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未来の 戦闘空間 技術

アメリカ太平洋軍(現:アメリカインド太平洋軍)がマルチドメイン・オペレーション、自動化、データ融合を推進

スティーブ・カチラ/USARPAC 将来部門(Futures Division)

南シナ海周辺の未開発の島から、Bat12 無人航空機システム(UAS) が広々とした野原から飛び立つ。カタパルトで発射した戦術的な低観測・ステルス機は、海上のターゲットを捜索しながら海上を進む。Bat12UAS の操縦士は、米国陸軍の三等軍曹であり、受動電磁センサーを搭載した高高度気球と、米国海軍アセットからのデータ送信をつなぐ別の気球から、指示を受けた。どちらの気球もともに、数百キロ離れた海上から発射された。ターゲッティング担当者(targeteer)である、別の島にあるマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)本部に所属する陸軍一等軍曹は、カスタム人工知能(AI)と機械学習(ML)能力を利用して、航空アセットからのデータを海上ドローンのセンサーに統合した。 

Bat 12 オペレーターと MDTF ターゲッティング担当者はどちらも厳しい条件下で動作する。両者とも小部隊の浄水システムから水を飲み、飲料水を輸送する必要がない。どちらもマイクログリッド技術から電力を得ている。この技術は、バッテリーと発電技術を組み合わせてスマートに配電および蓄電することで可動性を実現し、赤外線サイン(heat signatures)を減らし、輸送およびその燃料の必要性を大幅に減らす。自律型陸上車両とリード・フォロー技術により、維持活動の人員要件が軽減される。

MDTF の分散したノードに物資を供給する軍用水上艇には、電磁気室と通信室が装備されており、MDTF の回復力に貢献している。いずれの
航空機もUAS を発射するように構成したり、高機動砲ロケットシステム(HIMARS)の発射プラットフォームとして機能したりすることが可能である。機内では、コンパクトな救急医療設備が用意されており、外傷ケアチームや治療が必要な負傷者を受け入れ、沿岸の水路にわたって輸送する準備ができている。

米国兵士は、ケンタッキー州フォートキャンベル訓練場にて、テスト飛行中に RQ-11 無人航空機システムを発射する SGT. アーロン・ドーハーティ/米国陸軍三等軍曹

陸軍管理センサーからのデータは、他の米国のサービスプラットフォームや宇宙アセットからの情報とともにMDTF およびインテリジェンス、情報、サイバー、電子戦、および宇宙(Intelligence, Information, Cyber, Electronic Warfare and Space)(I2CEWS)G2 データ統合センターに送られる。陸軍の情報アナリストやデータ・サイエンティストは、海を渡ってデータを送信して作戦上の情報を待つのではなく、テラバイト規模のデータを数分で構成して照合する AI/ML プログラムを構築し、維持している。MDTF は、そのデータを連合軍からの他の情報供給と独立して比較して、マルチドメインの共通運用図(COP)と有機的な MDTF ターゲティング・プロセスを維持し、これにより、データを供給するすべての COP が自動的に更新される。

Bat 12 は自らのターゲットを発見し視認し、民間船が近くにいないことを確認する。MDTF COPは統合任務部隊 COP を更新し、利用可能な射手を探す一刻を争うようなターゲティング・プロセスを開始する。その中でもこのターゲットに最適な武器は、別の島にある MDTF の HIMARS マルチロケット発射システムである。別の UAS に提供される通信リンクを使用して、MDTF はターゲット・データを送信し、発射コマンドを出し、米国陸軍の長距離対艦兵器を空中に一斉発射する。対砲火を避けるために、HIMARS 部隊は別の射撃位置に移動する一方、I2CEWS アセットは、その移動を隠して保護するために非キネティック射撃を行う。

技術のための組織化

今日の技術の変化ペースは、米軍の研究プロセス、開発プロセス、および取得プロセスに挑戦するものであり、有力な敵対者は技術を活用して、米軍が克服しなければならない重要な能力を創出している。2018 年の陸軍近代化戦略によれば、この問題に対する米国陸軍の回答は、「今後戦場で任務を遂行するための過剰な戦闘や能力を危険にさらすことなく、陣形や能力の近代化を先延ばしする余裕はもはやない」という認識に基づく、多面的なアプローチであるという。米国陸軍が行った最も重要な変更点のうちの2つは組織と概念だ。組織的には、米国陸
軍は研究機能、開発機能および取得機能を陸軍の技術マネージャーとして機能する陸軍将来コマンド(Army Futures Command)に統合した。概念的には、2018 年 12 月の米国陸軍訓練教義コマンドのパンフレットによれば、「敵のアクセス拒否およびエリア拒否システムへの侵入と破壊」と「サイバー、ロボット、自律システム、および人工知能(AI)などの新技術や、あらゆる領域に対抗できる敵を想定して、新たな戦略的コンテキストに向けて連合軍を拡大する」ように設計されたたマルチドメイン・オペレーション (MDO)を採用しているという。

