人間 と 機械の連結

人間 と 機械の連結

防衛システムを 心で操作することを可能にする技術

ーザーフレンドリーなコンピュータータブレット、スマートフォン、スマートウォッチの登場により、血圧、心拍数、睡眠時間を含む生体計測モニタリングから、最新の天気予報やナビゲーションガイダンスまでを提供するウェアラブルテクノロジーが加速した。

世界中の軍事組織は、この技術の進化を、さらに洗練されたヒューマン・マシンインターフェイスによって新たなレベルに引き上げている。これらのインターフェイスには、戦闘中の病気や傷を診断して治療するウェアラブルデバイス、戦場での意思決定を支援する拡張現実プログラム、兵士の身体強度と耐久力を増強するための外骨格などが含まれる。成長を続ける分野は、人間と機械のより深いつながりを実現する。

防衛学の研究者たちは、キーボード入力、音声コマンド、さらにはスイッチの切り替えさえ必要とせずに、兵士が人工知能搭載マシンと対話できる新しいテクノロジーを開発している。理論的には、パイロットたちは、ニューラルインターフェイステクノロジーを使用して、
無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicles)の群れを自分の心だけで制御できるようになる。

「ニューラルインターフェースは、人間と機械の間で情報をやり取りするためのツールです」と、米国国防省高等研究計画局 (DARPA: U.S. Defense Advanced Research Projects Agency)の生物技術室のプログラムマネージャーであるアル・エモンディ(Al Emondi)博士は、Nextgov.com でのインタビューにおいて述べている。「このコンセプトは、タスク達成のためにコンピューターまたはスマートフォンと通信する他の手段、例えば音声コマンド、タッチスクリーン、キーボード、またはマウス、と大まかには似ていますが、物理的なアクションの中間ステップを迂回します。」

エモンディ博士は、現在、次世代非外科的ニューラル技術 (N3)プログラムと呼ばれる DARPA のプロジェクトを主導している。このプログラムは、防衛システムの操作において、身体的な行動の必要性をなくすことを目的としている。

「ニューラルインターフェースが可能にするのは、より豊かで、より強力で、より自然な体験であり、それによって私たちの脳は、インターフェースシステムによって実現されるツールとなる」と、エモンディ博士は述べている。「ニューラルインターフェースは、タスクを達成するために使用するツールに自分自身を適応させるのではなく、それ自身が私たちに適応するという初めての試みです。」

フランス国立科学研究センターの研究者による、ブレイン-コンピューターインターフェースのテスト。このインタフェースは、ユーザーが、音声や手動のコマンドを使用せずに画面上のシンボルを選択することを可能にしている。AFP/GETTY IMAGES

脳をリンクさせる

DARPA の 4 年にわたる N3 プログラムには、非侵襲または侵襲を最小限にしたニューラルインターフェースの開発を目指す 6 つの組織が関与している。DARPA のウェブサイトは、「人間の脳とコンピューターを接続するこれらのウェアラブルインターフェイスは、究極的には、アクなサイバー防御システムや無人航空機の制御、コンピューターとの連携によるマルチタスクなどの多様な国家安全保障アプリケーションを可能にする」と述べている。

政府は、バテル記念研究所、カーネギーメロン大学、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所、パロアルト研究所、ライス大学、テレダイン・テクノロジーズと共に、N3 プログラムに取り組んでいる。これまで、ニューラルインターフェースは外科的に侵襲的であり、主に負傷した兵士の運動機能を回復させるために使用されてきた。それに対して、N3 プロジェクトの目標は、データ処理と意思決定を迅速化することであり、その技術を健常な兵士が手術などを要さずに使用することである。

ロンドンの独立した政策研究所であるチャタム・ハウス(王立国際問題研究所)の 2019 年 8 月の記事によると、この技術は、兵士と司令官に「優れた感度と、より速いペースで環境に関連する多くのデータを処理する能力を与え、状況認識を高める」可能性があるという。「これらの機能は、軍における意思決定と、ターゲット設定プロセスをサポートします。」

DARPA の協働者たちにとっての課題は、手術の必要性をなくすことである。「DARPA は近年、目覚ましい進歩を遂げ、病人や、負傷した軍人または退役軍人の機能を回復させるための、脳の上または脳内部に埋め込まれた電極を使用した技術の可能性を示唆し続けています」とエモンディ博士は述べている。 「しかし、現在のところ、脳外科手術にはリスクが伴うため、これらの侵襲的技術は医学的に必要な場合を除いて倫理的に正当化できないのです。」

