特集

はたして ロシアの未来は 中国を 含むものなのか?

ドリュー・ニニス博士/オーストラリア国防軍

「欧州の紳士達がどれほどの怒りを蓄積したか!」新 たな皇帝の忠実なオプリーチニキ(警備員)であるアンドレイ・ダニロヴィッチ・コミアガ(Andrei Danilovich Komiaga)は声高に言う。「何十年もの間、 彼らは我らが勤勉な人々の困苦を考えることなく、我々のガスを消費してきた。彼らが報告するのはなんというニュースであろうか!ニースは再び寒くなった!紳士諸君、あなた方は少なくとも週に数回冷たいフォアグラを食べることに慣れなければならないであろう。ボナペティ!中国はあなた方より賢いことがわかった。」

ともあれ、これはソビエト後の挑発者ウラジーミル・ソローキン(Vladimir Sorokin)が小説「オプリーチニキの日(Day of the Oprichnik)」で描いたロシア
(そして中国)の未来である。2028 年の新ロシアを舞台に、皇帝政権は本格的に復活し、ヨーロッパとの国境に大きくて美しい壁を建てて、「不信者の悪党、
サイバーパンク、…マルクス主義者、 ファシスト、多元主義者、そして無神論者!」を立ち入らせないようにする。ロシアは豊かで中国の技術に溢れ、内向
きでありつつ、イヴァン4 世時代の(またはこの新世代のロシアの指導者が有しているかもしれないおそるべき)封建的構造に戻る。 

ソローキンによる答えは空想的かもしれないが、彼が提起する質問は尋ねるだけの価値がある。2028 年以降のロシアはどのようなものであろうか?ロシアの未来は中華人民共和国(中国)を含むものであろうか?そして将来の欧州やその他の地域にとって、どのような可能性のある未来となるであろうか?ロシアと中国の絡み合った軌道は、21 世紀を形作る米国、欧州、およびその同盟国に結果的な決定を強いるであろう。これらの決定に関して予測し、情報を提供して 準備する 1 つの方法はそれが意味しうる将来の可能性 を検討することである。

もちろん先物取引は本質的に不確実であるため、このような未来分析は予測のコールオプションを行うよりも シナリオ想定を主に扱うこととなる。このシナリオ想定は、ソローキンの華やかな風刺的なスタイルですべてを 網羅するわけではない。その代わりとして以下の分析 では主要な傾向と指標、暫定的な予測に利用可能な 経験的データ、および考えられる将来のシナリオの 範囲を提供する前の反事実的事例を検討する。 

この分析では、ロシアと中国の潜在的な将来の問題 をいくつかのセクションに分割する。まず、両国相互の歴史とこれらが使用される可能性のある方法を検討する。第二に、両国の潜在的な傾向と将来を考慮する。第三に、これらの未来を形作る上で中国の一帯一路(OBOR)計画が持つ中心的な役割を検討する。そして 最後に、これらの将来の潜在的なシナリオと戦略を 検討する。

これらの憶測には基本的な政策の適用があり、西側諸国がこれらの未来のいずれを好むか、そしてすべての人にとって最良の未来を達成するために何 ができるかについて明確な考えを促す。究極的に言 えば、多数の潜在的な対応を計画し、実際にはそれらを 必要としない方が驚きにとらわれて選択肢がない状態よりもはるかに良い。

中国の潜在的未来

中国の将来、特に可能性の領域を定義しうるトレンドと セクターに目を向けてみよう。それは、中国の物理的環境、人口統計と経済、中国の政治と社会、そして中国の 対外関係と安全保障である。最後に、中国の将来の戦略はどのようなものになる可能性があり、中国にはそれを追求する上でどのような選択肢が存在するだろうか?

