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アジア太平洋安全保障研究所の設立記念講演で中国の脅威と米国の取り組みを強調する米国防長官

FORUM スタッフ

中華人民共和国(中国)のようにほぼ同等の力を持つ敵対国が自国の利益向上のみに注力する中、米国は地域全体の提携体制を強化して、「自由で開かれたインド太平洋」の推進を目的とする改革に焦点を当てている。

2020年8月下旬、ホノルルに所在するダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究所(DKI APCSS/Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies)の設立25周年を祝う基調講演で、マーク・エスパー(Mark Esper)米国防長官は自国と敵対国の対照的な姿勢を強調した。

中国共産党(CCP)率いる中国政府は継続的に国際体制や自由市場から利益を享受しつつも、国際法、規則、規範を遵守しないだけでなく、香港経済を保護し、南シナ海の地物を軍事化しないと国際社会に宣言した約束も守っていないとして、エスパー国防長官は中国を批判している。

同国防長官は、「しかし、中国政府の利己的な行動はインド太平洋地域に限ったことではない」とし、「世界中で、志を同じくする提携諸国がこの体系的な規則を破る中国共産党の行動により被害を受け、その数は増加を続けるばかりである。米国の軍隊とは異なり、中国人民解放軍は自国に仕え、その憲法に則るのではなく、中国共産党のみに奉仕している」と述べている。

一部のインド太平洋諸国を訪問する途中にホノルルに立ち寄った同国防長官は、第二次世界大戦終結75周年に言及し、4分の1世紀にわたるダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究所の活動に敬意を表した。同国防長官は講演後、ZoomとFacebookライブ経由の聴衆からの質問に率直に応じた。質問内容にはASEAN(東南アジア諸国連合)、中国、北朝鮮、そして拡大しつつある米印関係など、幅広い話題が含まれていた。(写真:ダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究所の所長を務めるピーター・A・グマタオタオ(Peter A. Gumataotao)米国海軍退役少将からの質問に答えるマーク・エスパー(Mark Esper)米国防長官(左))

地域だけでなく、世界的な安保問題に取り組む同アジア太平洋安全保障研究所は、ハワイやインド太平洋全域で実施している幹部教育とワークショップの包括的なプログラムに米国やインド太平洋地域の軍事関係者を招待している。

エスパー国防長官は、「何十年にもわたり、ダニエル・K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究所は地域におけるその独自の地位を活用することで、米国国防総省の一部として、インド太平洋地域全体にわたる永続的な安保提携関係を構築し、米国とその同盟諸国の安保上の利益を推進するという米国の使命を支えてきた」とし、「非常に優れた世代が払ってきた途方もない犠牲を鑑み、米国とその同盟諸国は共に自由を実現し、国際秩序を構築してきた。これにより、70年以上にわたる繁栄と安保が世界にもたらされた。残念なことに、今日、その自由で開かれた体制が迫害されつつある」と語っている。

世界は大国間競合の時代に突入しており、インド太平洋は中国との競争の中心地となっていると、同国防長官は説明している。

同国防長官はまた、「この現実に照らして、国防総省は準備態勢、同盟・提携体制の強化、そして志を同じくする諸国とのネットワーク拡大の促進を基盤とする地域の包括的戦略の策定と実施に取り組んでいる」と話している。

同国防長官の説明によると、陸海空、宇宙、サイバー空間を含む全領域で抑止・競合し、必要に応じて戦闘して勝利することができるように、米国は旧式の体制から脱皮して近代化に焦点を当てている。

これを実現するために、米国は極超音速兵器、5G、人工知能を開発および展開することで、既成の概念を変えるような技術を装備することを優先すると、同国防長官は述べている。米国はまた、潜水艦、B-21ステルス爆撃機、無人潜水機、無人水上艇、長距離精密兵器、統合防空・ミサイル防衛システム、新型フリゲートなど、「自由で開かれたインド太平洋」構想を遂行するために不可欠なプラットフォームに投資している。

同国防長官は、「21世紀に見合う新たな共同戦闘概念を開発し、提携諸国にとっては戦略的に予測可能で、敵の運用上予測不可能性を高める他のイニシアチブを実装することで、戦闘方法を変革している」と説明している。

地域全域の同盟・提携諸国と協力を図りながら変革工程はすでに進展しており、米国は同盟関係の強化に取り組んでいると、同国防長官は語っている。

同国防長官が説明したところでは、米国は日本にF-35戦闘機、インドにシーホーク哨戒ヘリコプターとアパッチ攻撃ヘリコプター、台湾にF-16戦闘機とM1エイブラムス戦車を提供する契約を締結しただけでなく、バングラデシュ、インドネシア、マレーシア、モルディブ、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムなどの提携諸国には、各国の海上安保と領域認識能力の強化を目的として400億円(4億米ドル)近くの援助をすでに提供している。

また、米国とタイは共同でストライカー装輪装甲車の調達に取り組んでおり、日本では日米共同開発が進んでいた弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」の生産が開始されていると、同国防長官は述べている。

さらに、同国防長官は、「大国間競合の時代になって、提携関係を強化し、新たな関係を育成することの重要性がかつてないほどに顕著になった」とし、「ほぼ同等の力を持つ敵対国、つまり中国は法治に基づく秩序を弱体化して破壊し、多くの場合、他国を犠牲にして自国の利益ばかりを追求しているが、我々の同盟・提携諸国との強固なネットワークには常に比べ物にならないほどに高く永続的な優位性がある」と話している。

脅威を完全に把握することを目的として、同国防長官は中国に的を絞った新たな防衛戦略局を設置し、取り組みを統合する中国戦略管理部を設立しただけでなく、国防総合大学に対して学習課題の50%を中国に焦点を合わせたものとすることを指示し、すべての軍事学校、プログラム、訓練で中国を「歩調を合わせて対処すべき脅威」と定義するよう軍隊に命じている。

同国防長官の説明によると、将来的な指導者を育成する上でこうした取り組みが非常に重要となる。

「米国には先導する責任がある」と述べた同国防長官は、「これまで長い間、米国は太平洋諸国の1つとして存在してきた。この地域を敵に譲るつもりはない。世界諸国の多くは個人の権利と民主主義について共通の考えを持ち、その重要性を理解している。しかしどういうわけか、世界の安全と繁栄を保つために世界諸国が信じて尊重している概念よりも、自国の政治形態、人権や主権に関する観念、報道・信仰・集会の自由に対する考え方など、自国の思想のほうがすべての面で優れていると考える他国に、1ミリたりともこの地域を渡すつもりはない」と強調した。

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