進化する船舶

進化する船舶

ガラパゴス諸島沖の中国漁船の詳細に迫る。

タビサ・グレース・マロリー博士(Dr. Tabitha Grace Mallory)、イアン・ラルビ博士(Dr. Ian Ralby)| 写真 by REUTERS

2020 年 7 月下旬の一連のニュースによると、エクアドル領ガラパゴス諸島近辺の海域で中華人民共和国(中国)漁船の大規模な船団が発見された。10 月中旬までに350 隻以上に増加した後に船団は最終的に南方での漁業に向かって去っていったという。しかし、この地域における中国の遠洋漁業(DWF)船団の存在過去数年にわたって拡大している。中国船団による IUU (非合法・無報告・無規制)漁業への懸念が高まるなかで、2017 年 8 月にガラパゴス諸島で中国旗を掲げた冷蔵輸送船「フー・ユアン・ユー・リアン 999」が発見・拿捕された。同漁船の中からは 600 尾のサメを含む約 3,000 トンの希少種、絶滅寸前種、絶滅危惧種が発見されている。

FORUM は、海事予測情報プラットフォーム 「ウィンドワード(Windward)」のデータと分析内容を利用してこの漁業の実態がどのように進化してきたか、
そしてこの漁業事業の背後にいるのは誰なのかについて検討を行った。こうした漁業活動は、漁業産業全体に莫大な補助金を提供する中国の世界漁業戦略の成果である。FORUM の分析は、中国がどの程度 IUU(非合法・無報告・無規制)漁業に従事しているかについて検討し、中国政府による IUU 漁業活動の抑制の先に残された課題を指摘するものだ。ほとんどの漁船団は合法的に操業しているように見えるがその行動からは例外が存在することを示している。それに加えて技術面でも一見すると現行の法律や規制に準拠しているように見えるが、一部の中国の漁業活動は無報告・無規制に分類されるものであり、そのような操業が本当に持続可能性の観点に基づいて行われているのか慎重に検討する必要がある。

古い問題、新しく注目を集める

ウィンドワードのデータは、中国漁船の活動を時間経過とともに視覚化することが可能だ。同データによりガラパゴス諸島の 370 キロにおよぶ EEZ(排他的経済水域)の周辺海域において、過去数年間で中国漁船の数が増加していることが明らかになっている。2015 年にはガラパゴス諸島沖とその EEZ 外の海域における中国の漁業活動は事実上行われていなかった。しかし、2016 年に入ると様相が様変わりする。例えば、2016 年 8 月には 191 隻の中国籍船舶がガラパゴス諸島の広範囲で操業を行なっている。これは2015 年同月に同海域で検出された中国籍船舶が1隻であったこととは明らかに対照的だ。その後も漁の季節に合わせて変動を見せながら漁船の数は増え続けている。2017 年には 3 ヵ月で 200 隻以上の船舶がこの地域で漁業を行っており、7月には最高の 263 隻に達している。2018 年には5月から 8 月にかけて 4 ヵ月連続で200 隻以上の中国漁船が漁業を行っており、12 月には193 隻を記録した。同年は6 月に最高の 286 隻を記録している。2019 年は 5 ヵ月で 200 隻以上の漁船が活動しており、6 月と7月はそれぞれ 197 隻と 130 隻であった。2019 年のピークは 9 月で 298 隻を記録している。(図 1)。

現在この現象はより極端なものとなっており、2020 年には 4 ヵ月で 200 隻を超え、300 隻を超える月も2度確認されている。2020 年 7 月には 342 隻以上の中国漁船が漁業を行っており、8 月には 344 隻、9 月には 295 隻を記録した。

この漁船数の大幅な増加をよりよく理解するためには、中国の漁業推進政策を理解する必要がある。

中国の世界的な漁業戦略を理解する 

ウィンドワードのデータ収集能力のおかげでこの巨大な船団活動の背景についてより詳細に調べることが可能となる。2020 年 7 月から 8 月にかけて、同海域では364 隻の中国船舶が AIS(自動情報システム)を発信していた。海上における人命の安全のための国際条約(Safety of Life at Sea Convention)に基づき、国際的に操業する総トン数 300 トンを超える船舶は AISの装備が義務付けられていると共に、常時オンの状態にしておく必要がある。したがって、AIS による検出が不可能な「暗黒(無信号)」船舶の存在により同海域には 364 隻以上の船舶が存在していた可能性がある。AIS 搭載の 364 隻を調べることでその所有権と所属省に関して貴重な洞察を得ることが可能だ。数隻の船舶は所有権が不明であったが合計 55 社が船団を所有していることがわかった。しかし、そのうちいくつかは同一の住所を持つ会社であり、これはが総会社数が55 未満である可能性を示している。

