軍事クーデターにより、危機に瀕するビルマの民主主義と地域安保

軍事クーデターにより、危機に瀕するビルマの民主主義と地域安保

FORUMスタッフ

2021年2月1日にビルマ軍が権力を掌握したことで、ビルマ国民の人権と民主主義の未来だけでなく、今後の東南アジアの安保に暗い影が差している。

複数の報道によると、今回の軍事クーデターによりビルマ人による数十万人規模の講義デモが連日発生している。群衆を解散させるために治安当局が空中発砲し、2月9日には警官隊が放ったゴム弾と放水砲により負傷者が発生したが、この後もデモは続いている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じたところでは、この事件を受けて直ちに国連はこの「不適切な」武力行使を非難する声明を発表し、米国もデモ参加者に対する暴力を批判した。(写真:2021年2月8日、ビルマのネピドーで車両を用いてバリケードを設置する警官隊の周囲で、軍事クーデターへの反対とアウンサンスーチー[Aung San Suu Kyi]国家顧問の釈放を訴える抗議者等)

ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えたところでは、2月10日に「即時に民主化プロセスを回復させる」ことを目的として、ジョー・バイデン米大統領は米国がビルマ軍指導者等に対して新たな制裁を課すことを許可する大統領命令を承認した。

バイデン米大統領は、「国軍は2020年11月8日の連邦議会総選挙の結果に表れたビルマ国民の意志を尊重し、掌握した政権を放棄する必要がある」と述べ、昨年の総選挙で再び圧勝した国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー国家顧問を含め、拘束されている活動家や与党幹部などを釈放することを要求している。BBCニュースによると、軍事政権が抗議者に対する措置を講じる前日、国営テレビに「国家の安定、公安、法治を妨害、阻害、破壊する犯罪」に対して治安当局が法的措置を行使するとの警告が流れた。

同ニュースが報じたところでは、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)アジア局のフィル・ロバートソン(Phil Robertson)局長代理は、「民主主義と法治を土足で踏みにじった軍事クーデター政府が、平和的にデモを行う抗議者等に対して『法的措置』を取る権利があると主張するのは全くの不条理である」と見解を述べている。

CNNニュースが伝えたところでは、国軍総司令官のミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)上級大将への全権力委譲に伴い、国軍は1年間の非常事態宣言を発令してFacebookのブロック、国営報道機関の掌握、インターネットの一時的な遮断、集会の制限、夜間外出禁止令の施行を宣言した。

米国を含む多くの諸国は速やかに国軍にその行動を停止するよう要求し、国軍による文民政府指導者等の身柄拘束について「重大な懸念と不安」を表明している。

クーデター発生日、アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)米国務長官は、「米国は民主主義、自由、平和、発展を目指すビルマ国民を支持する」と発表した。

AP通信によると、ビルマの状況に懸念を表明したインドネシアとマレーシアの首脳陣は、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟諸国に対してビルマから隣国バングラデシュの難民キャンプに避難したロヒンギャのイスラム教徒の窮状を含め、同地域の政治的安定性の維持について協議する会合の開催を要請している。

同通信社が伝えたところでは、2月5日にジャカルタでインドネシアのジョコ・ウィドド(Joko Widodo)大統領と会談したマレーシアのムヒディン・ヤシン(Muhyiddin Yassin)首相は、「インドネシアとマレーシアは[ビルマの]政治情勢を真剣に受け止めている」とし、「これは[ビルマの]民主化移行を妨げる動きである。[ビルマの]政情不安により、同地域の安全と安定が妨げられる可能性を懸念している」と語っている。

ウィドド大統領は、「ロヒンギャ問題は依然として諸国の懸念事項である」とし、「ASEAN共同体ビジョンを実現するためには、諸国すべてがASEAN憲章、特に法治、優れた統治、民主主義、人権、立憲政治を尊重することが重要である」と述べたと、同通信社が報じている。

ロヒンギャ弾圧を理由に、米国は2019年に国軍幹部等数名に対して制裁を課している。

ロイター通信が伝えたところでは、日本政府は各国の対応次第でビルマで中国の影響力が増す可能性について、世界の民主主義諸国に警告を発した。中山泰秀副防衛相は、「慎重に対応しなければ、政治的に自由な民主主義諸国と[ビルマ]の縁が遠のき、そうなると中国共産党を利することになる」と述べている。

