主権を 求める声

主権を 求める声

中国の海上侵略を非難 するインド太平洋諸国。

FORUM スタッフ

中南シナ海における中華人民共和国 (中国)の執拗な挑発行動は、東南アジア諸国による海洋主権、その他の権利、航行の自由を保護する動きを活発化させている。強力な経済を持つ隣国・中国に対抗するには慎重にバランスを取る必要があるが、南シナ海を取り巻く国々は海上防衛を強化し侵略に断固反対し領海の防衛に務めてきた。

2020 年に ASEAN の議長を務めたベトナムは、2020 年 12 月の宣言で ASEAN加盟国の国防相を集め、同地域に対し 「任務の遂行に自制心を持ち、状況をさらに複雑化させる可能性のある行動を避け、国際法に従って紛争の平和的かつ非強制的な解決を図る」ことを求めた。

ASEAN 加盟 10 ヵ国に加えて、中国および米国がこの宣言に同意した。この宣言の中では南シナ海については触れられていない。しかしベトナムは、「平和的手段を用いるとともに国際法を遵守し、南シナ海における紛争を含む、特に領土と主権に関する紛争に関連する諸問題を解決することに合意した」とする
ニュースリリースを発表してさらに一歩踏み込んだ声明を発表した。

中国が南シナ海の人工島を軍事化し、他国の領海や EEZ(排他的経済水域)で違法漁業を行い、周辺国に天然資源の採掘を行わないよう圧力をかけている時代
においてこの声明に秘められたメッセージは明確だ。ベトナムにとって天然資源と領海を守ることは生き残りのための行動だと、ある専門家は述べている。ランド研究所(Rand Corp.)のデレク・グロスマン (Derek Grossman)上級防衛アナリストはFORUM に対して、「南シナ海はベトナムにとっては死活問題である」と述べた。 

2020 年 9 月、緊迫状態にある南シナ海問題が取り上げられたASEAN首脳会議で各国の大臣に向けて演説するベトナムのグエン・スアン・フック(Nguyen Xuan Phuc)首相(当時)
(中央)。 AP 通信社(THE ASSOCIATED PRESS)

しかし、ベトナムにとって大国となる中国への反撃は困難を伴う。「一方で、南シナ海において中国がベトナムの敵対国であることは確かだ」とグロスマン氏は言う。「ベトナムはまた、一帯一路[インフラストラクチャースキーム]とメコン川のダム化、そしてそれがベトナムのメコンデルタ下流にどのような影響を与えるかについて大きな疑念を抱いている」。

しかし、中国はベトナムを包括的戦略協力パートナーと呼んでおり、これは他国に対する最高の扱いだ。中国はベトナムの最大貿易相手国でもある。グロスマン氏は次のようにも述べている。 「ベトナムは中国がこの地域で手詰まりになっていることに気づいている。そのためベトナムには慎重なバランス取りが求められている」。

ベトナムは、南シナ海における中国の侵略に対して強硬路線を取るため、自由で開かれたインド太平洋という米国の戦略を静かに支持してきた。「そして、ワシントンがこの地域で長年の勢力を維持する意図を示唆している」と、グロスマン氏は 2021 年 1 月のオンライン・ニュース誌『ザ・ディプロマット(The Diplomat)』の記事で述べている。

高くついた干渉

南シナ海におけるベトナムの石油探査に対する中国の干渉は、すでにベトナムに財政的損害をもたらしている。2020 年 7 月、『ザ・ディプロマット』の報道によると、ベトナムは中国からの圧力により南シナ海プロジェクトをキャンセルし、2 社の国際石油会社に対し合計で10億米ドルを支払ったという。

スペインのレプソル(Repsol)社とアラブ首長国連邦のムバダラ(Mubadala)社に支払うことになったのは、ベトナム国営エネルギー企業のペトロベトナム
(PetroVietnam)である。レプソルはベトナムの EEZの端で2つの開発事業を企画していたが、これは北京が主張する法的根拠のない 9 つのダッシュライン内に位置していた。ベトナムは契約解除の決定を下したのは、現場から船で 2 日間の距離にある海南島沖に 40 隻の中国海軍艦艇が集結した後のことだった。