ガラパゴス諸島沖の船舶は中国の遠洋漁業(DWF)船団の一部であり、国連海洋法条約(UNCLOS)で定義されている「公海」にあたる国の管轄外の地域と二国間の漁業アクセス協定に基づく受け入れ国の EEZ 内に展開している。中国により公式に発表されたのは 2019 年には 2,701 隻の遠洋漁業船舶、2017 年には 159 隻の遠洋漁業企業だ。

ガラパゴス諸島周辺の船団は中国の漁業政策の明確な変化の表れである。1985 年の中国の遠洋漁業産業の 立ち上げから 2010 年代半ばまでは、船団の拡大と漁獲量 の増加が中国の主な戦略であった。しかし、13 回目の立案となる中国の最新の漁業5ヵ年計画では、同国の 戦略は拡大に焦点を当てたものから産業をアップグレード して統合するものへと移行した。中国は収穫、輸送、上陸、加工、流通、そして最終的には小売市場まで、サプライチェーン全体のコントロールをより強固なものにすることを目指している。この政策の変化に合わせて、中国は船舶技術をアップグレードして漁獲物の処理と保管 を改善することで、より多くの遠洋漁業の漁獲物を中国国内の市場で売り捌くことを目指している。中国は、この海産物流通の改善のために国内の港湾インフラを構築してきた。2018 年には漁獲量の 65% が本国に送られており2009 年の 49% から増加している。

同時に中国は他の経済圏での漁業への依存から公海漁業への移行を押し進めている。これは漁業受け入れ国が自国海域での外国船団による持続不可能な漁業に対する懸念を深めており、そうした海域でのコストが増加しているためである。一部の公海地域は地域漁業管理機関 (RFMO)によって管理されているが、グローバルな範囲の公海上での漁業について包括的に規制を行う機関はない。より多くの公海地域が地域漁業管理機関にによって穴埋め式に規制されるにつれ、地域で伝統的に漁業を営んできた漁船により多くの漁獲量がもたらされる可能性がある。中国の政府、漁業界、学者たちによる 2010 年のタスクフォースの報告書は、 「占領は権利と利益をもたらす」としている。海洋利用の歴史が長い国々は資源の分配方法に関して強い決定力を持っており、結果としてより大きくのリソースシェアを獲得していると主張しているのだ。これらの傾向に従って、中国の遠洋漁船団は 2017 年には公海での漁獲活動が 66% にのぼっており、これは 2010 年の43% から増加している。

この戦略に対する中国の投資はこれらの船舶が所属する省の意向に則って行われている。2020 年 7 月と 8月にガラパゴス諸島の EEZ 周辺で操業していた 364 隻の船舶のうち、92 隻についてはその所有者を特定することができなかった。残りの 272 隻のうち 188 隻は浙江省に所属していた。中国の漁業会社は所有する船名を統一し、番号で区別する傾向にあるため社名のない 50 隻についてもその船名から浙江省所属である可能性が高い。まとめると、これらの漁船の 3 分の 2 (238 隻)が浙江省所属である可能性がある。残りのうちの46 隻は山東省所属で、加えて 19 隻が同省に所属する可能性が高く、合計 65 隻で 18% となっている(図 2)。

浙江省と山東省が船団の 83% を占めるのは偶然の産物ではない。これらの省は最大規模の遠洋漁業補助金を少なくとも1回受け取っており、2018 年から 2019年にかけてそれぞれ約 21 億元(3 億 2,460 万米ドル=約 350 億円)を中央政府から受け取っている。第3位の補助金受給者である福建省は、浙江省、山東省についで大きな漁船団を所有しており、同時期に 11.81 億元 (1 億 8,250 万米ドル=約 182 億円)の補助金を受け取っている。これら 3 つの省はまた、2018 年に 225.7 万トンに達した中国の公式遠洋漁業総漁獲量のトップを占める省でもある(図 2、図 3)。

