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より優れたセキュア通信の実現に向けて飛躍的な進歩を遂げるインド

マンディープ・シン(Mandeep Singh)

世界では量子技術の開発競争が過熱しているが、2020年12月に防衛研究所間にハッキング不可能な通信リンクを確立するなど、インドは着実に前進を続けている。

インド国防省(MOD)報道官の発表では、テランガーナ州のハイデラバードに12キロを隔てて所在するイマラット研究センター(RCI)と防衛研究開発研究所(DRDL)が量子鍵配送(QKD)を用いて接続された。これでインドは量子鍵配送の技術開発で偉大な功績を達成したことになる。

この量子鍵配送を用いた暗号通信では、両研究所間でランダムな秘密鍵に基づき情報が復号される。量子鍵配送では個々の光子(素粒子の一種)が量子ビットを表し、通信を行う二者間で量子状態にある情報が転送される。盗聴者が鍵情報の取得を試みると、光子の流れが止まって送信が中断されるため、暗号化されたデータの流れも停止する仕組みである。

同国防省報道官は、「防衛・戦略機関にとってセキュア通信は不可欠な要素である」とし、「無線や有線通信で鍵を共有するには暗号化が必要となる。つまり、暗号化鍵を事前に共有する必要があるということである。量子技術を用いた通信により鍵を安全に共有できる堅牢なソリューションが実現する」と説明している。

量子鍵配送技術はカルナータカ州ベンガルール(旧称:バンガロール)の人工知能・ロボット研究所(CAIR)と認知技術に焦点を当てるマハーラーシュトラ州ムンバイのヤング・ サイエンティスト研究所(DYSL-CT/DRDO Young Scientist Laboratories)というインドの2つの防衛関連研究所が開発したものである。最近、光ファイバーチャネルと光子を使用した量子鍵配送リンクを連続波レーザーにより生成するデモが実施された。

量子鍵配送リンクは2013年に米国オハイオ州のバテル記念研究所で確立され、同研究所の提携機関であるニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所(LANL)も量子鍵配送ネットワークを活用してセキュア通信を実現している。

インドのファイナンシャル・エクスプレス(Financial Express)紙が報じたところでは、中国は量子技術に基づくコンピュータを使用して暗号化通信をハッキングしている可能性があると考えられているがインドは量子技術の開発においてこの中国としのぎを削っている。2025年までに強力な50キュービット量子コンピュータの開発を目指す5ヵ年計画「量子技術と応用に関する国家計画(National Mission on Quantum Technologies & Applications)」に約1,000億円(約10億米ドル)の2020年度予算を計上したインド政府は、計画に向けて学界、産業界、一般市民の間の協力を促進している。(写真:インドで開発が計画されている50キュービットプロセッサと同様の量子コンピュータプロセッサ)

インドの国防研究開発機構(DRDO)が同取り組みの中心となる予定である。同国防省報道官は、「国防研究開発機構における成果を、量子情報技術分野の新興企業やSME[中小企業]を推進するために活用する」とし、「また、暗号政策委員会(CPC/Cipher Policy Committee)の統一枠組に準じて量子鍵配送システムを活用し、現在だけでなく将来的にも軍事暗号システムにおけるより安全かつ実用的な鍵管理を実現できるように、同機構は規格や暗号に関する方針を定義する役割も果たすことになる」と説明している。

マンディープ・シンは、インド・ニューデリー発信のFORUM寄稿者。

 

画像提供:ウィキメディア・コモンズ

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