しかし、ベトナムは EEZ 内の資源を抽出したいという願望を失ってはいない。日本のエネルギー企業 INPEX (国際石油開発帝石)と協力してオフショアの油田を掘削する取引を行なっている。『サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)』紙が 2021年 1 月に報じたところによると、この動きは間違いなく中国政府の反感を買うことになりそうだ。 

匿名で同紙に語ったペトロベトナムの関係者は、2021 年には掘削が始まると確信しているという。「中国からの反応は計算内のことでした。しかし私たちは間違ったことは何もしていません。私たちのEEZ 内で掘削を行うだけですから」と述べている。

珍しい非難の声

マレーシアも自国の海上権を守るために声を上げている。2020 年に『ブルームバーグ (Bloomberg)』の報道では、マレーシアのヒシャムッディン・フセイン(Hishammuddin Hussein)外務大臣は 2020 年8 月、マレーシアのベースラインから 200 海里を超えた位置にある大陸棚の残りの部分に関する権利を明らかにする文書を国連に提出したという。

ナトゥナ諸島(Natuna Islands)のセラト・ランパ港(Selat Lampa Port)に停泊中の
インドネシア海軍艦船KRIウスマン・ハルン( KRI Usman Harun)の人員を視察するインドネシアのジョコ・ウィドド(Joko Widodo)大統領(中央)。2020 年 1 月のウィドド大統領の訪問は漁業権をめぐって中国と緊張が高まる中で行われた。AP通信社(THE ASSOCIATED PRESS)

「マレーシアは中国がこれらの海域の歴史的権利を主張することに反対している」とヒシャムッディン氏は述べた。「マレーシア政府はまた、南シナ海の海洋地形に対する中国の主張は国際法に基づくものではないと考えている」。同紙によると、この非難はマレーシアにとっては異例の動きであり、引き続きオープンな貿易水路の維持を強調することで中国への批判を回避していた。

中国は人工魚礁、岩礁、海岸上に軍事基地や前哨基地を建設し、南シナ海のほぼ 80% の領有権を有すると主張している。他にこの海域で領有権を主張するのはブルネイ、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムだ。2016 年の国際仲裁裁判所は中国の広範な主張のほとんどが国際法と矛盾するとして却下した。 

マレーシアの経済は中華人民共和国と密接に繋がっているが、これは防衛パートナーと協力して海上の利益を守ることで成り立っている。その防衛パートナーとは、南シナ海上空のパトロールと偵察のためにアメリカから無人航空機(UAV)を受領する予定の 4 つのインド太平洋軍の 1 つである。マレーシアは 2020 年 5月に 6 機(最終的には12 機の予定)のスキャンイーグル(Scan Eagle)無人航空機を受領しており、同機はインドネシアとフィリピンにそれぞれ 8 機ずつ、ベトナムには6機が配備される予定である。これら全ての国々は南シナ海の海上安全保障を支援する目的で無人航空機を使用するとしている。

無人機1台当たり約1億 4,000 億円(約 140 万米ドル)の費用については、米国が同プログラムに完全に資金提供している。マレーシアへ提供される残りの 6 機
と、その他の国への計 22 機の納入は 2022 年までに完了する予定だ。

立ち上がるインドネシア

2021 年 1 月にインドネシアの海上保安庁が EEZ 内で中国の調査船を発見したが、これは過去数年にわたる中国船との一連の紛争の中の一幕に過ぎなかった。『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』が報じたところによると、中国の向阳븐 03 号は追跡システムを停止していたため、インドネシア政府の船舶が護衛するなかインドネシアのEEZ 外に出たという。