中国は世界で取れた魚をより多く国内に持ち込むことを目指しており、これら 3 つの省は遠洋漁業遠洋漁獲物の陸揚げのために建設された(あるいは建設予定
の)港の所在地でもある。浙江省は、中国の遠洋漁獲量で最大のシェアを占めていいる(2018 年で 24%)。このような背景のもと、2015 年に浙江省舟山市に最初の国立の遠洋漁業用の漁港が提案されることとなった。政府の資金援助を受ける舟山国立 DFW 基地は、1,300 隻を収容する漁船ドック、魚の加工および貯蔵施設、造船センターをサポートする港湾インフラストラクチャを備え、年間 100 万トンの漁獲物を遠洋漁業魚介製品として国内市場に流通させる役割を果たすものだ。港の魚介類の中では、中国の遠洋漁業イカ貿易センター (China DWF Squid Trade Center)による促進 のもとで陸揚げされるイカが主となっている。

国内第 3 位の遠洋漁業漁獲量(2018 年には 20%)を誇る山東省には、2016 年に栄成市で建設が承認された第 2 の国立漁港であるシャウォダオ国立遠洋漁業基地 (Shawodao National DWF Base)がある。舟山と同様の施設を持つシャウォダオは、1,000 隻の漁船の停泊が可能で、イカやマグロを含む 60 万トンの魚の取引を処理することができる。中国で最初の遠洋漁船団の所属地であり、第 2 位の遠洋漁業漁獲量 (2018 年に 21%)を誇る福建省は、2019 年に福州市で建造
が承認された第3の国立漁港である福州(連江)国立遠洋漁業基地を管轄する予定だ。

変化する中国の遠洋漁業方針は貿易と漁獲量のデータにも反映されている。アルゼンチンとペルーからの中国のイカの輸入量は減少しており(図4)、逆に中国の漁獲量は増加している。これは中国による遠洋漁船団を通じたイカの漁獲方針による可能性がある。中国の公式統計によると浙江省のイカの漁獲量は 2009 年の6 万 9,000 トンから 2018 年には 35 万 6,000 トンに、同時期の山東省のイカ漁獲量は 2 万 1,000 トンから10 万2,000 トンに増加した。

ガラパゴス諸島の EEZ 内におけるIUU漁業の実態 

2020 年 7 月と 8 月の漁業活動を一部でも視覚化することができれば、いくらかの事象に関する知見を得ることができる。以下の画像中の各点は、ウィンドワード (Windward)の AIS データのアルゴリズム解析に基づいて特定された 2020 年 7 月〜8 月期における中国の漁船を表している(図 5)。

ガラパゴスの EEZ 内には 1 つの点も見てとれないが、EEZ の外枠は点でほぼ完全に囲まれている。これは、エクアドルのレニン・モレノ(Lenin Moreno)大統領がツイッターで述べた内容と一致している。レニン氏によると、エクアドルは EEZ の保護に重点を置 いているということだ。

中国の漁船団はエクアドルの EEZ 内での漁業が認められておらず、AIS のデータによると漁船団は EEZ 外の公海にのみ存在するように見える。

これは漁船の過去の行動とは対照的である。例えば、2017 年 7 月〜8 月のガラパゴス諸島の EEZ 内における中国船舶の漁業活動の視覚化データをご覧いただきたい(図 6)。

これらの違法な漁業活動は、2017 年 8 月 12 日にEEZ に侵入した「フー・ユアン・ユー・レン 999」事件によって頂点に達した。EEZ への侵入の 3 日後に同船は拿捕されることとなり、同船の船長と乗組員には最終的に懲役 4 年と罰金 610 万米ドル(約 6 億1,000 万円)が宣告されることとなった。事件に関 わった人々は、冷蔵貨物船は漁船とは異なり検知される可能性が低く、不法漁業への関与の疑いで拿捕される可能性が低いと思っていたのかもしれない。しかし、報告によると同貨物船は海上で「暗黒(無信号)」の漁船からの違法な漁獲物の積み替えを行なっていたのにもかかわらず、それらの漁船の乗組員が違法行為で逮捕され起訴されることはなかったという(図7)。

