文化と習慣連載記事

伝統を守る日本の巨匠、子どもたちに文楽人形を作る

記事と写真:ロイター

日本がコロナウイルスによって緊急事態に陥っている間、何週間も家にこもっていた著名な文楽人形遣いの桐竹勘十郎氏は強い不安に襲われた。

文楽は男性のみで演じられる日本の伝統的な人形劇で、1600 年代後半に大阪で生まれたが、2020 年に存続の危機を感じたという。彼の公演は全て数ヵ月間中止になった。

「様々なことが頭をよぎりました。パンデミックはいつ終息するのか?公演はいつ再開するのか?」人形劇専用部屋のある自宅でそう話す勘十郎氏は 67 歳。87 歳の師匠が再び舞台に立てるのかも心配だった。

そんな不安の解決法は、自宅で子どもたちのために人形を作って過ごすことだった。文楽の人形遣いとしては珍しい活動である。彼にとって人形作りは数十年の仕事と結び付くものだった。伝統的な人形劇の演技で、彼は政府から人間国宝に認定された。

最近の授業には 30 人近くの小学校 6 年生が参加し、炎天下の体育館でTシャツ姿の勘十郎氏に指導されながら人形劇の練習に励んだ。 

文楽では1体の人形を 3 人で操る。リーダーの主遣い(おもづかい)と、黒衣姿で顔を覆った 2 人だ。主遣いは頭と右手を、あとの2人はそれぞれ左手と両足を操る。舞台には語り手である太夫や伝統楽器もつきものだ。 

勘十郎氏が作った 5 体の人形はコミカルな顔をしており、その顔を縁取る髪は毛糸でできていた。そして足には、インターネットで購入した鮮やかな色の靴下をはいていた。 

足元から 

父の背中を追い、勘十郎氏は14歳で人形遣いとしての道を歩み始め、現役最高齢の人形遣いである吉田簑助氏 (87)に師事した。他の人形遣いと同様に勘十郎氏も足を遣う修行から始まり、左手に進んだ。人形遣いが頭を遣えるようになるには30年以上かかる場合もある。手足を遣うことについて、勘十郎氏は「目に見えない大変な役割」だと言う。「観客は彼らが誰かも分からず、拍手は主遣いに送られます」 

足の遣い方を理解することは非常に重要だ。足遣いは主遣いの腰に触れて、どのように動くのかを身体で感じる。これは勘十郎氏が亡き父から学んだことだ。父は病気で痩せ細った後も、主遣いとして全身を使って人形を操っていた。 

「人形に命を吹き込むためには、つま先から指先に至るまで全身を使う必要があることを父から学びました」と、勘十郎氏は振り返る。「そうすれば、小柄で痩せた人形遣いでも大きな人形を操ることができるのです」 

勘十郎氏は日本を代表する文楽の演者のひとりだが、若い人材の確保には今も頭を悩ませている。 

大阪の国立文楽劇場では無料で 2 年間の研修実施しており、現役の演者 83 人のうち半数以上がこの研修の修了者だ。パンデミック前から文楽の人気は下火になっており、2020 年 9 月の時点で研修生はわずか2人だった。

もしかすると幕を開けたり小道具を渡したりするために雇われた人が文楽を好きになって勉強したくなるかもしれない、と勘十郎氏は思
っている。9 月には東京で公演が再開された。 

「外国人が活躍する相撲や落語のように、文楽にも外国人の演者が出てくるかもしれません」。日本の伝統文化である相撲と落語を引き合いに、勘十郎氏は述べる。「また、女性が参加するのも時間の問題 かもしれません」。

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