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中国からの投資を求めて市民権を販売するソロモン諸島

ヘッドライン | May 1, 2020:

FORUMスタッフ

オーストラリア放送協会の公式サイト「ABC.net」によると、投資を引き換え条件とする市民権販売計画に関するソロモン諸島の閣議が物議を醸している。

オンライン雑誌のザ・ディプロマット(The Diplomat)誌が報じたところでは、購入者の審査に関連する問題およびソロモン諸島の主権と市民権の価値の弱体化が発生する可能性があるとして、同議案に対する批判の声が高まっている。

俗に言われる「市民権購入」制度を2014年に導入したバヌアツに中国が非公開の融資条件下で投資を行った事例については広く報道されたが、今回のソロモン諸島の計画により中国が同様にソロモン諸島を利用して中国共産党(CCP)の政治的課題を推進する可能性に対して安保専門家等が警鐘を鳴らしている。

2019年9月中旬、ソロモン諸島は36年にわたる台湾との外交関係に終止符を打ち、国交相手を中国に乗り換えた。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたところでは、中国共産党による中国建国70周年を迎える2019年10月1日を前に、ソロモン諸島に台湾政府との国交を打ち切らせることを目的として、「金銭外交を用いて巨額の対外援助を匂わせることで、少数の [ソロモン] 諸島の政治家を買収した」として、当時台湾外交部は中国を非難していた。

ロイター通信によると、2020年2月までに、ソロモン諸島は中国人投資家等からの10兆円相当(1,000億米ドル)の融資受け入れを検討していた。これは同諸島の年間国内総生産1,477億円相当(14億7,700万米ドル)の66倍に当たる金額である。

元々中国政府への国交「乗り換え」に批判的であったソロモン諸島のピーター・ケニロレア(Peter Kenilorea)議員は、持続不可能な債務負担に繋がる同融資案に激しく反対したと、ロイター通信は伝えている。

ディプロマット誌が報じたところでは、2014年に市民権販売制度を公式に立ち上げて以来4,000件を超す市民権を売り上げたバヌアツでは、同制度による国益が600億円相当(6億米ドル)に上っている。ABC.netの報道によると、2018年、コンテナ検査機器プロジェクト(Container Inspection Equipment Project)と呼ばれる不可解なイニシアチブに関連して、中国はバヌアツに60億円相当(6,000万米ドル)の貸付を秘密裏に行い、その後さらに70億円相当(7,000万米ドル)を融資している。

市民権の売上高と中国による追加融資が相まって、バヌアツでは数ある中国運営の大規模開発プロジェクトに資金が供与されることになった。ABC.netが伝えたところでは、市民権は1,500万円相当(15万米ドル)から1,750万円相当(17万5,000米ドル)の価格で販売されるが、多くの場合、こうした制度により国際的流動性が高まる。

ディプロマット誌が伝えたところでは、中国では二重国籍が違法であるにも関わらず、市民権の購入者は大部分が中国本土の住民である。

同制度では国内での居住や追加投資が購入条件には含まれていないため、有罪判決を受けた者でもバヌアツに入国することなく、市民になることが可能である。2016年3月、バングラデシュ銀行の連邦準備口座からマルウェアにより81億円相当(8,100万米ドル)が盗難されるという事件が発生したが、その容疑者の1人であったフィリピン居住中国人のキム・ウォン(Kim Wong)氏もバヌアツ市民権を購入している。

同制度の下、中国共産党の都合に応じて、中国政府は中国人のバヌアツ市民権を事実上剥奪してきた。2019年7月には中国公安機関がチャーター便でバヌアツに乗り込み、中国国内で犯罪容疑がかけられているバヌアツ居住者6人を逮捕したが、そのうちの4人が二重国籍を保持していた。バヌアツ政府は身柄引渡手続きを実施せずに国外追放の前にこの4名の市民権を取り消したと伝えられている。

バヌアツ・デイリー・ポストVanuatu Daily Post紙が2019年7月に報じたところでは、一部のバヌアツ観測筋によると、市民権販売制度によりバヌアツは最終的に「借金地獄」よりもさらに悪い「収益地獄」に陥ることになる。これにより、中国がバヌアツ発展の潜在的障害ともなる。

同地元紙には、「観測筋によると、バヌアツ政府が市民権販売関連の収益に依存するようになると、中国は同制度に対する傍観者的態度(同制度を善意で無視すること)を続けることと引き換えに、同政府に何らかの優遇をただで要求できるようになる」と記されている。

この市民権販売制度は太平洋島嶼国では珍しい政策ではない。オーストラリアに所在するグリフィス大学の上級非常勤講師を務めるアンソニー・ファン・フォッセン(Anthony van Fossen)博士によると、同様の制度により1982年から1996年までトンガの国庫、1995年から1996年までマーシャル諸島の国庫、1998年から2002年までナウルの国庫が潤った。市民権販売によりこれら諸島にもたらされた収益が占める割合は国内総生産の6.5%から11%である。

しかし、バヌアツの場合は、同制度により政府収入の3分の1以上が生成されていると、同地元紙は伝えている。ファン・フォッセン博士によると、2014年の発足以来、同制度は4回刷新されている。

太平洋諸島地域では歴史的にこうした制度や計画により不安定性や危機が発生している。オンラインで討論の場を提供する東アジア・フォーラム(East Asia Forum)に掲載された同博士の記事によると、通常、透明性と優れた統制に欠ける市民権販売制度は盗難や詐欺、また汚職の要因となる。

同博士の記事には、「太平洋島嶼国の市民権購入者の大部分は、特定国へのビザなし入国、低額な税金、脱出経路などの手段を求める中国人である。市民権販売制度を導入したトンガとマーシャル諸島の政府は、市民権の購入者等がまさか諸島に定住するとは考えていなかった。しかし実際には、両国で定住した中国人購入者等により地元の事業機会、特に小売業の機会が現地民から奪われることになった」と記されている。

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