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安心できる 未来の 資金提供のために

アジア開発銀行は、インド太平洋地域における成長、繁栄および持続可能性を促進する 

ポール・カリー/アジア開発銀行

フィリピンを拠点とする国際開発金融機関は、経済格差から災害の復興まで諸問題に取り組むことで、何十年にもわたってインド・太平洋地域における社会経済の発展の原動力となってきた。

アジア開発銀行(ADB)は 1966 年に設立され、本部はマニラにある。そのビジョンは、豊かでインクルーシブ、強靱で、持続可能なアジア太平洋地域を実現することでありその地域はトビリシ(Tbilisi)からタラワ(Tarawa)に至る。ADB は、その地域にわたる途上国(DMC)の貧困を根絶し、経済成長を促進するという目的を達成するための主要な手段として、ローン、助成金、株式投資、保証、技術支援、および政策対話を組み合わせている。ADB は、地域の社会経済開発での中心的役割を果たしており、その最大の加盟国として、インド太平洋地域の政治的、社会的、経済的変革における積極的な役割を今後も果たしている。 

2018 年、ADB は、開発途上加盟国に対する開発援助として、2 兆円(2,000 億米ドル)超のソブリンの融資および、ならびに民間セクターへの投資を行った。その財源の大半は、インフラへの融資、政策立案や良好なガバナンスの支援、社会経済開発の成果の向上に充てられている。2018 年、ADB のセクター別の主要なコミットメントは、エネルギー(24%)、運輸(23%)、天然資源と農村開発(11%)、公共セクター管理(11%)、都市と水(10%)などであった。 

ADB の支援は、株主、DMC、および地域で活動している他の開発パートナーとの緊密な協議に基づいている。米国は、日本とともに同行の創設メンバーの1 つであり、「対等な」筆頭株主である。ADB と米国の協力は、この銀行の加盟国が利用できる資源が着実な成長するよう支援し、ひいては米国と域内各国との関係の強化に重要な役割を果たしている。 

所有権とガバナンス

ADB の加盟国は 68 ヵ国である。域内加盟国 49 ヵ国のうち、44 ヵ国が DMC に分類されており、支援を受ける資格がある。地域および非地域のメンバーによる所有権は、購入した株式数に基づいている。筆頭株主は、日本(15.6%)と米国(15.6%)であり、中華人民共和国(PRC)(6.4%)、インド(6.3%)、オーストラリア(5.8%)と続く。

ADB のガバナンス構造は、世界銀行を含む他の多国間開発銀行と同様に、総務会と常任理事会で構成されている。総務会は、長期的戦略と全体的な制度ガバナンスを担当する。財務省は、ADB の理事会における米国の関与を主導し、ADB 駐在の米国大使がその代表を務める。 

理事会は銀行の株主の権利を代表し、すべての戦略、政策、経済的支援を承認する。理事会は年間を通じて継続して開催され、12 名の議長で構成されており、それぞれ事務局長が率いている。議長のうち 9 人は国のグループを代表し、3 人は日本、米国、および中国の単一の選挙区議長である。ADB の総裁は理事会の議長であり、ADB の運営や、スタッフおよび経営陣を指導する。ADB はこれまで、日本人が総裁を務めてきている。2020 年 1 月 17 日、ADB の新総裁に浅川雅嗣氏が就任した。 

管理と運営

運営面では、ADB は地域局と支援局から構成されている。地域局は、ADB と借入者との間で支援を調整する。借入国にある ADB の現地事務所を監督し、政府、民間セクター、および開発パートナーと緊密に協力して国別の支援ポートフォリオを計画し実施している。地域局は、ADB の国別支援戦略や国別業務計画などADB の国別支援を設計して実施する。  

ADB の地域局は、2018 年に行われた新コミットメントのシェアに応じて表にすると、以下の通りである:南アジア(32%)、東南アジア(29%)、中央・西アジア(21%)、東アジア(14%)、太平洋(2%)。地域局の大半は「現地」にあり、ADBの地域局スタッフの 59%が DMC の常駐事務局に配属されている。これにより ADB は国内のニーズに対応し、より広範な ADB の戦略的優先課題に沿って援助を行うことができる。ADB の民間セクター事業局(Private Sector Operations Department)は、民間投資を促進するノンソブリン取引に重点を置くことで地域チームを補完している。

ADB の支援局は、ADB の内部事業(通信、法律相談、内部評価など)を支援するだけでなく、気候変動やエネルギーなどのテーマ別またはセクター別のプロジェクトの設計や実施をも支援している。ADB の非地域局には、経済調査・地域協力局(Economic Research and Regional Cooperation Department)、持続的開発・気候変動局(Sustainable Development and Climate Change Department)、通信局、独立評価局などがある。 

ADB のすべての局や職員、コンサルタントは、組織全体で知識と専門知識を共有し ADB の指針となる戦略を効果的に実施するための「One ADB」アプローチを目指している。 