AIS の軌跡および中国政府の対応から考えると、この事件により中国船団はより慎重になったと言える。2017年末までに中国は IUU 漁業に関するブラックリストを作成すると共に、IUU漁業に関わる船舶に対する補助金を一部停止するという処置を講じた。遠洋漁業に関する訓練を実施してコンプライアンスセンターを設立し、船団数を 3,000 隻に制限している。2020年2月、中国農業農村部(Chinese Ministry of Agriculture and Rural Affairs)は遠洋漁業に関する規制を改定し、IUU 漁業の禁止を正式に定めると共に、立入禁止水域周辺に緩衝地帯を残すよう船舶に呼びかけた。緩衝地帯のサイズについては規定されなかったが、遠洋漁業の安全性に関する後の発表では 1.85 キロメートルと定められている。

公海における IUU 漁業の実態

ガラパゴス諸島の EEZ 内では違法漁業は行われていないようだが、漁船団は公海での漁業を管理する地域漁業管理機関の規制の対象となっている。この地域の
マグロ漁は、中国が加盟する地域漁業管理機関である全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)によって管理されている。全米熱帯まぐろ類委員会は、マグロ類の年間割り当て量を設定して登録済みの漁船や輸送船、IUU 漁業への関与のために捕獲された船舶のリストを保持している。全米熱帯まぐろ類委員会に登録
されている中国のマグロ延縄船は 415 隻だ。2020 年7月 〜8 月のガラパゴス諸島の EEZ 周辺で操業していた漁船 364 隻のうち、全米熱帯まぐろ類委員会に登録済みなのは 1 隻のみだった。

船団の大半は、アジやイカなど、マグロ以外の公海上の魚類に対して規制を行う南太平洋地域漁業管理機関(SPRFMO)の管轄下にある。ガラパゴス諸島のEEZ 周辺で漁業を行っていた 363 隻に関しても、全米熱帯まぐろ類委員会に登録されていない船舶については 16 隻を除いて全てが南太平洋地域漁業管理機関に登録済みである。2012 年に設立された新しい地域漁業管理機関の 1 つとして管理の対象となる魚介類の範囲は拡大を続けている。中国は、2001 年と 2002 年に調査漁獲を実施した後に 2003 年に 15 隻の船と共にアジ漁を開始した。中国のイカ漁獲量は2005年の14,000トンから 2018 年には61,229 トンに増加し、そのうち山東省が 65%、浙江省が 24% を占めている。

2020 年には公海のイカ漁に対する最初の大規模な規制が行われた。南太平洋地域漁業管理機関はアメリカオオアカイカ漁に対する規制措置を発表し、同措置は 2021 年から施行されている。それまでの中国のイカ漁は違法なものではなかったが、報告を伴わないものだった。規制がないことを利用して可能な限 り大きな漁場を確立しようとしていたのかもしれない。また、2020 年に中国政府はガラパゴス諸島に隣接する地域を含む公海でのイカ漁の停止措置を初めて行った。この結果は、中国が自国の船団が長期的な利益を損なうほど持続不可能な操業を行なっていることを認識していることの表れである。

結局のところ南太平洋地域漁業管理機関に登録されている 1,135 隻のうち、700 隻(62%)が中国旗を掲げるものなのだ。次に大きな船団は 127 隻と 99 隻で、それぞれパナマとペルー船籍のものだ。

残った課題

中国船団は、ガラパゴス諸島の非合法漁業を諦めたように見えるうえ、それらの船舶の大半は地域漁業管理機関に登録済みである。しかし、依然として懸念も残されている。船舶はいつでも AISトランスポンダをオフにして監視の目をすり抜けることができる。中国船舶による他国旗の掲揚や、漁獲物の積み替え問題は懸念事項であり、似た船名および報告書と異なる船の寸法は、法執行機関による調査をより困難なものとしている。最後に、たとえ合法であってもこの漁業活動は必ずしも持続可能なものではないのだ。

これらの中国船舶は法律に違反したり法律に違反しているように見えることを避けるために、次の 3 つの行為のいずれかを行った可能性がある。

EEZ のすぐ外で待機する

暗黒船団だけで EEZ に侵入した

非中国籍船舶を使用して EEZ 内で漁獲を行い、公海で獲物を積み替えしていた。

このように船舶の多くを EEZ 外に集中させた状態でAIS を有効にすることで、ガラパゴス海域への暗黒船団の侵入から注意をそらしたり、他の船舶への積み替えを秘匿したりするアプローチをとっている可能性がある。2020 年 7 月と 8 月の漁業活動のデータを見てみると、(中国だけに限らず)全体で 554 隻が漁業活動に従事しており、その活動の多くが EEZ 内で行われていることを示している (図 8)。