端的に言って、中国の環境問題の将来は良いものになるとは思えない。環境問題の傾向が突然好転する 可能性は極めて低く、その長期的な傾向に取り組む 中国共産党の選択肢が限られているため、これは悪い ニュースである。経済協力開発機構(OECD)のデータ が示すように、中国の二酸化炭素排出量は先進国の
排出量に近づいており、大幅な介入がなければ 2050 年までに劇的にこれを超えてくる可能性がある(図 1)。OECD のメンバー国は、オーストリア、オーストラリア、ベルギー、カナダ、チリ、コロンビア、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、新ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、および米国である。

再生可能エネルギー以外の電力生産の増加はある程度進 んでいるが、中国は他のほとんどの先進国に遅れをとっている。これは、グローバルに重大な結果とローカルに深刻な結果をもたらす。中国の耕作地は 2000 年の 1 億1800 万ヘクタールからわずか 15 年後には 1 億 600 万 ヘクタールに劇的に減少したが、その人口は増え続けており、食料安全保障が大きな問題となっている。米国では、同時期に 1 億 7500 万ヘクタールから 1 億 5400 万ヘクタール になっている。これも急激な減少ではあるが、米国との貿易戦争の短期的な影響にもかかわらず、一帯一路の として巨大農業国を貿易相手国としてその数を急速に増やすことができない限り、中国は米国からの農業輸入に依存し続ける可能性が高いことを示している。

中国の他の環境指標も同様に憂慮すべきストーリーを示している。自然災害によって国内避難民となった人々の数は高止まりしており、毎年平均 700 万人である。水のストレスレベルは非常に高く、大気汚染への平均年間曝露量は世界の他の地域を上回っている(図 2)。

この調査のポイントは中国が直面する将来の 環境問題に直接起因して、他のセクター(人口統計、経済)の成長が重大な制限に直面していることを立証することである。この問題の主な原因は、水と食料とエネルギーの結びつきである。こうした環境問題が 中国の食料需要およびエネルギー需要とともに成長 するにつれ、その成長を支える水やその他の重要な 投入物がますます少なくなるためだ。 

中国の成長とその将来を制限する 2 つ目の要因は、人口統計である。中国の厳格な人口抑制(一人っ子政策 を含む)の遺産は、2025 年までに中国が最も人口の多い国ではなくなることである。その栄誉はインドに与えられ、その成長率は 2050 年まで上昇し続けると予測されている。実際、早ければ 2030 年までに中国の 人口は減少し始め、2040 年には OECD 加盟国の総人口 の方が上回る(図 3)。中国が富を築いてきた基盤 そのもの、つまり安価で豊富な労働力を備えた製造業経済、膨大な人口を背景に構築された無限の経済成長能力は、侵食されるであろう。世界経済の規模と成長が 国の若年層の人口比率と規模に関連している場合、西側諸国はすぐにインドの台頭が中国という犠牲を払った上でやってくるのかどうかを尋ねるであろう。

そして、ニュースはさらに悪化する。中国の人口が 減少するにつれて中国も高齢化する。つまり、より少ない割合の労働者がより多くの中国国民のリタイヤを支援 しなければならなくなる。これは、中国が年老いてしまう前に豊かに成長し、世界経済のバリューチェーンを上に 移動することに成功するかどうかという問題につながる。

次に、中国の政治的安定は引き続き中国共産党の 権力と有効性に依存している。この見方は今後数十年 にわたり様々な予期せぬ方法によってストレステスト にさらされる可能性がある。第一に、党自体の内部には安定性があり習近平書記長の下で一枚岩のように見 えるかもしれないが、実際はその見た目よりもはるかに派閥的であり内部の意見の不一致が生じやすい。確かに習 が 2 週間姿を消した 2012 年 9 月の「戴冠式」は混乱していた。ワシントンポスト(The Washington Post)紙は、長引く会議の中で介入を試みた習に、中国の上級指導者が投 げた椅子が当たって負傷したためだと報じている。 

