特集

平和 尊厳 そして 平等

国際的な取り決めの遵守を迫るため、各国は普遍的な人権基準を強調

FORUM スタッフ

アイデンティティやどこで暮らしているかに関わらず、人々は皆自らが公正にかつ尊厳を持って扱われ、暴力や差別のない生活を送り、生活の質を向上させる機会や選択肢に恵まれたいと望んでいる。これらの権利は本質的に基本的人権
に等しい。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、 「人権とは国籍、居住地、性別、民族性、肌の色、宗教、言語その他の社会的地位に関わらず、すべての人間に対して固有の権利である。すべて人は差別なく平等に人権を享有することができる。これらの権利は不可分かつ相互依存的であって、相互に連関している」と述べている。

1948 年にパリで開催された国連総会で採択された世界人権宣言は、1999 年に世界で最も翻訳された文書として記録を打ち立てた。これは人権が非常に重く受け止められていることを示している。世界人権宣言の序文は「人類社会のすべての構成員」の譲ることのできない権利として世界における自由、正義及び平和の基礎を定めている。世界人権宣言の第 1 条は、人権のもうひとつの基礎として人間は尊厳を持って扱われること強調している。この宣言はまた、奴隷制度および奴隷売買、強制結婚、不当逮捕、私事と通信への干渉を禁じるとともに誰もが財産を所有し、他国に亡命し、意見を述べ、教育を受ける権利を持つことを宣誓している。

8 ヵ国を除きすべての国がこの世界人権宣言に署名しており、インド太平洋地域で署名していない国はない。だからといって、この地域全体で人権に関する問題がないわけではない。北朝鮮が良い例だ。

ニューヨークに本部を置く国際的な非政府組織(以下、NGO)であるヒューマン・ライツ・ウォッチのジョン・シフトン(John Sifton)アジア提唱ディレクターは、「70 年以上にわたり北朝鮮政府は人民を圧迫し世界から孤立させてきた。基本的な権利の体系的な否定は、広範囲にわたって持続的かつ深刻な貧困を引き起こしている」と述べ、「現在の状況は特に懸念を呼んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)最高指導者は食料や製品の流通に新たな厳しい管理を施すとともに、国内へのすべての情報の流入を停止し中国との国境を完全に閉鎖することでパンデミックを利用して権力をさらに強化しているようだ」と述べた。

2021 年 3 月のイスタンブールでの抗議活動中、新疆ウイグル地域における中国の人権侵害を非難するトルコのウイグル人コミュニティのメンバー。 AP通信社

これらのシフトン氏の意見は 2021 年 4 月の米国議会公聴会で超党派のトム・ラントス人権委員会を前にして発せられたものだ。同委員会は「国連人権宣言およびその他の関連する人権文書に明記されているように、議会内外で非党派的かつ国際的に認められた人権規範を推進、擁護、提唱する」ために創設された。 

北朝鮮に関しては他にも課題が残っている。国連の北朝鮮の人権に関する報告書によると、「朝鮮民主主義人民共和国で活動する国連の機関は依然としてデータや情報へのアクセスの深刻な欠如に直面しており、人道的ニーズの評価と最も脆弱な人々への援助に課題を残し続けている」という。

こうした事態にも関わらず、国際社会は北朝鮮などを舞台に人権の尊重を働きかけ、違反する国に行動を変えるよう圧力をかけ続けている。 

国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)の 2018〜2021 年管理計画には、「私たちを取り巻く環境は完全に把握できない形で変化しており、予測できない結果をもたらしているが、人権は依然として私たちの最も確実で普遍的な基準点であり、包括性、持続可能な繁栄、正義、尊厳、自由、持続可能な平和への道筋を示すものだ」と記されている。

コロナ感染拡大中に残された人権上の課題

NGO のアムネスティ・インターナショナルは、新型コロナウイルスが多くのインド太平洋諸国の人権状況を悪化させたと報告した。同組織は、「一部の国の政府はパンデミックを利用して新型コロナウイルスに関する情報を受け取り発信する権利を含む表現の自由の権利を不当に制限し、批判的な意見をもみ消した」と述べている。

アムネスティ・インターナショナルはパンデミックが始まる以前からインド太平洋諸国の一部の政府はすでに人権の弾圧を開始していたと述べ、

2019 年の年次報告では、「東南アジア全体で抑圧的な政府がさらに勢力を強め、反対する者やメディアを沈黙させ、市民空間を縮小させた。それらの国の多くでは平和的な抗議活動への参加さえも逮捕の引き金となるほどになった。南アジアではそれらの政府が以前から用いられている抑圧の手法を継続的して用いるための新しい方法の考案を急いでいるように見えた。そうした兆候は特にオンライン上の反対意見を罰する厳しい法律の制定を通じて顕著に見られた」と述べた。

