特集

人工知能

AI の研究開発を支援できる国際環境を推進する米国の戦略

FORUM スタッフ

国は人工知能 (AI) で世界をリードしている。中華人民共和国(中国)は、その野心にもかかわらず、首位の座を奪う事には失敗したが、それでも競争はますます激化している。 

専門家は、将来、世界の経済基盤の強化に伴い、機械が人間の監督なしに行動し、大量のデータを処理し、解釈できるようなれば、AI によって戦闘空間には革命をもたらされ、その結果、戦争の指揮統制を強化することができると予測している。米国は、経済的・軍事的主権と、社会統制のための技術のコントロールを重視した上で、中国の脅威に対抗し、AI 研究における優位性を維持しようとしている。

ホワイトハウスの AI 政策のコーディネーターであるリン・パーカー(Lynne Parker)は、2019 年 7 月、米国の政治ジャーナリズムのウェブサイトであるPolitico において、「業界の成果を見れば分かるように、最先端を走り、最新の技術と AI を推進している主要な学術機関はアメリカの産業であり、アメリカの学者です」と述べた。

当時のエネルギー長官 リック・ペリー(Rick Perry)氏 は、2019 年 8 月のフォーラム で人工知能における米国の リーダーシップと官民パートナーシップの重要性について語った。 AP 通信

「私たちは明らかに、最もインパクトのある商用製品を生産しています。もちろん、だからといって、他の国が AI の大きな可能性に無関心でいるということではありません。しかし、明らかに、米国がその分野ではリードしているのです。」

2019 年 8 月に、ワシントン DC に拠点を置くグローバルシンクタンクであるデータ・イノベーション・センター(CDI: Center for Data Innovation)が発表した調査では、才能、研究、開発、ハードウェアなどの点において、AI 研究における米国のリーダーシップが
確認された。

「中国の大胆な AI 戦略にもかかわらず、米国は依然として絶対的リードを誇っています。中国は 2 番目で、欧州連合に関してはさらに遅れをとっています。(106 ページ「AI レースで勝つのは誰か:中国、EU、それともアメリカ?」を参照)

2017 年、中国の国務院は、2020 年までに AI 開発で米国に追いつき、2025 年までに AI 技術で世界のリーダーシップを取るという戦略を発表したが、そのようなリーダーシップが具体的にどのようなものかは明記されていなかった。習近平国家主席のメイド・イン・チャイナ推しの一環として、中国が 2030 年までに 1500 億 US ドルを AI に投資するという計画を打ち出したにもかかわらず、CDI の報告によると、中国は多くの測定基準で米国にリードを許している。

CDI のレポートによると、米国は、「AI 新規事業が最も多く、そのエコシステムは、最も多くのプライベート・エクイティ・ファンドとベンチャーキャピタル資金を受けている」という。米国は、「従来の半導体と人工知能 (AI) システムを支えるコンピューター・チップの開発を主導しており、EU や中国に比べて人工知能 (AI) に関する学術論文の数は少ないものの、平均して最も質の高い論文を発表している」。さらに CDI のリポートは、中国は依然として、特に一人当たりベースで、ほとんどの指標において遅れを取っていることや、EU の方がより多くの AI 分野の才能に触れる機会があるにもかかわらず、世界をリードする AI の才能は米国が有している、とも述
べている。中国は、米国や EU に比べ、人材面で遅れをとっている。

カリフォルニア州エドワーズ空軍基地で、空を舞う 3 つの無人航空機。米国国防総省は、危険度が高い環境において、人との接触なしに人工知能と協働する航空機を開発している。二等軍曹レイチェル・シモンズ(RACHEL SIMONES)/米国空軍

CDI のレポートによると、中国は、米国や EU よりも多く民間データを収集しており、さらに、中国の国民による AI 利用は目立って急速に増えているが、中国の言動は他の社会の不信を生む場合が多く、さらに民軍統合などの政策が、世界市場での成功を遠ざけている。

ロシアは、ウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領のもとで、特に軍事目的で、AI に投資を続けている。しかし、アナリストによると、ロシアは、イノベーション推奨文化の確立がうまくいかなかったために、世界に遅れを取っている。プーチン大統領は、かつて、「この分野のリーダーになれば、誰でも世界の支配者になれる」と研究者たちを鼓舞したが、皮肉なことに、2019 年 6 月に Defense One のウェブサイトが発表した報告書によると、ロシアの主要な研究者の多くはすでにロシアを離れ、米国と欧州に移ってしまった。

