慎重に練られたストーリー

慎重に練られたストーリー

公開拒否を恐れるハリウッドが、中国を肯定的に描写する

FORUM スタッフ

ここ数ヵ月で記録を更新するのは、興行成績だけではない。

Hollywood Reporter 誌によると、アナリストらは、中国が史上初めて興行収入ナンバーワンの国になると予測している。2020年末までに、中国の映画売上は約1兆 2687億 5000 万円(122 億 8000 万米ドル)と、米国の約 1 兆 2325 億 8970 万円(119 億3000 万米ドル)を上回ると予想されている。 

予測では近い将来に中国がこの分野で優位に立つことが見込まれている。「つまり、ハリウッドの映画会社にとって自社の作品が中国の厳格な検閲基準を確実に通過できるように最大限の努力をすることが重要となる」と Axios.com は述べている。

中国国内の映画館やソーシャルメディアに流れるメディアは、同国の検閲によって厳しく統制されてきた。映画産業の成長は、中国が関係するストーリが中華人民共和国(中国)によってより更に規制される可能性を意味している。

The Epoch Times 紙によると、中国共産党 (CCP)は年間 34 本の外国映画しか国内の劇場で上映することを許可しておらず、各映画は検閲当局である国家新聞出版広電総局(旧国家新聞出版広播電影電視総局)の承認を得なければならない。外国映画会社 が中国での興行収入から得られる利益は 25% しかないが、中国企業と共同制作された作品 の場合は利益の 50% 近くを得ることができる、とThe Epoch Times紙は報じている。 

収入を増やすにはコストがかかるということである。The Epoch Times紙によると、中国企業と共同制作する場合、多くは中国国内で撮影されたシーンを盛り込み、中国人の俳優をキャスティングして中国からの投資を受け入れ、中国政府をポジティブな印象で描写しなければならない。 

このような検閲はビデオゲームにも行われる。例えば、還願 DEVOTION と題されるゲームは、ゲームネットワークのSteam で 2019 年初頭に公開されたが 1週間程で中国の強い影響力を受け利用できなくなった。 

還願 DEVOTION は、中国企業の Indievent社によって公開されたが、習近平書記長をくまのプーさんになぞらえている(中国共産党の指導者をディズニーのキャラクターとを比較しているとのことで物議を呼んでいる)と中国のプレーヤーたちからの批判を受けて Steam での公開を取り下げた。

Engadget.com によると、中国当局は後に Indievent の営業許可を取り消す予定だった。直後に還願 DEVOTION を作成した台湾籍の開発元の Red Candle 社が謝罪の手紙を出している。これを受けてRed Candle 社は、中国最大のソーシャルメディアの 1 つである Weibo のアカウントを失うこととなった。

Engadget.comによる 2019 年 8 月の記事では、「これが中国の検閲というものだ」と述べられている。「中国のビデオゲーム市場は2年間の激しい変動の末、創造的自由を制限する新法や Tencent のような巨大企業の世界的に強まる勢いで、現在、中国は業界全体に大きな影響力をもたらすようになっている。」

映画に関しては、米国映画の多くが中国の検閲による公開の承認を受けている。しかし、多くの場合承認を得るために、制作側は暴力や性の表現を含むシーンを
トーンダウンしなければならなかった。またさらに多くの場合、中国共産党の政治的枠組みと一致するストーリーでなければならない。以下は中国共産党の
承認を得るためにハリウッドの映画会社が脚本を調整した作品、また検閲要求を拒否したために却下された作品の例である。


映画:トップ・ガン(2020 年)

脚本の変更:1986 の名作トップ・ガンは、俳優トム・クルーズ演じる主人公の米国海軍のエリート戦闘兵器学校の学生マーヴェリックを描いた作品。元々の作品では、マーヴェリックは「Far East Cruise 63-4, USS Galveston」と書かれた大きなパッチの付いた革ジャンを着用している。このパッチは、米国の戦艦が日本、台湾、西太平洋を歴訪したことを記念したもので米国、国連、日本、台湾の国旗が含まれている。ビジネス・インサイダー(Business Insider)によると、2020 年のリメイク版では、マーヴェリックのジャケットから、日本と台湾の国旗が取られ、正体不明の類似するものに置き換えている。