N3 開発チームは、ニューロンに結合可能な信号増幅用のナノ粒子を、注射や吸入、摂取によって体内に送り込み、脳信号を読みやすくするプロジェクトを進めている。信号は、キャップ内に配置された、またはヘッドレスト内に埋め込まれたシステムによって読み取られる。

DARPA によると、この技術は、地上でロボットやドローンを制御するだけでなく、複雑なサイバーネットワークをニューラルインタフェースで監視したり、情報を機械的な速度でかつ分かりやすく表示することで大量のデータを処理したりできるという。

このチームのリーダーの 1 人はインド・太平洋地域の科学者でバテルのシニア研究者であり、るガウラフ・シャルマ(Gaurav Sharma)氏はインド出身である。シャルマ氏は、DARPA との 2,000 万ドルの契約を獲得したチームを率いており、兵士が複数の UAV または爆弾処理ロボットを自分の思考で制御することが可能なシステムを開発している。バテルの N3 プログラムは、BrainSTORMS(磁電信号を送信または受信する脳システム)と呼ばれている。

「これは、私が今まで取り組んだ仕事の中でも、最もエキサイティングでやり甲斐のあるプロジェクトの 1 つです」と、インド北部の新聞 The Tribune においてシャルマ氏は述べている。「BrainSTORMS により、エンジニアリングと物理学の限界をさらに拡張することが出来ます。」

四肢に麻痺があるネイサン・コープランド(Nathan Copeland)は、脳内に 4 つの微小電極アレイを配置する手術を受けた。これらの電極アレイは、指に加えられた圧力を検出する高度なセンサーを搭載したロボットアームに接続される。ピッツバーグ大学医療センター/Pitt health sciences

世界的な探求

ニューラルインターフェーステクノロジーを通じて人間の学習、治癒、パフォーマンス、意思決定を向上するアイデアは、世界中の関心を集めている。中華人民共和国は、2019 年 5 月に中国人科学者が、脳-コンピュータインターフェイス(BCI)チップを使用した画期的な成果を達成したと報告している(新華社通信)。ブレイントーカーと呼ばれるこのテクノロジーは、中国北部で行われた世界インテリジェンス大会においてデビューを飾った。

新華社通信によると、ブレイントーカーを使用すると、脳波のみによってコンピューターや電子機器を制御できるようになるという。天津大学と China Electronics Corp. (中国電子信息産業集団有限公司)が共同開発したブレイントーカーは、大脳皮質の脳波から送られるマイナーなニューロン情報を特定・解読し、脳と機械の間のコミュニケーションをよりスピードアップすることを可能にする。科学者たちは、このチップを、医学、教育、ゲームの
分野で使える形に改良したいと考えている。

また、韓国大学の脳信号処理研究室でも同様の研究が行われている。研究者たちは、MRI として一般的に知られている磁気共鳴画像法と脳波検査を用いて、脳/コンピューターインターフェース、またはブレイン-マシンインターフェースのいずれかを構築することを目指している。この研究室では、データ分析と機械学習を、軽度の認知障害、アルツハイマー病、睡眠障害、てんかん、うつ病などの精神疾患や神経疾患の診断に使用したいと考えている。

米国の 2 つの企業は、ニューラルインターフェイステクノロジーによってドライバーの安全性を向上させる方法を研究している。カリフォルニア州に拠点を置く TrimbleInc. と、マサチューセッツ州に拠点を置くNeurable Inc. は、トレーニング効率を向上し、ドライバーの安全性を改善するための、脳の信号と目の動きを追跡するブレイン-コンピューターインターフェイスの使用についての研究において、パートナーシップを締結した。

迅速な回復

健常な兵士にとって、脳波でのロボット制御の実現がそう遠くないことに加え、負傷した兵士も神経技術の進歩から恩恵を受けることができる。2019 年 2 月、DARPA は、バイオエレクトロニクス、人工知能、バイオセンサー、再生医療および細胞再建技術の使用を通じて、スマートで適応性の高い、創傷回復プログラムを導入した。この生体再生のためバイオエレクトロニクス(BETR: Bioelectronics for Tissue Regeneration)プログラムは、爆風による怪我や火傷を負った兵士の長期にわたる痛みや苦痛を改善することを目的としている。

「負傷は生活環境の一部ですが、細胞と組織が相互に通信し合い、修復を試みる事で、状況は急速に改善できる可能性があります」と、BETR プログラムマネージャーのポール・シーハン(Paul Sheehan)は述べている。「理想的な治療とは、こういった創傷状態の変化を感知して対処し、回復を修正して促進することです。例えば、免疫応答を調節したり、必要な細胞タイプを受傷部位に誘導したり、治癒を促進させるように幹細胞を分化させるといった類いの介入が期待できる。