米国の AI 戦略

米国の人工知能 (AI) 技術における競争優位を維持するため、米国国防総省 (DOD:U.S. Department of Defense) は、2019 年 2 月、AI 戦略を導入し、それに伴って、米国人工知能 (AI) イニシアティブを創設する大統領令が出された。これによって、米国政府は人工知能 (AI) の革新を推進するために、「連邦政府の全資源を投入する」ことが必須となった。ホワイトハウスはまた、AI 国家安全保障委員会を設立し 2019 年 3 月に最初の招集が行われた。

米国は、同盟国と共に今後起こりうる紛争をコントロールし、自由で開かれたインド太平洋や世界の秩序を確保するためにAI を活用することが求められている。2020 年の米国国防総省の予算では、AI に 9 億 2700 万ドル、AI 制御による無人操作技術に約 370 億ドルが割り当てられている。一方、米国の大手テクノロジー企業も近年、AI に数百億ドルを投資している。例えば、エコノミスト誌によると大手テクノロジー企業の 2016 年の AI 技術への投資は、約 200 億ドルから 300 億ドルであった。

AI イニシアチブの立ち上げ時において、DOD の最高情報責任者であるダン・ディーシー(Dan Deasy)氏は、「AI イニシアチブの成功は、私たちの AI 戦略において重要な役割を担う内外のパートナー、省庁、産業界、同盟国、学界との強固な関係に依存している」
と、述べている

「部門全体で AI を運用することの重要性を強調することは難しい。さらに、適切な緊急性と敏捷性を持って伝えることも必要になる」と、統合人工知能センター(JAIC: Joint Artificial Intelligence Center)の局長であるジョン・NT・シャナハン(John N.T. Shanahan)中将は付け加えている。JAIC は、DOD 全体での AI 力を推進するために、2018 年 6 月に始動した。「JAIC で行うすべての事において、産業界、学界、および同盟国や国際的パートナーとの関係を強化することが重視されている。」

シャナハン氏は以前、米国国防総省の AI と機械学習に関するパスファインダーインテリジェンスプロジェクト(Project Maven として知られている)を率いていた。

CDI のディレクターであるダニエル・カストロ(Daniel Castro)氏は、デジタル自由貿易、データ収集業務、その他の関連する問題をカバーするために、米国の AI 戦略のさらなる拡大を求めた。 

「政府が AI イニシアチブの変革を望むなら、単に AI の研究、スキル開発、インフラストラクチャー開発のための既存の資金を再編するだけでは足りません」と、AI 競争力に関する 2019 年 8 月のレポートの中心執筆者であるカストロ氏は、AP 通信に語った。また、CDI リポートでは国防総省が政府と株主の団体を創立し、軍によるデュアルユース AI テクノロジーの採用を促進することも推奨されている。

「統合された専門知識によって、DOD はプロジェクトの優先順位を高め、スケーリングの問題解決にフォーカスし、DOD 内で AI によるイノベーション文化を発展させることができます。」とカストロ氏はフォーラム にコメントしている。「さらに、米国政府は、
研究においての協働を促進するために、世界中の同盟国と共同出資の導入を検討する必要があります。」

一部のアナリストは、中国が社会的なコントロールを目的とした市民データの蓄積に力を注いでいたため、データ収集においては米国とその同盟国よりも優れており、その優位性が、未来の抗争への道のりとなる可能性があること懸念している。しかし、重要な
軍事的用途において、民間データの有用性は限られていると主張する者もいる。

JAIC のシャナハン氏は、2019 年 8 月下旬の国防総省のブリーフィングにおいて、「私が恐れているのは、この時間と意思決定の問題に戻った時に、私たちの敵となる組織が完全な AI 対応力を持っていて、私たちにはないという未来だ。もうすでに時間的な余裕はない。我々が AI を自身の優位性に利用できるのは、数秒から数マイクロ秒の間かもしれない」と述べた。「米国国防総省の AI 採用に関しては、常にスピード感が足りないと感じている。私自身は、明らかな切迫感を持っている。」

倫理と監視

多くの国が、AI 技術が将来、戦争だけでなく、政治や独裁にも利用されることを懸念している。AP 通信 によると、米国は米国の価値観に沿って人工知能 (AI) を配備することを宣言しており、米国国防総省は産業界や学界と協力して、人工知能 (AI) アプリケーションの倫理指針を策定する作業を進めている。

