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中国代表が国際裁判所の裁判官に選出:南シナ海紛争の公平な解決について高まる懸念

中国代表が国際裁判所の裁判官に選出:南シナ海紛争の公平な解決について高まる懸念

FORUM スタッフ

中国政府が国際海洋法裁判所(ITLOS)の裁判官候補として駐ハンガリー中国大使を推薦した事実は、同裁判所などの関連組織を通じて国際的な法治体制への影響力強化を狙う中国の企みを顕著に表すものである。

2020年8月下旬、1982年の国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約/UNCLOS)を批准する168の国・地域と欧州連合が国際海洋法裁判所の裁判官選挙に投票し、中国の段潔竜(Duan Jeilong)大使を含む6人の新裁判官が選出された。

今回の選挙については、段大使が中国外務省(中華人民共和国外交部)の条約法律局長という地位にあることから、同大使が国際社会の中立的な仲裁を担う裁判官を務めることを危ぶむ声も上がっていた。国際海洋法裁判所の裁判官の定数は21名で、今回当選したカメルーン、チリ、イタリア、マルタ、ウクライナの他5人を含む6人の新裁判官はこれから9年間の任期を務めることになる。

8月上旬、東アジア・太平洋担当のデビッド・スティルウェル(David Stilwell)米国務次官補は戦略国際問題研究所(CSIS)のフォーラムで、「中国の代表が裁判官になるのは、放火犯が消防士になるようなものだ」と述べて、段大使の立候補に強く反対した。米国は国連海洋法条約を批准しておらず、非締結国となる。

2016年、別の常設仲裁裁判所が国連海洋法条約に基づき、南シナ海の90%のの領有権を訴える中国の主張には法的根拠がないとの判決を下しているが、中国が同判定を受け入れず、これに準拠することを拒否したことで、同国は同海域の一部の領有権を主張するフィリピンなどの東南アジア諸国だけでなく、オーストラリア、カナダ、日本などの多くの諸外国が憤慨している。(写真:2017年4月、領有権紛争が発生しているスカボロー礁でフィリピン漁船に警告を促す中国海警局の船舶)

国連海洋法条約に関わる問題を付託できる裁判所は少なくとも4つ存在している。

フィリピンに倣って、ベトナム政府も南シナ海を巡る中国政府との紛争について法的手段に訴えることを検討している。複数の報道によると、2020年5月、ベトナム政府は仲裁人と調停人をそれぞれ4人ずつ指名した。これにより、同政府が間もなく仲裁廷に提訴する可能性があると考えられている。

今回段大使が新裁判官として当選したことから、フィリピン同様にベトナムも国際海洋法裁判所には提訴しないと観測筋は予測している。

1996年に国際海洋法裁判所が発足して以来、中国が地理的な指名要件を巧みに操作してきたことで、同裁判所には常に中国代表の裁判官が存在している。

米国海軍法務官を務める軍事学者のジョナサン・オドム(Jonathan Odom)法務博士は、安保問題に特化したブログ「Lawfare」に2020年8月10日に掲載された記事で、「これまで中国代表が何の異議もなく裁判官として当選してきたことが、南シナ海問題を含め、中国政府が法治を無視するような傍若無人な行動を取る要因の1つとなっている」と述べている。

同記事にはまた、「地域代表を選挙で裁判官に選出する国際海洋法裁判所の習わしとこれまで何の問題もなく中国代表が当選してきた事実を深く掘り下げて考えてみると、中国代表に同裁判所の『裁判官の席』が事実上約束されていることが、国連海洋法条約や法律に反する行動を取る権利と免責を暗黙の内に同国に与えている可能性があると言える。同国の冒険主義を称え、その不条理な海域領有権の主張に加担することは全く良策ではない」と記されている。

サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post紙が報じたところでは、発足以来、国際海洋法裁判所には船舶と乗組員の早期釈放、海洋境界画定に関する紛争、航行の自由、勧告的意見の要請、海洋環境、便宜置籍船、漁業資源の保全に関連する28件の事案が付託されている

アナリスト等の見解よると、南シナ海などの海洋に関する問題について締約国は複数ある裁判所のうちのどれを利用するかを宣言できるため、国際海洋法裁判所の裁判官選挙の重要性がおざなりにされている。

オドム法務博士著のLawfareの記事には、「個人的にも集団的にも、[168ヵ国の]国連海洋法条約批准国は同条約に反映される法治に基づく国際秩序の原則と制度を維持するため、公正な選挙で裁判官を選出する義務がある」とも記されている。

一方、米国では、2020年8月、戦略国際問題研究所の東南アジアプログラムの上級研究員で、アジア海洋透明性イニシアチブ(AMTI)を率いるグレゴリー・ポーリング(Gregory Poling)部長がCNBCニュースに対して、「今後、中国海警局の船舶がベトナム沖の石油掘削装置に対して脅し行為を仕掛けたり、中国漁船団がインドネシア海域に現れたりするようなことがあれば、米国はより声高にその違法行為を戒めるであろう。

そうなれば、中国がその違法行為により得るメリットよりも国際的な評判をなくすことで発生する損害のほうがはるかに高くなる」と述べている。

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