創設者で白狼(White Wolf)の名 でも知られるチャン・アンロー(Chang An-lo)の息子、 チャン・ウェイ(Chang Wei)も含まれていると発表した。

2020 年 1 月 15 日には当時のパプアニューギニア ・ブーゲンビル自治州のジョン・モーミス(John Momis)大統領と三合会・14K の元指導者でブロークン ・トゥース(Broken Tooth)の名でも知られるワン・クオック・コイ(Wan Kuok-Koi)が一緒にいるところが 撮影されており、その前月にブーゲンビル自治区で行われた拘束力のない住民投票では 90% 以上がパプアニューギニアからの独立に賛成している。ワンは退役軍人で元中国人民解放軍(PLA)上級大佐の李英明中国人民解放軍国防大学准教授とともにブーゲンビル島を訪問し、2 人はブーゲンビル島の経済特区とデジタルバンクの開発を約束した。李氏は世界的に広がる貿易ルートとインフラプロジェクトのネットワークである中国の一帯一路  (OBOR)に沿って軍民融合を提唱するパプアニューギニアの企業を運営しており、これらのブーゲンビル島と台湾での一見無関係な事件は、中国共産党(CCP)の国家戦略的利益を支援するために国際的な犯罪組織が活動していることを浮き彫りにしている。

これらの活動が国家の指示によるものであるという証拠はないが、政府は中国共産党の目標を支援するために行動すると主張する犯罪企業によって引き起こされた弊害に目を瞑っている可能性がある。さらに、40 年近くにわたって積み重ねられた証拠が示すとおり、中国共産党は 国家の優先事項を達成するために国際犯罪組織を活用 しようと何度も試みてきた。

通常、中国系の構成員が多い国際的な犯罪組織は三合会 であると見なされており、多くの場合中国、シンガポール、 または台湾に拠点を置いているが、常に犯罪に関与 しているとは限らない。三合会は 17 世紀の中国で清朝に対抗する秘密結社として発祥したもので、米国議会の 報告書によると、1900 年代初頭よりグループは徐々に分裂し、一部の派閥は政治よりも犯罪に焦点を当てた活動 を行っている。三合会傘下の 14K と新義安は、組織犯罪に関与するグループの中では最大規模のものだ。

台湾で開かれた集会で演説する中国統一促進党(Chinese Unification Promotion Party)の創設者チャン・アンロー(またの名を白狼(White Wolf))。2013 年にチャンが台湾に帰国して以来、中国統一促進党の準軍事的な犯罪者勢力である竹連合と四海幇は、台湾の独立支持団体と頻繁に暴力を伴う対立を繰り広げている。ロイター

組織犯罪を容認する中国共産党

中国共産党の職員は政府の目標を支援するために香港、 マカオ、台湾で中国の組織犯罪と直接協力する意欲を示している。1984 年 10 月、当時の鄧小平中国共産党主席は、国益に資する範囲で組織犯罪分子と協力する用意 があると述べ、中国の三合会には「愛国的な要素」が含まれており、「彼らの中には良い人がたくさんいる」 と指摘するとともに、三合会は海外の中国の高官を保護 していたと述べた。1993年、中国公安局の陶聯앝(タオ ・スーチー)局長は「これらの人々が愛国者であり、 かつ香港の繁栄と安定に関わる限り、我々は彼らと団結するべきだ」と述べて説明した。陶氏はその後、三合会 ・新義安のリーダーと目された香港のエンターテイメント 界の実力者、チャールズ・フン(Charles Heung) と共に北京に「トップテン・バー(Top Ten Bar)」 とナイトクラブをオープンしている。

1997 年に香港が中国に引き渡されて以来、同都市の三合会は中国の利益を支援するためにますます積極的な行動を取ってきた。2014 年 2 月の『明報』 紙元編集者ケビン・ラオ(Kevin Lao)氏に対する刀を 用いた残虐な襲撃に代表されるように、中国政府に 批判的なジャーナリストは三合会のメンバーによって標的にされている。2019 年 7 月には三合会のメンバーが鉄道駅で民主党支持の抗議者を襲撃し、政府が選別したメンバーによる新しい香港政府は三合会の関与 をうやむやにすると共に、この事件は暴動であると偽って主張し、民主派の議員を逮捕した。 