The Hollywood Reporter によると、リメイク版の制作には、中国のインターネット複合企業 Tencent 社の映画部門である Tencent Pictures が共同融資しているとのこと。Tencent 社は、また Paramount と映画を共同制作したSkydance 社を一部所有している。

問題点:中国は過去 10 年に渡って、小切手外交を展開し日本に対抗して地域での影響力を強めてきた。2018 年 10月に日本の元首相の安倍晋三氏が中国を訪問するまで、8 年間日本のトップが中国を公式訪問することはなかった。中国で間違いなくヒットする作品で金銭的な影響力を発揮し、日本に関する表現を削除したのは中国権力のなせる力業であろう。中国共産党と台湾の緊張関係はさらに明白である。中国共産党は台湾を領土の一部と見なしており、台湾を独立国として描写するいかなる主張や表現も拒否している。


映画:スノーベイビー(原題:Abominable)(2019 年)

脚本の変更:中国企業であるパール・スタジオ(Pearl Studio)社は、ドリームワークス・アニメーション(DreamWorks Animation)社と 1 年かけて中国の検閲機関の承認が得られるように、アニメーション映画のスノーベイビーを作成した。ビジネス・インサイダーによると、パール・スタジオはジョークやキャラクターの背景設定を手掛けたとのこと。 

中国の影響力を最もよく表しているのは、南シナ海の東アジア地図に中国の九段線が描かれている場面だろう。ビジネス・インサイダーによると、スノーベイビーは米国のドリーム・ワークスと中国のパール・スタジオが共同制作した最初の映画である。九段線は映画の筋書きではふられておらず、これが含まれる理由も示されていない。  

問題点:南シナ海は戦略的に重要な水域である。中国は、資源に対して競合する主張を覆す試みとして係争地域とその周辺に人工的な構造物を建設した。マレーシアは問題の地図が削除されない限り映画の公開を拒否しており、一方ベトナム当局は映画を上映した。フィリピンでは、当局がボイコットを呼びかけた。中国は、南シナ海に関して域内の数ヵ国と係争を続けている。2016 年 7 月、国際法廷は フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内を含む中国の九段線の拡張に反対
する判決を下したが、中国政府は この判決を執行力を欠いていると拒否した。


映画:ドクター・ストレンジ(2016 年)

MARVEL STUDIOS/INSTAGRAM

脚本の変更:ドクター・ストレンジの原作となった漫画のストーリーは 現代でチベットとして知られる、カマー・タージ(Kamar-Taj)というヒマラヤの隠れた村で生まれたエンシェント・ワン(Ancient One:古代の人)と呼ばれる平穏な農民を描いている。マーベル・スタジオの映画版では、ポスターに描かれているイギリス人女優ティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)をこの役にキャスティングすることによってストーリーでチベットについて触れることを避けている。

問題点:ニューヨーク・タイムズ紙によると、チベットは 1951 年中国共産党とその軍隊によって占領されたが、多くの非中国人がチベットは独立国家または強い自治権を持つべきであると考えている。「エンシェント・ワンは、チベット出身ということから場所がチベットであり、彼がチベット人である設定にすると中国政府から『世界で最も映画観客が多い国をお忘れですか?政治的な作品にするのであれば我が国は上映を許可しませんよ。』とお叱りを受ける恐れがあります。」とエンシェント・ワンが属する民族の変更についてドクター・ストレンジの脚本を担当したC・ロバート・カージル(C. Robert Cargill)氏が、2016 年 4 月の DoubleToast.comのポッドキャストにおいて説明している。


映画:アイアンマン 3 (2013 年)

