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海洋領域認識の向上を目的として海技共同開発を推進する米国

FORUMスタッフ

海上国境の保護に向けてほぼリアルタイムの世界的な海洋状況認識の能力強化を図るため、米軍は共同技術開発を推進することで、違法漁業や人身売買から主権関連の脅威に至るまでのあらゆる課題に対処できる対策の構築に取り組んでいる。

最近の成功事例として、ユーザー定義の基準に基づいて海洋の船舶を識別、照会、選別するシステムの開発に取り組む米国海軍調査研究所(NRL)の新規プログラム「プロテウス(Proteus)」、および合成開口レーダーにより海洋の船舶を特定・区別する機械学習モデルの推進を図る国防イノベーションユニット(DIU)の国際コンテスト「xView3」が挙げられる。

専門家等の説明によると、監視衛星、高解像度レーダー、データ共有ソフトウェアといった高度軍事技術を海洋安保課題の解決に適用することを目的として、特に米国海軍と米国沿岸警備隊(USCG)が同盟・提携諸国間における協力体制の拡大を推進している。

世界各地で悪化を続けるIUU(非合法・無報告・無規制)漁業などの安保脅威がより広範な安定性の問題の要因となっていることで、高度な海事能力に対する需要が非常に高まっている。

ナショナル・ディフェンス(National Defense)誌が伝えたところでは、戦略国際問題研究所(CSIS)のスティーブンソン海洋安保プロジェクトを率いるホイットリー・サウムウェーバー(Whitley Saumweber)博士は2021年12月に、「IUU漁業を政府が後援し、これを経済的目的の手段としてだけでなく、二国間関係を感化する目的で対象海域を広げながら操業している中国は、明らかに状況悪化の最大要因になっている国の1つである」と述べている。

国防イノベーションユニットが2022年1月に発表したニュースリリースで、米国沿岸警備隊の対応方針担当副指揮官を務めるスコット・クレンデニン(Scott Clendenin)少将は、「IUU漁業は世界最大級の海洋安保脅威となっている。その影響は広範囲に及んでおり、これによりすべての国家、特に沿岸に位置する発展途上国の経済と食料安保が脅かされている」と話している。

クレンデニン少将は、「広大な海洋で船舶自動識別装置(AIS)や船舶監視システムを搭載せずに運航している船舶を検知および特性評価するには、広範なデータ分析を活用する必要がある」と説明している。

同少将はまた、「人工知能と衛星画像を組み合わせることで、米国や提携諸国の漁業取締機関の目を逃れ得るIUU漁業の容疑船を検知できる新機能が得られる。これにより海洋領域認識(MDA)が高まるため、その情報を同志国や提携国と共有することで、各国が自国の主権をより良好に保護できるようになる」と述べている。

米国運輸省(DOT)連邦海事局(MARAD)海事保安課のキャメロン・ナロン(Cameron Naron)所長は、船舶を監視できる米国海軍調査研究所の「プロテウス」ソフトウェア(写真参照)により、関係者は「世界中の違法漁業活動やその容疑船を共同で検知して調査できるようになった。従来はこうした措置を講じることは不可能であった」と説明している。

プロテウスを活用することで、多くの情報源から収集されたデータが処理・融合される海洋領域認識機能の統合システムにより、世界中の船舶の追跡情報を自動的に生成することができる。米国海軍調査研究所の説明によると、同システムにはデータ収集機能、多数の情報源からのデータを融合するエンジン、複合イベント処理機能、海洋領域認識サービスレイヤー、ウェブベースの共通状況図、分析ツールが搭載されている。

一方、国防イノベーションユニットは2021年後半、位置情報を共有しないために公共の監視システムに表示されないことから「暗黒船団」と呼ばれる船舶が従事する違法漁業を検知し、その船舶の規模や速度を判断するオープンソースのコンピュータビジョンアルゴリズムの開発推進を目的として「xView3」コンテストを開催した。同コンテストには67ヵ国から1,900人超が参加し、合成開口レーダーで捉えたデータを2D/3Dに再構成するアルゴリズムの能力を競った。

2022年1月31日に国防イノベーションユニットから5ヵ国に点在する5人の受賞者が発表された。1,500万円相当(15万米ドル)の賞金はこの5人に分割して授与されている。同ユニットは国際的な非営利団体「グローバル・フィッシング・ウォッチ(GFW/Global Fishing Watch)」、米国沿岸警備隊、米国海洋大気庁、国家海事情報統合局(NMIO)と提携している。

グローバル・フィッシング・ウォッチを共同創設したポール・ウッズ(Paul Woods)最高イノベーション責任者は、「海洋における人為活動に関する知識を増やし、世界の提携諸国が正確な情報に基づいて効果的な運用を的を絞って実施できる環境を構築する上で、xView3コンテストのような取り組みから誕生するデジタルツールは不可欠な要素となる」と説明している。

国防イノベーションユニットで人工知能・機械学習の技術部門を率いるジャレッド・ダンモン(Jared Dunnmon)博士は、「コンテストの一環として開発された機械学習モデルにより、米国と世界の提携諸国は人間のアナリストだけでは実際に不可能な速度と規模で潜在的なIUU漁業活動を特定することができる」とし、「衛星画像を人間の目で調べる場合、画像あたり数時間かかる可能性がある。しかし、重要と見なされる衛星画像を最新のコンピュータビジョンアルゴリズムを使用して調べれば、記録されているすべての衛星画像を数分で処理することが可能となる」と述べている。

xView3コンテストの受賞アルゴリズムは、米国海軍の「SeaVision」海洋領域認識機能とプロテウスシステムに統合される予定である。

「プロテウス」に関するお問い合わせ先:電子メール – Proteus-info@spacemail.nrl.navy.mil

 

画像提供:米国海軍調査研究所

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