米国陸軍は、米国陸軍太平洋(USARPAC)本部に、最初の MDO 編成である MDTF のパイロットプログラムの実施を命じた。幸いにも、USARPAC ではすでに自らの将来部門(Futures Division)が、将来の概念と将来の能力に対処するために組織されていた。USARPAC 将来部門は、国家研究開発機関、産業界、シンクタンク、陸軍および国防総省の分析センター、同盟国、および合同部隊と特別な協力関係を持ち、USARPAC および米インド太平洋軍(USINDOPACOM)の演習、戦争ゲームおよび研究における実験機会を創り出している。USARPAC は通信や陸上操縦を制限する環境下で活動しながら、MDTF が長距離精密砲火に対して組織的ターゲティングを実施する能力を向上させる方法を模索している。 

将来部門は自動化を試みており、滑走路に依存しない UAS の調整をテストして海洋波グライダーと相互作用し、空中自動感知機能と海上自動検知機能とを組み合わせ、データを比較対照して海上の接触を明確に特定する方法を考案している。結果として生じる海域認識によって、MDTF はホスト国や統合軍と共通の活動状況を共有できるようになる。競争中は、海域認識は国内法執行活動に貢献する MDTF の能力に解釈され、競争や紛争が激化している際には、MDTF、統合軍、多国籍軍の敵から味方を識別する能力と解釈される。より多くの無人の自律型プラットフォームがリモートでの発射、制御、および回収に対応できるようになると、将来部門は最低レベルでマルチドメイン・オペレーターの管理下におく方法を見出すため、能力、容量、冗長性、致死性が高まるであろう。 

米国陸軍のテストは、アラバマ州のレッドストーン・アーセナルにてパトリオット・ミサイルを発射する。地上配備の移動式迎撃ミサイルは、最先端の技術とベテランの技術を組み合わせて、
航空ミサイル攻撃を抑止、防止、撃退する「陸軍航空・ ミサイル防衛 2028」構想に含まれている。

時には、新しいテクノロジーに対する最良の対抗手段は古いテクノロジーだ。USARPAC の宇宙部と未来部は、気球、飛行船、ソーラー駆動の
固定翼プラットフォームなどの高高度技術の開発において、姉妹軍や他の戦闘部隊と連携している。これらの技術によって、滞留時間とペイロード能力のために、かなりの受動的かつ能動的な知能、監視および偵察収集能力がもたらされ、敵対的ターゲッティングに重大な課題が生まれる。気球は、近くの地形や船から、または MDTF 自体から発射することができ、早期の警報、マルチドメインの共通運用図およびターゲッティング・プロセスにさらに貢献する受動的な視覚および電磁感知能力を備えている。飛行船や固定翼プラットフォームもまた、遠く離れた場所から発射したり回収したりすることができる。これらのアセットは、戦術や作戦上の通信能力を提供するために配備することも可能であり、他の統合軍や同盟軍と連携する MDTF の能力を強化するか、もしくは敵対的なアクセス阻止操作やエリア拒否操作によって失われた能力を代替することができる。米国陸軍と USARPAC は、MDTF をさらに促進させるために高高度技術を追求している。

データ融合

MDTF が複数のドメインでセンサー・プラットフォームを制御し、サービスや国のセンサーからデータを受信できることから得られるメリットは、真に有機的な見通し外のターゲティング能力を持てることであるが、そのデータがタイムリーな意思決定を行うために使用されるならば、莫大なデータ処理費用が発生する。運用上の砲火のほとんどすべてのデータ融合は、キネティックや非キネティクのようなものも、旅団よりはるかに高いレベルで発生するため、分析用にデータを送信して情報を発射者に送り返す必要がある。燃料と水の輸送要件を削減するために物流技術が MDTF に統合されているように、AI/ML が統合されてデータ輸送要件を削減し、組織的な意思決定能力が改善される。 

戦術データチーム(Tactical Data Team)は、MDTF のようなマルチドメイン編成での前線のコンピュータ処理の必要性に対処するために、USARPAC の協力のもと米国陸軍将来コマンドおよび米国陸軍応用研究所が主導しています。データサイエンティストの小規模なチームがデータ入力の段階まで展開し、その場でカスタム AI/ML ソフトウェアソリューションを構築して、データの構造化と分析を行う。このような前線でのコンピュータ処理機能によって、非キネティックおよびキネティックの両方で、MDTF 発射の適時性が大幅に向上する。さらに、適切な分析が行われる場所にこれらの発射を実施する当局が存在する必要があるため、この新しい AI/ML 機能は、当局が MDTF まで簡単に 移動できるようにし、通信が拒否された際ミッション命令により効果的に対応できるようにする。

太平洋で戦い勝利するための MDO 編成に必要な技術は数多くあり多面的であるため、戦闘機能の範囲をカバーする。研究、演習、実験、および戦争ゲームによって、極めて効果的であったテクノロジーの用途がいくつか明らかになった。将来部門は、太平洋軍のニーズを評価し、USARPAC の技術マネージャーとして太平洋戦域における MDO の概念と適用を改善するという任務を継続しながら、これらの 取り組みを設計し支援し続けている。

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