北朝鮮の  制裁回避への対抗

北朝鮮の 制裁回避への対抗

国際的な協力体制の継続が 最大圧力政策の要点

ニール・K・ワッツ(Neil K. Watts)およびウィリアム・J・ニューカム(William J. Newcomb

国の石炭を中国やロシアなどに不正に輸送したとして、北朝鮮の船「ワイズ・オネスト号(Wise Honest)」を取り押さえようとする国際的な動きは、紆余曲折のあるスパイ小説のようにも見える。この事件によって、金正恩(Kim Jong Un)政権が共謀者や制裁金で利益を 得る者たちのネットワークの援助を受けながら、どのように巧妙で複雑な戦略と予測しづらいテクニックを用いて、複数の区域にまたがる複数の制裁を回避しインド・太平洋地域における制裁の実施と執行にけちをつけたのかがわかる。

ワイズ・オネスト号の1件は、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどからの支援の下での複数国による制裁活動の後に最も盛り上がりを見せた。2019 年 9 月、米国連邦裁判所が北朝鮮による拷問の犠牲者2人の家族への補償として、船の売却を命じた。ネイビータイムズ紙(Navy Times)によれば、直近の被害者はプロパガンダポスターを盗もうとしたとして金政権に拘束・拷問された後、植物状態で解放され、2017 年に死亡したオットー・ワームビア(Otto Warmbier)という米国の学生であった。

中国とロシアの国境近 くにある羅先港の 波止場に積み上げられる北朝鮮の石炭 AFP/GETTY IMAGES

この米国による初めての押収は、北朝鮮 に対する制裁執行の複雑さに光を 当てるだけでなく、金政権に対して完全かつ 検証可能で不可逆的な方法で、すべての核兵器と既存の核兵器開発プログラム を放棄するよう最大限の圧力をかけ続 けるという米国の姿勢を例証 するものである。

2019 年 8 月の国連安保理北朝鮮専門家パネルの報告によると、北朝鮮最大級 の制裁違反船———177 メートルの 「ワイズ・オネスト号」の没収に成功 したにもかかわらず、北朝鮮による石炭と石油の不法な瀬取り行為は 2019 年半 ばに至っても衰えることなく続いていると いう。違法な輸送は減少するどころか、2018 年にすでに横行したやりかたよりも 「範囲、規模、巧妙さ」という点で増長している。さらに、北朝鮮は銀行の エージェントや海外で活動するフロント企業を通じて国際金融 システムに接触し続けていたと報告書は明らかにしている。

また、2019 年の英国王立防衛安全保障研究所(RUSI:Royal United Service Institute)の報告書によると、中国に拠点を置く企業である威海世界海運貨物 (Weihai World Shipping Freight)は、2018 年 3 月に国連安全保障理事会の制裁リストに追加されたにもかかわらず67 隻の船団を運航させ続け、英国のフロント企業を巻き込んだネットワークを利用して北朝鮮の石炭を中国とベトナムに密輸していた。

国際社会は現状の「作用・反作用の争い」に北朝鮮が勝つのを止めなければならない。

北朝鮮の貨物船「ワイズ・オネスト号」が未確認の港に停泊している様子を捉えた米国司法省の衛星写真 2019 年 5月、米国は国際的な制裁に違反したとして同船を押収した。 AP通信社

圧力政策

近年、北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルの 実験を再開し、そのような行為は国際的な平和と安全を脅かすとの国連安全保障理事会の判断に対して再び反発している。これを受けて 2016 年と 2017 年の安全保障理事会では、北朝鮮政府に禁止された行為を取りやめるよう強く圧力をかけ外交的解決を模索させる、より積極的な姿勢が執られることとなった。

普段は厳しい制裁に慎重な立場の中華人民共和国とロシアもこれらの措置に合意した。制裁には、主に中国市場向けの貴金属、鉄・非鉄金属、石炭、農産物、魚介類、繊維製品など北朝鮮の主要な外貨稼ぎ先の輸出禁止が含まれていたほか、機械、自動車、特定の金属、石油の輸入も国連安全保障理事会によって禁止された。また、瀬取り行為の禁止を含む海運分野での制裁や、北朝鮮の法の網をくぐる行為や核兵器・ミサイル兵器開発の資金供給を目的とした金融に対する制裁が強化された。