2005 年 9 月に中国本土で中国統一促進党(CUPP) を設立し、逮捕を免れるために 20 年近く亡命生活を送った チャン・アンローは、「中国は私にとって神である」 と宣言するほど熱心な中国政府の代弁者となった。2013 年に チャンが台湾に帰国して以来、中国統一促進党の準軍事的 な犯罪者勢力である竹連合と四海幇は、台湾の独立支持団体 と頻繁に暴力を伴う対立を繰り広げている。チャン はさらに、中国との統一を支援するために台湾で「赤軍  (Red Troops)」を募集していると主張しており、 台湾当局はチャンが台湾の民主主義と主権を損なうために 中国政府の命令に基づいて行動していると主張した。 

中国の組織犯罪と東南アジアにおける汚職

東南アジアでは中国と犯罪組織との不透明な関係が汚職 と地域の不安定化を助長しているが、中国はこの地域の違法薬物に対する戦いでリーダーシップを誇示している。 2011 年 12 月より中国公安局はメコン川沿いのパトロール を指揮しており、ラオス、ミャンマー(ビルマ)、 タイも時折参加している。しかし綿密な分析では中国政府 はミャンマーのワ州連合軍(UWSA)に外交および安全保障上の支援を提供しており、同組織は外国麻薬 キングピン指定法に基づき米国財務省によって指定されている世界最大のヘロインとメタンフェタミンの密売組織の 1 つとされる武装民族グループだ。

中国政府はまた、ゴールデン・トライアングル経済特区  (SEZ)とラオスの金木棉賭場(Kings Roman Casino)を運営する中国人の趙偉(Zhao Wei)の活動にも目を 向けている。この経済特区は、この地域における野生動物、 麻薬、人身売買の拠点となっており、2018 年 1 月に 米国財務省は趙と彼の会社および関係者を国際犯罪組織と見なし制裁を課している。ゴールデン・トライアングル経済特区を訪問したジャーナリストは、中国通信建設有限公司(China Communications Construction Co .)などの中国国有企業が趙の事業のための 施設建設に重要な役割を果たしていることを指摘 している。

2021 年 3 月、当時マレーシアの警察署長であったタン・アブドゥル・ハミド・バドール(Tan Abdul Hamid Bador)氏は、ワン・クオック・コイ(Wan Kuok-koi)のビジネスパートナーであるニッキー・リョウ(Nicky Liow)とつながりのある、いわゆるマカオ詐欺シンジケートの取り締まりを発表した。この作戦では 68 人が逮捕され、約10億ドル(100 万米ドル)以上の資産が押収されるとともに 41 の銀行口座が凍結され、犯罪組織に関係している容疑でマレーシア人法執行官 34 人が逮捕された。 AP 通信

さらに南に位置するミャンマーのカレン州では、中国企業が趙のカジノ中心の事業形態を模倣して経済特区を構築中だ。シュエ・コッコ(Shwe Kokko)とも呼ばれるヤタイ・ニュー・シティ(Yatai New City)計画はカンボジア国籍を主張する中国人によって主導されており、その親会社は中国の国有企業と名前を共有している。このプロジェクトの現地パートナーは、カレン国境警備隊を率いるソウ・チット・トゥ (Saw Chit Thu)大佐と、麻薬、武器、人身売買に関与する民族武装組織である民主カレン仏教徒軍だ。

中国政府はヤタイ・ニュー・シティの国家的役割を否定しているが、中国海外中国人起業家連盟(China Federation of Overseas Chinese Entrepreneurs)は、ミャンマーの商業的首都ヤンゴンで開催された式典でこのプロジェクトを公的に承認した。中国国務院の承認を受けた同連盟は中国民政部に登録されており、中国統一戦線工作部の構成部門である全中国帰国華人連合会(All-China Federation of Returned Overseas Chinese)によって管理されている。カレン州の近くでは、ワンが率いるカジノプロジェクト 「サイシーガン(Saixigang)」という別の開発プロジェクトもある。

犯罪ネットワークが確立する 中国政府の戦略的利益のための橋頭堡

ワンの活動は犯罪者が一路一帯政策に沿って中国政府の 戦略的利益を追求していることを示している。ワンはインド太平洋地域を通じて外国の重要な政治指導者と自由に接触し、強力なパイプでつながる中国の治安関係者 から支援を享受してきた。ワンの最も野心的なプロジェクト のいくつかは、台湾をまだ国家として承認している パラオなどの国、またはブーゲンビル島やカレン州 などの自治区・分離独立地域にあり、それらの地域 による中国の公然な関与は受け入れ国に対する 内政干渉とみなされる可能性がある。