アイアンマン 3(Iron Man 3)のハリウッド初上映に参加 する作者のスタン・リー(Stan Lee)氏。

脚本の変更:中国で上映されたアイアンマン 3には、中国以外では見られないボーナスシーンが含まれている。事実、ビジネス・インサイダーによると、マーベル・スタジオが中国の配給会社 DMG エンターテイメント(DMG Entertainment)社と共同で制作したこの作品には、4 分の製品紹介が追加されたという。中国版に追加された内容の1つに、オープニングでの以下の質問と回答があるとニューヨーク・タイムズ紙は報じている。「アイアンマンは、自身のエネルギー再活性化に何を必要としていますか?」その後回答として「谷粒多」(GuLiDuo)という中国の乳製品ブランドが表示される。同製品のを生産する飲料メーカーは、2012 年に粉ミルクが水銀で汚染されているとして販売を中止した。ビジネス・インサイダーによると、中国政府はその後、同社の製品が本当に安全であると保護者に説得するためのキャンペーンを始めた。同紙によれば他にも中国版でのみ追加された内容に、アイアンマンを応援する中国の小学生や中国の電子機器の製品紹介しアイアンマンをサポートする中国の医薬品紹介があるという。

問題点:中国での興行利益は大きい。エンターテイメントニュースサイト Vulture.com によると、ちょうどアイアンマン 3 が公開される頃、中国は日本を抜いて米国に次ぐ世界第二位の興行市場となった。これにより、ハリウッド映画に関して中国が経済的な発言力を強めている。今後、映画製作会社は中国企業との
提携や中国寄りのストーリー展開を求められたりさらなる圧力を受ける可能性もある。


映画:ピクセル(2015 年)

ニューヨーク市でピクセルが初公開された際に登場した、映画監督の クリス・コロンバス(Chris Columbus)氏。

脚本の変更:ソニーのコメディアニメのピクセルは、2013 年の脚本では中国の万里の長城がエイリアンの爆破によって穴が開けられるシーンが含まれていた。

「世界的な現象である限り、万里の長城に穴が開くことは問題とならないかもしれませんが中国での公開にメリットが無いため実際には不要です。そのため、そのようなシーンを盛り込まないことをお勧めします。」と、ソニー・ピクチャーズ社主席代表のリー・チョウ(Li Chow)氏は同社の幹部に宛てた 2013 年 12 月
の電子メールで述べている。中国での公開を切望する幹部は、このアドバイスに従ったとロイターは報じている。改変後の脚本では、万里の長城に穴を開ける代わりにインドのタージ・マハルやワシントン記念塔、ニューヨーク市の一部が爆撃されている。

問題点:リー氏によるこの電子メールは、2014 年にソニー社がハッキングを受けて流出した数万件にも及ぶ機密文書やメールのうちの 1 つである。ロイターによると、中国政府の当局者や映画業界の幹部らはこれらについてコメントを控えている。これらの文書には、その他の作品をどのように変更すれば、より中国当局に受け入れられ承認を確実なものになるかを議論しているものもあった。 

ロイター通信によると、「ソニーの電子メールは、銀幕の裏で世界有数の映画会社の幹部が自社の作品に中国政府がどのように反応するかを予想するために行った自主検閲の程度を伝えている。」「これら内部での通信によって、ハリウッドの映画会社が中国の観客にどれだけ依存しているかが示されている。」

ピクセルから万里の長城のシーンを削除したことは世界中の観客が、「ハリウッドを繁栄へと導いた自由を拒む中国」の基準の対象となっていることを示しているとロイターは報じている。


映画:ワールド・ウォーZ(2013 年)

映画ワールドウォーZ のニューヨーク市 での初公開に到着し、自身の著書を見せる著者マックス・ ブルックス氏。

脚本の変更:原作となる 2006 年の小説ワールド・ウォーZのゼロ地点として著者のマックス・ブルックス(Max Brooks)は意図的に中国を選んだ。 

「私が執筆したゾンビによる世界終焉を描いた小説では新しい謎の病気の症例が中国のどこかで発生したこととなっています。政府は感染に関する報道を規制して警鐘を鳴らそうとする医師たちに圧力をかけるという内容です。国家による隠蔽によりウイルスが国内、さらには国境を超えて世界中に拡散する。」と、2020 年 2 月にワシントン・ポスト紙に掲載された「中国に禁じられた、疫病大流行を可能にする体制についてのディストピア小説」と題される論評でブルック紙が述べている。「聞き覚えがないですか?」

ブルックスは中国を選んだある理由についてこう語っている。「架空の疫病大流行の発生源について考えたとき、人口が密集していたり交通網が急速に近代化する国というだけでは物足りませんでした。報道を強く規制する権威主義的な政権が必要でした。疫病がまず地域の人々に広がって、その後他の国々に広がるだけの時間を与える人々の意識について描きたかったのです。世界中の人が今起こっていることに気づいた頃には既に手遅れという内容にしたかったのです。魔法のランプから魔神が放たれて人類がそれに対して抗うという内容です。」