中国の対外関係と安全保障の観点から、これは中国共産党 が進めなければならない 3 つの重要なプロジェクトに変換される。それは習の「チャイナドリーム を実現し、地政学的な「核心的利益」にしっかりと立脚し、可能な限り紛争を回避することである。チャイナドリームは 20 年間 の枠組みで中国が豊かに成長し、将来の中国の富と権力の 確固たる礎を築くという中国共産党の計算に基づいている。この間、中国共産党は第二次世界大戦後の経済的または 政治的秩序に根本的に異議を唱える可能性は低い。なぜなら、そのほとんどの部分が今のところ中国に有利に働いており、その秩序を維持するのに中国が支払わなければならない
コストは非常に限定的なものであるためだ。これに加えて 中国は、最初は経済的に最終的には政治的に、中国共産党 の内部状況におけるコントロール体制をコピーする形で、外部状況をコントロールするための基盤を静かに築くことを 目指している。一帯一路はこの移行において基本的な タスクを実行するものである。これを行う間、中国は 地政学的な核心的利益を堅持し続ける必要がある。すべての セクターで中国共産党の優位性を維持し、台湾に接近 しながら新疆ウイグル自治区と香港で領土保全を維持し、アクセスへの対抗と領域の拒否という軍事戦略を通じて、外部からの介入を阻止しながら内部姿勢を維持するのである。
最後に、中国共産党はほぼ確実に能力のある国民国家との露骨な軍事紛争を避けたいと考えており、地政学的な 核心的利益をめぐる小さな紛争でさえ、チャイナドリームの機会を危うくするものであると信じている。

したがって中国の将来は、これらの目標の成功、特に国家が年老いてしまう前に裕福になり利益を均等に分配することにかかっている。一帯一路は、その 獲得のための中心的な手段なのである。また中国共産党 は、外部のアクターに対する計画を有してはいるが、それよりも内部の脅威と不安定性を恐れている可能性
がある。2 つの重要な要素が中国の潜在的な将来を 推進する。それは中国の経済がすべてのシリンダー で実行されているかどうか(そして大容量であるかどうか)と、中国共産党のパフォーマンスおよび正当性である。これらの 2 つのトレンドをX軸とY軸に並べると、中国の 4   つの興味深い未来が得られる(図 5)。

中国の大容量、高性能/正統性の未来では、私たちは中国最初の皇帝のハイテク版を迎える—未来の技術を 使用して国民の生活と内部のセキュリティを厳しく管理する与党(始皇帝の「鉄のグリッド」は、すべてをそれぞれの場所に固定する中国の生活に実装された)は、それでも大多数の国民に豊かで快適な生活を提供する。大容量、低パフォーマンス/正統性のシナリオでは、清朝後期への復古となる。経済が活況を呈し多くの富 が国内外の関係者に移転するが、中国共産党の支配力 がゆっくりと、そして急速に崩壊する可能性がある。中国社会の自由化、または最も裕福で影響力のあるアクター 間における富の奪い合いにつながる。高性能/正統性、 低容量のシナリオでは、厳しい状況の中で毛沢東議長が何度も中国を変革しようとした試みが繰り返される可能性 がある。中国共産党は厳格な統制を行うが効果はほと んどなく、成長は停滞して人々は貧しく、グローバルな経済発展は他の場所に移る。最後に、考えられる中で最悪 のものはパフォーマンス/正統性が低く容量が少ないシナリオ で想定されるものである。このシナリオでは、中国が 三国志時代の不安定性に戻り調和は失われ、崩壊が進む。

中国の将来に関するこの単純な考え方では、いずれの可能性が高いかは予測していない。実際、真実はこ れらのどのシナリオにおいてもユニークな変種であ りはるかに複雑であろう。しかしこの考え方は、我々が様々な国家の形態を想像し、一帯一路の成功または失敗、そして中国とロシアとの関係がこれらの将来に与える影響を考えることを可能にするものである。 

ロシアの潜在的未来

将来の戦略に関しては、ロシアは西側との挑発と譲歩の微妙な線を歩こうとする可能性があり、欧州の同盟国が完全な対立または封じ込め政策にコミットするための 持続的な力を有していないことに賭け、可能な場面では譲歩を引き出そうとするであろう。同時に、ロシア にとって中国とユーラシアでのヘッジ戦略を推進し、可能な場合は新たな市場と同盟国を模索することは価値 がある。最後に、ロシアのレジームはリソースの スーパーサイクル中のダウンタイムの影響を軽減しようとしながら、内部の回復力と依存性を強化しようとする可能性がある。これらの戦略で最も興味深いのは、後者の3つの目的が一帯一路と直接交差しているように見 えること、そしてロシアがその基本的な部分を形成 しているかどうかという差し迫った問題である。西側からの 圧力をうまく食い止め、中国やユーラシアとの間に緊密な経済と安全保障の関係を築き、新たな市場と現在の 経済問題を緩和する手段を見出し、その地位を安定させ 復活したロシアを想像することはソローキンの描く架空 の未来からそれほどかけ離れたものではないであろう。 