制裁の範囲と程度が強められていることから、安全保障理事会の北朝鮮へのアプローチが対象を狭い範囲に限定した制裁措置から、かつての包括的な制裁に頼ったものに回帰していることを示している。一方で、その包括的な制裁措置においては石炭と石油が対象から除外されることが慎重に検討されているほか、場合によっては人道的な例外措置を検討する意思が表明されている。これはイラクに対する制裁等の「前例」を悩ませた意図しない結果や、国際的な支援を無駄にするといった事態を回避するためである。

2018年にインドネシア 政府に拘束され、 米国沿岸警備隊に引き 渡された後、2019 年 5月に米領サモアの パゴパゴにある港に 曳航される北朝鮮の 貨物船「ワイズ・ オネスト号」(中央) AP 通信社

海上輸送

国連決議では北朝鮮に供給、販売、譲渡されている物品を、たとえ北朝鮮の船舶同士であっても、また間接的なものでも船舶から船舶へ移し替えるという瀬取り行為を明確に禁止している。瀬取り行為には港で貨物を下船させずに、海上で船から船へ貨物を移動させるためある船が別の船に随行するような行為も含まれている。

石炭全般の輸送禁止に加えて精油製品の輸送も禁止されているが、これらに関しては一定の免除措置が執られている。精油を輸入するための主要な手段である瀬取り行為は港の制裁規制を回避し、輸送貨物の目的地や原産地を隠すことを目的としてほとんどの場合国際海域で行われる。このような不正な瀬取り行為を行っている船舶は通常、探知を逃れるために、輸送前や輸送中に自動識別システム(AIS)のスイッチを切っている。

この種の海上輸送そのものは違法ではないが、北朝鮮はこの方法を利用して港湾当局の監視の目を逃れて輸出規制を回避し、輸出会計・報告上に輸出行為が表れないようにしている。このことによって、北朝鮮の精油輸入に年間 50 万バレルの上限を課すという国連の決議の意義が失われている。2019 年 3 月および 8 月の国連安保理北朝鮮専門家パネルの報告によれば、不正輸送の検出数から考えると2018 年から 2019 年にかけての 4〜5 ヵ月間のうちに国連の定めた年間上限が破られている計算になる。

例えば台湾の工作員、陳世憲(Chen Shih-hsien)氏よる精油製品の不正な輸送計画 11 件のうち、最初の 2 件はそれぞれ450万ドル、850 万ドルに相当した。2017 年に韓国と米国の当局が「ライトハウス・ウィンモア号(Lighthouse Winmore)」———香港で登録され、陳氏が所有するビリオン・バンカー・グループ(Bullion Bunker Group)が運航させているタンカー船が制裁措置に反して北朝鮮に燃料を提供していたことを突き止めたと台湾ニュース (Tiwan News)紙が報じた。同紙によれば陳氏は2019 年 6 月に台湾当局に起訴された後、ビルの 6 階から飛び降り自殺したという。

2018年2月、スティーブン ・ムニューシン(Steven Mnuchin)米国財務長官はホワイトハウスで
北朝鮮関連の制裁強化を発表し、北朝鮮の海運・貿易会社や船舶を混乱 させた。

北朝鮮は、石炭輸出によって年間 10 億ドル以上を外国から得ていると推定されている。通常の場合、不正輸送は約数百万ドルに相当するが、ブローカーが確認した資金で輸送前に米ドルで支払わていなければならない。専門家たちは、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルの開発資金はこの石炭の輸送による利益に依存していると考えている。

2019 年 8 月の国連専門家パネルの報告によると、2018 年にインドネシア政府に拘束された際にワイズ・オネスト号が輸送していた265億トンの石炭は約 300 万ドルに値する。ワイズ・オネスト号は北朝鮮船籍でありながら、シエラレオネの旗の下で航行していると偽り北朝鮮に重機械を輸送していたことがあり、これもまた国連と米国の制裁措置に違反していた。

