特集

活動的な 駐留

どのようにすれば、インドネシアの 地理戦略的位置によって、インドネシア が地域の海洋安全保障を改善するリーダーになれるか

ロハン・ジョセフ(Rohan Joseph)大尉/スリランカ海軍

この 10 年間、世界の関心はかつてないほどインド太平洋地域に向けられた。この地域に及ぶ海上交通路(シーレーン)(SLC)の安全性は、米国にとって、インド太平洋における自由で開かれた海洋領域を確保するために最も重要である。海洋が複雑であるために、安全保障問題に対して包括的なアプローチが必要となる。この地域に米国が駐留することは、米国の戦略的海洋利益を世界的に保全する上で極めて重要だ。 

米国は、自由で開かれたインド太平洋を確保する上で多くの課題に直面している。広大な面積だけでなくこの地域における競争を考慮すると、米国はその目的を達成するために他国の協力が必要となる。インドネシアとのパートナーシップが、インドネシアの戦略的な強みを活かして米国がこの地域の他国と連携する大きな分岐点となる。米国のインド太平洋戦略の目的を実現するためには、パートナーシップを構築することにより、積極的に駐留し関与することが依然として不可欠だ。この活動においてインドネシアが示す戦略的強みは、インド太平洋における海洋安全保障問題に対処するために米国が切望するアクセスを提供することにある。

インド太平洋の関連が高まるにつれ、自由な通商と航行の自由を確保するためには海洋安全保障問題に対処する必要がある。現在、インド太平洋は権力争いの場となっている。非伝統的な脅威とは別に、海洋貿易に悪影響を及ぼす可能性のある安全保障問題にこの地域が屈しないように、競争や抗争を慎重に扱う必要がある。

2019 年 5 月、インドネシア・ジャカルタの タンジュン・プリオク港 (Tanjung Priok Port)に停泊
する米国海軍の艦船ブルー・リッジ(Blue Ridge)に敬礼するインドネシア海軍将校達 AP 通信社

ベトナムで開催された 2017 年アジア太平洋経済協力首脳会議で、ドナルド・トランプ米国大統領は、米国経済と国家安全保障を結びつけて次のように発表した。 「米国は近年、経済安全保障が国家安全保障だけに関係するものではないとを繰り返し述べている。経済安全保障は国家安全保障である。それが我が米国の国力には不可欠だ」と。 

2018 年のシャングリラ会合では、当時のジム・マティス(Jim Mattis)米国国防長官が、インド太平洋諸国がこの地域の将来を形作るために一致団結
する必要性を強調し、特に海洋空間を強調した。「海上入会地は地球規模の財であり、海上交通路はすべての人にとって経済的活力の動脈である。…安全保障協力を通じて、軍隊と経済の関係をより緊密にしている」とマティス氏は述べた。

このような米国の利益に基づき、インド太平洋における海洋安全保障は米国の戦略的問題となっている。この分析ではインド太平洋を結ぶ上でインドネシアの地理的中心性に依存する、既に確立されている米国とインドネシアのパートナーシップを拡大することによって米国がインド太平洋における駐留と関与をどのように高めることができるかについて検討する。また、米国のインドネシアへの海洋上の関心や戦略的パートナーとしてのインドネシアの受け入れについても言及している。 

このような背景を踏まえインドネシアが海洋安全保障問題に対処し、自らの海洋ビジョンを達成する上での課題やインドネシアや地域パートナーが米国
の参加によって外部からの影響にどのように対応しているかを明らかにすることも重要である。

外交関係 

米国とインドネシアの関係は、1949 年の国交樹立以来進展している。その間の 70 年間、二国間関係は揺れ動いたが、1998 年以降に実施された一連の改革によってインドネシアは政治的に安定し、米国との交流を深める道が開かれた。2006 年 3 月のインドネシア訪問中に当時のライス国務長官は、「戦略的パートナーシップ」という言葉を強調し、米国がインドネシアと協力してインド太平洋地域の安定を促進する意志を示した。2009 年 11 月、当時のバラク・オバマ米国大統領とインドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)大統領は、二国間の包括的パートナーシップを開始
した。このパートナーシップは協力の改善と安全保障を含む二国間の地域的および地球規模の問題に関する戦略的審議の進展とに焦点を当てた。