これにより、ロシアは興味深いが潜在的に危険な一連 の未来の選択肢に導かれる(図 6)。中国の未来軸の 1 つは、中国共産党の有効性と権限に基づいているが
ロシアの場合は国内の反体制派のレベルと、それが ロシアの指導者層の目的をどのように妨げるかについての 傾向を特定する方が正確かもしれない。同様に、中国 の経済的キャパシティと世界経済を動かす能力は重要 な問題であったが、ロシアの場合は経済的に復活し たのか落ち込んだのかという単純な問題である。
提示される 4 つのシナリオは中国とは微妙に異なり、ロシアのさまざまな内部構造と強さと脆弱性の源泉を表しているが、やはり大まかな歴史的類似点が存在
する。経済的に強く統一されたロシアは、ピョートル大帝 2 世ともいうべき存在を示す可能性があり、ロシアの将来の指導者とエリートは東側で独自の関係性と
アイデンティティを築きつつ(新たなネルチンスク条約または特別な友好関係)、西側では特定の領域に挑戦またはこれを取り込むことができる。世界はこの地政学的な並びに多くの恐れを抱いているかもしれない。そして実際、こうした論は、ポール・ディブ(Paul Dibb)やヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)のような無愛想で古い冷戦戦士の間の話題であった。一方、経済的に強いが政治的には崩壊したロシアという存在は、ニキータ・フルシチョ(Nikita Khrushchev)時代の初期の復興に似ているかもしれない。エリート達は、完全にはコントロールしきれない 綻びと取り締まり強化の間で揺れ動きつつ、人気のある 異議を封じ込めようと奮闘する。中国と同様に、外交政策が内的な変動要素によって推進されるため、これは国際社会において一貫性を欠いたより不安定
なロシアにつながる可能性がある。経済的に弱いが 内部対立が少ないロシアは、レオニード・ブレジネフ(Leonid Brezhnev)時代の停滞への回帰を表 すかもしれない。そこでは誰も特に幸せではなく、ロシアは減退するが、潜在的にはるかに悪いことへの恐 れによって内的、外的な抜本的行動は妨げられる。

最後に、ロシアにとって最も恐れられている状況は、ミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev)から ボリス・エリツィン(Boris Yeltsin)への権限移行と
経済改革のための「ショック療法」時代という内的な 異議の高まりと経済崩壊の時代への回帰である。中国の 最悪のシナリオは制度の崩壊と不確実な移行を表しているが、それは必ずしも中国自体の崩壊または分裂を表すもので はない。ロシアの場合、ロシアが国境を固める上で衛星国 として認識している地域における多数の凍結中の対立(チェチェン、南オセチア、アブハジア、ドネツク、クリミア)を考えると、ロシアが崩壊しないという 考え方はそれほど確実なものとはならない。ロシアは 圧力の下で分裂し、同時に多数の冷戦を熱戦へと転換 させるかもしれない。我々は、攻撃的で復活したロシアよりも崩壊するロシアの方がはるかに悪影響を及 ぼす、という現実に直面させられる可能性がある。 

一帯一路 

そして、一帯一路とそれがこうした未来の選択肢の間 で重要なピボットとしてどのように機能するかを検討 することには価値がある。具体的には、2013 年に習近平 が中国の夢と「新時代の中国の特徴を備えた社会主義に関する習近平思想」の一環として発表し、2016 年に 一帯一路構想という名称に改めた。5,750 億米ドル相当 の鉄道、道路、港湾、その他のプロジェクトで構成され、 中国が定義する 6 つの陸路のシルクロード経済ベルトと 21 世紀の海上シルクロードを確立するというものである。2019 年 3 月の時点で、125 ヵ国がイニシアチブの一環 として中国と協力協定に署名している。ただし世界銀行は、125 ヵ国のうち 71 ヵ国のみが何らかの意味で一帯一路に関連していると評価しており、125 という数字はあまりあてにはならない。明確にすべき一帯一路の構成部分についても混乱がある。陸路は、その全長にわたって 産業と市場の経済回廊を可能にし中国の世界的な野心 を刺激する「帯」である一方で、海路は単に港から港 へと物資を輸送するための「通路」でしかない。 