石炭の不正輸送は、インドネシアのバリクパパン (Balikpapan)近くにおいてロシア船への瀬取り行為を経由して行われたが、その資金は共謀した中国企業ホイトゥン・ミネラルズ社(Huitong Minerals)によって、北朝鮮のジンミョン合弁銀行 (Jinmyong Joint Bank)からインドネシアの銀行に送金された。ジンミョン合弁銀行は、韓国ソンギ総合商社(Korea Songi General Trading)やワイズ・オネスト号の所有者であるソンギ海運(Songi Shipping)、韓国インミョン商社(Korea Yin Myong Trading)など、韓国ソンギのネットワークに属している。2019 年 7 月、裁判所の文書によってこのネットワークが金政権の朝鮮人民軍庇護下にあることが明らかになった。

ジンミョンの総裁を名乗るチョン・ソン・ホ(Jong Song Ho)という男は、ジャカルタの北朝鮮大使館での会談中に 2018年の不正輸送を命じた。2019 年 4 月にワシントン・ポスト紙(The Washington Post)が報じたところによると、彼がインドネシアのブローカーを介して、JP モルガン・チェース銀行を仲介とした銀行振り込みによってホイトゥン・ミネラルズ社への米 76 万ドルの支払いを手配した銀行などの記録が残っている。また、インドネシア政府は韓国のエナーマックス社 (Enermax)がワイズ・オネスト号の石炭を意図的に受け取ったと述べていると、AP 通信は報じている。エナーマックス社は石炭を輸入したことについては否定したが、 「インドネシア現地のブローカーと思われる人物」から石炭輸送のオファーを受けたことを認めた。しかし 2019 年7 月、ニューヨーク・タイムズ紙は、エナーマックス社がパレードや首脳会談で金正恩氏を輸送するメルセデス・ ベンツ社のリムジンを北朝鮮に違法に輸送していた件にも関与していたと報じた。

中国企業を利用するメリットとして、北朝鮮のフロント企業が銀行システムにアクセスできること、中国の公用通貨である人民元を米ドルにロンダリングできること、元帳取引や物々交換などの代替的な金融取引ルートを利用して利益を本国に送還できることが挙げられる。このような共謀関係にある企業同士の行いは、分割払いを利用して現地の仲介人の活動に資金を提供している。

不正輸送の阻止

北朝鮮は、その欺瞞と回避戦術の範囲と巧妙さを常に進化させている。その手法は、多層的なフロント企業群、海上の法域そして断片化された金融取引にかかわるものである。北朝鮮の船舶は AIS 操作や、本来の船舶とは別の船舶であると主張する、いわゆる 「身元詐称」を行うことによって物理的・電子的に変装している。さらに、それらの船舶は迂回した非経済的な航海を行い、外国の港をいくつも経由することで、積荷港と原産港を示す偽造文書の信憑性を高めている。北朝鮮がロシア極東の港を好んで使うのは、その地域が東アジアにおける大規模な石炭輸出地だからだ。

ワイズ・オネスト号の事例によって、北朝鮮が国連と米国の制裁を回避するために執ったテクニックの複雑さが明らかになった。また、この事例は不法輸送を阻止できた成功例でもあるが、逆に北朝鮮がターゲットとし、悪用する法的枠組みの欠点によって効果的な制裁の実施がいかに損なわれているかを示す事例でもある。

CBS ニュースによれば、2018 年 4 月、インドネシア政府は北朝鮮の石炭を不正に密輸したとして、1万 7600 トン以上のシングルハル型ばら積み貨物船「ワイズ・オネスト号」を捕らえた。北朝鮮のナムポ (Nampo)港で石炭を積載しているところを
撮影された1ヵ月後のことであった。船長はインドネシアで同国の海事法違反で起訴され、有罪判決を受けた。

インドネシアのバリクパパンにある地方裁判所は、虚偽の申告をした船長に、不正に輸送した北朝鮮の石炭を現地の仲介人またはブローカーに返還しなければならないとの判決を下した。そして、さらにいくつかの刑罰を与えたうえで石炭の再輸出を許可した。この件に関わっていたブローカーであるエコ・セヤモコ(Eko Setyamoko)はすぐに、不正に輸送された石炭(後にインドネシア原産であることが証明された)を、当初不正輸送に使用していたパナマ籍の船であるドン・タン号 (Dong Thanh)に移し替えた。しかし、マレーシアの港に到着した時点でドン・タン号は当局によって入国を拒否され、その後 2019 年 6 月に船とその不正な石炭はベトナムに差し押さえられた。国連の専門家たちによる 2019 年の報告によると、いずれの行動も国連の制裁に関する決議が効果的に実施される結果に結びついたという。