米国政府は、関係の強化に基づき 2015 年に 2010年包括的パートナーシップをより広範な戦略的パートナーシップへと拡大した。戦略的パートナーとしての米国のインドネシア宣言はインドネシアとこの地域の重要性を物語っている。 

「米国とインドネシアの戦略的パートナーシップは両国の国益にとって極めて重要であり、今後もますます重要になっていくだろう」と当時のアメリカインド太平洋軍(USINDOPACOM)司令官であるハリー・B・ハリス(Harry B. Harris)氏は、2017 年 8 月、米国インドネシア協会と米国商工会議所で語った。

2020 年 1 月 にインドネシア のナトゥナ 諸島(Natuna Islands)セラト・ランパ港 (Selat Lampa Port)に停泊中のインドネシア海軍艦船 KRI ウスマン・ハルン (KRI Usman Harun)を視察
している、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(中央) AP 通信社

彼の声明はまた、拡大された戦略的協力を通じてこの地域に関与することについて、USINDOPACOMがより期待をしていることを強調するものであった。米国とインドネシアの軍事関係は、様々な段階である程度の後退があったが進展した。9/11 同時多発テロは、米国政府とジャカルタの関係に新たなエピソードを加えた。米国主導の世界的な対テロ戦争によって、東南アジア諸国に対する政策上の優先順位が調整された。直接的な結果として、米国政府とジャカルタの防衛関係は 9/11 以来拡大している。おそらく最も重要なのは、イスラム世界におけるインドネシアの立場とテロ対策の経験によって、インドネシアが戦争における重要なパートナーとなったことである。 

マティス氏は 2018 年 1 月にインドネシアを訪問した際、 「我々はおそらく、数百万人規模の関与という点で他のどの国よりもインドネシア軍と関わっているだろう」と語った。 

マティス氏はまた、インド洋と太平洋をつなぐインドネシア独自の海洋環境における海洋協力の必要性を強調した。インドネシア軍は、他の地域パートナーや米国とともに、USDINDOPACOM の協力海上即応訓練(Cooperation Afloat Readiness and Training)などの様々な訓練任務に従事し続けている。
両国間の軍事演習は、年間で170回近く行われている。

インド太平洋への玄関口

インドネシアは世界の海洋領域の中心に戦略的に位置し、東南アジアにおいて要となる国家だ。その地理的に中心にあることや、インド洋と太平洋を結ぶ最も重要な海洋貿易の交通路のひとつに近接していることから、インドネシアはインド太平洋への紛れもない玄関口となっている。マラッカ海峡を通る海洋貿易の拡大により、この水路は南シナ海へのアクセスにおける最も戦略的に重要な難所のひとつとなっている。年間約5.3 兆ドル相当の貿易が海上を通過しているが、これには米国との貿易 1.2 兆ドルが含まれている。年間で推定約5 万隻から 6 万隻の船舶がマラッカ海峡を通過する。地域経済と世界経済はマラッカ海峡に大きく依存しているため、その安全性と安全保障ならびに SLOC の継続性が重要な戦略的検討事項となっている。したがって、海峡に確実にアクセスする責任は主にインドネシアにある。 

2019 年 12 月に東ジャワのスラバヤ港で行われたテロ対策演習において技術を披露するインドネシア海軍の海上 パトロール隊員。GETTY画像

海峡での海賊行為は、地域の取組みを強化することで減少している。2018年の小規模な攻撃は、2015 年 12 月以来初めて記録された海賊攻撃となった。インドネシアはその地の利を生かして海峡における海賊対策の協力的な取り組みを主導してきた。 

インドネシアの地理的位置は、この地域における海洋安全保障問題に対処する上で多くの利点をもたらしている。1967 年の東南アジア諸国連合(ASEAN)の設立以来、その形成期およびその後の発展においてインドネシアが積極的に役割を果たしてきたことは、同国の外交政策と密接に関連している。2018 年、インドネシア外務省は、以下の 3 つの重要な側面を強調した東南アジア諸国のインド太平洋協力メカニズムを宣言した。それは国際規範の尊重と対話による解決、安全保障上の重要な課題への対応およびインド洋と南太平洋における経済ハブの構築である。

戦略的パートナーシップ

インドネシアの外交政策は ASEAN を中心としており、ASEAN の事実上の指導的地位は、加盟国や米国を含む他の地域諸国と協力する強力な立場にある。米国のインド太平洋戦略の成功は ASEAN の求心性にかかっている。さらに、インドネシアの国際的な海洋目的を達成するためには、この地域およびその他の地域諸国が不可欠である。

