米国が報告書を発表:南シナ海における中国の海洋権益主張に反論

FORUMスタッフ
2022年1月中旬、米国は米国国務省による包括的な報告書を発表し、中国政府による南シナ海の広範な領有権主張を断固として違法と見なす姿勢を表明した。
44ページにわたる米国国務省の報告書「Limits in the Seas(仮訳:海の制限)通巻第150号」では、「九段線」に基づき広範にわたる南シナ海の領有権を訴える中華人民共和国(中国)の主張にフィリピン政府が異議を唱えたことで実施された通称「南シナ海仲裁裁判」で常設仲裁裁判所が2016年に中国の主張には法的根拠がないという裁定を下した通り、「歴史的権利に基づく主張を含め、中国は南シナ海の大半で違法な海洋権益を訴えている」と結論付けられている。
米国国務省は声明を通して、「今回の最新報告書の発表を踏まえ、南シナ海仲裁裁判において常設仲裁裁判所が2016年7月12日に下した裁定を遵守し、国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約/UNCLOS)に反映される国際法に海洋権益を合致させること、そして南シナ海における違法かつ強制的な活動を停止することを中国に改めて要請する」と発表した。
国の海洋権益と境界が国際法に準拠しているか否かを評価する定期報告書の最新版である今回の報告書には、「国連海洋法条約に反映される国際法の中には普遍的に認められている多くの規定が存在するが、中国の主張は特にその広大な地理的・実質的な範囲を考慮すると、法治に基づく海洋秩序とこうした規定を著しく損なうものである」と記されている。
フィリピンのアルベルト・デルロサリオ(Albert Del Rosario)元外相はザ・フィリピンスター(The Philippine Star)紙のウェブ版に対して、「米国国務省が発表した2022年版の報告書において、ハーグ常設仲裁裁判所で扱われた裁判で2016年にフィリピンが勝訴した事例が大きく引き合いに出されていることは非常に注目に値する」と述べている。
デルロサリオ元外相の説明によると、米国国務省の報告書には、中国による南シナ海の大部分の権益主張または何らかの形態の独占的管轄権の主張が明らかに虚偽であると裁定された理由が詳述されており、とりわけ高潮時には水没する低潮高地の主権をあたかもそれが陸地であるかのように主張する中国の訴えは国際法と矛盾することから違法との判定が下されたとの解説が含まれている。
同元外相は、「たとえば、ミスチーフ礁はフィリピン海域の大陸棚の一部であるにも関わらず、同岩礁をまるで陸地の領土であるかのように主張する中国は、これを埋め立てて人工島を造成し、フィリピン排他的経済水域(EEZ) 内に空軍・海軍基地を建設した」と訴えている。(写真:2015年5月、南シナ海の南沙諸島 [スプラトリー諸島] の環礁の1つであるミスチーフ礁周辺を航行する中国の浚渫船を写した米国海軍撮影の画像)
同報告書によると、中国は自国領海外に100島超の人工島を建設しただけでなく、諸島の隣接する基点の間の基線を結んだ直線から領海基線を形成する直線基線法を採用することで自国の排他的経済水域の定義を拡大するという戦略を用いて、本質的に自国領土ではない地理的地域の領有権を主張している。この行為は両方共に国連海洋法条約の規定と矛盾する。
同報告書では、「米国は南シナ海の特定の諸島に対する中国の海洋権益主権の是非を問う立場にはないが、『島』の定義を満たさない低潮高地の領有権を訴える中国の主張は認められない」と結論付けられている。
ベトナム外務省のレ・ティ・トゥー・ハン(Le Thi Thu Hang)報道官が発表したところでは、ベトナムも中国政府の南シナ海の領有権主張に関して米国国務省が発表した今回の報告書を支持している。
ハノイタイムズ(Hanoi Times)紙が報じたところでは、ハン報道官は声明を通して、「二国間枠組と多国間枠組の両方において、一貫して明確な立場を繰り返し示してきた当国は、1982年の国連海洋法条約を含む国際法に準拠しない主張はいかなるものでも常に反対し、受け入れることはしない」と述べている。
同報道官はまた、「この機会にベトナムは関係諸国に対して、国連海洋法条約と法治に基づく国際秩序に従い、南シナ海(ベトナム表記:?東=東海の意)におけるベトナムの権益、主権、管轄権だけでなく、外交手順と法的手順を尊重し、平和、安定、安全、航行の自由と領空通過権に積極的に貢献することを改めて求める」と訴えている。
オーストラリア、フランス、ドイツ、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、英国、米国、ベトナムはすべて、国際法と矛盾するとして歴史的権利に基づく中国の主張を否認している。
デルロサリオ元外相はザ・フィリピンスター紙のウェブ版に対して、「米国、フランス、ドイツ、英国、オーストラリア、並びに南シナ海近隣諸国が2016年の仲裁判断を引き合いに出して、中国の非常識な主張を否定している」と語っている。
同報告書には、米国を含む多くの諸国が南シナ海における、特に国際法に反して中国が海洋権益を主張する海域における航行の自由権を支持していると記されている。
同元外相はまた、「フィリピンのような小国が世界に好影響を及ぼすことができたことを誇りに感じている。これは、中国が継続的に展開する強引な措置よりも法治が優勢であることを示す証である」と主張している。
画像提供:ロイター