レイセオン・テクノロジーズ(Raytheon Technologies Corporation)の情報部門の幹部、トッド・プロバート(Todd Probert)氏は、2019 年 2 月、AP 通信に対して、米国は「AI 技術を使ってプロセスをスピードアップはしているものの、現行の指揮体系に取って代わるものではない」と語った。彼の会社は、米国国防総省と協力して、様々な AIプロジェクトに取り組んでおり、その中には、Mavenと呼ばれる、ディープラーニングやその他の技術を使って映像を分析し、実用的な情報を得るためのプロジェクトも含まれている。

多くの西側諸国の政府は、これからも指揮系統に 人間が介入することを維持し続けるとしている。しかし、軍の専門家の中には、今後、AI が人間の認知能力を超える可能性がある事を指摘し、慎重になるべきだとの見解もある。リンクされた AI システムは、戦闘において、新しいレベルの自動化を実現可能にする。

「人間は、戦術から戦略への意思決定において独断傾向にあり、チーム意識から離れがちだ」と王立空軍諜報機関の空軍中佐であるキース・ディア(Keith Dear)氏は述べている。(エコノミスト 2019 年 9 月)

経済協力開発機構 (OECD) は、AI 技術の発展と活用方法の指針として、2019 年 5 月に、AI に関する最初の国際基準を導入した。米国などの 42 ヵ国が OECD の原則に同意した。2019 年 6 月、G20 加盟国は OECDの原則から導き出された人間中心の AI 原則を採択した。一方、中国は、国家新世代人工知能ガバナンス委員会を通じて、OECD と類似した独自の原則を発表した。しかし、多くの専門家は、中国やその他のいくつかの国々は、科学技術コミュニティにおける倫理的問題の解釈が、国際的な規範とは異なっていることを指摘し、懸念を表明している。例えば、中国はその技術の研究と応用において、不正データの広範な使用からヒトおよびサル-ヒト交配種における遺伝子編集能力の実験に至るまで、多くの倫理的欠陥が指摘され批判を浴びている。

すでに、新疆ウイグル州のイスラム教徒の大多数を占めるウイグル人コミュニティを監視するために、中国は AI での顔面・音声認識技術を使用している。この技術によって、標的者の動きを追跡し、個別のデータベースを作成し、いわゆる再教育施設に送ることが可能になる。こういったシステムを通じて、中国の少数派差別が容認されている事が批判を集めていると、ニューヨークタイムズや他の機関が報じている。

着陸率向上のための、人工知能と機械学習ツールを組み合わせた高解像度カメラをテストするヒースロー空港の航空管制技術者。AFP/GETTY IMAGES

監視国家

中国の経済成長が鈍化し、社会不安の兆しが見えつつある中、中国共産党は 1,100 万人のウイグル人だけでなく、一般住民に対する統制も強化しようとしている。例えば、2016 年に中国は、「2020 年までに、すべての地域をカバーし、すべてのネットワークを共有し、常に利用可能で、すべての地点でのコントロールを可能にする」ことを目標に、全国の映像による監視を強化する、いわゆる「シャープ・アイズ(Sharp Eyes)」プロジェクトを導入した。世界的なコンサルタント会社IHS Markit によると、当時、米国の 5,000 万台に対し、中国では、約 1 億 7,600 万台の監視カメラが街路、建物、公共スペースを監視していた。ロサンゼルスタイムズによると、カメラはすでに「北京のすべての街区」を網羅していた。

中国はまた、社会的信用評価システムを強化するためにも AI を使用している。このシステムは、2020 年に完全稼働を目標とする市民コントロールのための新たなツールである。このシステムはすでに部分的に導入されているが、非公開の方法論により、人々の行動を監視し、スコアに基づいて収集したデータを分析し、旅行や高級品へのアクセスを制限するなどの処罰を行う。

中国は、AI 技術を使用して少数民族とその大規模な人口を制御しているだけでなく、そういった AI 機能を他の権威主義体制や国際社会の国々に輸出している。

その一方で、米国政府は、米国における AI 規制の枠組み作りに取り組んでいる。

「私たちは常に、市民の自由とプライバシーおよびアメリカの価値観と一致する方法で AI を使用したいと考えている。はっきりしているのは、我々は中国のような監視国家にはなりたくないということだ」と、AI 政策に関するホワイトハウスコーディネーターのパーカー(Parker)氏は、Politico に語った。「一方で、全く使用不可能なレベルまで過剰に規制することは逆に行き過ぎになる」