さらにアムネスティ・インターナショナルは、新型コロナウイルスの感染が拡大して以降この地域の多くの政府が人権 NGO の運営を妨害し、人権擁護団体が違反行為を告発するのを防ぐ試みを続けていることを指摘している。

加えて、中国共産党が人権擁護者や活動家に嫌がらせ、脅迫、拷問を加えており、しばしば「国家機密の漏洩」などの曖昧な罪状とともにそれらの人々を告発していることを伝えている。

2021 年 4 月に発行された『2020/2021 年アムネスティ・インターナショナル報告書:世界人権情勢 (Amnesty International Report 2020/21: The State of the World’s Human Rights)』によると、「告発された者の裁判は日常的かつ秘密裏に行われており、弁護士に相談する権利は剥奪されていた。これらの人権擁護団体の多くの弁護士は移動の自由の権利を否定され、依頼人と会うことも事件の資料にアクセスすることもできなかった」という。

北朝鮮難民人権協会が保護した難民の写真が韓国のソウルで展示 されている。ロイター

今まで中国共産党は党のイデオロギーと慣行に合うように人権の意味を変更しようと試みてきた。オンライン雑誌の『ザ・ディプロマット(The Diplomat)』は2021 年 2 月下旬、中国の王毅外相は人権とはまず経済発展と安全保障に焦点を合わせ、最後に民主主義と自由に焦点を合わせるものであると再定義したと報じている。中国共産党の人権にまつわる歴史を擁護するため、中国共産党員は政治的権利よりも経済成長を常に強調する。 

中国が新型コロナウイルスの発生を公表する前の2019 年後半にウイルスに関する情報を広めようとした8 人のうちの 1 人である李文亮博士は、感染を避けるために 個人用保護具を着用するよう同僚にメッセージを送 った後に中国共産党から叱責を受けた。李博士はその後、新型コロナウイルスに感染し亡くなっている。

カンボジアでは、当局が団体及び NGO に関する法律(Law on Associations and NGOs)を利用して人権擁護団体を違法団体として指定した。この法律では国内外の NGO に登録が義務付けられており、政府関係者への四半期ごとの報告を要求している。  

中国の内モンゴル地域では 2020 年 9 月、一部の授業の教授要件をモンゴル語から中国語に変更する新しい言語政策に関する抗議が行われた。アムネスティ・インターナショナルは、数百人の抗議者が「挑発行為とともにトラブルを引き起こした」として逮捕されたと報じている。 

同 NGO はインド太平洋地域のこれらの政府に対し、現在の措置を撤回し、人権擁護者に対する暴力に対処し加害者の責任を問うよう呼びかけるとともに、2020 年/21 年報告書に「すべての人々が人権を効果的 に享受できるよう、人権保護団体が、罰、報復、脅迫を受けずに業務を遂行できることが重要である」と記 している。 

ASEAN 人権宣言

ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟 10 ヵ国は 2012 年にASEAN 人権宣言(AHRD)を採択したことにより、世界人権宣言へのコミットメントを再確認した。世界人権宣言にならって作成された ASEAN 文書では、次の 9 つの一般的な原則が概説されている。

  1. すべての人は生れながらにして自由であり、かつ尊厳と権利について平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
  2. すべての人は、人種、性別、年齢、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、経済的地位、門地、障害またはその他の地位などのいかなる差別もなく、これに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
  3. すべての人は、いかなる場所においても、法の下において人として認められる権利を有する。すべての人は、法の下において平等であり、いかなる差別もなしに法の保護を受ける権利を有する。
  4. 女性、子供、高齢者、障害者、移住労働者および脆弱で過疎化されたグループの権利は、人権と基本的自由のの不可譲かつ不可分の一部である。
  5. すべての人は、憲法または法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、裁判所またはその他の管轄当局による効果的かつ強制可能な救済を受ける権利を有する。
  6. すべての人は、他のすべての個人、コミュニティーおよび自身が帰属する社会に対して責任を負うため、人権と基本的自由の享受は対応する義務の遂行と均衡が保たれなければならない。最終的にすべての人権と基本的自由を促進および保護することは、すべてのASEAN加盟国の主要な責任である。
  7. すべての人権は普遍的であり、不可分かつ相互依存的であって相互に連関している。この宣言中のすべての人権と基本的自由は、公平かつ平等な方法で同じ基礎に基づき同一の強調をもって扱わなければならない。同時に人権の実現は、異なる政治的、経済的、法的、社会的、文化的、歴史的、宗教的背景を念頭に置いて地域および国の文脈に基づいて考慮されなければならない。
  8. 人権及び基本的自由は、他者の人権及び基本的自由を尊重した上で行使されなければならない。人権及び基本的自由の行使は、他人の人権及び基本的自由の正当な認識を確保することを目的とし、かつ、民主主義社会における国家の安全、公共の秩序、公衆の衛生、安全、道徳並びに国民の一般的な福祉の正当な要件を満たすことのみを目的として法律により定められた制限の対象とする。
  9. この宣言に含まれる人権と自由の実現にあたっては、公正性、客観性、非選択性、非差別、非対立、二重規範と政治化の回避の原則が常に守られなけらばならない。このような実現のプロセスは人々の参加、包括性、説明責任の必要性を考慮しなければならない。