「疑わしい活動を行わずに継続的に航海していれば違反とはみなされなかったでしょう。しかし、この航海中に中国船の船舶自動識別装置(AIS)はオフ
になっておりこれが疑われる原因となりました」。インドネシアの海上保安庁(Indonesia’s Maritime Security Agency)の作戦部長であるスウィト(Suwito)
大将は記者団にこう語った。「なぜ船舶自動識別装置がオフになっているのかを尋ねたところ、装置が壊れているという答えが返ってきました」。

インドネシアは、中国漁船が中国沿岸警備隊の船舶に護衛されながらナトゥナ諸島沖の EEZ 内で活動しているとして中国と複数の膠着状態を展開してきた。紛争が続く中、インドネシア沿岸警備隊は防衛を強化している。2021 年 1 月上旬、インドネシアは巡視船 10 隻にサブマシンガン 20 門を搭載したと『ラジオ・フリー・アジア』は報じている。海上保安庁は 12.7mm 砲に加えて、30 mm サブマシンガンシステムを艦上防衛用に購入することについても防衛省の承認を受けている。

志を同じくするパートナーたち

また、東南アジア諸国は海域の主権を行使する目的でも国際的防衛パートナーの力を借りている。2020 年 4 月、オーストラリアの軍艦パラマッタ (HMAS Parramatta)は、南シナ海の係争海域で米国海軍と合同演習を実施した。米国海軍は「インド太平洋地域の安全と安定を支援する」として軍艦 3 隻を南シナ海に派遣している。

合同演習は緊張が高まる時期に行われた。演習の数日前、中国は南シナ海の島々に行政機関を設置しており、さらにその 1 ヵ月前にはフィリピンなどが領有権を主張する領域に建設された人工魚礁に 2 つの新しい研究ステーションを立ち上げている。

2020 年 7 月、当時の米国国務長官マイク・ポンペオ (Mike Pompeo)による中国の海洋主張に対する痛烈な非難が南シナ海の国々から歓迎されたためこのような論争を巻き起こす行動に至ることになった、とグロスマン氏は語る。 

ポンペオ国務長官は声明で、「中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うことを世界は許さない」と厳しく非難している。2021 年 1 月下旬、新たに米国務長官に任命されたアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)氏がフィリピンのテオドロ・ロクシン(Teodoro Locsin)外相と会談した際も、この姿勢を崩すことはなかった。米国国務省はニュースリリースで、「ブリンケン国務長官は中国の圧力に曝されている東南アジア各国を支持することを誓約した」としている。 

防衛アナリストのグロスマン氏は、中国と海上紛争を繰り広げる南シナ海諸国は、アメリカの支援に感謝していると述べる。ベトナムに関しては、「おそらくEEZ 内に浮かぶ南沙諸島の領有権をハノイが主張していることに対して米国が支援を計画したことは、ベトナムが自信をつける要因となった。重要なのは、アメリカ政府がバンガード堆(Vanguard Bank)を、間違いなくベトナムの EEZ の一部であるとして強調して取り上げたことだ。中国とベトナムの最後の大規模な対立は 2019 年に同地域をめぐって起こった」とグロスマンは『ザ・ディプロマット』に記している。

グロスマン氏は、ベトナムは南シナ海における米国の長期的な関与を望んでおり、米国の指導者の声明にベトナムは満足しているようだ、と FORUM に語った。 「ベトナムはポンペオ米国務長官対して熱狂的な反応を見せることはできなかったが、同氏の声明に対して明らかに満足しているようだ。

「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific )」戦略では、同盟国とパートナーが協力して国際海路を開放し、領海を保護する必要がある」
と、グロスマン氏は語る。「それが米国の望みであり自由で開かれたインド太平洋戦略はその延長線上にある。米国はまた、南シナ海で中国の主張に直面
する他の価値観を共有する国々のサポートにも期待している。これらの国々がパートナーとして機能することで問題解決の糸口が見えてくるだろう」

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