アナリストらは、中国における AI への熱意を停滞させる他の要因も指摘している。例えば、AI 分野を確立するためのツール作成の元となる理論に対しての国家の貢献が欠如している事や、中国企業が基礎研究への投資を躊躇っている事などが含まれる。

例えば、中国は AI ハードウェアで米国に遅れを取っている。米国企業は現在、世界の AI 対応半導体チップのほとんどを製造している。中国はまた、「高度な AI システムをサポートできるコンピューティングチップの設計に関する専門知識」を欠いている、と
西安交通大学人工知能ロボティクス研究所所長の鄭南寧 (Zheng Nanning)氏は、2019 年 8 月、学術誌のネイチャーにコメントしている。

さらに、これまでの中国の投資規模のみでは、実際的な結果には結びついていない。「集中型アプローチのマイナス面は、それが誤った目標である可能性があるにもかかわらず、ゴールへ迅速に到達してしまうことだ。アメリカのイノベーションエコシステムの利点は、多くの優れたアイデアをそれぞれに深く掘り下げ、どのアイデアが実を結ぶかを検証できることだ」とパーカー氏は、Politico に語っている。

AI ネクスト

米国国防総省の国防高等研究計画庁 (DARPA) は、これまで、米国の主要な研究者やイノベーションセンターと協力して、インターネットから GPS、自動運転にわたり、革新のための技術を開発してきた。DARPA は、展望ある研究や開発を AI 分野に応用し続けている。2018 年、DARPA は、米国の AI 関連の研究に 5 年間で総額 20 億ドルを助成する、AI ネクストプログラムを発表した。資金は、AI の次の波の先導者に戦略的に割り当てられ、コンテキスト(文脈)を理解し判断できるマシンの生産を目指す。

「AI ネクストでは、コンピュータを、専門的なツールから、問題解決のためのパートナーに変えることを目的とした複数の研究投資を行っている」と DARPAの責任者であるスティーブン・ウォーカー(Steven Walker)博士は述べている。「現在のマシンにはコンテキスト推論機能が欠けているため、マシンのトレーニングにおいてはすべての不測の事態をカバーする必要がある。これはコストがかかるだけでなく、究極的には不可能だ。私たちは、機械がどのように人間のようなコミュニケーションと推論能力を獲得し、新しい
状況と環境を認識してそれに適応する能力を獲得できるかについて探求して行きたいと思う。」

Politico によると、DARPA の情報イノベーションオフィスの副所長であるジョン・エベレット(John Everett)氏は、「私たちは、20 億ドルの予算の範囲内で非常に広い範囲に渡る (どれも類似していない) プロジェクトを支援し、将来頭角を現す可能性のある技術に対して、多くの戦略的な挑戦を試みている。」と述べた。「中国で研究に費やされる資金の多くは、パターン認識に使われているようだ。彼らは莫大な金額の投資によって、パターン認識の腕を上げている。しかしながら、増加する支出へのリターンは減少している。」

「技術が急速に進歩している今日の世界では、プロジェクトを迅速に作成し、単なるアイデアから実践へと即座に移行させる努力をしなければならない。」とウォーカー氏は述べている。

前世代の DARPA の AI 研究はすでに成果をあげている。例えば、DARPA は、敵の部隊の目標や動き、感情を 5 時間先まで予測できる RAID (Real-time Adversarial Intelligence and Decision-making) ソフトウェアの開発に成功している。RAID は、ゲーム理論を応用して、問題をより小さなゲームに縮小し、解を得るのに必要な計算負荷を削減する。最近のテストでは、このソフトウェアは、スピードと精度の点で人間のプランナーを上回っており、米陸軍において使用可能な状態に近づきつつある。 

米国のオピニオンリーダーは、米国の創意工夫と価値が今後の世界における AI の採用方法を形成する上で優勢になるとの、楽観的な見方を変えていない。

「米国が実際にその才能のすべてを引き出し、世界を反映した国民性を受け入れるための方法を学べば、アメリカの個人主義、開放性、反骨精神、ヒューマニズムの伝統は、(STEM (science, technology, engineering and math:科学、技術、工学、数学) に対する国家的な執心にもかかわらず)私的利益や公共権力ではなく、人類への奉仕のために AI を利用するための絶好のチャンスをもたらすでしょう。少なくとも中国よりはそのポテンシャルがあるはずです。」と、2019 年 3 月、ウェブサイト slate.com に掲載された記事の中で、デジタル時代の米国の再生を専門とするシンクタンク New America のアン・マリー・スローター(Anne Marie Slaughter)社長兼最高経営責任者 (CEO) は述べている。

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