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インド太平洋地域の人身売買対策に乗り出すASEAN

トム・アブケ(Tom Abke)

国際通貨基金(IMF)の報告書によると、犯罪組織により毎年2,500万人に上るインド太平洋地域住民が強制労働に追いやられている。被害者は売春、ポルノ、家事労働、さらにはサイバー犯罪に強制的に従事させられる。こうした酷い犯罪に対処することを目的として、ASEANが現地事業体と協力を図り、ASEAN-ACT(ASEAN–Australia Counter Trafficking/ASEANオーストラリア人身売買防止対策)プログラムとSEAJust(South East Asia Justice Network/東南アジア司法ネットワーク)という2件のイニシアチブを立ち上げた。

米国国務省が毎年発表している「人身売買(TIP)に関する年次報告書」の2021年版では、人身売買においてマレーシアとビルマが最低等級である3等級(Tier3)にランク付けされている。僅差でこの後に続いているのがブルネイ、カンボジア、タイで、注意2等級(Tier 2 Watch List)に指定されている。

同報告書では、人身売買被害者が行き着く先として性産業や麻薬取引組織、また炭鉱や食肉処理場といった危険な労働環境が特定されている。日本経済新聞社発行の日本国外向け新聞「日本経済新聞国際版」が報じたところでは、中国で活動する某犯罪組織は犠牲者をカンボジアに誘い込み、インターネット詐欺や電話詐欺により人々の一生の蓄えを騙し取る作業に従事させる。詐欺を強要された人身売買被害者が自身の家族から金銭をむしり取る事例も多く見られる。

ASEAN加盟諸国は人身売買対策を推進することを目的として2017年にASEAN人身取引対策協定(ASEAN Convention Against Trafficking in Persons)を採択したが、その2年後の2019年にオーストラリアからの約60億円(約6,000万米ドル)の資金提供によりASEAN-ACTが設立された。人身売買が「経済的・政治的・社会的安定に対する脅威」として特定されている同協定では、人身売買犯罪対策の枠組が設定されている。

人身売買業者を起訴する上で最大の障壁となっている要素は、おそらく被害者が証言を躊躇することである。タイのASEAN-ACT事務所が2021年7月に発表した文書には、「人身売買犯罪を効果的に捜査して業者を起訴するには、被害者の証言が唯一の証拠となる場合がある」と記されている。

被害者の保護を優先し、被害者を支援・激励するという役割に対する裁判官と裁判所職員の意識向上を意図するASEAN-ACTには、被害者中心の裁判の慣行と工程を強化するための重要な指標が一覧されている。(写真:2021年7月にベトナムで開催されたASEAN-ACTイニシアチブ主催の3日間研修プログラムに参加する弁護士とパラリーガル/法律事務所職員等)

同文書には、「ASEAN加盟諸国の多くは実際にいくつかの変革に着手している」とも記されている。ラオスの裁判所では、被害者と加害者が顔を合わせなくてもよいように原告席と被告席の間にカーテンが追加された。フィリピンは人身売買案件に仮想会議と仮想証言を採用している。タイでは刑事裁判完了時に被害者補償の申請を受け付ける制度が導入され、電子証拠をより有効に活用して証人がオンラインで証言できるようにデジタル裁判所システムの実装が開始されている。

一方SEAJustでは国連と日本からの支援を受け、ASEAN加盟諸国の検察官や警察などの法執行官が連携して人身売買犯罪組織に対処することを目指している。

こうした犯罪事件では言語、法制度、地域慣行の相違などの遅延により、司法制度が混雑して長期間にわたり文書の要件が満たされないという状況が起こる可能性がある。日本経済新聞国際版によると、2021年3月に設立された同枠組はこうした障害を排除することを目的としている。同枠組に基づき、各加盟国は参加当局の中から2人の法執行官を選択し、それぞれの対応当局との連絡を維持することを約束する。

これまでのところ国連薬物犯罪事務所(UNODC)が調整を図るSEAJustイニシアチブに日本は1億円(100万米ドル)近くの資金を供与している。

 

トム・アブケは、シンガポール発信のFORUM寄稿者。

画像提供:ASEAN-ACT

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