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太平洋島嶼諸国に脅威をもたらす中国漁船団

ジョセフ・ハモンド(Joseph Hammond)

サッカースタジアムを包み込めるほど巨大な地引き網を使用する特大の中国籍トロール船がインド太平洋全域で漁業を展開している。こうしたIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)により、米領サモア、グアム、ハワイの海域といった地域の食料安保が脅かされている。太平洋島嶼諸国にとってIUU漁業は国家安保の脅威ともなる。

トンガ議会のフシトゥア(Fusitu’a)貴族代表議員はFORUMに対して、「トンガ海軍がEEZ[排他的経済水域]全域を取り締まることは無理である」とし、「中国が当国の排他的経済水域を侵害していることに疑いの余地はなく当国の食料安保にももちろん影響が及んでいる。しかし、最も懸念しているのは中国による侵害の理由である」と述べている。

米国と「二国間海洋法執行(MLE)シップライダー(乗船)協定」を締結しているトンガの法執行官は、米国沿岸警備隊(USCG)の船舶に乗り込んで自国の排他的経済水域における違法行為に対処することができる。フシトゥア議員は国際社会およびファイブ・アイズ情報共有協定を締結しているオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国に呼び掛け、太平洋におけるIUU漁業取り締まり対策の拡大を提唱している。

ガーディアン(The Guardian)紙の報道では、パラオ周辺海域でも中国漁船によるIUU漁業が発生しているが、これは台湾を国家承認して外交関係を継続しているパラオという島嶼国に対する制裁を目的としている可能性がある。パラオは自国に新たに米軍基地を設置することを米国に要望している。こうすることで船舶と航空機による哨戒活動の効果を向上できる可能性がある。

IUU漁業を操業する国は他にも存在するが、同議員によると世界最大規模を誇る中国の深海漁船団が最も深刻な懸念対象となる。英国に本拠を置く英国海外開発研究所(ODI)が2020年に発表した報告書によると、中国には写真のような漁船が1万6,966隻も存在しておりその大部分が太平洋地域で操業している。こうした中国漁船のうち約1,000隻が便宜置籍船として他国で登録されている。

国際組織犯罪対策会議(Global Initiative Against Transnational Organized Crime)が発表した最近のIUU漁業指数(IUU Fishing Index)によると、IUU漁業に最も多く関与しているのは中国漁船である。

FORUMに対して、「漁網で海底をさらって底魚(沿岸の底部で生息する魚類)を獲るトロール船は地元の小規模漁業者と競合することから特に問題が大きい」と述べた非政府組織「シーシェパード環境保護団体」のピーター・ハマーシュテット(Peter Hammarstedt)キャンペーン局長は、地元の漁業者船舶の能力を超越する性能を備えた産業用の船舶が操業することで、地元漁業者の生活や地域住民の栄養源が危険に曝されていると説明している。

多くの太平洋島嶼諸国では流し網の使用を止める傾向にある。これは流し網による対象魚以外の生物の混獲が問題になっているためである。2021年、バヌアツ政府は流し網による違法操業に関与した中国漁船の船長2人を刑事告発し、数百万米ドルの罰金を科した。中国政府は漁船数を減らし漁業者への補助金を段階的に廃止することを誓約したが、カナダに所在するブリティッシュコロンビア大学の調査によると中国の底引き網漁の制限対策はほとんど功を奏していない。

国際連合食糧農業機関(FAO)の発表では、日常的な食事の30%とタンパク質の50%以上を魚類から摂取している太平洋諸島の住民にとって、トンガなどの他国海域で違法漁業を営むトロール船は存続に関わる脅威となる。地元漁業者や政府が被る経済的損失によって状況は一層悪化する。コンサベーション・インターナショナル(CI)によると、ミクロネシア連邦、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、トケラウ、ツバルではマグロ漁業による収益がその歳入の45%以上を占めている。

ジョセフ・ハモンドは、インド太平洋地域発信のFORUM寄稿者。

 

画像提供:ウィキメディア・コモンズ

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