「非介入政策」を掲げる中国は事態を静観しているが、クーデターの翌日に中国外務省(中華人民共和国外交部)の汪文斌(Wang Wenbin)報道官は、北京で開かれた記者会見で中国はミャンマーの「友好的な隣国であり、全当事者が憲法と法的枠組に基づいて意見の相違を適切に処理し、政治的・社会的安定を維持することを願っている」と公式に発表したと、ニューヨーク・タイムズ紙が報じている。

2020年11月の選挙における不正を訴えてきた国軍は、これをクーデターの理由として挙げているが、一部のアナリストは2021年1月に中国の王毅(Wang Yi)外相(外交部長)とフライン国軍総司令官が親善会議を行った事実を指摘している。

センター・フォー・グローバル・ポリシー(CGP)を率いるアジーム・イブラヒム (Azeem Ibrahim)博士が執筆したフォーリン・ポリシー(Foreign Policy誌の記事には、「この親善会議で話し合われた何らかの内容により国軍指導者等は中国が隣国ビルマを支持すると考えたようである」と記されている。

ビルマ専門家であるシンガポール国立大学のエリオット・プラス=フリーマン(Elliott Prasse-Freeman)博士はBBCニュースに対して、「ガスライティング(精神的虐待の一種)に相当するこの外交政策を通じて、中国は国軍の行動に対して強烈な支持ではないにしても、暗黙の支援を示しているようである」とし、「中国はこれを[ビルマの]『内政問題』と捉えており、中国国営報道機関が使用した言葉通り、同国にとってこの事態は単に『内閣改造』なのである」と説明している。

中国がクーデターを明示的に承認または支持しなくても、国軍はフライン国軍総司令官が中国政府から何らかの「助け舟」を引き出すことができると目論んだわけである。

イブラヒム博士著の記事には、「米中関係を犠牲にしてでも、アジアで影響力拡大を図る機会を中国が見逃すことは滅多にないというのが国軍側の目論見である。そのため、米国政府やその同盟諸国が[ビルマに]制裁や罰を課すことになれば、中国当局はビルマの国軍を支えて介入することが中国の利益になると考えると、国軍は踏んだわけである」と記されている。

2月2日、国際連合安全保障理事会(国連安保理)は非公開会合でミャンマー情勢を協議したが、拒否権を持つ常任理事国の中国が国連安保理の対応を調整するためにさらに時間をかけることを求めたことで、国連安保理が発表した声明からクーデターを非難する文言が削除された。

アナリスト等の説明によると、中国は国際社会が制裁といったような厳しい対応をビルマに対して課すことを望んでいない。

ワシントンDCを拠点とするスティムソン・センターの東アジアプログラムで共同監督者を務め、同時に中国プログラムを率いる孫韻(Yun Sun)上級研究員は、オンライン雑誌のザ・ディプロマット(The Diplomat)誌に対して、「政治的反応が大きいほど、中国が[ビルマ]軍に対して負わなければならない政治的責任も大きくなる」とし、「中国はその責任を負うであろう。しかし、中国が進んで喜んで責任を負うとは思えない」と説明している。

ザ・ディプロマットのシャノン・ティエジ(Shannon Tiezzi)編集者の記事には、「また、中国は国連で国軍を擁護したこともあり、中国が[ビルマ]軍を支持していると認識されれば、国際社会で中国の評価が低下するという代償を支払うことになる」と記されている。

他のアナリスト等の見解では、政治的に支払う代償はそれなりの価値があるかもしれない。ジョージ・メイソン大学で教授を務めるジョン・G・デール(John G. Dale)博士はAP通信に対して、「中国は自国の経済圏構想のために[ビルマを]軌道から逸脱させる上で優位な立場にある」と述べている。

戦略国際問題研究所のグレゴリー・ポーリング(Gregory Poling)上級研究員とサイモン・トラン・ヒューデス(Simon Tran Hudes)研究員が執筆した報告書には、ビルマに多額の投資をしている諸国もビルマ軍事政権に処罰的な措置を課すことをそれほど望んでいない可能性がある。

また同報告書には、「外国としては[ビルマ]経済最大の参入者である中国は、新たな現状の認識の変化に応じて、喜んで自国のビルマへの関与状況を調整していくであろう。フライン国軍総司令官が米国からの制裁をすでに覚悟していたことは明らかであるが、中国の後ろ盾があれば、制裁による打撃も和らぐ可能性が高いため、これで同国軍総司令官が制裁を恐れていなかった理由も説明できる」と記されている。

 

画像提供:ロイター

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