トム・アブケ（Tom Abke）
インドネシア政府と業界関係者等の発言によると、防衛資産および群島国家の「デジタル主権」確保の両方の観点から、インドネシアの未来に向けて人工衛星がますます重要な役割を果たすようになると考えられる。
インドネシア国防当局が発表したところでは、政府と衛星通信事業者間の契約紛争により衛星を失った同国は、すでに新たな防衛衛星の共同開発に関する契約を締結している。また、地震が多発するインドネシアで津波を早期に検知するための低軌道衛星一群（衛星コンステレーション）も開発中である。
1万7,508島に及ぶ島々で構成されるインドネシア全域の通信事情を強化するため、同国政府はタレス・アレーニア・スペース（Thales Alenia Space）と新たな「ハイスループット」通信衛星の共同開発契約を締結した。これは、2020年4月に中国のロケット打ち上げ失敗により、搭載されていたインドネシアの通信衛星がロケットと共に失われためである。
2021年12月23日、Kemhanとして知られるインドネシア国防省は声明の中でムハンマド・ヘリンドラ（Muhammad Herindra）国防次官の発言を引用して、「衛星の重要な役割は通信だけでない。防衛システムにおける使用も非常に重要であり、これを国防機能に統合する必要がある」と述べている。
ヘリンドラ国防次官の発言内容によると、同国防省はすでに「国防支援に衛星を利用する全体的な構想」の準備に着手しており、これにより同国防省と軍隊の実績改善が期待されている。準備に関連して「国家の防衛衛星」に触れたヘリンドラ国防次官は、新たな衛星は2017年に同国防省が契約紛争により失った通信衛星「SatKomHan 1」の代替となると説明している。
同国防省が説明したところでは、インドネシアにはテロ、麻薬密売、人身売買、海賊行為に関連する脅威対策として安全な通信を実現する防衛衛星システムが必要である。また、自然災害や人道危機への対応も軽視できない。
ジャカルタ・ポスト（The Jakarta Post）紙が報じたところでは、インドネシア国防省は2015年に英国のアヴァンティ・コミュニケーションズ（Avanti Communications）と「SatKomHan 1」の衛星利用契約を締結したが、支払を巡る紛争が発生したことで、2017年にアヴァンティ・コミュニケーションズが契約を早期解除し、衛星を「墓場軌道」へと軌道変更した。静止衛星は2001年に欧州宇宙機関（ESA）が高度な通信技術の実証を目的として打ち上げた「ARTEMIS」であった。
ニュージーランドとオランダに拠点を置くドーン・エアロスペース（Dawn Aerospace）によると、低軌道衛星により津波を早期検知することで、インドネシアの人命救助・財産保護対策を強化できると考えられる。2021年にドーン・エアロスペースとインドネシア国立航空宇宙研究所（LAPAN）はシステムの共同開発に着手した。地球で発生する地震や津波の90％が「環太平洋火山帯」で発生している。インドネシアはこの環太平洋火山帯に位置する国であると、ドーン・エアロスペースは説明している。
テルコム・インドネシア（Telkom Indonesia）と衛星を共同開発しているフランスのタレス・アレーニア・スペースが発表したところでは、中国のロケット打ち上げ失敗により失われたインドネシアの「Nusantara-2」通信衛星の代替衛星は2024年までの運用開始が予定されている。打ち上げに成功すれば、衛星の寿命が終わるまでの15年間にわたり、インドネシアの、特に地上ネットワークがまだ確立されていない地域のデジタル接続の容量、品質、機能が向上すると予測されている。
テルコム・インドネシアの子会社である衛星通信事業者「テルコムサット（Telkomsat）」のエンディ・フィトリ・ヘリアント（Endi Fitri Herlianto）取締役社長は声明を通して、「この衛星がインドネシアのデジタル主権確保の推進に繋がることを期待している」と話している。
「Nusantara-2」は中国のロケットの故障により大気圏に再突入して燃え尽きたが、これより前に打ち上げられた「Nusantara Satu」（写真参照）によりインドネシア全土でブロードバンドインターネット接続が可能となっている。これは、2019年に米国のスペースX（SpaceX）のロケットに搭載して打ち上げられた衛星である。
トム・アブケは、シンガポール発信のFORUM寄稿者。
画像提供：スペースX