一部の人々が指摘しているように、中国の経済は減速 の現実に直面している。中国は、雇用と安定を生み出 すためにこの減速があっても高い成長率を継続 しなければならない。しかし、長年の間、成長率継続のために選択された中国共産党のツールは債務と非競争的 な国家管理であった。このままでは中国共産党が必要とする結果がもたらされ続けるとは考えにくい。第二に、中国は安価な輸出メーカーとしての経済から、 より価値の高い製品やサービス(自動車、固有の技術、 金融など)を内外の市場に供給する経済へとバランスを取り直さなければならない。これらはすべて、 中所得国の罠、または国が豊かになる前に年老 いてしまうことを回避するのを目的としている。

一帯一路によってこれをどのように達成するかについて、 現時点では2つの競合する理論が存在する。政治学者 ブルーノ・マカエス(Bruno Macaes)のような
「マキシマリスト」は、それを中国が主宰する経済的新世界秩序の始まりに他ならないと見ている。マカエスは、次のように述べている。「ユーラシア大陸の両端を 結ぶインフラを構築および制御できる者が世界を支配 するであろう。…発展途上国への投資のペースと構造を管理することにより、中国はより価値の高い製造と サービスにはるかにスムーズに移行することができる」。世界銀行の観測では、「一帯一路に沿って位置する国々は、既存のインフラや各種の政策ギャップによって十分 なサービスを受けていない。結果としてこれらの国々は 30% のアンダートレードを経験し、潜在的な外国直接投資(FDI)を 70% 下回っている。一帯一路の輸送回廊 は、移動時間の短縮と貿易・投資の増加という 2 つの 重要な方法で役立つであろう」とされている。したがって、中国は発展途上国の中でギャップを埋めると同時に親善を築き、現在バリューチェーンの頂点にあるより先進的な OECD 諸国を追い抜いて世界経済の次の段階をリードすることを望んでいる。 

しかし、これまで成功した一帯一路の宣伝キャンペーン 要素は、見た目よりはるかに少ないものを偽装してい るにすぎないと主張する「ミニマリスト」理論も
存在する。世界銀行が前述の分析に大きく依拠する 一方、たとえば、戦略国際問題研究所のシニアフェロー であるジョナサン・ヒルマン(Jonathan Hillman)は、 次のように主張している。「一帯一路はあまりにも 広大であり、一人でそれを主導することはほとんど 不可能だ。中国がすべてを把握しているかどうか疑
わしく思えることもある」。同じ報告書の中で著者らは、このプログラムは「中国と回廊経済が透明性を高め、貿易を拡大し、債務の持続可能性を改善し、環境、社会、汚職 のリスクを軽減するより深い政策改革を採用した場合 にのみ機能する」と主張している。この理論では一帯一路 が中国経済、特に建設部門にとって単なる刺激剤で、より多くを引き出すための巧妙な物語であり、外資を獲得して プログラムへの賛同を得るための同時市場への売り込 みで、それは中国に利益をもたらすだけの存在 でしかないという主張がなされている。さらに一部の コメンテーターは、一帯一路を構成するプロジェクトは 国境を接する経済を支援するのではなく、近隣国政府に対して中国に影響力を与える有用な債務の罠であると強調 している。そして、この一帯一路のプログラムは、中国共産党
が結びついた党幹部や企業の忠誠心を買うための有用な 口実であり、汚職によって投資のかなりの部分が吸い上 げられてしまうことを指摘する向きもある。