ASEAN 人権宣言(AHRD)には、一般的な原則に加えて市民的および政治的、経済的、社会的、文化的権利、ならびに開発権、平和の権利、人権の促進と保護における協力に関する詳細な宣言が含まれる。

2021 年 4 月、選挙で選出された政府に対するミャンマー軍政府のハイジャックが激しくなる中、フィリピンはASEAN人権宣言を援用して ASEAN加盟国のミャンマー(ビルマ)に国際的なコミットメントを喚起した。新聞『ザ・フィリピン・スター(The Philippine Star)』は、ASEAN 政府間人権委員会の会議の中でフィリピンのハイメ・ビクトル・レダ (Jaime Victor Ledda)代表がミャンマーに対し 「民主主義、法治と善政、人権と基本的自由の尊重と保護の原則を遵守するよう呼びかけた」と報じており、その 2 日後の社説で同紙はフィリピンが独裁的な指導者の下で組織されていることを認めるとともに、この状況を「民主主義の理念を体現するものとはとてもいえない」と呼び、

「特にフィリピンは、ロドリゴ・ドゥテルテ (Rodrigo Duterte)大統領政権下の治安部隊による重大な人権侵害に非難が集中している。しかし、ミャンマーでの殺人は凄惨だ。地域的な非難に値 するとともに止められなければならない」と述べ、
東南アジアの人権は大幅に改善し、市民の自由の 尊重が同地域の発展を促進したと指摘した。ミャンマー軍政権はこうした特権を享受してきており、『ザ・フィリピン・スター』は「現在の大躍進を妨げるべきではない」と付け加えている。 

ミャンマーの軍事クーデターに抗議して、ネパールのカトマンズ でろうそく集会を開く人権活動家。AFP/GETTY IMAGES

人権と米国の外交政策

米国のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は、米国の内外政策の中心に人権を据えることを約束した。

2021 年 3 月、アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)米国務長官は「人権慣行に関する 2020年国別報告書(2020 Country Reports on Human Rights Practices)」を発表するとともに「私と国務省全体が非常に真剣に取り組んでいるコミットメントだ。私たちは人権を尊重し、虐待の加害者に責任を負わせるために外交上のすべての手段を活用する」と述べた。

ブリンケン氏はさらに、「ある権利が他の権利よりも重要であるというような階層は存在しない」とした。

「人権は相互依存的なものだ。平和的な集会ができないとすれば、どうすれば組合や野党を組織し、宗教や信仰の自由を行使することができるというのだろうか?肌の色や性別といったアイデンティティを理由に仕事や教育への平等なアクセスを拒否された場合、自身と家族の健康と幸福をどのように達成することができるというのか?」と述べた。

当局が一部の授業の教授要件をモンゴル語から中国語に変換することを 提案したことを受け、首都・ウランバートルの近くで内モンゴルの中国の政策に抗議するためにデモを行うモンゴル人。AFP/GETTY IMAGES

国務省の人権報告書では現在の傾向が誤った方向に向かい続けていることを明らかにしたとし、「2020 年には、あまりにも多くの人々が残酷な状況下で苦しみ続けた」中国では政府当局が主にイスラム教徒であるウイグル人に対してジェノサイドを行い、ウイグル人や他の宗教的少数派や少数民族のメンバーに対して投獄、拷問、強制断種、迫害を含む人道に対する罪を犯した」と述べた。

ブリンケン氏は中国での広範な人権侵害や暴力、ミャンマーでの軍事政権による虐待を繰り返し非難してきた。米国は依然として同盟国・パートナーと協力し、そのような忌まわしい行為に及んだ者の責任を追求している。

ブリンケン氏は「一部の人々は、米国が人権を強力に主張することには価値がないとか、一部の国での虐待のみを取り上げ、国益に直接資する方法でのみ強調すべきだと主張している。私はそれらの人々は重要な点を見逃していると考えている。あらゆる場所で人権を主張することは、アメリカの利益にかなうものだ」と述べている。

また、「反対意見を歓迎し、「腐敗した職員を罰し、労働法を尊重する国はより平和的で繁栄しており、社会が安定している傾向にある。また、経済が成長している可能性も高い」としている。

さらにブリンケン氏は「人権を尊重する政府は、米国とその同盟国が何十年にもわたって構築し投資してきた規則に基づく国際秩序を支持する傾向にある」と続けた。「これらの理由に加えて、より単純な理由もある。人々の自由と尊厳のために立ち上がることは、アメリカの最も神聖な価値観を尊重するものだ。私たちは、国内だけでなく世界中ですべての人の自由と正義を支持することに最善を尽くす」とも述べている。

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