DARPA は、利用可能なあらゆる信号 (光学、生化学、バイオエレクトロニクス、または機械的信号) によって、生理学的プロセスを監視し、さらにそれらの信号を刺激して、治癒と回復を促進することを目指している。

「傷の状態に応じた適応治療の重要性を理解する上で、抗生物質軟膏の例を思い出してください」とシーハン氏は説明している。 「人々は抗生物質を使用して軽度の切り傷を治療します。抗生物質は、傷による菌感染に対して効果的です。しかし、自然の微生物叢を完全に排除することは、逆に治癒を
阻害する可能性があります。したがって、フィードバックがなければ、抗生物質は逆効果になる可能性があるのです。」

自然に近い腕と手の動きを可能にする Life Under Kinetic Evolution アームシステムを実演する退役軍人。このアームシステムは、米国国防高等研究計画局の革命的補綴プログラムの一部である。DARPA

四肢のコントロールを復元

手足の機能を失った、または手足を切断した民間人や兵士も、BCI テクノロジーの恩恵を受けている。日本の科学者たちは、脳卒中患者の四肢機能を改善するために BCI テクノロジーを使用している。東京農工大学の研究者らは、映像支援療法を用いて、脳卒中患者に自分の手の動きを観察させることによって、リハビリを加速できることを発見した。

彼らは、2019 年 7 月の IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering(科学雑誌)において、脳卒中は脳への 血流が妨害されることで麻痺が起こると考えられるため、脳の健康な領域が損傷した領域の機能を果たすように脳の可塑性を促進することで、運動機能を回復できる可能
性を示唆した。可塑性を促進するために、脳卒中患者は運動をイメージとして取り込む。そして実際に自分が動いていることを想像しながら、精神的に動きをシミュレートすることができる。BCI テクノロジーは、自分、または他人の手の行動を観察しながら、動作の意図を検出して記録する。

また、ニューラルインタフェースは、義肢の機能を改善するためにも使用されている。DARPA において、Hand Proprioception(手の固有受容)and Touch Interfaces (タッチインターフェイス)プログラムに取り組んでいる研究者は、末梢神経インプラントを使用することによって、切断手術を受けた
患者が自然な制御信号に直接アクセスすることを可能にしている。さらに DARPA は、プレスリリースにおいて、「感覚フィードバックを追加すると、握力と手の状態を検知することができ、複雑な手の動きをより自然で直感的に制御できるようになります」と述べている。

倫理パラメータの設定

テスラの CEO であるイーロン・マスク(Elon Musk)や、Facebook などの著名な実業家たちも、ブレイン-マシンインターフェースプロジェクトに着手したことが明らかになり、脳研究は昨今ますます注目を集めている。マスク氏は、Neuralink という会社を設立した。Neuralink は、2019 年 7 月、ブレイン-マシンインターフェースを使用して、麻痺患者たちが心で文字をタイプするのを助けるプロジェクトを発表した。一方、Facebook は、心の中で話すだけで文字を入力できる非侵襲性のウェアラブルデバイスの開発に取り組んでいる。

しかし、これらのまったく新しいテクノロジーは、基本的な倫理問題を提起する。倫理学者によれば、1 つの懸念として、機械と人間の脳をリンクさせた場合、人が真に自由意思を保てるかどうかについて疑問だという。 

2019 年 7 月に科学雑誌 Nature に掲載されたある記事は、下記のように述べている。「糖尿病治療のために、インスリンの放出を自動的に制御する血糖モニタリング装置の場合は、患者に代わって意思決定を行うことに特に問題はないかもしれない。」「しかし、他人の脳への意図的な介入は、それによって不適切な結果を招くこともあり得る。例えば、クローズドループ型システムを用いて気分障害を管理した場合、たとえば葬儀のように、気分がふさぐのが正常とみなされる状況であっても、否定的な感情がブロックされることがある。」

Nature の記事は、さらに、 「軍事組織、政府、または研究医療機関が倫理学者と協力して、新しい技術を適用するための倫理ガイドラインを確立することは一般的であるが、商業活動においては『悪事が隠蔽され、監視は最小限』であることはけっして珍しくない。」と述べる。

重要な課題は、プライバシーを保護しながら、テクノロジーの可能性を最大化するために、各国がどれだけ努力できるかである。Nature の記事によると、チューリッヒにあるスイス連邦工科大学の倫理学者マルセロ・イエンカ(Marcello Ienca)氏は、デジタルで保存された脳のデータが、ハッカーに盗まれたり、ユーザーがアクセスを許可した企業で使用されたりする可能性があると述べた。「脳情報は、おそらくすべての情報の中で最も私的で個人的なものです」とイエンカ氏は述べる。

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