さらにデータを調べると、これらの漁業に従事した船舶のうち 363 隻が船舶に燃料を供給するプロセスで別の船舶と合流しており、積み替えまたはバンカリング
(燃料補給)が行われていたことを示唆している。予想通り、船舶の合流のほとんどが中国籍の船同士またはエクアドル籍の船同士の間で行われていた。これらの合流と共に客船を除外すると注目に値する船舶はわずか20 隻ほどだった。その圧倒的多数はパナマ旗を掲げる中国籍の船舶で、ほとんどが魚の輸送に使われる冷蔵貨物船だ。

 「リーファーズ」

冷蔵貨物船(「リーファー」)の挙動は、漁船団が「フー・ユアン・ユー・レン 999」事件から痛い経験を学んだ可能性を示唆している。例えば、「へ・タイ」号を所有する中国企業は、同船舶を運航する中国企業と同じ住所を持っている。その住所は漁船団内の中国旗を掲げる船舶の一部を所有・運航している他の会社と同じエリアに存在する。 「へ・タイ」はパナマ旗を掲げており、ガラパゴスの EEZ 内に侵入したことはない。しかし、同海域で漁業を行っていた364隻の中国船舶のうち 25 隻と合流しており、そのうち 2 隻とは 2 度にわたって合流している(図 9)。必ずしも違法行為ではないものの、こうした旗替えは一般的にはいかがわしい漁業行為を示唆するものと捉えられている。中国は公海での漁獲物の移送を規制する新たな措置を発表したが、これらが他国の旗を掲げる船舶への移送を対象とするかどうかは不明である。

他の例を取り上げると「暗黒(無信号)」な船の変化する船舶寸法の問題が垣間見えてくる。2020 年 7 月と 8 月に中国漁船隊と 42 回合流した、香港旗を掲げたリーファー「ミン・ハン 5」がいい例だ。その行動パターンは、疑わしい活動が行われたことを示唆している。7 月 13 日、「ミン・ハン 5」は中国漁船 6 隻と合流し、3 回にわたって喫水を 0.0 から 6.8に変更し、それから 6.8 に戻している。これは船舶の真の喫水および漁業活動から積み替えまでに生ずる数値上の変化を不明瞭にする作戦だ。「ミン・ハン 5」さらに 6 回の合流を行ったあと、航路から逸脱していった。これらの合流に注目すると、「ミン・ハン 5」との合流前の 4 日間は「ガン・タイ 8」が無信号の暗黒船舶となっており、その前日には 10時間にわたって「ミン・チョウ 622」が暗黒船舶となっていることがわかる。同様に 7 月30 日、「ミン・ハン 5」は 0.0 から 6.8 の間で5 回喫水を変更すると共に、前日に 13 時間にわたって暗黒状態であった「フー・ユアン・ユー・7875」と14時間にわたり合流している (図 10)。「フー・ユアン・ユー・7875」の 所有者は「フー・ユアン・ユー・7862」と同じであり、「7862」は 2017 年 8 月の押収前に「フー・ユアン・ユー・999」への接触が確認された船のうち最後に接触を行なったものである。

図 10 に示すように、「ミン・ハン 5」は7 月 10 日から 11 日にかけてガラパゴス EEZを横断している。 

そして 7 月 10 日の朝、EEZ に入る直前に登録船長を 172 メートルから 150 メートルに変更している。その日の夜になると喫水をN/Aから6.8 メートルに変更し、全長を 172 メートルに再度変更した。その2時間後に今度は喫水を 6.8 メートルから0.0 メートルに、全長を 150 メートルに変更している。それから1時間弱、真夜中を過ぎた時点で喫水は6.8 メートル、船長は 172 メートルに変更された。この数値変更は船が EEZ 内から去るまでにさらに数回続いた。不規則な喫水の変更を伴う「ミン・ハン5」の困惑的な行動パターンは、その活動内容と目的を不明瞭なものとするための作戦だ。同船と共通の所有者を持つ姉妹船を見てみると興味深い比較結果が明らかとなった。「ミン・ハン7」は中国船団と54 回ほど会合した後、トン数で積載可能量の 119% を積んで中国に向かっている。すなわち、どの港にも寄港していないにもかかわらず漁獲物の積み替えが行われた可能性を強く示唆している。