さて、どちらが正しいのであろうか?一帯一路は、中国またはロシアの未来の選択肢の中で、特定のセットが他の選択肢よりも可能性が高いかどうかを決定しうる重要な要点であるため、この質問は特に重要である。 そして、一帯一路はその評価に何年もかかる巨大事業 であるが現在までのところ全体像はあまり良いもの ではない。一帯一路は脆弱な国々にとって債務の罠として 機能している。スリランカは新しい港に投資するために多額の借金をしているが、その後、国営の中国企業に 債務救済と引き換えに 99 年間のリースを許可している。スリランカが得るものはほとんどないが、中国にとっては 主要な航路に沿った戦略的施設となる。620 億米ドルの中国・パキスタン経済回廊は、主要パートナーとの間 における一帯一路の可能性の有望なデモンストレーション となったが、パキスタンの重大な債務問題の中で行き詰 まっている。ミャンマーは当初 75 億ドルであった 中国との港湾取引を縮小し 13 億ドルに落ち着いた。 マレーシア政府は 30 億ドル相当のパイプラインを キャンセルし、110 億ドルの鉄道取引を放棄すると 中国政府を脅している。モルディブは、一帯一路プロジェクト の広範囲にわたる汚職のために債務救済とキャンセル を求めている。一方、ケニアの発電所は汚職と環境問題のために国の裁判所によって停止されている。 

それでも一帯一路は利益を上げてはいる。世界銀行の 推計によると、一帯一路によって果物や野菜などの時間 に敏感なセクターや電子機器の分野で中国とその貿易相手国 に大きな利点が提供され、2.8% から 9.7%(世界全体で1.7% から 6.2%)の貿易の成長があった、とされている。 さらに、低所得国では新しい輸送リンクにより FDI が7.6% 増加したと推定されている。しかし、一帯一路が マキシマリストの主張をはるかに下回 っている可能性が高いことも明らかだ。歴史的な観点から見ると、それは確かに我々が予測するところでもある。中国の5750 億ドルの投資に対し、第二次世界 大戦後の経済秩序は西ドイツと日本の 再建を含めて、数十年にわたって数兆 ドルの投資を行った米国とその同盟国 によって形作られたものだ。学者たちは、 ソビエト連邦が共産主義秩序を構築 するために費やし、崩壊に終わった時のコストにいまだ取り組んでいる。中国が安価に同様の変革を達成できると考えることは、おそらく楽観的すぎた。

1 つの答え

しかし、ここで当初の疑問点あるいはそのバリエーション に立ち返ってみよう。中国の将来は中央アジア、東南 アジア、イラン、トルコ、欧州、そしてアフリカを含 むものか?明らかにその答えはイエスである。一帯一路 の控えめな要素のみが提供されたとしても、中国は資源、 食糧安全保障、新産業または中国のバリューチェーン の生産の他の要素など、このすべての地域において 相互に有益な市場を確立しようとしている。それらは 同時に、中国が国民の富と満足を向上させるために必要 なアクセス、安価な労働力、スキルおよびリソースを 提供する。これらの市場は中国に近く、中国の投資と 統制の度合いに敏感であり、その市場と中国は同じ結果から利益を得る立場にある。

しかし、はたして中国の未来はロシアを含むもので あろうか?エビデンスを検証するとそれは可能ではあ るものの、リソース、市場、地理、競争、ロシアの見通しなど、いくつかの重複する理由から結局のところ答 えはノーである。ロシアがオファーする資源、主に エネルギーと天然資源は、その提供する範囲が狭く中国はロシアよりも経済的動脈に近い各国からそうした資源を調達することができる。中国は供給先であるのみならず、 強力な双方向貿易を確保するための付加価値商品の相互市場 でもある。ロシアは、その縮小傾向と競争面での貧弱 さのため、そうした相互貿易を提供する可能性が低い。両国間の友好条約と広範なパイプラインネットワークの構築にもかかわらず、習とロシアのプーチン(Vladimir Putin)大統領が天然ガス取引合意に到達できないことが、 この問題を象徴している。関連するのは市場の問題だ。 付加価値のある中国製品にとってロシアは十分な大 きさや便利さを備えた市場ではなく、そうした製品群はロシアを迂回して欧州に流れ込む傾向がある。