2019 年5 月、インドネシア当局はワイズ・オネスト号を米国に引き渡し、米国はその船をサモアに曳航した。米国司法省の発表によると、米国が国際制裁違反で北朝鮮の貨物船を押収したのはこれが初めてであった。ネイビー・タイムズ紙は、米国の連邦裁判所が、2019 年 9 月にワイズ・オネスト号を売却した収益金をオットー・ワームビア氏の両親と、2000 年に北朝鮮の工作員に拉致され、拷問され、処刑されたキム・ドンシク (Dong Shik Kim)牧師の兄と息子に分配したと報じた。

国際的な協力

ワイズ・オネスト号とドン・タン号の事例は、複数の管轄区域で活動し日々進化している 北朝鮮のネットワークを効果的に崩壊させるためには、国際的な協力が極めて重要であることを示している。このような事例はむしろ制裁の失敗を示しているのだと批判する者もいる。しかし、より深く調べてみると北朝鮮とビジネスを行うことのコストとリスクは着実に増大しており圧力が効果を発揮しているとも言える。2019 年以前、北朝鮮は制裁そのものすら受け入れていなかったが、最近北朝鮮は初めて制裁に対する救済措置を話題に出し交渉を求めている。

2019 年の中国には、2018 年ほどは国連の制裁措置すべてを厳格に実行していない兆候があった。中国税関の統計資料によれば、2019 年でさえも北朝鮮の対中輸出と対中輸入は制裁措置を厳しいものにする以前と比べてはるかに少なく、二国間の貿易赤字は厳罰化前の水準をはるかに上回っていた。

アフリカ諸国やその他の国の政府が経験した様々な司法的失敗や北朝鮮への「共謀的な」支援が示すように、より多くの国が制裁を行い厳しく運用していくためには、困難が待ち受けている。しかし、進歩はしている。忍耐と粘り強さによって制裁の形骸化を防ぎ、最終的にはこの「マラソン大会」で北朝鮮を疲弊させることができるかもしれない。

ニール・K・ワッツ氏とウィリアム・J・ニューカム氏は、UNSCR 1874(2009 年)によって設置された、国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元メンバーである。


2019 年北朝鮮および 56 か国に関する国連専門家パネル

本報告は 2018 年 2 月から 2019 年 2 月までの期間を対象とし、2006 年以降に成立した北朝鮮に関する 10 項の国連決議に関する違反事項を
新規申し立て/継続申し立て、未解決/立証済みを問わず、100 件以上詳細に記録している北朝鮮および 56 の国・地域・組織のうち 31 が
複数の制裁違反の責任を負ったとされている。 

56 の国・地域・組織は以下の通りである。

• アルジェリア*

• ベリーズ

• ボリビア

• ボツワナ

• 英領バージン諸島

• ミャンマー

• カンボジア

• 中国

• コモロ

• コートジボワール

• コンゴ民主共和国

• エルサルバドル

• パプアニューギニア

• エリトリア

• フランス

• グルジア

• ガーナ

• ギニア

• ホンジュラス

• 香港

• インド

• インドネシア

• イラン

• ラオス

• レバノン

• リビア

• マダガスカル

• マレーシア

• マルタ

• メキシコ

• モザンビーク

• ナミビア

• ニュージーランド*

• ニカラグア

• ナイジェリア

• パナマ

• フィリピン

• ポーランド

• ロシア

• セルビア

• セーシェル

• シエラレオネ

• シンガポール*

• 南アフリカ

• スーダン

• シリア

• 台湾

• タンザニア

• タイ

• トーゴ

• チュニジア

• ウガンダ

• アラブ
首長国連邦

• ベトナム

• イエメン
(フーシ派)

• ザンビア 

*報告期間中に、制裁違反の疑いを是正または処罰するために、国が措置を講じたことを示す。 

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