奇しくも現実社会における Covid-19の大流行はこの作品を模したようなものとしてみることができる。 

中国はこの本を発禁処分にし、ブルックス氏が呼ぶ「海外協力者」達は政治的に繊細な内容が含まれているため中国に関する章は削除するよう彼に求めたが、
ブルック氏はそれを拒んだ。 

2013 年に同じタイトルで映画化された作品ではブラッド・ピットが主役を演じた。パラマウント社の幹部はブルックス氏とは異なりゾンビによる世界の終焉を引き起こす疫病の発生源が中国とならないようにした。

 問題点:評論家の中には中国が疫病の発生源であるという内容はストーリー展開のなかでマイナーなことであると言うものもいる。これは中国の検閲がどのような些細なマイナスの内容も受け付けないことを示唆している。また、中国が承認を拒否したプロジェクトへ参加すると永続的な影響を受けると指摘するものもいる。ブラッド・ピットは 1997 年のセブン・イヤーズ・イン・チベットの主演俳優である。この作品(ワールド・ウォーZ)を中国が拒否したのはブラッド・ピットが参加しているからという声もある。


映画:レッド・ドーン(2012 年)

ウィキペディア

脚本の変更:2012 年に制作されたレッド・ドーンは 1984 年の作品のリメイク版であり、オリジナルの脚本では中国の軍隊が米国を侵略するという内容が予定されていた。しかし、中国共産党に支配されたメディアがこれに反発を受けて MGM 社の制作側が悪役を北朝鮮とする内容に変更した。 

DailyMail.com は、中国の国営新聞環球時報が、「中国を悪者扱いしている」や「中国に対する敵対心の種を植え付けている」とハリウッドを批難する 2 つの社説を発表したと報じている。1984 年版の作品では旧ソビエト軍の侵略が中心となっている。 

伝えられるところによるとMGM 社は、デジタル編集でフレームごとに中国を表すものを北朝鮮を表すものに変更するために約 1 億 300 万円(100 万米ドル)を費やしたとのこと。 

「共産主義国家は核能力で悪名高いが、ハリウッドの大物たちは明らかにこの地域の経済大国(中国)を疎外するよりも極東の帝国(北朝鮮)の怒りを買う方がマシであると考た。」と、本作品の公開時に DailyMail.com が伝えている。

高まる批判を受けてレッド・ドーンは完成後 2 年間棚上げされ、制作会社が破産を宣言した後に、結局中心的なストーリーを変更することになった。

DailyMail.com は「中国の象徴を 北朝鮮のものに再編集することは高くつくものの、パソコン上での作業である」とコメントしており、「代わりとなった新しい悪役には以下の疑問が残る。なぜ、またどうやって 2400 万人の飢えた人口を抱える国が海を渡って、3.13億人の武力も栄養も勝っているアメリカを侵略するのか?」と述べている。

1984 年版で主演した俳優C.トーマスハウエル(C. Thomas Howell)は、インタビューでリメイク版の変更内容を馬鹿にしたと、USA Today紙は報じている。 

ハウエルは、「率直に言って、北朝鮮は(それ自体)他国を侵略する余裕がないことは誰もが知っている」「どうなってるの?バカバカしい。」とコメントしている。

問題点:国際的なコラボレーションには何らかの見返り条件や特定の譲歩が伴うことがあるが、レッド・ドーンの制作側はプロセスが進むにつれて高い代償を支払って学んだ教訓である。MGM 関係者が匿名で、エンターテインメントニュースサイトVulture.comに「映画を作成した時と状況は非常に異なっていました」と語っている。「ヘッジファンドによって所有され好きなことができました。」

スタジオは本作品が公開される前に破産した。映画の流通はソニー・ピクチャーズが引き継ぎ、中国との関係が正常化したと Vulture.com は報じている。別の MGM 関係者が匿名で、「中国を怒らせるほどの余裕がある多国籍企業は存在しない。これが真実です」と述べている。

Share