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「黄金の三角地帯」で押収された膨大な量のフェンタニル:アジア犯罪組織のオピオイドへの移行を暗示

ロイター

ビルマ警察は膨大な量のフェンタニル注射剤(液体のメチルフェンタニル)を押収したことを明らかにした。北米で「オピオイド危機」を引き起こした危険な合成オピオイドがアジアの麻薬密造地帯「黄金の三角地帯(ゴールデン・トライアングル)」で発見されたのはこれが初めてとなる。

ロイター通信が報じたところでは、ビルマ北東部に位置するシャン州クッカイ郡ロイカン村近くで麻薬取締官が3,700リットル以上に及ぶメチルフェンタニルを発見した。これはアジアの麻薬組織がより有益なオピオイド市場に参入したことを示す兆候である。

これはアジアで過去最大の押収量で、フェンタニル誘導体の他にも「ヤーバ-」という名称で流通しているメタンフェタミン錠剤1億9,300万個、違法薬物や麻薬前駆体が含まれており、当局は薬物製造装置も押収している。約16メートルトンに及ぶヤーバの押収量は、ビルマで過去2年間に押収された量にほぼ匹敵する。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、今回の麻薬摘発捜査は過去最大の規模で、警察と軍隊が関与して実施された2ヵ月間の捜査により、ビルマの麻薬取締当局は「重要なネットワークを解体」することができた。また、ほぼ16万3,000リットルと32メートルトンに及ぶ薬物前駆体と武器も押収され、130人以上が逮捕されている。

とは言え、今回メチルフェンタニルが発見されたことは、同地域の違法薬物市場がより不吉となる前兆と考えられる。

ビルマ麻薬取締局の法執行機関責任者を務めるゾー・リン(Zaw Lin)大佐の説明によると、今回の押収物の内容は麻薬組織の方向性が変化していることを示すものである。

政府機関発表の統計では、米国とカナダにおけるフェンタニルとフェンタニル誘導体の過剰摂取による死者は、過去5年間で13万人を超えている。アジア、欧州、オーストラリアではオピオイドの蔓延は発生していないが、これが新たな脅威となる兆候は見られる。

国連薬物犯罪事務所の東南アジア太平洋地域代表を務めるジェレミー・ダグラス(Jeremy Douglas)代表は、「フェンタニルが問題になる可能性のある地域には繰り返し警告を発してきたが、今回の押収量は桁外れである」とし、「予測はしていたが、市場が恐れていた方向に向かっている」と述べている。

ビルマ警察はメチルフェンタニルの純度や正確な構成を開示していないが、欧州連合の薬物監視機関によると、これを変性して形成できる薬物は主に2つあり、両方共にフェンタニルよりも強力である。

フェンタニル自体も同量のヘロインの25倍から50倍と極めて強力な作用を有する。

麻薬密売者がますますフェンタニルとフェンタニル誘導体をヘロイン、メタンフェタミン、コカインと混合するようになっていることで、これに伴い効果と致死性も高まっている。

リン大佐の説明によると、摘発が実施された時点でロイカン村には放棄された薬物工場がいくつか存在していたが、メチルフェンタニルおよび他の薬物と前駆体はその近くの空き地で発見されている。逮捕者への尋問により、薬物のほとんどはビルマと近隣諸国に流される予定であったことが判明したと、同大佐は話している。

フェンタニルなどの合成オピオイドはヘロインよりも簡単かつ安価に製造できるだけでなく、少量で数千回分の投与量を作ることができるため、容易に隠して輸送することが可能となる。

何十年にもわたり、アジアの犯罪組織は少数民族の民兵と協力を図り、ビルマ北部を中心としてラオスとタイの一部に延びる黄金の三角地帯で、アヘンの原料となるケシを栽培し、ヘロインを精製してきた。

最近では、近隣の中国における取り締まり強化が一部の要因となり、同地域では三哥(Sam Gor)シンジケートなどの犯罪組織によるメタンフェタミン製造が激増している。

リン大佐はメチルフェンタニルが隣国から持ち込まれたとは述べたが、隣国の特定は控えた。ロイター通信が入手したビルマ警察の文書には、押収された麻薬、薬物前駆体、製造設備のほとんどは中国から流入したと記されている。

米国麻薬取締局(DEA)によると、中国はメキシコと並んで北米への主要フェンタニル流入源となっていたが、取り締まりの強化により、中国から合成オピオイドを米国に流すことが困難となった。

そこでメキシコの麻薬カルテルが台頭してきたが、最近では中国から薬物前駆体を入手することが困難になっていることで、フェンタニルの製造が滞っていると、国連薬物犯罪事務所は説明している。

アナリスト等の説明によると、ビルマ北部は中国に隣接していることから、フェンタニルなどの合成オピオイドの製造を狙うアジアの麻薬組織にとって同地は魅力的な代替地となる。

国連薬物犯罪事務所のダグラス代表は、「犯罪に関わる非国家組織とビルマの民族民兵との間の繋がりを解体しなければ、合成麻薬問題は悪化の一途を辿るのみである」と述べている。

リン大佐の説明では、ビルマは犯罪組織解体の取り組みに乗り出しており、他諸国との協力も強化している。

同大佐は、「国家の優先事項の1つとして、ビルマは麻薬対策に取り組んでいる」と語っている。

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