インドネシアの外交政策はパートナーとの積極的な 関与を可能にし、インドネシアが中立運動の主要 メンバーのひとつである理由を説明している。こうした外交政策姿勢は、地球規模のパートナーとの緊密な協力関係を維持しながらオーストラリア、インド、日本などの国々との強固な関係を築く上で強みとなっている。例えば、2017 年のオーストラリア 政府の外交政策白書は、経済や防衛などの分野 におけるインドネシアとの関係強化の重要性を強調 している。 

中華人民共和国(中国)の台頭をはじめとする インド太平洋地域の戦略的発展によって、オーストラリア がインドネシアとの二国間関係を強化することが不可欠となっている。 

2019 年に発表された「インド太平洋地域におけるASEAN の展望」では、国際規則に基づく秩序の維持という ASEAN の強いコミットメントを示している。オーストラリアの政策文書はまた、国際規範、透明性および包括性を遵守することの重要性を示している。  

南アジアではインドネシアとインドとの関係が 長年にわたって進展しており、ジャカルタはこのような 地域変動には両国が緊密に調整して海洋国家となり、外部の影響に対処する必要があることを確認している。経済力学と海洋の潜在能力は、とりわけインドネシアと交流することによってインドが改善を期待する2 つの主要分野である。2019 年の会談で、各国の外相は二国間貿易を 2025 年までに3倍の 500 億米ドルにすることを約束した。エンジニアリング、医薬品、バイオテクノロジー、自動車産業、情報技術サービス、パーム油、石炭、天然資源は両国が利益を得る協力機会をもたらす主要分野の一部 である。 

政策専門家は「アクト・イースト(Act East)」、 「アジア・アフリカ成長回廊」、「自由で開かれた 包括的なインド太平洋」、「安全保障と成長」といった戦略的な取り組みがインドのより広範なインド太平洋戦略目標を支える柱であると考えている。 

2018 年に開始されたインド・インドネシア海洋協力の共通ビジョンは、両国の戦略や政策目標を達成するためにはインド太平洋地域における海洋安全保障を確保することが重要であると強調している。インドは、このような戦略的イニシアチブを開始するための健全な基盤を提供できる中立的パートナー
をインド太平洋地域に必要としている。インドネシアとのパートナーシップはその方向への大きな一歩となるであろうとともに、インドに対してインド
の経済的潜在力と世界的な海洋大国になるという望みへの戦略的優位性を与える。

北アジアとの結びつき

インドネシアと日本との関係は、1958 年の国交樹立以来長年にわたって発展してきた。1977 年の福田ドクトリンは経済関係にいくつかの変化をもたらした。日本はまた、インドネシアが主要国である ASEAN との連携の重要性を認識している。両国は2019 年の日・インドネシア包括的経済連携協定(GRIJEPA)に関する交渉を加速させると約束した。東南アジアの新興経済主体として、インドネシアは日本と強い経済関係を共有している。インドは地域包括的経済連携 (RCEP)からは離脱したが、2019 年には日本や中国など 14 ヵ国が RCEP に合意した。 

RCEP は世界最大の貿易協定となる可能性がある。GRIJEPA および RCEP はともに、日本がインドネシアと緊密に協力する絶好の機会をもたらす。米国の同盟国である日本は、インド太平洋の複雑な問題を解決する上で不可欠な健全な基盤をもたらすことの可能な戦略的海洋パートナーを持つ必要 がある。日本は、オーストラリアと同様に中立的でありながら志を同じくするパートナー間の協力と調整を必要とする課題に対処する上で、インドネシアとのパートナーシップが重要であると考える。日本のインド太平洋戦略は東アフリカ沿岸から米国西海岸に至るまで広く見られるが、日本にはインド洋へのアクセスを可能にする選択肢を提供できる戦略的な結節点が必要である。 

他の北アジアではインドネシアが、インドネシア・韓国包括的経済連携協定(IKCEPA)を通じて韓国との関係強化を図っている。ロイター通信によると、2019 年 11 月に最終決定された IKCEPAによって両国は関税障壁を撤廃し、双方向貿易を 2022 年までに 300 億米ドル以上に引き上げる計画だという。