ストラテジー 2030 と ADB の優先分野

2018 年、ADB は同行の長期的指針(guiding framework)となるストラテジー 2030 を発表した。ADB の公共・民間セクター業務、助言サービスおよび、ナレッジ
共有活動を指揮するため、ADB は 7 つの優先課題を示している。

ストラテジー 2030 の 7 つの優先課題は、以下のとおりである:今なお残る貧困への対処と不平等の削減。ジェンダーの平等の促進。気候変動への対応、気候や災害に対する強靭性の構築。環境の持続可能性の向上、より暮らしやすい都市づくり。農村開発と食料安全保障の促進。ガバナンスと組織・制度面での能力強化。地域協力や統合の推進。 

ストラテジー 2030 の優先分野は ADB の業務の枠組みを提供するものであるが、国別プログラムは、DMCのニーズ、資金・技術吸収能力、および各 DMC の社会経済開発状況を踏まえて慎重に策定されている。ADB は、譲許的貸付と市場ベースの貸付を組み合わせ、と技術援助を組み合わせることで建設的な政策対話と民間セクター開発のための支援とともに国に適した資金援助を行うことができる。 

融資の方針とモダリティ

ADB の貸付条件は DMC によって異なる。3 段階の分類システムを用いて DMC が ADB の譲許的通常資本財源(OCR)から市場に近いレートで借入れできるのか、譲許的貸付条件で借入れできるのか、またはアジア開発基金(ADF)から補助金を受けられるのかを判断する。貸付条件は、DMC の 1 人あたりの国民総所得、信用度、過剰債務のリスクに基づいている。ADB の貸付業務は、管理費をカバーする収入を生み出し、同行の資本基盤を拡大し、技術援助や補助金の財源となる。加盟国は ADF の大半に資金提供をし、4年サイクルで補助金枠を補充する。米国は、日本に次ぐ第 2 位の ADF の出資国である。 

インド太平洋における ADB

ADB はインド太平洋地域で最大の地域開発銀行であり、年間 2 兆円(2,000 億米ドル)を超える融資や補助金、その他のコミットメントの支援を行っている。ADB はまた、域内において 50 年以上にわたって開発援助を提供してきたという長い歴史があり、これにより同地域全体の政府や民間セクターのステークホルダーと比類のない関係を築くことができた。しかし、ADB が優れた開発銀行である理由は ADB の財務能力と緊密な関係だけではない。債務の持続可能性、環境・社会的セーフガード、調達、汚職防止、保全をカバーする ADB の一連の政策が、この機関の基盤となっている。これらの政策は、国際的なベストプラクティスに沿ったものであり、質が高く持続可能な投資は最高水準である。

信頼される多国間開発パートナーとして、ADB はインド・太平洋地域で活動する政府、開発パートナーおよび二国間ドナーに対して招集機能を果たすことが多い。したがって、ADB での米国のリーダーシップは域内の援助プログラムと投資を計画し実施する上で重要な要素となっている。 

戦略国際研究センター(Center for Strategic and International Studies)(CSIS))が最近発表した報告書では、米国が域内での役割を確立していることからADB は「米国の戦略的資産」であるとされている。報告書は以下のように述べている。「2018 年の時点で、米国は全出資で 2 兆 3,000 億円(230 億米ドル)を約定しており、さらに 1 億 9,000 万円(190 万米ドル)が協調融資プロジェクトに約定されている。協調融資プログラムは、インド、ベトナム、ネパールを含む域内の数ヵ国に広がっている。米国はまた、インフラ整備のために民間セクターの協調融資を追求してきたアフガニスタン・インフラ信託基金(Afghanistan Infrastructure Trust Fund)などのマルチドナー信託基金にも投資している。」

ADB での米国の関与を主導しているのは財務省だが、同行は、国務省、米国国際開発庁(U.S. Agency for International Development)、米国 DFC、環境保護庁、内務省など、米国の様々な省や機関とも定期的に連携している。CSIS の報告書では、ADB と米国貿易開発庁が協力して、インド・太平洋地域向けの資金調達可能なプロジェクトを含むグローバル調達イニシアティブを立ち上げたことが強調されている。海外民間投資会社(Overseas Private Investment Corp.)は、ADB と協力して、インドにある銀行とプライベート・エクイティ・ファンドとの共同融資も行った。最終的に、ゼネラル・エレクトリック社やシティバンクなどの米国企業は、民間セクターの資本と専門知識を提供する協調融資機関として、ADB と緊密に協力している。 

米国は ADB の最大株主の一国として ADB を支援してきたが、それと同時にADB の加盟国であることにより大きな利益を得ている。米国は金融資本と技術的専門知識を提供しつつ、ADB は米国がインド・太平洋地域全体の持続可能な開発の取組みを支援し指導することのできる、極めて可視化された多国間プラットフォームを提供する。

ポール・カリー氏は、アジア開発銀行の主任業務調整官です。

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