この動きは他のリーファーとも一致している。 「ヨン・ハン 3」は 6.5〜0.0 の間で喫水の変更を繰り返しており、中国船団との 19 回の合流が実際の喫水にどのような影響を及ぼしたかを判断することはできなかった。「シェン・ジュ」は 2020 年 4 月から同地域に滞在しており 7.8〜0.0 の間で絶えず喫水を変更 しているため、船団との 55 回の合流で何を行っていたのか、こちらについても確かなことは言えない。2020年 3 月 29 日には「シェン・ジュ」の所有者が変更となり、その際に船名のみが「セン・ジェ・レン」へと変更された。その後同船舶が港に寄港することはなかったが、中国船団と 50 回合流し、半メートルの喫水を加えた後、トン数で積載可能量の83% を積んで中国に帰還している。2020 年 4 月から寄港せずに同地域に滞在していた「ヨン・シャン 9」は、船団と 18 回合流した後に中国に帰還した。

これらすべては漁獲物を中国に持ち帰るため、公海上で積み替えを行う計画的な手口を示唆するものだ。このような捜査を困難にする戦術は、横暴な捜査という非難に対する警戒論と公的根拠の曖昧さという問題につけこんだものと捉えることもできる。

 「タンカーズ」

20 隻のリーファー(冷蔵貨物船)のうち、6 隻がタンカーである。そのうちの一隻は正体不明で中国船団との合流は 2 回のみであったが、不法に活動していたことが示唆されている。2 回とも「ルー・ロン・ユアン・ユー 939」との合流であった。一度だけ合流があった 「B・パシフィック(B. Pacific)」は、ギニア湾での燃料補給で有名な「B・アトランティック(B. Atlantic)」の姉妹タンカーだ。興味深いことに、その合流は 「7875」と「7862」の姉妹船である「フー・ユアン・ユー 7876」との間で行われていた。2020 年 8 月下旬にこの地域に入り、9 月上旬に出発した「ハイ・スーン 26」は 8 回の合流を行っている。これは燃料補給のために集中する船舶に紛れようとした可能性を示唆している。逆に、残りの 3 隻のタンカー、Hai Xing「ハイ・チン」(39 回合流)、 「ハイ・ゴン・ヨウ 303」(69 回合流)、「オーシャン・スプレンディド (Ocean Splendid )」(89 回合流)は、いずれも中国船団だけでなく漁船と漁獲物の積み替えを行なったとみられる 「シュン・ジェ・レン 6」などのリーファーのためにこの地域で活動していたようだ。このような燃料補給は違法ではないが、中国船団の海上の維持にはタンカーを含むさまざまなサポート船が必要であり、こうした船団の運用が多くの船を巻き込む大規模なものであることを
示唆している。

姉妹船

異なる船舶に同じ名前を使用することも疑わしい行為のひとつだ。船舶が互いに罪をなすりつけることが可能となるため、捜査をより困難にする可能性がある。イギリス国旗を掲げる「チョウ・ユー 921」は興味深いケースだ。中国船団の一部であり中国国旗を掲げる 「チョウ・ユー 921」と混同しないように注意されたい。イギリス籍の船の方は全長 33 メートル、中国籍の船の方は全長51 メートルとなっている。このイギリス籍の船の所有者を確認することはできないが、2020 年 7 月と 8 月に中国籍の同名船と 9 回合流を行っていることから、両者の間に密接な関係があることは疑いの余地がない。

2020 年 8 月7日、ガラパゴス諸島の EEZ(排他的経済水域)付近で中国旗を掲げた船団を発見後、漁船の画像を調べるエクアドル海軍の将校。

他の 3 つのケースでは、異なる船舶が同じ名前とIMO(国際海事機関)番号を共有していた。「チャン・アン 168」と「チャン・タイ812」は両方とも別の船舶と名前と IMO 番号を共有していたが、後者の場合、それぞれの船舶は異なる海上移動業務識別(MMSI)コードを持っていた。この地域では、3 隻の漁船が
「ジン・ハイ 779」という共通の名前を使用しており、それぞれ同じ IMO 番号と海上移動業務識別コードを使用している。複数の船舶が同一の名前と識別コードを使用することは違法だ。また「ジア・デ12」、「ジア・ダ 12」の 2隻も同次ような名前を持つが、南太平洋地域漁業管理機関の登録船リストには前者しか記載されていなかった。