中国人民政治協商会議(CPPCC)のメンバーであるワンは、中国の戦略的利益に沿ってインド太平洋全域で幅広いプロジェクトを進めており、2018 年にはカンボジアのプノンペンに世界洪門歴史文化協会の事務所を設立し、カンボジア、マレーシア、フィリピン、タイで洪門関連の民間警備・仮想通貨プロジェクトを立ち上げている。

2018 年から 2019 年にかけて、ワンは太平洋の島国パラオで複数のカジノおよびゲームリゾート関連の事業展開を模索するとともに、同地での洪門支部の設立を試み、パラオは台湾を中国の一部として認めるよう認識を転換すべきと提唱した。

ワンは自身の洪門の民間警備会社は一路一帯プロジェクトを支援するために中国の特殊部隊の退役軍人と契約を結ぶ準備があると宣伝しており、2019 年 10 月にはマレーシアのクアラルンプールで中国人民武装警察雪豹突撃隊隊長のシー・ウェイダン  (Shi Weidang)大尉と一緒にいるところが撮影されている。また、カンボジア首相のボディガード部隊と カンボジア軍のメンバーを訪問する様子も撮影されており、2020 年 3 月にウェブサイト『アフリカインテリジェンス』は、ワンが一路一帯の「支持者としてウガンダで存在感を高めている」と指摘した。洪門の警備会社と建設会社はウガンダで登記を済 ませており、これはワンのグローバルな野望の大 きさを示している。

ワンのブーゲンビル島でのパートナーである退役軍人で元人民解放軍上級大佐の李氏もコンゴ民主共和国の国連軍事監視員(United Nations Military Observer)を務めたことがあり、中国の新聞『人民日報』には中国人民解放軍の国際的な足跡と視野の拡大を支持する者として紹介されている。ワンと李氏はブーゲンビル島の空港、港湾施設、都市インフラの建設資金を確約しており、これらの活動は南太平洋における前向きな姿勢を強化するという中国の目標と一致するものだ。

2020 年 12 月、米国財務省はグローバル・マグニツキー人権問責法に基づきワンとその会社を国際汚職の容疑で制裁対象とし、対するワンは 2020年12 月 24 日に公表されたインタビューの中で、三合会の 14K、新義安、和勝和、台湾の竹連合と四海幇、および米国に拠点を置く華青と福建のギャングを含む、反米で中国政府を 支持する世界中の中国系組織犯罪シンジケートを統一する意向を表明した。

2021 年 2 月にはマレーシアが 2020 年 8 月から12 月にかけて同国のテクノロジー企業イニックス(Inix) の会長を務めていた時期に証券詐欺に関連する容疑でワンを起訴したと発表し、2021 年 3 月下旬にマレーシア警察は、同じく洪門組織の副会長に任命されていたワンのビジネスパートナーであるニッキー・リョウ (Nicky Liow)とのつながりを持つ大規模な犯罪ネットワークを破壊した。マレーシアは、リョウとワンのつながり、および米国財務省の制裁が捜査のきっかけとなったと説明している。

2021 年 3 月 27 日に北京で開催された式典で、中国政府が後援する中国国際経済技術協力促進協会 (China Association for Promoting International Economic and Technical Cooperation、以下 CAPC)はワンに対して儀礼的な表彰状と「洪門愛国者首席代表(Chief Representative of Hongmen Patriots)」の称号を授与しており、CAPCは中国人民政治協商会議 (CPPCC)副議長のワン・ガン(Wan Gang)氏が率いる中国科学技術協会(China Association for Science and Technology)に属している。

沈黙は同意に等しい

中国共産党は、政府の戦略的利益を代表すると主張 する中国系犯罪組織の行動について沈黙してきた。ワンに対する米国財務省の行動に対して中国政府ができることといえば、ワンは中国人民政治協商会議のメンバーであるという報道を全面的に否定することだけだった(この報道は国内外のメディアで広く真実として伝えられたものだ)。中国は、現在ラオスのバンマム(Ban Mom)にある約 50億円(5,000 万米ドル)の港湾施設で投資を拡大している麻薬王・趙を拘束する措置を講じていない。中国政府はまた、ミャンマーの人道的および治安状況が悪化する中でもワ州連合軍(UWSA)と軍が運営する悪名高い麻薬工場への支援を維持している。

国際規範と法規則を尊重することを示すために、中国政府はその名の下で活動する犯罪ネットワークとの関係を断ち切り、一路一帯政策の下で蔓延する汚職を取り締まるために国際的なパートナーと協力する必要がある。改革に向けた真剣な取り組みがない場合、中国は国内外のギャングへの支援によるメリット、同国の国際的な評判に対するリスクを上回ると考えていると見られることになる。

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