そこに地理的問題が生じてくる。一帯一路の イメージは、ロシアを通過する壮大な鉄道、または ソローキンの小説に出てくる超高速道路を示しているが、 現実にはこれらの「帯」に収益性の高い市場がない限り 中国が膨大な商品を移動するための最も安価な方法は海運である。北極海における輸送の開始は、短期的
にはロシアを助けるかもしれないが、より単純に 中国がロシアを迂回して輸送(および市場)を求めることの 費用対効果は高い。さらに、世界銀行はロシアは中国の経済回廊内には入 っておらず、プログラムのメリットが東南アジア、アフリカ、中央アジア などの地域に流れる可能性の方がはるかに 高いと指摘している。これに加えて、ロシアと中国は依然として地政学的な競争相手であり、中央アジアやその他の地域で影響力を求めていることも念頭 に置いておくだけの価値はあるだろう。 双方とも行動上は正式な同盟または 制約を慎重に見ており、むしろケースバイケースで問題 を決定することを望んでいる。「特別な関係」というレトリックを超えるものはありそうにない。上海協力機構 やユーラシア経済連合などの機関は、ロシアと中国の関係に関する限り、欧州連合や NATO などの長期的な 行動のための組織よりも議論のためのフォーラム的 な性質を有している。

そして、ロシアの態度と性質が(中国のそれと同様
に)より広い問題として存在する。西側に対し、緩く
一般的な不満があるにもかかわらず、ロシアと運転席
にいる中国との関係がこれ以上容易になる可能性は低い。
ロシアはおそらく西側に対するのと同じ問題を抱えている
だろう。平等に扱われないことへの恨みである。これは
基本的に、前述の傾向を考えると、ロシアが 2050 年
までに確実に成長することはないためである。中国の
新秩序の下では中国は積極的にその利益を追求し、
ロシアの利益を無視する可能性がさらに高くなるであろう。
むしろロシアは物欲しげに成長し、西洋の昔からの
地政学的競争相手を見逃すかもしれない。

潜在的な戦略

しかし、未来を分析するアナリストは様々な選択肢を検討する必要がある。中露が互いに接近して成長した場合、西側諸国がとりうる選択肢は何であろうか? ロシアに対処し中国を未然に防ぐために4つの戦略が 提示されうる。新たなマーシャルプラン、中国の下 での「自己強化」、ロシアの統合、またはこれに対峙して孤立化させることである(…永遠に)。

新たなマーシャルプランは、中国が市場や機会へのアクセスを獲得しようとしている発展途上国に対し、 米国、その同盟国、パートナーが支援を行うことで 一帯一路と競争しようとするものである。これには インフラ、投資、その他の開発プロジェクトに多額の 費用がかかることになる。それは新しい市場のための 国造りであり、中国に代わるものを生み出し、東南アジア、 アフリカ、中東の国々に対してより魅力的な機会を開 くであろう。各国は世界経済のニッチに特化する(日本 が 1990 年代に南アジアと東アジアで試みたもの)ことが 可能である。それは、そのサイズのプロジェクトに伴 うすべての欠点を伴う、巨大で高価な計画となるだろう。 これには膨大な量の調整と合意が必要であり、ロシアと中国はあらゆる機会にそれを弱体化させようとする。 それでも、前例は存在する— EU、欧州原子核研究機構、 世界銀行や国際通貨基金の活動。しかし、ジョージ C.マーシャル(George C. Marshall)、フランクリン D. ルーズベルト(Franklin D. Roosevelt)による再建、 国造りの時代は終わりを迎えたであろうか?

2 つ目の選択肢は、中国人には親しみのある現象である 中国の自己強化である。不人気だが強力な皇帝、 あるいは低レベルの腐敗した役人の治世に従いながら
アクターは政権の落とし穴を避けつつ、できる限りの リソースを集めることに集中するであろう。これには 西側諸国が中国に一帯一路の下で主導権を握らせ、それを有利に利用できる場所を見つけ出し、順調に進んでいる間 にできる限りの利益を上げることが含まれる可能性がある。 先進国は中国のサプライチェーンに統合し、中国への投資 の機会を提供し、中国への道を円滑にすることが可能である (たとえば、世界貿易機関の市場経済状況を介して)。 これはまた、国家が関与する可能性のある政治的言論や 介入—たとえば、中国の人権侵害批判、台湾の地位の保護 について中国が課する制限を受け入れることを必要とする。
確かに、Facebook、Google、ディズニーおよびその他の 企業はまさに(いくつかの問題を伴う)この種の自己強化 に関与する意欲をすでに示しており、さらに多くのことを進んで行う可能性がある。2019年後半の中国における 全米バスケットボール協会(NBA)の論争はこれが何 を伴うかを示している。中国市場で数十億ドルを稼ぐ機会 ではあるが香港での中国の行動について否定的な ツイートをする余地はない。しかし、我々はこの対価 を喜んで支払うであろうか?

