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宇宙計画の高速化を目指して産業界と協力を図るシンガポール

トム・アブケ(Tom Abke)

衛星の打ち上げ、宇宙技術の革新、新世代の宇宙エンジニアの育成を推進するシンガポールは営利事業のアプローチを追求している。

これを先導しているのが、政府や企業との協力により同都市国家の宇宙産業発展に取り組む民間組織「シンガポール宇宙技術協会(SSTL)」である。

シンガポール宇宙技術協会を創設したジョナサン・ハン(Jonathan Hung)会長は、米国のエンブリー・リドル航空大学の航空宇宙科学部で学んだ後、自国の宇宙産業の成長を加速するという展望を掲げて2006年にシンガポールに帰国した。

2019年10月、設立間もないシンガポールのスペースチェーン(SpaceChain)社との対談でハン会長は、「残念ながら、ここシンガポールにはさほど宇宙産業が確立されていなかった」とし、「非常に強力な航空宇宙産業と非常に優れた電子機器製造拠点は存在していた。また、良好な情報通信機能とメディア企業や非常に優れた精密工学企業があることから、当国には宇宙部門の能力を高め、宇宙産業を発展させる重要要素は揃っていた。そこで業界全体を支援する中心的な機関としてシンガポール宇宙技術協会を設立することにしたのである」と説明している。

シンガポール宇宙技術協会は、地元の新興企業から多国籍企業に至るまで、シンガポールに所在する数十もの宇宙産業企業の業界団体としての役目も果たしている。シンガポールを拠点とするエクアトリアル・スペース・システムズ(ESS/Equatorial Space Systems)社はこうした企業の1つであるが、同社は独自のハイブリッド推進システムを使用して2021年にドラド(Dorado)ロケットを打ち上げる計画を発表した。英国に本拠を置くコマーシャル・スペース・テクノロジーズ(CST/Commercial Space Technologies Ltd.)社の顧客の打ち上げに関連するサービス委託について、エクアトリアル・スペース・システムズ社は2020年9月に同社との提携を発表したばかりである。ロケットは海上発射台から打ち上げられる予定である。

宇宙関連の新興事業の発展を推進することを目的として、シンガポール宇宙技術協会は推進プログラムを採用し、業界の専門家、エンドユーザー、事業サービスの紹介だけでなく、資金調達活動にも関与している。

同協会は年次グローバル宇宙技術会議(GSTC)を主催しているが、同協会の発表によると、2021年2月に開催される会議(GSTC 2021)には、50ヵ国以上から代表者900人、講演者60人、350社が参加する予定となっている。

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)とも協力を図る同協会は、国際宇宙ステーション(ISS)で日本の宇宙実験棟「きぼう」(計画時の呼称:JEM/Japanese Experiment Module)を利用しており、2018年6月、両組織は国際宇宙ステーションからの超小型衛星「SpooQy-1(スプーキー・ワン)」の放出に成功している。シンガポール国立大学(NUS)が設計・製作したSpooQy-1は、量子信号の使用により通信伝送速度を向上させる方法を実証することを目的として地球低軌道(LEO)配備された。(写真:2018年6月、国際宇宙ステーションから放出されたSpooQy-1)

シンガポール宇宙技術協会はまた、宇宙産業の専門家を対象に、衛星の運用とシステムの基本を学ぶ研修を提供し、人工衛星の実物大模型を製作できる能力を持つ人材の育成にも取り組んでいる。

2007年から毎年恒例で開催されている同協会主催のスペース・チャレンジ(Space Challenge)は、若年層の宇宙産業におけるキャリアの促進を目的とするコンテストである。2020年のテーマは月面車の設計である。

トム・アブケは、シンガポール発信のFORUM寄稿者。

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