ロイター通信によると、韓国の兪明熙(ユ・ミョンヒ)貿易相は「ここ数年、保護貿易主義の台頭により世界経済は大いに不確実となってきている」と述べた。「自由貿易の最大の受益国の 1 つである韓国と ASEAN のリーダーであるインドネシアは、この非常に困難な時期に、自由で開かれたルールに基づく貿易への真の支援を世界に向けて発信 している」という。

東南アジアの重要性

スリランカのような小さな海洋国家であっても、すでに確立されているインドネシアとの関係を強化することは有益であろう。スリランカとインドネシア
関係は、ヒンドゥー教と仏教が到来した 5 世紀にさかのぼる。1952 年の国交樹立以来、スリランカとインドネシアは徐々に関係を拡大してきた。インドネシアのジョコ・ウィドド(Joko Widodo)大統領が 2018 年にスリランカを訪問した際に両国首脳は貿易、経済、キャパシティ・ビルディングの分野での協力を拡大することで合意した。 

南アジアには、インド洋の恩恵を受けるために地域全体を動かすような強力な地域機構がない。スリランカとインドネシアは環インド洋地域協力連合 (Indian Ocean Rim Association)に加盟しており、インドネシアと緊密に協力することでスリランカに利益をもたらすことができる。

インドネシアとの海洋協力を強化することにより、スリランカのような小さな島国に前例のない成果がもたらされるだろう。スリランカがインド洋の
地理戦略的位置にあることや、海洋領域を中心とした戦略的パートナーシップの構築に関して一部の主要国が関心を示したことから、スリランカはインドネシアにとって理想的なパートナーでありその逆もまたしかりである。 

同様に、米国にとってインドネシアとのパートナーシップは依然として重要であり、インドネシアとの戦略的パートナーシップをより強固に構築することは、この地域の懐疑的な人々に対しても米国のコミットメントの強さを示すことになろう。インドネシアの中立性は、米国にとって重要な強みとなる。インドネシアがインド洋と太平洋に接近することで、米国は ASEAN を介してインド洋とつながることができる。航行の自由の確保や規則に基づく国際秩序の遵守、海洋貿易とエネルギーの海上交通路の安全保障は、米国政府の政策立案リストの上位を占めるべきだ。米国と中国がインド太平洋における影響力を競い合う中、米国はこの地域における米国の戦略的イニシアチブを支援する強力な跳躍台を見つけるためにさらに努力することになる。インドネシアの中立性は、米国がまさにそのことをなす大きな機会をもたらす。

推奨事項 

米国は、インド太平洋地域の海洋問題に関与し続ける中で域外からの圧力やインドネシアの海洋問題などの分野を考慮すべきである。この地域にある多
くの国は、米国がその戦略を通じて地域を支配しようとしていると考えている。インド太平洋における独自の地理的中心性、主要な SLOC へのアクセス、経済的可能性、既存の強力な米国関係、ASEAN における卓越した地位、地域パートナーによる受け入れおよび中国との関係により、インドネシアは海上安全保障問題に対処し、米国のインド太平洋戦略を実施する上で、インド太平洋における米国の決定的な戦略的パートナーとなっている。この点について、次の推奨事項を検討する。 

戦略的パートナーシップ:複雑な海洋問題は、地域および世界の参加国に影響を与え、強固なパートナーシップを形成する。ASEAN におけるインドネシアの強い地位により、多くの国との戦略的パートナーシップを築く独自のプラットフォームがもたらされる。インドネシアを中心とする多国間の戦略的同盟関係の確立により、米国が中国に外交的に対抗できるようになる。 

戦略的駐留:海洋安全保障問題に対処するためには、インド太平洋に戦略的に駐留することが不可欠である。そうしなければ、他国に軍事的空白を埋める機会を与えることとなる。USINDOPACOM の責任範囲を東アフリカ沿岸に拡大することで、インド洋全体における米国の存在感を高めることが可能だ。 

戦略的関与:インドネシアを中心とした戦略的パートナーシップと駐在を構築することによって、米国が地域パートナーとより良い関係を持つ助けとなる。関与は、外交的、情報的、軍事的、経済的側面に焦点を当てるべきだ。USINDOPACOMは、インドネシアとのパートナーシップを通じて
協力的アプローチにより4つの要素すべてにおいて主導的役割を果たすべきである。

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