3 番目の選択肢は最も抜本的なものである。ロシア を欧州そしてグローバルコミュニティに再統合するこ とにより、ロシアと中国の緊密な関係を回避することである。ロシアの最近の冒険主義や傍若無人なふるまいを考えると、これを受け入れるのは難しいかもしれない。しかし、それは第二次世界大戦後の国際秩序における 唯一の主要で粘り強い抵抗として中国を孤立させるだ ろう。ロシアがクラブに戻ることを許可することで、 西側は中央アジアと中東におけるその影響力を利用し、中国をその主たる一帯一路の目的から締め出すことを 可能にするだろう。それには現在のロシアの敵対行為と アウトサイダー的地位(ほぼ確実にウクライナにとっての 不利益)の終結を交渉すること、かつロシアが 2008 年以前に望んでいた欧州統合を達成できるようにすることが含まれる。米国とその同盟国は、ロシアの勢力圏 というものと、その中で欧州の他の地域でビジネスを 行うであろうロシアの手法(一般に石油政治と様々な 程度の腐敗または合法性に関するグレーゾーンを伴う 方法)を受け入れる必要がある。これはロシアとその 依存関係が西側との協力を動機付けする一方で、中国 を締め出すというリチャード・ニクソン(Richard Nixon)米国大統領による1972年の中国に対する開放の鏡像のようなものである。しかし、西側諸国は今のロシア のような国と永遠に共存できるであろうか?そして、 その達成のために重要な同盟を犠牲にできるであろうか?

最後の選択肢は、西側諸国がひたすら現在のアプローチ を継続することである。中露両国に対する依存を減らしつつ、 両国から利益を得るという戦略を継続し、交渉の余地 がない問題に強く立ち向かうことになるであろう。それは中国とロシアを第二次世界大戦後のコンセンサスに屈服 させることになるが、その成功は限定的なものになる可能性 が高いことを認めざるを得ない。それは、経済問題 (一帯一路)を安全保障問題(並列システム、したがって中国の権力の基盤)に転化させ続けるであろう。米国 とその同盟国は、ロシアと中国による閾値以下の作戦 (below-the-threshold operations)に対抗するため、 グレーゾーンとハイブリッド戦争に本格的に取り組まざるを 得なくなるであろう。そして 2 つのブロックの間で、 国々をどちらに従属させるかの競争を繰り広げつつ、並行する経済的および政治的システムの構築を伴うであろう。 これは究極的には中国とロシアからの完全な経済的分離 と投資撤退を想定しており、中国の不安定とロシアの崩壊 につながる可能性がある。しかし、疑問は残る。この戦略 の望ましい最終形態はどのような形であろうか?

将来的関係

ロシアと中国が現在の利便性と状況に応じた戦略的提携 の関係よりも緊密な関係を築く可能性が高いと信じる 明白な理由は存在しない。そうであっても、熟考することには意義がある。様々な未来の選択肢への対応を策定 しようと試みることで、西側諸国はその思考と戦略的 に可能な領域を拡大することができる。いくつかのことは 明白である:西側諸国は、自分たちの好ましい未来 について慎重に考え、シナリオの範囲とそこに到達 するため、シナリオにどのように対応 るかを検討し、イベントが向かう方向の指標に注意を払う必要がある。

アンドレイ・ダニロヴィッチ・コミアガ(Andrei Danilovich Komiaga)は、ニースの紳士が満足を得 るために彼の野望の復活を得ることができないかも しれないが、ソローキンが想像するようなディストピア よりも良い未来を達成するには、西側諸国とその将来の指導者による多くの計画、予見、未来分析と賢明な戦略が必要なのである。

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