結論と政策提言

この分析ではガラパゴス周辺の中国船団を調査し、その長期間にわたるマクロ行動、産業界および漁船団による最新の戦術の一部をより明らかにすると共に、
IUU 漁業が行われているかどうかについて検証した。検出可能な操業の大部分は違法ではない可能性があり、中国の船団は明らかに国内法および国際法に準拠
しているように見せる努力を行っている。最近の中国の方針変更が示唆しているように、このコンプライアンスの一部は本物である可能性が高い。中国は国際的な評判を気にしており、同国では海洋環境保護に関する関心が高まっている。

同時に、競争の激しい中国国内の情勢は、違法な漁業および無報告・無規制の活動の原因となっている可能性が高く、さまざまな政策対応が必要とされている。ガラパゴス周辺のエクアドルの EEZ 内では、暗黒船の活動や多国籍の撹乱行為が違法な漁業を隠蔽している可能性が指摘される。エクアドルがこれらの船団だけでなく、その活動内容や船舶を所有する企業をより綿密に監視することができれば、より明確な全体像の把握が可能となる。

ガラパゴス諸島の EEZ 外の公海での漁業活動は規制されていないため、これらの漁獲行為は全体的にみて持続不可能なものとなっている。それゆえ環境保護の観点からも無責任であると感じられる。中国政府が毎年提供する莫大な補助金なしでは、船団は運用できない可能性が高い。2018 年に中国は全世界の漁業補助金の 21%、有害とみなされる補助金の 27% を支給していたと推定されている。中国政府の潤沢な資金により、世界に乗り出す中国漁船団は他のどの国よりも大規模となっている。

この分析は、ガラパゴス諸島周辺の 2020 年 7 月から8 月のピーク月に焦点を当てたがこうした操業は今この瞬間も続いている。今回取り上げた船舶は南に移動し、2020 年 10 月中旬の時点でペルーの EEZ の中央部と南部近くの公海に集結している(図 11)。

公海漁業には国際社会が強調して対処しなければならない。公海漁業が科学的にどのような影響を与えるのかについては、沿岸漁業と比べると理解がそれほど進んでいない。そのため予防的アプローチが重要となってくる。持続不可能な漁業は、長期的な食料安全保障と産業の経済的存続可能性を脅かすだけでなく、気候変動の脅威にさらされている海洋生物の多様性を減少させる可能性がある。国家レベルでは、米国の魚介類輸入監視プログラム(Seafood Import Monitoring Program)を拡大して、漁船団の主な獲物であるイカを対象に含めるなどの処置が可能だ。地域的にはチリ、コロンビア、エクアドル、ペルーの集団的な漁業権益の管理を行う南太平洋常設委員会(Comision Permanente del Pacifico Sur)のような組織が、公海の管理と保護に力を発揮することができる。国際的なレベルでは、国連の取り組みを支援して国の管轄外の地域の生物多様性の保護に関する合意を締結することが必要だ。世界貿易機関(World Trade Organization)の漁業補助金に関する交渉の成果も重要なものとなる。この交渉において、中国はまだ発展途上の国であると主張すると 共に自国を対象から外すように求めている。

しかし、国の発展が地球全体に良い影響を及ぼすことは決してない。世界中で行われる持続不可能な漁法は、世界の魚類資源に極めて大きな負担をかけて
海洋の健全性を著しく悪化させている。人類の存続を維持するためには、そのために必要な資源を効果的に管理しなければならない。この問題が法律、政治、
または環境に関する議論の対象である限り、人類にとっての懸念がなくなることはない。

この記事は国際海上安全保障センター(International Maritime Security)のウェブサイト上で2020 年 10 月 19 日に初めて発表されました。図1および図 5〜11 のデータとデータの可視化内容は、ウィンドワード(Windward)により提供されたものです。FORUM のフォーマットに合わせて編集したものです。 

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